スタンドを出したトラヴィスはミラストス眷属を蹴散らし、爆発に消えたように見えたが……?
陰日向に咲く、
金髪の少年は月日が経ち、眉目秀麗を体現したような青年へと成長した。気づけば駄菓子屋を経営しており、自らの経歴を調べてみたところ、この国の教職員免許をとっていたらしい。しかし、金髪の少年ーー青年は生まれてから今までの記憶を正確に思い出せない。唯一、アテにできるのは『
「にーさま!今日もきたよ!」
「お前も物好きだなァ、ほとんど毎日来てるんじゃあないか?カネのほうは大丈夫か?まけてはやるが」
「あらあら、うつろ君。私がいるから大丈夫よ?」
かわいらしい声とともに姿を見せたのは、黒髪の着物姿の少女だった。傍にはよく似た容姿の女性もおり、穏やかに笑う様子は将来の少女を期待させた。うつろ君、とうつろを呼んだことから彼女は少女の母親でうつろと親交がある女性だった。この街にある何らかの神を祀っているらしい、姫島神社に暮らしている、姫島朱璃と朱乃親子は少し前から、うつろが営む駄菓子屋に通うようになっていた。金髪の地毛であり、東洋人の要素を持たずに日本人名を名乗っている、うつろに最初は朱璃自身も警戒したが、朱乃がいつの間にかうつろに懐いていたことで次第に親交を持つようになり、彼女の夫もまた朱乃を連れて時々、この駄菓子屋に訪れることもあった。
「なら、大丈夫か。……よかったな、お母さんと一緒で」
「一人でも大丈夫って言ったんだけど、母様が……」
「いいじゃない、朱乃。母様も見ておきたいのよ、娘が毎日通いたいほどの男の子を見たいのは当然でしょう?」
「むーっ……」
「姫島さんも、からかわないで貰いたいな。……ほら、いつものやつ。落とすなよ?」
「ありがとう、にーさま!」
笑顔でうつろが渡した、駄菓子を詰めた袋を渡すと小さな手で朱乃は受け取り、うつろに笑顔を向けた。その眩しい笑顔にはうつろはいつも癒され、遠い何処かでそれに似たようなものを見て護りたい、と思ったことだけはいつまでも覚えているのを確信している。今までの記憶を、無羽うつろとしての偽りの
「本当に悪いわね、うつろ君にも。朱乃が大きくなったら、婿に来てくれるかしら?」
「それは……」
「え?かあさま、それってにーさまが私のにーさまになってくれるの!?」
「ええ、そうよ。うつろ君、貴方なら私たちの息子にしてもいいわね。気が利くし、なによりカッコイイし?」
「あ、あはは。からかわないでくださいよ」
よく似た、親子の微笑ましいやり取りは少女の為にもずっと続けばいいのにとうつろは願うが、うつろはその眩しい中に自分が入れるとは思えなかった。むしろ、その中に入るのを苦手に思っている自分さえおり、朱璃のからかうような言葉にはなんと返していいのか分からず、苦笑ばかりでただただ調子に載せられてばかりだ。時折、自分の前に姿を現す『傍に立つ者』を数に入れていいのか分からないが、“バラキエル”と名乗った彼女の夫にまでからかわれる始末でまだ母親の言っていることがわからない朱乃がいるから幸いか。
一人暮らしをしていれば、自然と家族の温もりを求めるものだが、いざ味わってしまえば苦手意識を持って少し遠ざけてしまうのは我儘だろうか。自分の中には家族への憧憬よりも苦手意識のほうが強いとさえ感じられる。
「それとも、すでに意中の人でもいるんですの?朱乃、大変ね。でもね、きっと綺麗に貴女はなるから頑張りなさいな」
「……?はい、母様!」
「……」
なにかを悟っているような、達観しているような様子さえ垣間見られた朱璃の言葉。近所の駄菓子屋を営むだけの金髪の若造にこんなにも息子同然に話しかけるのは、変な勘違いをしているつもりはないが、日頃の朱乃に向けている態度からだろうか。やけに小さな彼女を見ていると世話を焼きたくなって、一人で店番をしながらボーっと雑誌のページを捲る手を早めているとき、ふと店に迷い込んだ彼女と視線が合ったのが最初だろうか。
『母様!ここにお菓子が売ってるよ!』
それがうつろと姫島家の馴れ初めだった。
「そうそう、うつろ君。はい、これ、代金ね」
「またね!にーさま!また
「娘がこう言っていることだし、また来て下さいな、うつろ君。夫もきっと喜ぶわ、息子が出来たって喜んでいたし」
「ええ、それは楽しみです」
やけに素っ気無く返してしまったが、自分があの家族と関わるのは間違っている気がする。
うつろを息子同然に扱ってくれる朱璃。
うつろを兄同然に慕う朱乃。
今はいないが、うつろを家に招いてくれたこと、そして酒を吞ませた朱乃の父であり、朱璃の夫であるバラキエル。バラキエル、という名前を聞いて既知感を覚えたが、きっとそれは気のせいだと切り捨てた。無羽うつろとして、駄菓子屋を営む近所のお兄さんとして生きるのならば、そんな些細な違和感に囚われる必要がないからだ。うつろに向けて朱璃に手を繋がれ、こちらに向かって何度も何度も振り返って手を振る着物姿の少女の笑顔は何処までも眩しく、まるで夕方の黄金色の『夕日』のように美しかった。
場所は変わってフェニックス邸。
『不肖の次男坊』を失踪扱いにし、それはライザーとフェニックス夫妻にとって共通の秘密であった。長男のルヴァルは『事件』があった当初、その場にいなかったし、後から生まれたレイヴェルに至っては『顔を見たことすらない』二番目の兄だからだ。彼らにとって、失踪した次男とは一族の恥であり、存在を抹消したい者でしかなかった。しかし、彼らの身に起きた出来事が身の近辺を変える。
不思議な力が、彼らに覚醒したのだ。
長男のルヴァル・フェニックス、三男のライザー・フェニックス、長女のレイヴェル・フェニックス、そしてフェニックス夫妻にも。ちょうど、その当時は上級悪魔のフェニックス家が『成り上がる』前から既に名家であったミラストス家が壊滅する前日の出来事で三者三様の力が彼らに覚醒した。それによって不死身の力を持っているフェニックスは更に勢いを増し、ライザーに至ってはレーティングゲームのタイトルの数が倍以上に覚醒した力によって増え、まだ幼いレイヴェルに至っては覚醒当時には力を操るには至らなかったものの、これから力を制御していければ、フェニックス家の家名の更なる向上が期待された。が、『不肖の次男坊』に加えた虐待を知っている面々にとっての最大の懸念は所在だった。
「……ルナ、ライザー。レイヴェルはいないな?」
「ええ、父上。ちょうど、家庭教師のフーグロス氏の元で教授を受けております」
「それで、話と言うのはなんなの?貴方」
「あの馬鹿息子のことだ」
トワイライト・フェニックスは妻と自らの三男を居間に呼び寄せていた。人払いを行い、使用人には居間に近寄らないように言いつけ、息子の眷属は息子の部屋で待つように言い、『馬鹿息子』について切り出した。そのワードが出てくるだけでフェニックス夫人は顔を青ざめさせ、ライザーに至っては青筋を浮かべている。現在では接待と言えるほどの『手抜き』によるレーティングゲーム以外では無敗を誇るライザーだ、幼少の頃の敗北の思い出くらい簡単に忘れ去りたいものだが、見下している男が自分に対して牙を剥いた、あのときのことは今でも忘れられなかった。
「『落ち零れ』のことですか?その話でしたらーー」
「待て、ライザー。お前の『スタンド』を仕舞え。いくら根に持っていようとも、ここでスタンドを出すのは賢明ではないぞ?思い出せ、此処はお前の生家であり、妹が戻ってくる場所だ。帰ってくる場所だ。一時期の気の昂ぶりで暴れるほど短慮ではあるまい?」
「……申し訳ありません、父上」
ライザーの脳裏に眼鏡をかけた、同族と思いたくない男の顔が映った時、フェニックス郷が『スタンド』と呼んだ存在がライザーの中から透き通るように姿を見せた。両手首が燃え、口内は炎が燃え盛っており、フェニックスの能力に似た炎のスタンドだ。一時期の気の迷いで自らの実家を燃焼しそうになっていた自分に気がつけば、ライザーは深く頭を下げた。そんな息子の傍に立つ者を視認で来ているのか、手で制するとライザーは自らのスタンドを己の中へと溶けるように戻していった。
「お前たちも知ってのとおり、私やルナ、長子のルヴァルとライザー、レイヴェルにはスタンド能力が発現した。レイヴェルに至っては、精神が幼かったこともあり、スタンドを制御できなかったが、私が調べた限りでは悪魔がスタンドを発現させたケースは無きに等しい。人間から転生した転生悪魔が異能として持っているケースならば別だが、この力を使ってライザーはレーティングゲームで輝かしいタイトルをいくつも取り、我が家の家名向上に貢献してくれた。よく頑張った、ライザー」
「ありがとうございます、父上。勿体無いお言葉です、これからも精進していき、フェニックス家を冥界を支ることができる悪魔となるのが私の夢です」
優秀な三男を褒めると、フェニックス卿も自然と気分が良くなった。自分は既にレーティングゲームに参加できるほど体力はあまりなく、むしろ観戦する側だ。長子のように優秀で才能も満ち溢れている三男坊ならば、フェニックス家を『成り上がり』と言わせずに済むほどの実力を付けてくれるだろう。長子のルヴァルがフェニックス家を継ぐので、ライザーを当主に据えることはできないが、このまま上手くいけばライザーを魔王に据え、現ルシファーを排出したグレモリー家のように地位を確立できるのも夢ではないだろう。不死身のフェニックスの能力の才能、そして他は不可視認のスタンド能力。これぞ、無敵の組み合わせだろう。
「ありがとう、ライザー。今後の期待しているよ。……さて、冥界に明るい未来をもたらしてくれる若者の誓いを聞いた後だが、お前たちに言わなければならないことがある」
「なんですの?貴方。まさか、あの『死に損ない』が生きていたというの?」
「そのまさかだよ、ルナ。私達が何処に行ったのかが分かる繋がりがスタンド能力の覚醒で分かったように、私にはあいつが生きているという確信がある。どこにいるのかが分からないのが辛いところだが、今のフェニックス家に実質勝てると踏んでいるのは次期当主となる権利を己の肉体だけで勝ち取った、バアル家のサイラオーグくらいだろうが、スタンド能力を『知らない』となるとどう転ぶか分からないだろう。だが、今のライザーを倒せる相手がいるとするならば、それはアイツだ」
それは、彼らにとっては過去からやってくる『恐怖』そのものであった。自分達が虐げていた存在が自分達以外の誰も所持したケースが現在では確認されていない中、自分達の血族で虐げていた存在がその能力を持っているのだから。邪魔者として扱い、存在すら世間から秘匿していた次男坊の存在。世間がフェニックス家の次男坊に対する評価は、神童と呼ばれたにも関わらず、突然姿を消してしまったことだろう。その頭脳は現ベルゼブブに成長を続ければ匹敵するであろうとされ、期待をされていた中で突然姿を消したからだ。フェニックス郷が妻と三男に言葉を継げた後、意識を集中させてみると自分達の所在の他、外出しているレイヴェルの気配と、どこか遠くの場所で生きている次男の気配を感じ取ることができた。
「こ、怖いわ……、貴方。あの『死に損ない』が生きているのを考えると。ああ、
「恐れる心配はありませんよ、母上」
身体を震わせる母親にライザーが立ち上がると、そっと近づいて両手を自らの物と重ねた。不思議と息子の両手から感じる暖かな体温はフェニックス夫人を安心させ、成長した『優秀な』三男の腕の中で安息感に浸る。
「そうだとも。ルナ、お前はライザーのスタンド、『レッド』を見たことがあるだろう?ライザーのスタンドならば、例え、『死に損ない』の灰被りがどれだけスタンドであがこうが無駄さ。ライザーのスタンド能力ならば、灰被りを灰燼に返してくれるだろうよ」
「だと、良いのだけれど……。ライザー、必ず帰ってくるのよ?」
「ええ、お任せ下さい、母上。フェニックスの名を汚す、あの埃被り如きに負けるライザーではありません」
ライザーが『レッド』を呼ぶと、顕現したスタンドは手首と足首が燃え盛り、クジャクを模したような頭部は口が開いており、口内は燃えて炎が燃え盛っている。ライザーの意識が居間を燃やさないように調整をしているのか、部屋内に何の影響も見られず、ただただそこにあるだけだった。
灰被りや埃被りとは、フェニックス家における落ち零れへの蔑称であった。今までにフェニックスの力を使えない者は数えるほどしかおらず、近代になってからは家を飛び出していったインテリ系の次男坊程でなくなったかと思われた、この呼称は次男坊が炎を使えないと分かった時から呼ばれるようになりはじめた。三男の頼もしい言葉に微笑んだフェニックス夫人は三男を抱き寄せ、それを包み込むようにフェニックス卿は愛しい息子と妻を包み込むように抱いた。
三人とも、いや、『埃被り』と呼ばれた失踪した次男もそうであるが、この家に住むフェニックス家の血筋の者は皆、首筋に赤い羽根の痣がスタンド能力が覚醒したのと同時に浮かび上がっていた。
ーー駄菓子屋・なばねや
姫島親子が店を後にしてから暫く経った頃、夕食を済ませた、うつろは『憎たらしい気配』を感じ取れた。よく分からないが、その『金髪のやつら』は自分の悪口を叩き、あまつさえ殺そうとまでしている。散々舐め腐った言葉を吐き、それでいて矛盾するように彼らの元に戻ってくるのを恐れているようだ。
「MERAAA……」
不意に呟いた言葉は、無意識の内にあった。ここ数年ほど、『知らなかった』はずの言葉が自然と出てくることに驚きを隠せなかったが、それ以上に彼らへの『殺意』が膨れ上がり、彼らもまたうつろと同じ『能力』を持っていることが分かった。ふと、脳裏によぎったのは姫島親子とよく似た親子を『仕事』の都合上なのか、家を空けがちな彼らを護る『男』を思い出した。質素な部屋には壁に釘を打ち込んだ箇所に首飾りが立てかけられており、ロケットを開けてみれば、矢尻だけを矢から取って内蔵したものを発見し、窓際のベッド横のタンスの上に一枚だけ立てかけられた彼らと撮った写真を見つける。
「何やってんだろうな、本当に。『知らねえ』ヤツを憎たらしいと思うどころか、殺したいと思うようになっているなんて。……それで浮かんでくるのが、朱乃と姫島さんとバラキエルさんか。二人から見れば『息子』同然で、朱乃から見れば、『にーさま』に映ってるのか?面白ェよな、家族ってのは苦手なのに」
鏡に映る自分は窓から差し込む月明かりに照らされ、金髪の一部の赤い羽根のような箇所が目立っているように見える。傍らには、唯一の『ミウチ』とも呼び、そして自分がこの世にあるという『証拠』でもある『自分にしか見えず、扱えない』手足同然のエネルギー体。ただ、こちらを見据えるだけで何も語らず、何も行動を起こさない。うつろ自身が願うまで、動かそうと念じるまで不動のままの忠臣で半身とも呼べる存在。己の半身に念じ、タンスに隠してある皮袋を取らせるようにした。 スゥゥ、と床を滑るような動作で近づき、タンスを開ければ、古い皮袋を取らせて自分の元へと引き寄せた。空けてみれば内容は不死鳥を象ったようなチェスの駒でどれもオレンジ色だ。暇さえあれば、己の半身を扱うための鍛錬としてタンスに向けて念じ、『どれほど正確に開けられるか?』を目指して念じているし、最近ではカップラーメンを作らせることにも成功した。
「このチェスの駒もよくわからねえし、あのロケットもだ。記憶が戻れば全部解決するんだろうが……」
そう、記憶が戻れば。
記憶が戻れば、確かに全ての謎は解けるだろうし、姫島家と仲を深めることもできるだろう。このわだかまりさえ溶ければ、彼らに歩み寄っていけるはずだ。幸い、よく店に来店してくれている
「ぜんぶ、思い出したら、なくなるんじゃねえよな?」
赤い羽根の痣を押さえ、半袖のワイシャツとスウェットパンツ姿で寝室で無言の半身を宙に浮かばせたまま、誰に語りかけるでもなく呟いた。
うつろって誰だよ!?って思われた貴方。
主 人 公 です。
貴方ではなく、今作の。前回のミラストス眷属の最後の生き残りが屋敷を爆破した後遺症なのか、主人公君、記憶が吹っ飛んでなくしてしまいました。
前回のラストで主人公君を拾った人、どう見ても人間じゃありませんが、この人が「無羽うつろ」という一人の青年を生み出したも同然の御仁です。
戸籍、学歴、住居……。トンデモパワーで生み出したも同然ですが、この人は今後の話では会話でしか出ることはないでしょう。
うつろんがジョースター家における、DIOのようなポジションっぽくなっているのは何故だ。
◇今回の元ネタ◇
フーグロス→フルネームは、サンディ・フーグロス。レイヴェルの専属教師。元ネタはエスパータイプのポケモン、フーディンとエスパー/はがねのメタグロスの名前を合成して。今回は会話でしか登場しないが、それなりの地位を持っている模様。非常に博識であることで有名で、かつてはうつろんことトラヴィスの専属教師だった。
異常なまでに知識を水分を吸い込んでいくスポンジのようなトラヴィスに喜び、様々な知識を与えた結果、彼に『夢』を与えた。
「現ベルゼブブ様のような、知略に秀でた魔王を目指すのはどうか」と提案したのはこの人。