一番、表の多かったキャラクターがうつろ先生とクリスマス過ごします
「夏が近いッスね!」
「ああ、そうだな。温度も上がってきたし、プール日和になるだろう」
「プールですか……。楽しみです!」
少しずつ温度は上がり、やがて近づいてくるプール開きに楽しみを感じている一誠とアーシアの様子を微笑ましく思いながら、うつろは今日行って回収した小テストの並びを出席番号順に並び替えていた。時刻は夕方、運動部がグラウンドで威勢の良い声を上げて部活動に励み、廊下からはブラスバンド部の奏でるハーモニーが聞こえる。一誠らがまだ帰宅しないのを不思議に思いながら、戸締まり前の準備に勤めていると、急に二人がこちらを見た。
「どうした、お前ら。続けてもらって構わんよ?」
「先生、一個聞きたいんですけど……怒らないで聞いてもらえますか?」
「物による。言ってみろ、俺は早く採点せねばならん」
珍しくこちらの様子を伺うかのような紅い強力なスタンドを持つ少年。このように改まるのはリアス・グレモリー眷属との合宿の夜で二人で向き合って話したときのことを思い出してみると、真剣な話なのだろう。うつろが真剣な眼差しをしているからなのか、それとも睨んでいるように見えているのか。どちらにせよ、一誠は面食らった様子だった。
「センセー、プール行ったことありますか!?」
何を言うのかと身構えていれば、これからに期待している少年の一言は斜め上を行く。なるほど、確かにまず前置きをする必要がある。大抵の“人間”はよほどの事情がない限り、人生においてプールに入るというのを経験している。しかし、無羽うつろという教師はどことなく浮世離れしていることやフェニックス一族と因縁があることもあって当たり前を経験していないように思える。家族とプールに行ったことはないのかと一誠は言いたかったのだが、うつろが難しい表情を一瞬したのでその予想は的中した。
無羽うつろ。
本名をトラヴィス=A・フェニックスという担任教師でスタンドを使役する上での師匠が偽名を名乗っているのがわかり(一誠が知らないだけで記憶喪失ゆえの便宜上の名前である)、確認をしておきたかった。
プールに行ったことが、あるのかと。
「プールなぁ」
「はい、プールッス」
おどおどしたような表情でこちらを見上げる眷属の二人。そんなに心配することではないだろう、と彼らをなだめる。ふと脳裏に浮かんだのは品の良さそうな知的さを感じさせる人物に連れられ、おそらく自分であろう少年が水面が透き通るように美しい川で泳いでいる場面であった。
次に浮かんだのは幼少期の朱乃に誘われ、姫島家といつの日かに行った市民プール。
あのときに食べたチープなフランクフルトのマスタードの味は忘れない。最初の記憶は見覚えがあるような気がするが、二つ目に至っては泳いでいなかった。つまるところ、記憶の範疇では泳いだことがなかったのだ。
「ねえな」
「もういい……っ!センセー、もういい……っ!また行きましょう!」
「どうしたんだ、お前」
「先生、私にはよくわかりませんけど、イッセーさんは私と先生とでプールに行きたいんだと思います」
涙を浮かべ、無理するなと言わんばかりに奥歯を噛み締めてガシッとうつろの手を掴む一誠。何があったんだと振り払おうとするうつろだったが、ふと思い直したのか『イン・マイ・ワールド』の無機質な手が一誠とアーシアの頭部に乗せられる。ぐしゃぐしゃと二人の髪を撫でると、予想以上に髪がボサボサになった。唐突な師匠の行動に面食らうものの、いつもは無機質で温もりを感じない『
ある初夏の日、夕焼けとともに一つの影とそれに連なる二つの影があった。
***
フェニックス邸・専属家庭教師の部屋ーー。
本棚が多く、生活スペースやクローゼットのそれぞれ広さや大きさよりもスペースを取っていることから部屋の主が本の虫であることを示しているかのようだ。
フェニックス一族の長子のルヴァル・フェニックス、次男のトラヴィス=A、三男のライザー、そして長女のレイヴェルの勉強を教えているサンディ・フーグロスは大人しくも夢と希望にあふれた、かつての教え子と撮った写真を片手に過去へと想いを馳せる。
息抜きとしてトワイライト・フェニックスに許可をもらい、トラヴィスを連れて向かったフェニックス領内の川。教えたことをスポンジのように吸収していく様は一教師として教え甲斐があり、彼に将来の夢は何かと尋ねた日は昨日のことのように覚えている。
『トラヴィス様、夢はございますか?』
『夢、ですか?』
『ええ。わたくしが教えたことをここまで吸収なされるのですから、何か夢でもあるのかと』
『夢、ですか……』
読書好きなインドア少年は困ったような笑みを浮かべて、首を振った。トラヴィスはフェニックス夫妻に褒められるのが嬉しくて、『レーティングゲームにおける空間展開での魔力について』の論文を幼くして書き上げたのにはフーグロスも驚いた。
実戦訓練はさっぱりであったが、トラヴィスは頭が切れて追い詰められてこそ力を発揮する。
何かを恐れたとき、何かを取り戻そうとしたとき、何かを守ろうとしたときに初めてトラヴィスは土壇場で力を発揮する。魔力の密度が高いゆえ、多少の無理が聞くのも特徴だ。
『でしたら、魔王を目指してはどうでしょうか?』
『魔王、ですか?』
『ええ。もちろん、並大抵のことではありませんよ。アジュカ・ベルゼブブ様と堕天使総督のアザゼル殿に憧れていると言いましたね?でしたら、目標としてみたらどうでしょう?目標があれば、トラヴィス様は素晴らしい功績を残せるようですからね』
トラヴィス=A・フェニックスはしばらく、フーグロスの話に聞き入っていた。目標があってこそ、より『成長』できるという言葉に反応したのではない。魔王を目指す、という単語に対してだ。貪欲に何かを追い求める姿勢はフーグロスも評価しており、もがいてあがいて『飢える』姿勢はフェニックス兄弟一だろう。
『先生、僕、頑張ります!』
『ええ、わたくしも応援してます。できる限りのことは手伝わさせてもらいますからね』
決断の早さも早く、すぐにトラヴィスの顔には笑顔が広がっていた。
そんな思いに更けていれば、フーグロスの部屋をノックする者がいる。
「先生、レイヴェルです。本日の授業ので質問がありますの。いいですか?」
「どうぞ、お入りください、レイヴェル様」
フーグロスはフェニックス兄妹の末っ子にトラヴィスを感じ、扉を開いて笑顔で迎えた。
今日はこれくらい