【完結】翼無き不死鳥は陽を見るか   作:ふくつのこころ

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ちょっと予定とズレが生じた希ガス


奇襲師弟のラプソディーその③

   その後の修行は大詰めを迎えた。

   リアスは滅びの魔力を固形に集める方法、そして最低限の体力をつけるためのトレーニングを行わせ、朱乃は雷撃をより広範囲に降り注がせるための鍛錬とチャージまでにかかる時間のタイムラグを最低限に抑えること、白音や木場に至っては元よりの技術をより上に昇華させることと、木場の神器である魔剣創造の可能性に賭けた『レシピ』を与えた。

   一誠やアーシアに行われたメニューは同じものでスタンドの精密動作性を上げるために縫製をさせたこと、互いのスタンドで模擬戦を行わせたところか。『クレイジー・ダイヤモンド』の方が基礎スペックでは『ウェルシュ・コネクション』よりも高く『治す』と言う、巻き戻しと言う意味合いにも入りそうなスタンド能力は未だ能力を秘めている一誠のスタンドと比べても優勢であろう。

  しかし、

 

「まだだ、俺はまだいけるぜ!先生!」

 

「その調子だ、俺を倒そうとする者よ。お前にはまだまだ足りないものがあるがな」

 

   模擬戦を行う場として使用されている、レスリング用のフィールド、と言えばわかりやすいだろうか。互いのスタンド、それぞれの『イン・マイ・ワールド』と『ウェルシュ・コネクション』を従えてスタンド同士のラッシュが連続する。暴走時は無羽うつろの『イン・マイ・ワールド』に匹敵するであろう力を見せつけた、『ウェルシュ・コネクション』であるが、一誠の制御下となり、そして名前を得た今では激しさとパワーが大人しくなったように見えた。

 

『その意気だ、相棒。俺たちは此処で終わるほどじゃない。光栄に思え、兵藤一誠。ーー否、今代の赤龍帝よ。これぞ、我らが赤龍帝と呼ばれ恐れられる所以。見せようぞ、我が能力を!』

 

「ああ!先生、これが俺の修行の成果だ!バイサーさんもアーシアも見ていてくれよな!」

 

「頑張ってください、イッセーさん!」

 

「王様君も無理しないでね」

 

    外野で二人に声援を送るのは先ほどの模擬戦の後から少し消耗していたことで休むのを余儀なくされ、体育座りで一誠に声援を送るアーシアとバイサーだった。うつろと手合わせした際、はぐれ悪魔として生き延びることのできた経験を示すかのように騎士独特のスピードでスタンドを使用していない状態でのうつろを圧倒したことから、バイサーへは強化は特に必要がないことが宣言され、今はこうしてアーシアとともに主人と同じ無羽眷属である少年の組み手を観戦している。

 『スタンド』という常人には不可視の能力というアドバンテージゆえ、そのメリットを活かしての技術を得るべきであるとの見解をうつろは示していた。教え子であるグレモリー眷属に伝えるべきは『見敵必殺』の四字熟語。

   ライザーが視界に入った途端、『イン・マイ・ワールド』の高速のラッシュを入れた男らしいセリフといえよう。

 

「ブッ飛ばせ、」

 

「「『ウェルシュ・コネクション』!」」

 

    一誠とドライグの言葉が重なり、『ウェルシュ・コネクション』の両腕を包み込む紅い籠手の手の甲に埋め込まれた緑色の宝玉がエメラルドグリーンの輝きを放つ。宝玉が輝いたのと同時、『ウェルシュ・コネクション』は通常時でも『イン・マイ・ワールド』に匹敵するであろうパワーとスピードを誇りながらも、発光によって勢いが倍増する。

  うつろはこの能力がどこか白い少女の宿す、『白い龍』に似た力を感じ取っていた。懐かしさのようなものと、教え子の発現したシンプルかつ強力な能力に喜びを隠せない。

    紅い拳の高速のラッシュは『イン・マイ・ワールド』の羽根飾りがふわり、と開いて両腕を交差させて受け止める。倍加した能力のおかげか、『イン・マイ・ワールド』のガードを崩さんとする。

 

「らららららららららららららららららららららららららららららららららららららら、らららァーッ!」

 

「MERAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

   溢れる闘志にうつろも刺激されたのか、瞬時にガードを解いて羽根を持つスタンドの『イン・マイ・ワールド』が応戦する。燃え上がる炎のようなラッシュの掛け声は『ウェルシュ・コネクション』のラッシュと共に奇襲師弟の声が交差する。野性的な二人の声を聞きつけ、修行中であった別室にいたグレモリー眷属が様子を見に来る。奇襲師弟はこめかみに玉のような汗を浮かべていた。

 

「MERAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!「ららららららららららららららららららーァッ!」

 

  二人の掛け声が合わさり、混ざり、ぶつかる拳。基礎からの上昇を行うエンチャントの後からのパワーアップによって、『イン・マイ・ワールド』に匹敵するほどのパワーを発揮する『ウェルシュ・コネクション』。ヒトがヒトならざる者に抗う手段とも言える異能、神器でも魔術でもないスタンド能力。その中でもポピュラーな近接パワータイプの『形式』を取っている『ウェルシュ・コネクション』と元来より近接パワータイプの『イン・マイ・ワールド』。『イン・マイ・ワールド』に至っては、うつろとしてはどうして渡り合えているのかわからないほどだ。

 

「ここまで。よくやった、兵藤」

 

「ヒーッ、やっぱり、センセーは凄いや」

 

   『イン・マイ・ワールド』を解除すると、スタンドヴィジョンがうつろの中へと戻っていく。ヘナヘナと座り込んだ一誠に手を差し伸べると、気配を感じる。すぐ傍に立って手入れの行き届いた黒髪の美しい頭をうつろに差し出している朱乃の姿であった。物言いたげに佇む彼女の意図をうつろはなんとなく理解していた。

 

「……よくやった、流石だな」

 

    ぽんぽん、と頭を撫でてやると嬉々とする少女。成長してもなお、一途にこちらを思ってくれる朱乃をストーカー紛いのことをするのを除けば、彼女のいる『世界』は悪くない。体温が上がったことで視認できる蒸気が揺らぎ、これでもフェニックスであるからか、不思議な色香を感じているのを自覚する。

  『本名』ではあろう、トラヴィス=A・フェニックスなる名を覚えている白い小さな少女もまた然りだ。「……お前に関しては、親御さんにブッ飛ばされちまっても仕方ねェかもしれんな。俺が」と自嘲気味に笑うと、数十センチは差がある白音はジットリとうつろを睨める。

 

「鈍い兄様は嫌いです」

 

   あくまでも、自分一人に聞こえるような声で。

   そんなつもりで白音は言ったのではないだろうが、いかんせん、周りにいたのが悪かった。

   眉を顰め、白音の言葉を否定せんとして少し不服そうにうつろに撫で受けられている黒髪の少女は白音を睨んだ。

 

「さぁ!ちょうど、キリもいいから帰りましょう!……それでいいわよね、無羽先生?」

 

「ああ。よく、俺のメニューについてこれた。良い結果を残せるのを期待しているぞ、リアス嬢。いいか、見敵瞬殺。敵は砕け、見て破り捨てろ。いいな?」

 

   眷属達の修羅場を避けるためか、とりつくったかのようにリアスがぱんぱんと手を叩いて場を制する。朱乃と白音は折れ、心配そうに主を見上げるアーシアと一誠。リアスに会釈をし、自然を装った風に二人の生徒を引き連れて未だ、熱心に時間を過ぎても修行に取り組む剣士の少年の様子を見に向かった。

 

   レーティングゲーム当日ーー。

   うつろはサーゼクスに個人的に特別観客席に呼ばれていた。理由はリアスらの眷属に修行をつけたことと、協力をしてくれたことへのプライベート的な事柄における感謝の意味も込められているのだろう。主に『サーゼクス・グレモリー』としての紅い魔王からはうつろの本名、『トラヴィス=A・フェニックス』については話題に上らなかった。

 

「一個、頼みがあるんだが」

 

「何かな?ボーナスついでに可能な限り聞いてあげよう、うつろ」

 

「すまんな。アルジェントと兵藤を夏休みにどこかに連れて行ってやりたいんだが、いい場所ないか?」

 

   サーゼクスは目を丸くした。ボーナスついでに、と前置きはしたものの、うつろにしては珍しい問いだったからだ。フェニックスの神童であった過去の事実を知る前からも既に優秀さを知っており、姫島朱乃やその家族について以外はあまり人間関係やらに興味がないものと思っていた。だが、この際にうつろに眷属が出来てからは変わったように見られ、『兄』の目をするようにうつろはなっていた。

 

「人間界はどこでもいい場所はあるよ。よかったら、君を我が実家に招待しよう。きっと、彼らも気にいるはずだろうからね。……それに、あの子のことも心配なんだろう?」

 

「得体の知れん悪魔を家に招くとは、あんたもあんただな?……まぁ、いい。あいつらにも聞いてみよう。そのクエスチョンについては答えは公開しないぜ」

 

   あの子、と言うのは朱乃のことだ。得体の知れん悪魔、という表現は自虐のための例えであるが、その言葉の意味もサーゼクスがうつろの本名やらを知らないとした大前提の上でのこと。

  うつろの言葉から全てを理解したサーゼクスやグレイフィアはニヤニヤが止まらないが、グレイフィアがサーゼクスの紅茶が切れているので新しいティーポットを取りに戻っている頃、サーゼクスとうつろは二人きりになっていた。

 

「うつろ。君、『トラヴィス=A』と言う名について聞き覚えないかい?」

 

「……何故?」

 

   唐突な切り出しにうつろの動きが止まる。踵を返してアーシアらの元に戻ろうとしていたときのことでサーゼクスの声色は何かを思い出したかのようだった。世話になっている上司である為、不快に感じさせたくないというのが本音だが、問題が問題であった。

 

「ないならいいんだ。こちらでも色々あってね、君に確かめておこうと思って。うつろ、ちょっとこれを受け取ってくれるかい?」

 

  取り繕ったように話題を逸らし、アルバムらしきものを手にするのがうつろの視界に入る。アルバムらしきものを受け取るべく、振り返ってアルバムらしきものを受け取り、手にとって開いてみると、うつろの身内の中では唯一の銀髪と言っていいリリーを連想させる銀髪のドレスの女性だった。はにかみながら写真に写る様子は初々しく、年齢は一誠らと変わらないくらいだろう。

 

「見合いか?」

 

「そう!お見合いだよ、うつろ!個人的な付き合いの人がいてね。一度、会ってはくれないか?」

 

「行くだけ行こう。日にちの方はまた後日に」

 

「ああ、また送っておこう」

 

   珍しく、ツッコミが飛んでこないのを不思議に思いながら、上着を掴んで会場へと戻っていく部下の背中を見送る。弟がいるというのは、こんなものかと年の離れた妹のいる紅い魔王はそのような感想を抱いたのだった。




そしてうつろ先生、お見合いへ……
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