おう、あくしろよ!と言わんばかりの催促にさすがに折れたよ。
今回は病み成分とドロドロした甘ったるさがあるので、読む際は注意を。
何も、ない。
この手から全て滑り落ちてしまった。馬鹿みたいに真っ直ぐな生徒も、優しく強い意志を持つ奴も、想ってくれる奴も、慕ってくれる女も。全部なくなった。記憶が戻ったことで確かに喜ばしいと言うべきだろうが、この場合に至っては最悪だ。思い出してしまったばっかりになくなった。滑り落ちた。
忌々しいクソッタレ共が『俺』から全てを奪おうとしやがったから、返り討ちにしてやっただけだってのにあいつらは全部奪い取りやがった。俺を慕ってくれてるってだけで、壊した。だから、全部全部ぶっ潰した。俺から全てを奪おうっていうから、それに対しての反抗だ。
視力もその中で目を失い、俺は隻眼になった。魔力で補填すれば補えるし、生活には困らなかった。ポッカリと空いた俺の穴を埋めるように、僅かな間しかいられなかったってのにそばに居る奴がいる。
「ただいま、おにいちゃん。今日もいいことしようね」
リリーが帰ってきた。スタンド能力を失い、眷属も姫島さんもいなくなった俺に残された俺の家族。柔らかな感触に沈み、俺の背中に腕が回される。縦に頷くか首を振るかしか俺にはできない。戦闘の最中、声帯を失ってしまったらしく、リリーが居てくれて生きていられているようだ。リリーに求められるまま、寝室に沈み、その美しい銀髪が乱れ、甘い香りがするのが鼻腔につく。こうしてリリーと過ごしている時だけが俺が生きているというのを証明し、リリーが俺に生きて欲しいと願わなければ、この命を絶っていただろう。最近は視界よりも聴覚が発達し、白龍皇であるリリーよりも優れている始末だ。音の起こった基点がわかったり、足音で誰かわかるようになった。
感覚が優れるようになった分、ちょっとした物音にも怖気つくようになっていた。俺よりも強いが、しかし、年下のリリーはたまに俺が知らないリリーの美貌を見せる。俺に残ったのはリリーだけなのに、誰かに取られたくない誰かに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくないに取られたくない………ダレニモトラレタクナイ、オレダケノモノダ。
愛する者と二人きりの世界。
半裸の互いを求め合い、寝室に眠っている。ワイシャツを握る愛する金髪の青年の寝顔は寂しげで、おいてけぼりにされたかつての自分のようだ。許されたことじゃない、という怒りよりもトラヴィス=アウル・フェニックスという名前だった男が自分だけを求め、縋りつくのは優越感がある。たった一人となり、最後はこちらに帰ってきた大好きな人。谷間に顔を埋め、ワイシャツの裾を大きな手で掴む彼は可愛らしい。眼鏡をつけた知的な彼も、だれかの為に怒れる彼も、愛おしい。
「愛してるよ、私だけの小鳥ちゃん」
愛する『小鳥』を得る為に全てを破壊し、こころすらも破壊して手中に収めた白い龍の皇は眩い金髪に顔を埋め、眠れる小鳥に愛を囁く。
力、配下、家族の全てを失った男の末路。
たった一人、自分の過去の生きた証とも言える世界を彼を手に入れるために敵に回した少女と少女に壊されながらも、少女の温もりと愛情に縋りついた少女に壊された『小鳥』の行く先。
ただ一人が幸せとなり、全ての敵となる世界。