【完結】翼無き不死鳥は陽を見るか   作:ふくつのこころ

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「やぁ、久しぶりの実家だよ。おっと、ありがとうね、トラヴィス。エレン、叔父さんの手はどうだった?」

「はい、とうさま!エレンの手を離さないでくれました!」

 

  フェニックス邸に着いた時、うつろは久々の実家を見回していた。エレンとルヴァルの会話には入らず、セレナーデは夫と娘の会話に微笑んでいる。フェニックス邸門番の方も同様らしく、うつろの方をルヴァルの友人か何かと思っていたらしい。おそらく、フェニックス邸にここ数年だかで新しくやってきた使用人だろう。どこかよそよそしく、あまり上級悪魔を見たことがないようで焦っているようだ。そんな門番に愛想よく会釈をすると、向こうも会釈を返してくれた。

 

「……ああ、こちらは僕の弟のトラヴィスだ」

 

  ルヴァルがそのように紹介すると、門番が慌てて取り繕うのでうつろは気にしなくていいと制した。門番が扉を開け、ルヴァルらが中へと向かうと綺麗に揃えられた芝や噴水など貴族の庭らしく、広さは十分にある。見慣れた方ではあるサーゼクス邸と比べてみると、帰ってきたという実感が湧かない。屋敷の方にまでやってくれば、いよいよ全てをブチ壊す用意は整ってきた。

   エレンがどうして、こちらを見て心配そうなのか今のうつろには理解できない。

  それもそのはずだ、自分の顔は誰にも見ることができないのだから。強いて観れるとしたら、それは鏡越しでしか見れないだろう。しかし、鏡に映るのはあくまで光によって映されたもの。

   よって自分を最も客観的に見れるのは、他人ということになる。

   エレンがうつろを見たとき、うつろの表情はこわばっていること、そして顔色が悪かった。

 

「叔父さん、大丈夫?」

「ああ、ありがとう、エレン」

 

   ただ、『IMW』はその姿を消して『IMW』の象徴のようなーー羽根のような意匠はうつろの左目に浮かび上がっていた。

   それは翼を持たないうつろにとっては呪いのようなものであるだろう。翼を求め、必死に努めても実らずにただ周囲から押される烙印、『灰被り』。様々な罵倒はうつろを追い込んで、やがて今のようなうつろが出来上がってしまった。復讐心を記憶が蘇った後にたぎらせ、それをフェニックス一族にぶつけるような性格へと。

   エレンと兄夫婦に一言言った後、父親の書斎にうつろは入っていった。

 

「トワイライト・フェニックス。ただ、単純に詫びろ」

 

*                                 *                                *

    トワイライトが仕事をしている最中、過去からの復讐者が現れた。長男夫婦が帰ってきたことを喜ぶ前にまずやってきたシンプルなワードと目元が紅く且つ黒い影にも見える。

   そういえば、ミラストス邸での事件の際にもそのような幻覚を見られたとの報告がある。噂によれば、フェニックス一族の神童ことトラヴィス=Aがミラストス邸に出入りしたと伝えられているが、謎の爆破事故によってミラストス家が崩壊したらしい。どうにもトラヴィス=Aが何かをやったのではないか、と思っている。

   そんな時にそいつは言うのだ、「詫びろ」と。

 

「ほう、よくもまぁ、我が一族の敷居を跨ごうと思うたな?灰被り」

「口を謹め、焼き鳥野郎。テメェに足と手を突かせて詫びさせねェと俺の気が済まねェ。そうだろう、『IMW』?」

 

   次男のそば、ふと現れる『スタンド』はトワイライトにも身に覚えがない。トワイライトのスタンド、『スモーク・オン・ザ・ウォーター』はまるで煙のようなスタンドだ。

   一方、うつろのスタンドに至っては姿は変貌して鳥のようなスタンドから凶暴な容貌のスタンドへと変わっていた。『IMW』との呼称よりも、否、変わった環境から名付けるとすればーー。

 

「『チェンジ・ザ・ワールド』。今の俺のスタンドに名付けるとすれば、こうか。さて、今のうちに懺悔するんだな」

「はっ、お前ごときに誰が懺悔すると思っている?」

「さあな」

 

   『チェンジ・ザ・ワールド』。

    その名を呼んだ時、『CTW』はトワイライトに対して圧力をかけていた。その圧力はトワイライトの肉体に作用し、まるで羽ばたこうとする鳥の翼に石を置いているかのようにも見えよう。

   それが『CTW』の能力ーー『圧力をかける能力』だった。トワイライトの動きを封じ、そのスタンド『スモーク・オン・ザ・ウォーター』もまた同様に動きを封じられている。煙のスタンドといえば、なんらかの使い方があろう。特に密室において二人だけだと言うならば、気体のスタンドはとても有効だ。窓を開けていなければ、相手の体内に侵入して操るなどと応用も様々だろう。

   だが相手が悪かった。

   今のうつろには同族であるトワイライトをはじめとするフェニックスの能力が不思議と手に取るようにわかるのだ。それはトワイライトもまた同じ、しかし人間界における経験を積んでいくに当たってうつろの経験値は隠居するようになったトワイライトよりも積み重ねられて数百年の実力差は埋められようとしている。凶暴なそのスタンドヴィジョンはうつろが復讐を遂げられることによって、歓喜の声を上げている。なんとも形容できない、その姿は頭にクラウンを載せている黒い切り込みのような紅のある影としか言えず煙の雄鶏と言える姿を持つトワイライトのスタンドと比べれば生物には見えない。

   ギラリと覗く牙、鋭い爪に獣然とした太い足。うつろが命名した近距離パワータイプを示すような姿はまるで捕食者のようだ。

 

「何を言っているのか?まるで聞こえん」

「ーーッ!」

 

   重圧によって口を開くことさえもままならないのか、トワイライトは脂汗を浮かべてうつろを見上げるように睨みつけている。そんな睨みすらも生温い、とばかりにうつろはトワイライトの腹に蹴りを入れる。重圧とともに体勢を崩し、能力下にあることによってトワイライトは動くこともままならない。長男夫婦が訪れているとはいえ、トワイライトの部屋は書斎ということで防音設備が為されている。それが幸か不幸か、うつろは口角を上げて『CTW』に命じて手刀を振り下ろさせた。もちろん、狙うのはスタンドヴィジョンだ。

   不死身のフェニックスの肉体、そんなものを切り裂いたところで時間が経てば直ぐに復活する。

   まだまだ『CTW』についての能力はこのようになれた素振りをとっているとはいえ、先ほど『IMW』が変化したのを見たばかりだ。トワイライトの唇の動きからして、うつろはトワイライトからの謝罪を感じられなかった。悲壮感がない、謝罪しようと思う心がない、何よりも愛情が感じられない。そんな男に慈悲を与えていいだろうか?能力の使い方もイマイチだ、煙の能力を採取するのができなかったのが辛いところだ。

   長男夫婦に見つかったリスクを考えると、スタンドヴィジョンを重圧を与え続けて四方から囲み、潰すのは返り血が出なくて効果的だ。返り血でも出ようものならば、幾ら頭の中がおめでたい長男夫婦であっても気付くだろうから。

 

「……さて、今が頃合いか」

 

   トワイライトが息絶えた頃、おそらくいるであろうと踏んだトワイライトの妻の部屋へと向かう。ルナの部屋に行く際、使用人の誰にも見つからなかった。長男夫婦とエレンの姿が見当たらなかったのが気がかりだが、いくらレーティングゲームでタイトルを総ナメしている男であっても、それはゲームの上でだ。ゲームではない、本物の殺し合いにおいてでは眷属なしでは歯が立つまい。

  もっとも、それは兄の実力と能力を知らないから言えることではあるのだが。

  ルナの部屋においてでも同様であった。ルナは体調が悪いらしく、まともに起き上がれてもいない様子。スタンドを操るほどの精神力に恵まれていなかったらしく、散々罵ったルナもまた同様に殺してやった。命乞いをしたところで使えない、制御できないスタンドを持っているようではスタンドについての研究を行ってきているうつろには勝てないというもの。最後の最後までうつろを息子としてではなく、『害を与える者』としか見ていないのが腹が立った。ライザーにだけには手を出さないでとの発言がうつろの癪に障ったのか、うつろはルナのスタンドをスタンドパワーの基礎能力によって引き千切ってやった。スタンドによるフィードバックはちゃんとあるようで名前を最後まで聞いていなかった、まるでチェーンのようなスタンドは簡単に引きちぎられた。

  名前くらい最後まで聞いておきたかったが、まあいい。

 

「……」

 

  うつろの心は満たされない。

  まだまだ殺さなければならない者達がある。ライザー・フェニックス眷属もまた、その中に含まれる。特にライザーの女王とやらは必ず辱めてやらねば気がすまない。もちろん、ライザーと同じような下種な手は使ってはならない。そうすれば、ライザーと同様の土俵に立つこととなってしまい、命ある限りフェニックス一族を憎むことができないからだ。一族を滅ぼした後はその肉を取り込み、明日への糧とする。

   それがうつろの復讐だった。

 

「父上ー!母上ー!ライザーが帰りましたよー!」

 

   忌々しい、声がトワイライトとルナを呼ぶ。だが彼らはもう返事をすることがないのだ。なんせ、うつろが物も言わぬ肉塊にした上でズタズタに引き裂いたのだし、トワイライトに至っては精神を破壊したのだから自分の意思では二度と復活できまい。曲がり角に隠れ、様子を伺う。ライザーの側にはユーベルーナとやらが寄り添い、静かなフェニックス邸を歩いている。

   あの女もまた同様に許せない。

 

「誰か!誰かいないのか!?」

「ライザー様、あちらに人影が」

 

   どうやら、ユーベルーナにバレてしまったようだ。何をしているのか、このアバズレは。うつろは憎しみを煮えたぎらせたまま、彼らの前に姿をぬらりと表す。使用人を呼んでいたことから、ライザーは両親の安否を確かめたいのだろう。おそらく、ライザーの妹は外出中だ。

  その妹が帰ってくる前にフェニックス一族を滅ぼし、そして姿をくらますことができればこちらの勝ちだ。

 

「よう、焼き鳥三男」

「灰被り!?貴様、父上と母上をどうした!」

「殺したよ、可愛い弟よ。散々煩かったんでな、子供らしく親孝行しなきゃと思ったのさ。ありがたいことにね、幼少期は塔に引きずりながら幽閉し「黙れ!悪く言うな!」、散々俺を穀潰し扱い。なぁ、わかっているのか?お前らが今日この日まで栄誉やらがあるのはできのいい長男と俺のおかげだってこと」

「ライザー様、もしかして……」

「おい、アバズレババァ。一言でも喋るんじゃねえ、少しでも次に口を開いたら、刃はもう突き立てている。そのライザーに舐めまわされている喉元を掻っ切るぜ」

 

   ライザーの制止を、咆哮を掻き消してうつろは言葉を続ける。ユーベルーナが何かを察したように主に伝えようとするが、うつろは笑顔を崩さずに会話を続けている。ライザーにとってはようやく、うつろの腹の中が暴けた瞬間だった。これを父親に突きつけ、共に立ち向かえば終わるはずだった。屋敷を焼いたところでしばらくは別荘を仮のフェニックス邸とすればいいのだから。

  灰被りと呼んでいた男は灰被りと呼んだ同族とその下僕に刃を突きつける。

 

「トワイライト・フェニックス卿とフェニックス夫人ことルナ・フェニックスを殺したのは、この俺だ」

 

   彼らにとっては無慈悲な現実という刃を。




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