【完結】翼無き不死鳥は陽を見るか   作:ふくつのこころ

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四話目を投稿後、活動報告にてアンケートを実施しますので宜しければ見てもらえたらなと。


無敵の『    』その②

 ミラストス邸に向かうにあたり、ミラストスの自分語りだとか近況報告にトラヴィスは興味を抱けなかった。既に自分は貴族でないとの自覚があったからか、トラヴィスは適当に聞き流していた。ミラストスに意見を求められた時はそれらしい会釈をして返し、ミラストス邸に着くまでにヴァーリが何度か顔を覗きこんできたときは無言で笑い返していた。彼女にとってのいつも通りのトラヴィスを見たことで安心したのか、ヴァーリはその手を握って離さず、そさくさと後ろに移動してきた白音は実に自然な動きでトラヴィス達と並んで歩いていた。ミラストスの話には中身がなく、そしてトラヴィスに時折話しかけるだけなので僅かにほくそ笑んでいるトラヴィスを見てヴァーリは戦慄した。

 屋敷に到着したときもトラヴィスはミラストスに対して無愛想さを隠し、フェニックス邸より狭い屋敷の中を威風堂々として入っていく様はさすがは元貴族と言ったところ。客間に招かれ、ミラストスが使用人に紅茶を持ってこさせている間、ヴァーリは途中で見かけたミラストスの眷族からトラヴィスを護るように頭を寄せて抱きしめていた。

 

「あれ?お客様かにゃん?」

 

「どうも、トラヴィス=A(アウル)です」

 

「おにいちゃんの妹のヴァーリ」

 

 シャンデリアの装飾を一つ一つトラヴィスが数えているとき、ちょうどミラストスは手洗いに行っていて、ヴァーリはシャンデリアの装飾を数えているトラヴィスを不思議そうに眺めていた。ルシファー邸もまたミラストスよりは広かったので、見劣りするものがあったがヴァーリにとっての『家族』であるトラヴィスが珍しく不思議な行動に走っていたこともあってか、微笑ましい様子で見ていたところに第三者の少女の声が。面影としては白音と似ているところがあり、しかし服装は浴衣を着崩していた。一方の白音はミラストスの使用人と共にお茶請けを取りに行っているので席を外していたが。

 軽く名乗りを済ませれば、ヴァーリもそれに習って名乗り、少女は周囲を見渡してからトラヴィスたちの隣にへとやってきた。屋敷のところどころを案内されたトラヴィスだったが、彼女は使用人の中の一人一人をミラストスが紹介した中にはいなかったのでミラストスの眷族だろうか?

 

「白音と一緒に居た人?妹が迷惑をかけたね。私は黒歌、白音のお姉ちゃんってやつにゃん。そしてミラストス様のーー『僧侶(ピショップ)』かな。見たところ、トラヴィスでいいんだよね?トラヴィスとヴァーリはミラストス様のように貴族か何かなの?服はボロボロだけど……」

 

「黒歌は凄いね。おにいちゃんの高貴で上品な雰囲気から貴族だと思ってしまうなんて。それに私はそんな高貴なるおにいちゃんの妹だから、貴族かもしれないね」

 

「トラヴィスでもアウルでも好きに呼んでくれればいいよ。白音のおねえさん、ね。そっくりだね、白音と」

 

「えへへ、嬉しいなあ。……あっ、ミラストス様が戻ってきた。またね、トラちゃんとヴァーリ。妹とこれから仲良くしてあげて欲しいにゃん」

 

ぺちっ、とヴァーリの額をデコピンしてやれば小さく手で抑え、涙目でトラヴィスを見上げるヴァーリは可愛らしい。同様に妹のことを褒められ、恥ずかしがる黒歌もまた可愛らしくて白音が焼き魚を満足気に食していたところをふいにトラヴィスは思い出してしまった。そうしていると、ミラストスが戻ってくるのを察したのか、黒歌はそさくさと隠れてしまった。ミラストスの使用人が戻ってきたティーポット、白音が片手でアップルパイの載った皿をバランス良く持ってきたときはトラヴィスとヴァーリはそのバランス感覚に拍手した。ほんのわずかではあるものの、照れくさそうに笑った白音は黒歌にやっぱりそっくりだった。

 

「白音のバランス感覚、凄いでしょう?姉の黒歌というのが居ましてね、こちらは私の眷属なんですが、非常に優秀なんですよ。……白音、下がっても構わないぞ」

 

「……はい、ミラストス様」

 

 ミラストスに許可をもらい、白音はミラストスにまずお辞儀を、それからトラヴィスらにお辞儀をしてそさくさと部屋を飛び出して行った。貴族の扱いを受けるのは久々である以上、トラヴィスとしてはパイを切ってもらうのは見知らぬミラストスの使用人ではなく、少し贅沢を言うならば白音か黒歌に切ってもらいたかったのが本音だが、黒歌とはこの時点ではまだ『知り合っていない』ことになっており、その旨を伝えるのは胡散臭い他人には本音を隠して生きたいタイプのトラヴィスとしては黙っておきたいものでただにこやかな笑みを張りつけ、ミラストス家の使用人によってアップルパイを切られるのを待った。トラヴィスとヴァーリにアップルパイを切ったのは手袋にチェスの騎士の駒を象った紋章がある執事だった。もしかして、この家の使用人はミラストスの眷属なんだろうか?

 

「そういえば、これからどうするつもりなんです?トラヴィス様」

 

「ミラストス邸に長く滞在するのも悪いですし……」

 

「いえいえ、トラヴィス様。神童と呼ばれた貴方とは言え、休憩も必要でしょう。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」

 

「……」

 

 ミラストスの言葉は特有の『覇気』が含まれていた。断らせない『威圧』、要求を受け入れさせようとするものがあった。このようにミラストスがトラヴィスに媚びへつらっているのはトラヴィスがフェニックスの炎と再生能力を持ち合わせているのとフェニックス家の威光、そしてトラヴィスが幽閉されていた事実を知らないからだ。下手に襤褸を出してしまい、ミラストスに上に立たれるのは癪だ。ヴァーリは空気を読んでいたのか、それともついていけないのかただトラヴィスの手を握っていただけだった。

 

「……いいでしょう。連れが疲れていますからね、お言葉に甘えるとしましょうか」

 

「そうですか、それは良かった。では、また早朝にフェニックス家に私の使用人を行かせましょう。ご両親の方も心配するでしょうからね」

 

 ありがとうございます、とトラヴィスが礼を言えばミラストスが僅かに口元が歪んだように見えた。このままだとトラヴィスがフェニックス家で起こした一連の出来事を知られてしまい、フェニックスの炎を使えないことを仮にあの親(、、)が話したことを伝えれば、ヴァーリとトラヴィスの身が危ないだろう。

 既に成人している上級悪魔、クーライ・ミラストス。

レーティングゲームを眷属を持っていないトラヴィスは行ったことはないが、番外の悪魔(エキストラ・デーモン)の中でもそれなりに地位の高い、大人の上級悪魔が相手だ。フェニックス卿相手に苦戦していた自分では太刀打ちできないだろう。ヴァーリの神器(セイクリッドギア)の能力は正確に把握しきっていないが、確か強力な能力を持っていたはずだ。最悪、その能力を上手く的確に指示することができれば、あのとき使った目晦ましと同様に貴族相手でも効果を発するだろうが、それをなんの根拠も無く使えば、指名手配犯となるだろう。

 なにか『大義名分』のようなものが欲しかった。

自分の『虚偽』を正当化し、『真実』へと変化させて、このフェニックス家の者達のように汚らしい貴族の典型のようなヘコヘコして媚びる貴族を殺す(、、)方法を正当化するために。

 

「……さて、どうしようかな」

 

「悪い子だね、おにいちゃん。こんな時間にも起きているなんて。私と一緒に森に住んでるとき、この時間はもう寝てたよね?私たち。ね、アルビオン」

 

『ヴァーリの言うことにも一理あるが、トラヴィス。凄く悪い顔をしているぞ、お前……』

 

 深夜。

ミラストスに割り当てられた、客人用の部屋でトラヴィスはヴァーリに寄り添われ、後頭部で手を組み、ヴァーリはそんなトラヴィスの腕に掴まって満足気に笑っていた。一方でアルビオンの方はなんとなく、トラヴィスの方が表情が世間一般で言う『ワルイ顔』を浮かべている様子を宝玉越しに見えているのか、宝玉を点滅させながら感情表現しているようだ。衣服もミラストスに与えられた、客人用の寝巻きで一応、サイズが合っているトラヴィスはまだしもヴァーリに至っては寝巻きのブラウス上の上着一枚である。露となった柔らかな太股がトラヴィスに押し付けられるが、一般男性ならば理性を失うような誘惑の感触にトラヴィスは負けなかった。

 あくまで妹。

その認識が理性の鎖を千切らせず、理性を保たせていたのだった。

 

「……今夜中に騒ぎが仮に起きれば、それに乗じていくことにしよう」

 

『おいおい、ヴァーリを巻き込むなよ、トラヴィス……』

 

「分かってるよ、アルビオンさん。親御さんが言うようにヴァーリには危険な目に遭わせないさ」

 

『だと良いんだがな……』

 

「ちょっと待ってよ、仲間外れは酷いよ、おにいちゃん。私はおにいちゃんと一緒に居たいの。ダメ?」

 

 すっかりヴァーリの『親』として板についてきたアルビオンはトラヴィスのこれから行なおうとしている、その計画について釘を刺した。トラヴィスに至っては口調としては少し軽さが残りながらも、確かな決意が見られ、嘘偽りのない『さわやかな』ものがあった。しかし、そんな自分を心配する二人のことを知ってか知らずか、食って掛かった。

 銀髪美少女の上目遣いには流石のトラヴィスも参ってしまい、要求を受け入れざるを得なかった。

どうやらミラストスよりも、女の上目遣いと言うやつは有毒性を秘めていたようだ。

 

『やれやれ、ヒトの苦労を知ってるのか。この宿主は……。いや、この場合はドラゴンか。すっかり、トラヴィスに影響されてしまったものだな、私も』

 

 不純な動機で騒動を起こそうとしている金髪の少年が一人、宿主の少女を心配している白い龍が一体、そして金髪の少年を慕っている銀髪の少女が一人。

『物語』は彼らを中心にして幕を開けようとしていた。

 

ーー別室

 

「ねえ、白音。今日来ていた金髪の男の子なんだけど、どんな関係なんだにゃん?」

 

「……えっ、姉様!?金髪と言うと、トラちゃんのことですか?」

 

「へー、もう愛称で呼べる仲なんだ?姉様は羨ましい限りにゃん♪」

 

 黒歌と白音の猫又姉妹は親を亡くして以降、二人で支えあって生きて来た。

幼かった二人が生き抜いていくには世界は優しくなかったが、それでも白音は優しい姉が賢明に自分を護る為に尽力してくれ、食事を探す際にも食事が一人分しか見つからなかったときには黒歌は喜んで白音に与えてくれた。

 

『それは白音の分だにゃん。ふふん、私はもっと良いものを見つけちゃったからね♪』

 

あのときの笑顔を忘れることはないだろう。泥だらけになりながらも、傷をたくさん作りながらも笑顔で渡してくれたことは白音ははっきりと覚えている。そんな中でミラストス家にこうして姉妹で揃って住めるようになったのは、クーライ・ミラストスが黒歌の『仙術』と呼ばれる技術のような能力を姉が使えたからだろう。ミラストスが白音達を保護する条件とは、黒歌が自分の眷属となることだった。なんでも、ミラストスが言うには悪魔の世界では優秀な眷属を持つことがステータスだという。

 

「……そんな仲じゃないんです、姉様。あくまで焼き魚を貰っただけですから」

 

「へー、珍しいね。白音にもついに春が来たんだね!」

 

 照れくさそうに笑う妹は黒歌にとって、苛酷な環境でも生き抜くことが出来る心の支えだった。

何があっても彼女を護る。

それが黒歌を生かし、不本意ながらにもミラストスの眷属となった理由だった。

妹が不自由な暮らしをしないためなら、どんなことでもするつもりだった。どんなこともできるつもりだ。自分が犠牲になればいい、と黒歌は思っていたが、最近のミラストスは保護してくれた時に見せていた紳士的な様子は失われていた。彼は要求したのだ、白音も黒歌のように自らの眷属(モノ)とするのを。もちろん、白音を眷属としたいというミラストスの言葉は断った。きっと、白音にも仙術を使える才能があるというのをばれてしまったのだろう。

 

「もう我慢できんぞ!今夜、私は白音も眷属にする!」

 

「ミラストス様、約束と違うにゃん!」

 

 唐突に扉を蹴破ったのはミラストスの眷属でいかにもパワータイプ、とばかりに屈強な筋肉質の大男だった。浴衣姿の黒歌を一目見、舌なめずりをしているところから、きっと何かを吹き込んだんだろう。

 

「黒歌、よく考えてもみてくれよ。お前たち姉妹には仙術と言うものが使える。お前のそれが強力ってことは、白音もうまくやれば最強になれるだろう。……やれ、ゴロンド」

 

「し、白音!」

 

「おっと、動くなよ?黒歌。お前はあとでゴロンドに好きにさせてやる約束なんだからな、傷ついてもらっちゃあ困る。悪魔は取引を重んじるからな」

 

ゴロンドと呼ばれた男は黒歌を一目見て舌なめずりをした後、白音を掴んで押さえつけた。白音にはその身体には想像もつかない怪力を持ち合わせているが、いきなり襲われてしまっては反応もできず、やはり怪力を持っていようが年相応の精神だったのだ。ミラストスは懐から悪魔の駒を取り出し、白音へと迫る。黒歌が反射的に迫って蹴り上げようとすると、ミラストスは下劣な本性を現した。

 

「白音には、指一本触れさせないにゃん!」

 

「折角拾ってやったというのに、その態度はなんだ!お前ら姉妹は、私が拾った時点で私のものなんだよ!」

 

 下劣な本性だった。あの保護してくれたミラストスは仮面を被っていたというのだろうか?自分たちに衣食住を提供してくれたのも、自分の好き勝手にする為にだろうか?黒歌は考える間もなく、仙術を使えば簡単に殺せるような相手にさえ、冷静に物事を考えられないほどに熱くなってしまった為か、デタラメに殴りかかったとき、ミラストスによって弾かれた。

頭の打ち所が悪かったのか、黒歌の視界が揺らぐのを感じる。自分が護ると決めた妹が、この男によって欲望のままにされようとしている。

もしも、自分に力があればーー

 

「これだから、貴族は嫌いなんだ。体裁、地位、名誉。そりゃあさ、僕も貴族生まれだけど、ありえないよね。テメェのやり口は」

 

「これはこれは、トラヴィス様。どうなさいました?トラヴィス様も覚えておくといい、これが貴族のやり方なのだと。貴方がフェニックス家の力を持っていない、落ち零れなのだとしてもね!」

 

「気づいてたのか、テメェ、『俺』のことを」

 

「……トラちゃん、なんですか?」

 

 ミラストスは勝ち誇ったように笑った。

この小僧はフェニックス家の力を持って居なかったのは、最初から分かっていた。トラヴィス=A・フェニックスはフェニックス家の者が持つ、独特の雰囲気がないのはミラストス自身、それはフェニックスの炎を持たない『劣等種』だからだと決定付けていた。

ミラストスにとって、いや、ミラストスのような貴族にとってはフェニックス家は戦闘においては脅威の存在である。絶大な破壊力を秘めた炎、何度でも立ち上がり、炎の中からも復活する再生能力。 それらは確かに脅威ではあったが、トラヴィス=A(アウル)・フェニックスはその力を持たないためなのか、その雰囲気を持っていなかった。つまり、ミラストスのような者でもフェニックスを殺せる。

それに上手く行けば、トラヴィスとフェニックス家の関係を知らない彼は人質としても使うつもりでいた。フェニックス家はレーティングゲームやフェニックスの涙で地位を上げた、成り上がりの家である。地位は高くなくとも、旧家であったミラストス家のような名家においては成り上がりは気に入らないのだ。

 

「ええ、もちろん。……いや、フェニックスですらない落ち零れのお前には敬語を使う必要もないか。目障りなんだよなぁ、フェニックスのような成り上がりの家は。私達のような旧家を置いて成り上がってしまうのだから。再生力?フェニックスの涙?ただの回復アイテム製造でしかない、お前らが大きな顔をして歩いているのが気に食わないんだよ!ああ、なにも言わなくていいぞ、落ち零れ。お前のようなやつがあの家でどのような目に遭っているのか、おおかた想像がつくな。きっと、穀潰しだのなんだの言われているんだろう?」

 

「返事をしろッ!ミラストス様がお前に尋ねられているのだぞ!なんとか言わないか!」

 

「まぁ、落ち着けよ。ロゴンド、それ以上はお前は言わなくていいぞ?そうだなぁ、お前についてきていたあの銀髪のガキ、アイツも強力な力を持っていそうなのと侍らす為、眷属にしてやるとするかぁ!もちろん、焼鳥一族に生まれたお前を徹底的に甚振り、精神をへし折ってからだけどなぁ!?」

 

ロゴンドは白音をベッドに叩きつけ、乱暴に扱うと物を言わないトラヴィスの髪を掴み、床に叩きつけた。しかし、トラヴィスは何も語らず言葉を発さない。こちらが優勢だというのに気に食わなかったロゴンドはトラヴィスを押さえつけながら、殴りつけた。フェニックスの炎を持っていれば、カウンターとして炎がロゴンドを焼くだろうが、炎を、再生能力を持たないトラヴィスは殴られているだけだった。ロゴンドの心を愉悦が占める。フェニックスを、強者を、名家で育った者を甚振れることを。そして、あわよくば、この後に投げ捨てた白い少女の姉を好きにできることを。

 トドメとしてミラストスはトラヴィスに顔を近づけ、唾を吐きかけた。

今こそ、クーライ・ミラストスは人生において『絶頂』に登りつめているところだった。強力で美しい眷属、不死鳥の落胤を使って不死鳥から搾り取れる財産。そして目指すは帝王の如き人生を。

同時にクーライ・ミラストスは重要なことを見失っていた。

 

 

ーー同じ頃。

ヴァーリ・ルシファーは、「おにいちゃん」と慕う金髪の少年についていくのを許されなかった。一人取り残されたベッドでは、久方ぶりの孤独を感じる。もちろん、アルビオンがいるから正確には一人ではないが、家族として見てくれ世話をしてくれた金髪の少年は彼女がついて行こうとしたとき、物凄い剣幕で拒絶した。アルビオン自身もそれには驚き、こいつの意思ならば連れて行くのは認めるぞ、と言ったがトラヴィスは頑として首を縦に頷かなかった。

 

嫌われただろうか?

悪いことをしただろうか?

気に入られてなかったのだろうか?

愛されて、いなかったのか?

 

生家のルシファーの家では馴染めず、自然と家を飛び出してふらついていたところで出会った金髪の少年は優しく暖かな太陽のようだった。その太陽に触れていたくて、その後を追っていたのに太陽がなくなっては何を道標にすればいいのだろう?

一人にしないで欲しい、早く戻ってきて欲しい。

一人、大きなベッドで眠る少女は一人分の場所が開いた隣の位置をシーツの上から握り締め、眠りながら涙を浮かべていた。

 

「おにい、ちゃん……」

 

『……ドラゴンとの約束を守るのは律儀なのか、それとも馬鹿なのか。食えないやつで本心が掴みにくいやつだが、私の宿主を泣かせないでくれよ。金髪の坊主、お前は私にとっても太陽のような存在であることを忘れてもらっちゃあ困る。二天龍の片割れにそこまで言わせ、白龍皇に愛されることを誇りに思ってもらわなくてはな。安っぽくないのだぞ、--トラヴィス』

 

寝言で金髪の少年を求める銀髪の少女を見守るように、少女の意思と正反対に出現した光翼は特徴である宝玉を点滅させながら、此処にはいない名前の持ち主を呼んだ。

まるで、友人のように親しみを込めて己の名を呼んだ彼に敬意を込めて。

 

ーーそして別室

 

「……な」

 

「ん?なんつった、クソガキ!」

 

「汚い手で『俺』に触るんじゃねえ!筋肉達磨と下衆野郎。お前らに簡単に触られるほど、安物じゃあないんだぜ!」

 

 拘束を振り払い(、、、、)、眼鏡が勢いで床の上に音を立てて落ちればトラヴィスは眼鏡を踏みつけ、人差し指を突きつけた。ミラストスとロゴンドは思考が追いつかなかった。

何故、この子供が大人の男の拘束を振りほどけるのか?

何故、この子供がさっきと『一転』しているのか?

そして、この突き刺さるような『威圧感(プレッシャー)』はなんなのか?

 

「『俺』のことをどれだけ言おうとするのは構わないが、テメェらのようなヤツに触れられ、殴られ侮辱されるのだけは許せねえし、白音や黒歌、ヴァーリをテメェの都合だけに利用するヤツもだ」 

 

トラヴィスがロゴンドの拘束、ミラストスに足蹴にされていた状態から脱出できた理由として、まずはトラヴィスの赤羽根の痣が光っていたことと、そして、

 

MERAAA(メラァ)……」

 

ロゴンドとミラストスには見えていない、『不可視の両腕』の力で跳ね除けたからだ。

 




ス タ ン ド、キター!

今回の元ネタ
ロゴンド→ミラストスの眷属。ポジションは不明。大柄で筋肉質の男性、ミラストスに白音を眷属にする手伝いをすれば、黒歌を好きにしていいといわれた。由来はポケモンのゴローニャとドサイドン。パワータイプ。
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