メインは外宇宙生まれのSさんですが、こちらもペルソナの方と同じく夏休みは精力的に更新していきたいです
「来なさい!トラヴィス!ルナ、お前はライザーの傍にいてやってくれないか?」
「分かりましたわ、貴方。その子を連れて貴方はどうするの?」
「コイツと話がある」
「父上、聞いてください!僕の話を!」
「何度も言うようだが、トラヴィス。お前の言い訳は聞かないぞ」
フェニックス卿は力ずくでトラヴィスを引っ張りながら、妻から向けられた心配そうな表情には力強く頷いて返した。このとき、トラヴィスは両親の様子から理解してしまった。自分は不死鳥の力を使えないがために彼らの子供として認識されず、腫れ物を触るような扱いを受けているのだと。
もしも、自分が不死鳥の力を使えたらどうなっただろう?ライザーをあそこまで殴らずに済んだだろうし、両親とも上手くやっていけたはずだ。だが、トラヴィスはライザーを殴ったことで清々しなかったか、と聞かれれば肯定の意思を認めずにはいられなかった。誰にでも目標となる夢、生きていく為の道しるべ、または目指すものがあるはずなのだ。それを一方的に否定され、憤ったというだけで理不尽な扱いを受けた。
力がなかった為、力を持たなかったからこそ、こうして自分は虐げられている。
家族が自分を遠ざける為に専用の異空間を作り、そこに幽閉されてもトラヴィスの精神が磨耗することがなかったのはトラヴィスには生きる『目標』があったからだ、輝かしい『夢』があったからだ。
家を継げなくとも、兄や弟のように才能が無くても、勉学に励んで確実な戦略を得て眷属と共にレーティングゲームを挑み、いずれは魔王の座を得るのも夢ではなかった。もちろん、これは反逆のようなモノではない。アジュカ・ベルゼブブという一人の技術者とアザゼルという敵対勢力の長の背中を追いかけながらも、その『夢』を叶えるための超えるべき壁として据えているからだ。
「入りなさい、トラヴィス」
「ち、父上……」
「さっさと座れ!この能無しが!落ち零れの癖に誰がお前を食わせてやっていると思っているんだ!?だいたいだな、お前はルヴァルのように大人しくなれとは言わないが、もう少し穏やかになるべきなんだ。ライザーのように才能があればまだしも……」
有無も言わさずに連れてこられ、座らせられたのはフェニックス卿の書斎の応接用のソファだった。昔はよく、このふかふかなソファの感触を楽しみ、はしゃいでいたものだが、それも既に泡沫となって潰えていった思い出に過ぎない。あのときの父の困ったような笑顔は息子が優秀だ、神童だ、と周囲に言われて、そして自分の地位を護る為に愛していたのだろうか、と思うたびにトラヴィスは胸が痛くなる。扉が閉められ、鍵をかけられるとトラヴィスは本能から『恐怖』を感じた。
「ライザーは関係ないじゃないですか!……父、上?その手にあるものは一体……?」
「決まっているだろう?能無し。お前をしつけるためだよ」
「来ないで、近づかないで!助けて、『 』!」
フェニックス卿の表情がライザーの笑顔と重なったとき、トラヴィスは自然と命乞いをしていた。
しかし、助けての後に続く名前が誰一人も浮かばず、屋敷には誰一人味方がいないトラヴィスにとっては屋敷は地獄のような場所だった。近づくフェニックス卿の手には硬質の鞭が握られており、どう見ても新品のそれはトラヴィスを殴る為に買ってきたものと見てよいだろう。未熟ながらにも不死の力を持つ、ライザーやフェニックス家の面々に物理攻撃はほとんど意味を成さないため、不死の力を持たないトラヴィスだからこそ、通用するお仕置きといえようか。トラヴィスがソファを子供ながらの力で倒し、逃走を図ろうにもフェニックス卿の鞭がトラヴィスの肌を捉え、肌を切った。
逃走を図ろうとしたことで余計にフェニックス卿の顰蹙に触れ、さらにスピードの増すフェニックス卿の殴打によってトラヴィスは地面に叩きつけられてしまった。馬乗りにこそされなかったものの、フェニックス卿は抵抗が出来なくなったトラヴィスを御仕置道具を捨てて拳で頬を殴り、熱い感触を感じながらも、殴るのをやめない。
「この!落ち零れめ!ベルゼブブ様に憧れるのはいい、だけどな、堕天使の長に憧れるとはどういう了見だ!?恥を知れ!クソガキ!出来損ない!」
「ひ、ひがいまふ…。ぼくふぁ、ぎひつりょくがすごいから…」
「言い訳は聞かないぞ!」
頬が腫れ、日ごろのストレスが入ってきているのか、トラヴィスはフェニックス卿の殴打に殺意を感じた。それは普通の父親がしつけのために息子を殴るものではなく、トラヴィスにとってはフェニックス卿という『敵』に殺される恐怖が上回った。自分も似たような容姿をしているとはいえ、フェニックス卿は自分の夢をライザーのように馬鹿にした。あの大切な写真を爆発させた、あの女を従えたヤツと同じ顔をこの男はしている。上手く舌が回らないトラヴィスに苛立ちを感じ、暴行を加える拳にしまいには炎を纏い始めていた。
「ぼくふぁ、ぼくがなにをしたっていふんだ!」
「クソッ、お前、親に何をしたのかわかった上でそうしているんだな!?そうなんだな!?」
それは火事場の馬鹿力、というものだろうか。
トラヴィス=アウル・フェニックスはそのファミリーネームの通りのフェニックス特有の能力を持ち合わせないが、悪魔としての運動神経や魔力は持ち合わせている。全ての今可能な限りの魔力を纏い、両手に放出させて高級そうなソファをフェニックス卿に投げつけた。フェニックスと言う名前の通り、フェニックス卿の身体に触れるとソファは炭と化して形を跡形も無く残さないで焼失してしまった。自分が生き残る為とはいえ、抵抗をしたことでフェニックス卿をかえって怒らせたらしく、その憎たらしい面には青筋が浮かんでいて、ブルブル震えている。幸い、魔力はまだ残っていたらしく、扉を破壊して外に出るだけの力も残っていて、トラヴィスは行動に移す前にその首から下がっている高級そうな首飾りをフェニックス卿から引き千切り、机の上にあった悪魔の駒の王以外の一式を引っ手繰って飛び出した。
「クソガキ!なにすんだ、ああ?」
「……」
完全に素が露になっているフェニックス卿にはかけてやる言葉もない。扉を破壊し、フェニックス邸の屋敷の門まで即座にトラヴィスは駆け出した。長年、幽閉されていた身だったが、魔力でブーストをかけていたお陰で身体が鈍っていて捕まりました、という間抜けな終わり方をせず、階段を駆け下りて屋外への扉を開くことができた。幸い、使用人達はトラヴィスがライザーと似たような容姿をしていたことでライザーが屋敷内を走り回っている風に映ったらしく、捕まる心配はなかった。
最も、少しでも走るスピードを落とそうものなら、いつまで経っても治る気配を見せない殴られた際に眼鏡で切った傷を怪しまれ、
「まずは、ここまで来れれば大丈夫かな……。それにしても、なんだろう、これ。……イテッ!」
庭園にまでやってくれれば、後もう少しで完全に脱出できる。木陰に隠れ、フェニックス卿から奪ったロケットの中に入っていたのは矢尻のような鋭利に尖ったものだった。触れようとしたとき、まるで、矢尻が自らの意思で『突き刺さる』ようなチクッとした痛みをトラヴィスに襲い、怪我をしたように思われたがーー傷はついていなかった。
「……誰かいるんですの?」
「……」
木陰の中で動いていたことが誰かにバレたんだろうか?トラヴィスは反応しなかった。それにしても、幼くそして気品に満ちた声のようだ。この家の者にはありえないほどに上品で、高貴で、そして何も知らない無邪気さもある。ちらり、と頬を切った顔を覗かせると金髪縦ロールの小さな女の子がこちらに向けてにこやかに上品に手を振っていた。こちらも恐る恐る手を振ると、女の子は警戒せずに近寄ってきた。
「見かけない顔ですけど、どちら様ですの?あっ、分かりました。もしかして、フェニックス家の使用人に申し込んだ方?」
「そんな感じですね。面接に落ちてしまいまして、帰路に着いていたのですが、どこに向かえばよいのか分からなかったのです」
「見たところ、結構な身分のご様子。そんな方がどうして我が家に?……いいえ、お聞きしないでおきます。それが、“れでぃ”のたしなみですから。私はレイヴェルと申します」
女の子は興味深そうにこちらを見つめた。なんとなく、あの母親のような面影が見えるが、それでこそ他人の空似もいいところで女の子に失礼だろう。あんな親の皮を被ったバケモノでしかない者達と純粋な彼女を比べることが間違っている。レイヴェルと名乗った女の子は胸を張り、ポケットから取り出したハンカチでトラヴィスの切り傷を丁寧に拭き取り、花柄の絆創膏を貼り付けた。
トラヴィスとしては気恥ずかしかったが、幽閉されてからと言うものの、誰かの優しさに触れたことが無かったのでされるがままにされていた。手当を終えると、レイヴェルはその小さな手を精一杯伸ばしてトラヴィスの絆創膏が張られた頬に触れる。
「あなたのお名前は?しんしさん?」
「ぼ、ぼくですか?えっと……」
にっこりと微笑む彼女には嘘をつくのは後ろめたいが、これからフェニックス家から除名されることを考えればフェミリーネームは捨てた方がいいだろう。トラヴィス=A・フェニックスという、上級悪魔はもういない。だからこそ、レイヴェルに名乗るべき名前を彼は知っていた。
「トルヴィ、と言います、レディ・レイヴェル」
「トルヴィ様、ですね。……ふふっ、本当にお上品ですね。道は分かりますか?」
「ええ。勘を頼りに何とかしますよ」
「では、時間が惜しいですけど、またの機会にお会いできたら」
最後まで丁寧で優しいレイヴェルにトラヴィスの自分なりのジョークを飛ばしてみれば、レイヴェルは気に入ってくれたようだ。くすくす笑うレイヴェルは愛らしく、どこか庇護欲を催させてしまう。また会いましょう、と小さく手を振ってトラヴィスはその場から駆け出して塀をよじ登ろうとする時にはレイヴェルはトラヴィスを見失ってしまっていた。
「レイヴェル!」
「あら、どうなさったのですか?」
「クソガキを見なかったか?」
「えっと、どちら様のことですか?」
直後、フェニックス卿はレイヴェルの姿を見つけ、“クソガキ”の行方を尋ねた。しかし、レイヴェルは“クソガキ”という名前の人物を知らない。
「見ていなかったら、それでいい。クソッ、何処に行きやがったんだ?アイツめ…」
父親がわけも分からぬままに自己完結し、その探している人物を探しに戻ってしまったとき、ひらりとレイヴェルがトラヴィスの切り傷の血を拭き取ったハンカチが綺麗に手入れを施された芝生の上に落ちる。
レイヴェルのフルネームは『レイヴェル・フェニックス』。
運命はどこまでも残酷だった。トラヴィスが幽閉されている間に生まれていたレイヴェルとトラヴィスは一度も顔を合わせたことが無く、初対面がまるで御伽噺のような邂逅を果たしてしまい、まだまだ夢物語を信じるレイヴェルにとっては『トルヴィー』と名乗った少年との出会いを意味ありげに捉えていた。悲しみと孤独感を秘めた、その瞳は放っておけないものとなっていて、いつかまた再会できた時にはその背中を抱きしめてやりたい、と。
レイヴェルもトラヴィスも互いが兄妹であることを知らぬまま、ファーストコンタクトを終えたのだった。
「金銭も持たないまま出てきてしまったな、これからどうしようか」
フェニックス家の敷地を魔力をブーストさせた運動神経のおかげで早く抜けることができたものの、これからを生き抜くための金はあいにく持ち合わせていなかった。古い皮袋に詰め込んできた、フェニックス家の悪魔の駒とフェニックス卿の首飾りくらいしか持ち物は無く、このままだといずれにせよ待つのは餓死だ。どうにかして食料を調達しなければならないが、近くに獲物となる動物も見当たらないし、これと言った武器を持たないトラヴィスは逆に獲物とされる可能性もある。
途方にくれていたところ、視界に入ったのは伸びっぱなしになって長髪で前髪で目元を隠している銀髪のレイヴェルと同年代と思わしき子供を見つけた。
「君は、こんなところで何をしているの?」
隣に図々しく座り込み、銀髪のその子供と共に水面を見つめる。時刻はすでに遅いのだろうか、水面には月が映り、魚が泳いでいる。この魚を捕まえて調理できれば、飢え死にすることはないだろう、と少し希望を見出すことができた。しかし、その子供の反応は無い。
「なんだっていいだろ、関係ないんだから」
「……じゃあ、僕が君に関係を持ちたいよ。僕にはともだちってヤツがなくてね、君とともだちになれば関係が築けるだろ?」
仮称として“銀髪”は目を丸くしたようだった。トラヴィスが自分と同じ疎外感を味わっているらしき、銀髪を放って置けなくて声をかけてみたはいいものの、銀髪自身はこの自分と対を成すように眩いばかりの黄金色の髪を持つ少し年上に見える少年は自ら“ともだち”がいないことを言った。
トラヴィスと別のベクトルで才能に溢れ、その為に居場所がなかった銀髪にとっては黄金色の少年が太陽のように映った。才能があった為、それが自らに刃として向くのを恐れた銀髪の周囲の人間は銀髪に積極的に関わるのを良しとしなかったのだ。
「それに、僕と君は金と銀。こう言うのをなんて言うんだっけ、そう!“バディ”って言うんだよ!」
「バディ?なにそれ?」
「最ッッ高に強いんじゃないかな!わかんないけど!」
「分からないなら、全然意味ないじゃない。面白いね、どうして私に積極的に関わってくれるの?」
「どうして?そりゃあ、君ーー」
楽しそうに話す、黄金色の少年は着の身着のままで小川に突撃して行った。魚の取り方は知っているものの、慣れない動作で魚を掴んで銀髪に見せる姿はとても眩しく、銀髪は叶うならばその“おひさま”をすぐ傍で見てみたい、と思った。
「一緒に魚とりをしたいと思ったんだ!魚とりをしたことないから!」
「変なの。私とさかなとりしたいなんて言った人、貴方が初めてだよ。私はヴァーリ。ヴァーリ・ルシファー」
「ルシファーって凄い!先代魔王と
銀髪ーーヴァーリがフルネームを名乗ると、本でしか読んだことがなかった先代魔王にして今ではすっかり役職名となっている、ルシファーを名乗ったことにオーバーリアクションを示した。ヴァーリと名乗った彼女は先ほどまで、そのテンションで自分を振り回していたようなものだった少年が黙り込むのを不思議そうに眺めていた。いきなり黙り込むなんてどうしたんだろう、さきほどのテンションは嘘なのか、と言ったように。
「トラヴィス=
気恥ずかしそうに笑う少年は絆創膏が似合い、そうでなくともやんちゃでイタズラ好きにも見える。
ヴァーリとの間に隠し事は無用、と判断したのかトラヴィスはレイヴェルの前では名乗らなかった本名を名乗った。胸を張って誰かに名前の意味を話すのは、どれくらいぶりだろう?ヴァーリの反応を恐る恐る待ちつつ、ヴァーリはこちらまで歩いてトラヴィスの頭部をポンポンと触りたくなった。
はずみに魚は逃げ出し、トラヴィスは慌てるが、彼の自己紹介に対してはほほえましいものがあった。
「凄く、カッコイイと思うよ、その名前。賢そう」
ヴァーリのただそれだけの一言に、トラヴィスは救われたような気がした。
ヴァーリ女体化。
他に案はあったんじゃないのか!?との意見が飛んできそうですが、トラヴィスを護る為と言う庇護欲で最強を目指す、ってのもいいとおもうんです。
今回の元ネタ紹介
トラヴィス→ノーモアヒーローズなる、殺し屋の頂点を目指すという趣旨のゲームにおける主人公の名前から。この主人公の容姿としてはテラフォーマーズの第二部の艦長にそっくりだったりするが、次男坊君はそんなにいかつくない。むしろ、年齢の割に幼く見える動作を取る現在。
ミドルネームのアウルは外宇宙生まれのSさんで使用している、フェニックス卿のフルネームをトワイライト・フェニックスとしたこと、フェニックス夫人の名前をルナ・フェニックスとしたこととか、ライザーの名前から連想して曙の男性系っぽいのを選んでみました。