【完結】翼無き不死鳥は陽を見るか   作:ふくつのこころ

5 / 29
アンケートは実施中ですが、別に炎系のスタンドが出るわけじゃないです。
奇妙な英雄の方では、ライザーが魔術師の赤使ってましたけど、ええ。
腕だけ出す表現は第四部ダイヤモンドは砕けないのオマージュです。


無敵の『    』その③

 ゴキブリと言う存在は、甲皮に隠れた羽根を持つがゴキブリ自身はそれに気づいていないという。ゴキブリが己の羽根に気づくのは彼らが命の危機に瀕したときであり、そのときはゴキブリは長い年月をかけて成長してきた生物の時間の『過程』をふっ飛ばし、IQ300を誇る知能を手に入れ、自身よりも大きな人間の女と子供を声質で判別し、特攻していくのだという。己の命の危機に瀕したときに爆発的な成長を遂げられるとは、生命とはなんと神秘的であろうか?

 

MERAAAAA(メラァァァァァ)!」

 

「所詮はガキ!なのに、何故だ!?どこからその力が沸いた!?」

 

 炎が燃える様子を現したような、トラヴィスの咆哮はミラストスにフェニックスの“血”を思わせた。ミラストスには解せなかった、この貧弱そうな子供の何処に振り払う力があるのか?魔力を使った様子もなければ、神器(セイクリッドギア)の反応でもない。ならば、フェニックスの血統による物だと予測するが、ミラストスには見当もつかなかった。未知の能力を持っているのならば、この不肖の次男坊を捕らえ、己の眷属としてやろうと。

 

「語ってやる義理も無ければ、必要もねえ。ミラストス、テメェはこの場で死ぬ。いや、『俺』が殺してやる……!」

 

ミラストスにはトラヴィスの背後の『両腕』が見えない。見えないということは一種の『恐怖』なもので、憤怒の色を目に顔に浮かべて『両腕』を振り回そうと近づくのをロゴンドが妨げようとするが、その腕をトラヴィスの『腕』が締め上げた。痛みのあまりにのたうち回るロゴンドを『左腕』が押さえ、『右腕』がその太い首に指を食い込ませた。防衛反応として自らの首を押さえつける、その手を払おうとするが、『腕』とトラヴィスがそれを許さない。ただ、野獣が獲物を食らうためにいたぶるように指が喉を貫通し、血液が溢れる。しかし、『腕』はトラヴィスにしか視認することができず、ロゴンドの首が独りでに破裂したように見えた。

 そのとき、ミラストスはトラヴィスの傍に『死神』を見たような気がした。正確には気配を感じた、との表現が正しいだろうが、視認できない者を従えて眷属を嬲り殺しにした者を目前としているからか。力の差は歴然、そもそも『勝負』にすらなっていない。

 

「この程度か」

 

「く、来るな!近づけば、こいつの命は無いぞ!?」

 

 ミラストスはその腕の何処から沸いてくるのか、白音を掴んで戦車(ルーク)の駒を掴み、白音の肌に滑り込ませようとしていた。この場合の命、というのは白音を悪魔ではない種族としての命が失われるという意味からだろう。ミラストス家の特有の紋章を象った悪魔の駒が電灯に照らされ、発光している様子は神秘的に映るが、意識を取り戻した黒歌にとっては怖ろしく、死の宣告に等しいものだった。未知なる者の蹂躙に恐怖に顔を歪ませるミラストスだったが、実に素早い動きがミラストスの腕を貫き、悪魔の駒を手から滑り落とさせた。

 

「黒歌は早く白音を!」

 

「うん、分かった!」

 

「貴様ら!謀ったな!?」

 

「『謀ったな』だと?面白いことを言うな、テメェは苦しむことなく殺してやろう。じわじわと甚振りつけることすら、時間の無駄だ。喜べ、テメェは今夜のことを誰にも知られずに殺されていくんだ」

 

ほんの僅かな隙であったが、それは黒歌にとって十分な隙だった。大事な妹の為ならば、よろめく身体すらも鞭打って動けるのを、我ながらに自分がシスコンなのだ、と感じさせてしまう。見えない『なにか』がミラストスの無事な腕を捻り上げ、同時に白音が手から離される。そのときに即座に白音を保護し、黒歌は大切そうに抱きかかえた。あとは金髪の少年と銀髪の少女だが、銀髪の少女にいたっては少年が連れてきていないからか、寝室で眠っているのだろう、姿が見えない。

 

「殺してやる!殺してやるぞ、トラヴィス=アウル!貴様は、貴様がこのクーライ・ミラストスを秒殺すると言ったな?それと反対に落ち零れのお前をジワジワ嬲り殺してやるからな……。その後に白音を眷属にしてやろう」

 

「トラちゃん!」

 

「黒歌は早く逃げてくれ!我儘を言うなら、ヴァーリを起こして一緒に連れて行ってくれたら嬉しいけど」

 

「いいけど、トラちゃんはどうするの!?駄目にゃん、一人じゃ敵わないよ!」

 

「黒歌は一応、コイツの眷属ってことになってるから、此処にいちゃ拙い。『俺』が、『俺』がコイツを殺せば無問題。あとは、襲撃者に襲われて命の危険に瀕し、逃げて来たと言えばいいんだよ。魔王様に言われたらね?」

 

「で、でも……」

 

 黒歌は返事に渋ってしまう。元々、トラヴィスは黒歌達姉妹の問題には何にも関係のないはずだ。でっち上げたトラヴィスの嘘は自分が全てを背負うことで彼女たちを助けようとしているのが丸分かりだ。トラヴィスに懐いていたヴァーリと彼が呼んだ少女のことを考えれば、実に無責任な行動だろうが、トラヴィスなりに含んでいたところがあるんだろう。

 

「帰って来てね、トラちゃん。デートしてあげるにゃん!」

 

 黒歌はトラヴィスに向けてウィンクを向ければ、白音を抱えてその場を去っていく。トラヴィスには白音が目を覚まし、こちらに手を伸ばしたように見えるが、そちらに視線を向けられなかった。今の自分の表情は修羅のそれ、仲良し姉妹に向けられるものでもなかったからだ。黒歌の去り際の一言は嬉しかったが、その約束を叶えられるとは思えなかった。生存することができてもミラストス家の眷属を全員殺さなければならないし、一人でも生かしておけばトラヴィスにとっても拙いこととなる。トラヴィス自身の都合とはいえ、ミラストスはトラヴィスに対して被害を与えていないのだから。

 

「忌々しいフェニックスのクソガキめェ……」

 

両手から血を噴出しながらも、ミラストスはトラヴィスに怨嗟の視線を向ける。両親の仇、と言わんばかりの様子はトラヴィスには強がっているようにしか見えず、負傷していても慈悲を与えない。無慈悲な拳は振るわれ、背後からゆっくりと迫り来るロゴンドの気配に気づかず、その無慈悲な鉄槌は自分の嫌うタイプの悪魔に向かい、魔力でブーストさせた脚力によるジャンプで飛び上がったことで更に勢いがつく。身体に穴が空いていることでトラヴィスが魔力を纏った手刀を叩き込めば、ミラストスはトラヴィスに怨嗟の言葉を吐いて意識を失った。

 

「一方的な蹂躙ーーッ!?」

 

「勝手な真似をしてくれやがって、クソガキが!俺がミラストス様の手伝いが出来た報酬として黒歌を俺が貰うはずだったのに!」

 

「ググッ……!」

 

「生まれたことを後悔するんだなぁ?いくぞ、お前ら!」

 

続々と集結するミラストス眷属はミラストスがどのような見立てで選んだのか、パワータイプばかりだった。おそらく、あれらはそもそも眷属であるのかさえ分からなかった。直接的なミラストスの眷属としてトラヴィスが分かっているのはロゴンドくらいで、あとは今は既にヴァーリと逃走したであろう僧侶(ビショップ)の黒歌くらいだろうか。ロゴンドがトラヴィスの身を拘束するが、トラヴィスから発現した『両腕』が意思を持ったかのように暴れ、拘束を解こうとする。異能を持つトラヴィスがまだ肉体的にも成熟していないこともあってから、トラヴィスが非力であるのをいいことに多勢に無勢、孤軍奮闘中のトラヴィスを数の暴力が襲う。身体に数箇所に痣を、切り傷を、打撲をつくろうとも不敵の表情は崩れず、それがかえって彼らの苛立ちを加速させる。何度殴ろうと、何度痛めつけようとも戦意は喪失せず、むしろ怨嗟の瞳をこちらに向けている。

 

「触るんじゃねえって言ってんだろうが!」

 

 トラヴィスの怒りと共に『腕』は徐々にその姿を顕していく。強力なエネルギーの集合体ともいえる姿は彼らに恐怖を催させ、それが少年であることが彼らの原初から備わっている感情を更に拍車にかけた。ヤケクソになって言葉にならない声をあげ、ロゴンドはそれでも執念によるものなのか、拘束を解除しようとしなかったが、それがトラヴィスと『顕れた者』の怒りに触れ、ロゴンドの顔面に拳を叩き込んだ。ロゴンドは咄嗟に顔面を護る為、両腕を交差させて攻撃をガードさせるが、その攻撃力はロゴンドの防御を貫いたように見えた。狭い室内には多量の血が飛び散り、トラヴィスの髪の一部が赤く染まり、赤い羽根の痣が更に輝きを増していく。ロゴンドらは周囲にある物を使い、凶器として使用するものの、『顕れた者』は小細工なぞ無用、と言わんばかりに凶器に使われたタンスを破壊する。デタラメなその力は上級悪魔の眷属である彼らすら畏れおののかさせ、トラヴィスが少年に見えず、暗い影が全身を覆い、紅い切り目をつけたような目の位置にあるところには光が、口元からは蒸気が零れているように見えた。一方的な蹂躙劇はようやく、まともに『勝負』と言えるようなったが、やはり『顕れた者』は恐ろしく強かった。圧倒的な暴力によってロゴンドら眷属は殺されていくが、最後に残った者が全ての魔力を使用し、ミラストス邸は弾け飛んだーー。

 

 

「黒歌!おにいちゃんは、おにいちゃんを助けに行かないと!」

 

「……そうです、姉様。トラちゃんを助けに行かないと!」

 

「戻ることは許さないにゃん!ヴァーリ、白音!」

 

 ミラストス邸から離れた、その場所で黒歌に手を引かれながら白音とヴァーリは近くのミラストス邸が一望できる丘へとやってきていた。トラヴィスに比べ、傷は見当たらないが彼らが森の中を抜けてきたのが分かるように木の葉が大量に付着していた。追っ手の追跡もあり、少しだけ息を整える為に休息をとっていたが、ミラストス邸が轟!と爆発音を上げて弾けたことでヴァーリは丘を下ろうとし、白音もまた同じくそれに続こうとした。いつもは妹に甘甘の黒歌でさえ、毅然とした態度でその白い手で彼女らの手首を掴み、叱りつけた。

 

(私だって、心配なのに。トラヴィス、生きてるよね……?)

 

その後の顛末を語るとするならば、黒歌達は身を潜めながら生きていたが、ミラストス邸から連絡が途絶えたことで現魔王の一人、サーゼクス・ルシファーらが様子見に訪れたことでミラストス邸が全壊しているのを発見し、その時にサーゼクスは白音を発見した。ミラストス邸には襲撃者が襲った跡があり、当主のクーライ・ミラストスの死体が確認され、その死体には貫かれた跡があった。ミラストスの眷属にも同様の穴があり、争った跡があると言うのが分かったが、白音はサーゼクスに対してまず口を開いた時には、襲撃者は私を助けてくれたのだ、と主張した。

 

「他に誰か居たかい?ミラストス卿の眷属ではない君がこの場に生き残っていると、必然的に君が疑われてしまうのだが、誰か見ていないのかい?」

 

「金髪のーー」

 

 白音の脳裏をよぎるのは焼き魚をくれたトラヴィスだった。屋敷内における味方とは、姉の黒歌しかおらず、同年代ほどの友人と言っていいのか分からないが知り合いと言えば、あのヴァーリと呼ばれた銀髪の少女と焼き魚をくれた金髪の少年だろう。腹を空かせていた自分に食事を譲ってくれた少年は、恩人も同然だった。無理矢理、ミラストスの眷属にされそうになっていた自分を救い、暴行されそうになった姉を救った。どうして、あのタイミングを見計らったように出てきたのかは知らないが、あのときのトラヴィスを白音は『ヒーロー』と思った時はないだろう。自らの父でもなく、母でもなく、姉でもなく、なのに自分たちを救ってくれた彼。忽然と姉は姿を消してしまったが、枕元に置かれていた手紙を白音はまだ開いていない。金髪の少年に追従していた、銀髪の少女も同じく姿を消してしまったのはトラヴィスを、トラちゃんを、『にいさま』を探しに出かけたのだろうか。あの少女がトラヴィスを『兄』と似付かない容貌だと言うのに、兄を探しに出かけたのだろうか。

 

「……ヒーローが、私と姉を助けてくれたんです」

 

「――そうか、金髪のヒーローが助けてくれたんだね。グレイフィア、彼女はしばらく私の実家に養生させようと思う」

 

「分かりました、サーゼクス様。では、行きましょう」

 

 涙を浮かべ、声を上げずに泣き出してしまった白音をあやし、傍らに従えた銀髪のメイド服の女に尋ねた。銀髪の女は紅い魔王が普通では信じられないようなことを信じ、理解したような意思を見せた主にクスッと小さく笑みを漏らした。紅い魔王はそんな従者に驚きの表情を見せるが、それもまた主らしい、と毅然とした表情をとり、主の隣から数歩下がって歩きはじめた。後方からサーゼクスが発見した、『眼鏡らしき物体』を胸の前で両手で握り、あの笑顔を思い出してみる。不思議とどうしようもないほどにいなくなった姉と同じくして腹が立つが、そんな気はすぐになくなってしまった。

 いつか、姉と同じように再会できるのを信じて。

 

ーー???

 

「……なんだ、こいつは」

 

 天然パーマにアロハシャツの男がハーフパンツのポケットに手を突っ込み、口笛を吹きながら歩いていたところに発見した赤い髪がわずかにある金髪の少年。まるで、『戦場』を潜り抜けてきたような、そんなボロボロの出で立ち。男自身、その顔立ちは厳つく、修学旅行生が購入する木刀をベルトとズボンに差し込むようにして日本刀を差し、警察官に見つかれば職務質問をされる可能性は高いだろう。しかし、不思議と人通りの少ない通りで高級そうな服がすっかり跡形もなく破けている少年、そしてアロハシャツの男。嫌でも悪目立ちする組み合わせだが、妖しく煌く男の首飾りであろう『颪』と刻まれた勾玉を街灯が照らし、男が覗き込むと少年はまだ息があるようだ。

 

「……で、お前はなんだ?」

 

少年の傍らに佇む、『傍に立つ者』。男の言葉を聞いていないのか、それとも言葉を理解していないのか、無視しているのか。空中に浮遊したまま、ただ男の方を見据えている。男の方はそんな『傍に立つ彼』を不服そうに見据えるが、反応はなかった。しかし、歴戦の戦士である男の本能は『そいつ』を攻撃してはならない、触れてはならない、と警告しているようだ。

 

「反応はなし、か。オイ!そこのお前、このガキを連れて行ってもいいよな?」

 

だが、やはり男の言葉には応えなかった。男が無言を肯定と捉えたのか、少年を肩に担いだ。すると、『傍に立つ者』は少年の中へと消えて行き、少年の金髪の一部が赤くなっているのに気がついた。男としては少年の身分を知ることが出来ればいいが、少年の身分を証明するものを一切持っていないのがなによりも痛かった。消えていった『守護霊』と表現するしかない、その存在はまだなぞに包まれている。

 

「……このまま、コイツの面倒を見るのも面倒だな。適当な名前と住所くれてやって住まわせておくとするか。どんな種族かは気にしないでおこう。ようこそ、駒王町へ」

 

誰に言い聞かせるでもなく、男は呟いた。未だ幼い少年は何も答えず、むしろそれは自らに言い聞かせているようにも聞こえたのだった。

 




第五話終了後、少し時間が飛びます。
そして、出てくるあの人。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。