というわけで、第二十二話。
うつろ先生の家庭事情複雑過ぎワロタwwワロタ……。
うつろは割り当てられた、控え室で足を組んで座っていた。礼儀作法に五月蝿いグレイフィアがいないこと、眷属の三人がグレモリー眷属の同世代と共に散策に出かけているので、ゆっくり過ごせる。流石は貴族の家というところか、グレモリーとフェニックス家の出資もあり、ふかふかのソファと椅子がある。そこに腰掛け、ロケットを開く。
朱乃と映っている写真が入っており、今すぐにでもライザーの呼吸器官を潰しに行こうと動かない楔となっている眷属の少年少女のように、彼女もまた同様だ。最近は賑やかだったのもあってか、静かに一人で過ごす時間は珍しい。眷属の少年の持つ『ウェルシュ・コネクション』と違い、物静かな『イン・マイ・ワールド』はただただ浮いているだけだ。
『兵士』兵頭一誠。
『僧侶』アーシア・アルジェント。
『騎士』バイサー。
眷属で、生徒。
自分のまわりで賑やかなやりとりをしてくれる彼らと過ごす時間は愛おしく、彼らの帰りを落ち着いて待てている。
「誰だ?何しに来やがった」
「ごきげんよう?落ち零れ兄様?」
忘れない、忘れられない憎たらしい声。振り返るよりも早く、『イン・マイ・ワールド』は唸り声を上げ、声の主ーーユーベルーナを吹き飛ばす。きゃっ、と声をあげるのが聞こえるが、憎たらしいと断じた存在は視界に映らない。
無羽うつろは、これまで以上に短気になっていた。『種馬』に尻尾振る『雌犬』がどんな声をあげようとも、彼にとっては無関係だった。敵とは羽虫、踏み潰すべきもの。
『イン・マイ・ワールド』は容赦しない。騒ぎ、というよりももとより呼んであったと思われるライザー・フェニックス眷属の面々を屠り、呼吸器官を圧迫していた。
不死身のフェニックスの一族に生まれたからこそ、弱点の端から端まで知り尽くすーー否、魂に刻まれているのだ。
「一体、何の騒ぎだ?」
「おやおや、焼き鳥くんじゃあないか。全く、躾がなってないじゃあないか?色ボケ副司令に何を教えているんだ?咥えさせるだけじゃあ意味がないぜ?」
「き、貴様ぁ……!お前達!?貴様、何をしたのかわかっているんだろうな!?」
眷属に駆け寄るライザーを一瞥し、無言詠唱で扉の鍵を掛け、防音を施す。それから、ライザーの眷属が落とした回復薬を回収し、ポケットに入れる。一つだけ返してやり、あとは三本ほど手元に残して二本飲み干した。一誠らに万が一の為の回復アイテムとして持たせるのも悪くないだろう。憤怒の炎に燃えるライザーに反応するように、『レッド』が燃え盛る。だが家名を気にする必要のないうつろに対してライザーは家名を気にしなければならないのを知っていたのか、一方的に殴ることができる。
魔法陣を作り、ライザー眷属を突っ込めば、怒り心頭で言葉足らずな金色の青年をいたぶる。
眷属の前では決して見せず、うつろを慕う少女には見られてしまった野蛮な一面。
「必ず、始末してやる。その前に俺の生徒のために弱体化しろ」
「そんな要求を聞くと思うか!?落ち零れ、お前の生徒だろうが、オレには到底敵わん!『レッド』!奴の精神を焼き尽くせ!」
『レッド』がライザーの中から出で、『イン・マイ・ワールド』の拳を止めようと、両手を開く。金色の『きょうだい』は互いが互いの存在を感知し、別の控え室ではレイヴェルがトラヴィスの存在を、フェニックス邸ではフェニックス夫妻がうつろの生存を、「……死に損ないが」と確認していた。
『レッド』が炎を噴出するよりも早く、椅子を足場にし、うつろはライザーに対してマウントポジションを決めた。ひたすらに顔面を殴り続け、時折、頭部をつかんで脳震盪を引き起こさせる。スタンド同士の戦いも、フェニックスの炎の恐ろしさを魂レベルでうつろが知っているからなのか、決して油断はしていなかった。
消化器官。
呼吸器官。
脳漿。
頭部をシェイカーに入ったシェイクを振るように、掴んで上下に揺さぶる。目が回り、なすすべもない自称『かぞく』とやらに手をかけるのはライザーの手をひねるよりも簡単だ。いずれはフェニックス一族はこの手で潰してやるのだ、そのための前哨戦といっても過言ではない。
フェニックスの当主。
フェニックスの婦人。
フェニックスの雛共。
汚らわしい者を破壊し、ようやく自分だけの生を歩むことができる。フェニックスの厄介な再生能力を発揮される前に魔法陣に捨てようとしたところ、開かずの扉が開いた。
「……王様くん?」
「バイサー!?どうやって!?」
怪訝そうにうつろを見るのは、騎士のバイサー。
一誠らと見回っているはずだが、何故ここに?
ただ、この時にできた隙が、うつろがライザーを離してしまい、再生させるきっかけを与えてしまったのだ。
「このままで済ませるかって話だ、お前の眷属を奪ってやるぞ!落ち零れェッ!」
放った火炎は瞬時にバイサーを包み、焼き尽くす。周囲の壁やらに点火しないのはスタンド能力によるものとみて間違いないだろうが、そんな冷静な分析をうつろができるはずもなく、断末魔無くして灰燼と化した眷属を思い、ライザーが魔法陣に消えていきつつも、ぬるり、と身体が飲み込まれていきながら、その肉体を徹底的に痛めつける。
冷静にいよう、と決めたはずなのに。いざ目前とし、奪われてしまえば取り乱してしまっている。けれど、なによりも罪悪感を駆り立てるのは一誠やアーシアでなかったことを安心している自分だ。
「……最低だ」
バイサーもまた大切な眷属のはずなのに、勘定に入れていないような自分が嫌いだ。
結局、その後にほくほく顏で戻ってきた二人に疲れ切った顔をしている理由やカーペットの上で放心状態に陥っている理由を尋ねられても、答えられなかったし、グレモリー眷属との観戦にも行かなかった。体調が悪いから休ませてくれ、と二人に言うと疲れ切った顔をしているからか、真っ直ぐな少年は「ったく、センセーは頑張り過ぎなんスよ。疲れが溜まってたんでしょう」と労ってくれ、誰よりも優しい少女は「無理しないでくださいね、先生」と心配そうだった。
彼らの優しさが胸に染みるが、同時にグサリと突き刺さる。
結局、グレモリー眷属とフェニックス眷属戦が終了するまでうつろは眠っていた。
終了してから報告をしにやってきたリアスによると、滅びの魔力の形状化や広範囲に広げることでより多くの敵をリタイアさせ、何故かテンションが上がっていた朱乃の雷撃、木場の剣術と白音の戦術コンボによってフェニックス眷属を蹴散らせたという。
そういえば、結局、フェニックスの涙を彼らに渡せずに終わってしまっていた。
ふと思い出したように生徒の一人である赤毛の少女に「よくやった、満点だ。特別に褒美をやろう」とそれらを握らせた。どこで手に入れたの、と尋ねようとして彼女は途中で諦めてしまった。
一連の出来事を、部室で見たからだろうか。
あのライザー・フェニックスを奇襲攻撃で倒したという、事実をどこか気まずそうに話すあたりにリアスはまだまだ良いとこ育ちのお嬢様というところか。
いずれ、フェニックス一族とケリをつけなくてはならないことを胸に刻み、どこか吹っ切れたらしい生徒と迎えにやってきた一誠とアーシアを連れて上司に一言挨拶して帰るとしよう。
食事でもおごるのも良いかもしれない。
けれど、バイサーの話題を出さないあたり、彼らも何か察しているらしかった。
短すぎたり、フェニックス戦をグレモリー眷属の方で割愛したのは伏線。