さて、今回で朱乃の過去編は終了。
舞台は現代、原作が開始します。うつろんは駒王学園の教師になるのか?文字通りに『悪魔先生うつろん』になるのか?それとも、『ただの駄菓子屋ですよ』になるのか?
法皇の緑は無羽うつろの『幸福』を応援しています。
「汚らわしい、黒い羽を持つ者なぞ、生かしておいてたまるものか!貴様もだ、小僧。お前も浄化せねばならん」
「おい、誰を不浄っつった!?」
浄化の札を詠唱と共にうつろに飛ばす、朱璃の親類ーー
うつろと共にある、『イン・マイ・ワールド』はうつろの首筋の赤い羽根の痣に似た羽根を二枚ほど肩から顕し、スタンド使いにして『本体』である彼と共に吠える。うつろの感情は既に爆発していた。高圧的な口調は忘却の彼方にある、『忌々しいやつら』を思い起こさせ、彼らの勝手な理由によって殺されようとしている自分を慕ってくれる少女を蔑ろにされることが許せなかったのだ。
「貴様に語る言葉はない!」
「だったら、もう口を開く必要はなさそうだな?」
『何度も言うようだが、○○○。お前の言い訳は聞かないぞ』
決定的な『なにか』を弾かせたのは、姫島の者の一言だった。MERAの声もなく、外見では疲弊しているように見えるものの、うつろはポケットに片手を突っ込み、詠唱を一時中断させたところであせりの表情を見せた、姫島紅士に向けて『イン・マイ・ワールド』を差し向けた。『イン・マイ・ワールド』は敵の配下に対して見せた、『謎の蒸発』を行なうのではないか、との恐怖を植えつけた上での緩やかな動きは余計に恐怖を煽り立てる。記憶に埋もれた、顔にはモザイクがかかった金髪の男の言葉を連想させる『コイツ』の一言はうつろに攻撃させるのに十分な理由を与えた。
「MERAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
夜の閑静な住宅街にはあまりにも不釣合いな、翼捥がれた者の咆哮。詠唱をしなおして無羽うつろという、『悪魔』を内部から蝕むのに十分な浄化の詠唱は精神を犯し、身体を傷つけ、術者が直接的に傷をつけずとも浄化をするのには十分すぎる威力で近づけば死を意味する、と捉えている刃を向けている相手には威圧としては丁度いい。記憶にはなくとも、魂から嫌悪しているのだけは覚えているタイプを甚振るには良い具合だ。額が開き、赤く温かい血が滴り落ち、地面に落ちたとき、うつろは自らの『傍に立つ者』と共に歩みだした。
「ふ、触れるな!来るんじゃない!……うわあっ!」
詠唱を途中で中断させれば、その呪詛を頭から唱えなおさなければ意味がない以上、なんども詠唱をしなおしていれば威力は落ち、うつろの中で耐性が出来上がっていた。浄化の呪詛への耐性、と言えばおかしいが、どうやら、それが無羽うつろの性質らしい。繰り出される『イン・マイ・ワールド』の拳が呪術師の身体に触れるたび、蒸発がはじまり、蒸発が身体中に広がっていくのを防ぐ為に反対呪として治療を行なおうとするが、『イン・マイ・ワールド』のまるで煙が身体を包み込むようなスピードによって覆われ、紅士が自らの足に引っかかって態勢を崩してしまえば、その獣のような視線が紅士を捉える。
「今更、あの子に謝ったところで許してやらねえ。不浄?混血?ハッ、それがどうした?『俺』をブチのめそうってのに、殺意が感じられねえんだよ!全然弱い、もっと『俺』にぶつけてみろよ!?足りねえな、散々、この『俺』を煽っておいていい度胸じゃあないか!」
ギリギリまで痛めつけ、そしてトドメをささず、足蹴にされる呪術師だったが、顔面の寸前には『イン・マイ・ワールド』の拳がある。拳をつま先で蹴り上げると、途端に『イン・マイ・ワールド』は王の指示に忠実に従う、忠臣のように人差し指でうつろが突きつけた方向にある、目前の敵を殴りつけた後、標的と共にしめやかに蒸散した。
「MERAAAAA……」
服の布地は擦り切れ、ところどころ裂傷ができていて顔を伝う血を拭い、蒸散した方向を見据えて1人呟く。
「うつろ、君?大丈夫?」
そっと障子を開け、朱璃は全てが終わった後に駄菓子屋の店主の少年に声をかける。朱乃の方も心配そうに兄も同然の彼が怪我をしているのを見ると、足が自然と駆け出しそうになっていたが、朱璃はそれをそっと止めた。頭が冷えてきた頃、姫島親子の方に視線を向けた。朱乃は恐れを感じていた。
母親と共に家の中で隠れているように言われたが、『こわいもの』を『にーさま』が倒した後、自分の知っている笑顔と様子で戻ってきてくれるのかと。現に人間離れした咆哮を上げ、自分が母親から習ったような『異能』を使って『こわいもの』を痛めつけているときの彼は自分の知る『うつろ』ではなく、『こわいもの』の言うとおり、悪魔であった。
「大丈夫」
「にーさまっ!」
振り返った彼は朱乃が知る、ままごとに付き合ってくれる優しい青年の姿だった。よかった。かわってなかった。私のしっている、にーさまだった。咆哮を上げ、敵を恫喝する彼は知らない彼に代わったようで朱乃は怖かったが、いつもと変わらない優しい『にーさま』だった。言葉足らずで何か付け加えてくれればいいものの、付け加える言葉もなく、一言で済ませたのが残念でしかないが、それもまた彼らしいだろうか。朱乃がうつろの腰周りを抱きしめれば、大きく優しい手が頭部に触れーーようとするが、傷だらけで出血している手をどうすればいいかわからないのか、それともその手で触れていいものかと悩んでいるのか、手は伸ばされなかった。
「大丈夫よ、うつろ君。貴方の手は汚れてなんかいない。その手は私と朱乃を護ってくれた勲章のよなものですわ。恐れずに撫でて上げて下さいな?」
「朱乃!朱璃!無事か!?」
「父様!」
うつろに縋るような娘、娘に触れようか触れまいかを悩んでいる傷だらけのまだ少年と言ってもいい年齢の幼さを残す青年に一言付け足すと、うつろは朱乃と視線を合わせた。朱乃自身、こんなにも間近でうつろの顔を見たことがなかったのか、こんなにも接近できて喜んでいるようだ。娘が娘にとって大切な人と仲を深めているのを見守っている朱璃、小さな腕でうつろの頭を包み込み、泣きついている朱乃。同時に空から飛来した、黒い翼をはためかせ、舞い降りる朱乃の父で朱璃の夫、バラキエル。
「来たのか?やつらが!」
「遅いわ、貴方。……うつろ君が追い払ってくれたから、私たちはなんともありませんけど」
「そうだよ、父様!にーさまが助けてくれたの」
焦りを隠せないバラキエルと対照的にまるで一日に起きたことを語るような、朱乃と遅れてやってきた夫に呆れるような朱璃の様子はいつも通りの彼らだった。バラキエルに申し訳なさを感じ、朱乃の腕の拘束から逃れようとするが、朱乃はその腕の拘束を緩めるつもりはないらしい。力ではうつろの方が強く、上ではあるものの、慕ってくれる彼女を振り払うほど冷酷にはなれなかった。
「そうか、うつろ。君が助けてくれたのか、ありがとう。本当ならば、私が駆けつけておかねばならないのにな。しかし、これから君はどうするつもりなんだ?駄菓子屋の店主だけでなく、やりたいこともあるんじゃないのか?その若さでも」
「それは……」
「これからのことは私に任せてくれ。なんせ、妻と娘を助けてもらったんだからな、それくらいさせてもらうよ」
「そうですわ、貴方。それくらいして当然」
またね、と小さくうつろに手を振って笑顔で両親の元へと駆けてゆく朱乃に手を振り、なにかを言われる前にうつろは気がつけば帰路についていた。彼らの性格ならば家に泊める、と申し出てくれるだろうが、折角、遅れたとはいえ両親が揃ったのだ。家族三人であんなことがあった以上、過ごすのを邪魔をするのは野暮と言うもの。足早にその場から去ろうとする背中に気がつき、朱乃は障子を閉め際に彼に向けて、
「ありがとう、にーさま!----よ!」
最後の言葉は小さく聞こえなかったが、喜びが含まれた声を聞けば、彼らを救ってよかったと思う。僅かに見せた、あの『片鱗』を恐れられ、拒絶されるんじゃないかとの恐怖があったが、背中にむけられる声がそれすらもかき消した。朱乃の声は暗い靄に覆われていた、うつろの心に黄金色の日差しを差し、爽やかな『黄金の風』が吹き込んだような気がした。
その後の顛末としては朱乃の処遇についてはグレモリー家なる、悪魔の名家が姫島家から身分を引き取り、事実上の絶縁関係となったが、同時に朱璃の身分をも護るとの条件でまとまった。互いに不干渉であること、二度と目の前に現れないことを条件に姫島側は条件を飲んだ。その場には姫島家の浄化を『精神力』による耐性で耐え切り、傷だけでしのいだ無羽うつろが同席したことで条件を吞むしかなかったのだ。彼らにとっては恐怖の象徴でもある、『未知なる力』を使う者を会議の場に置くことで円滑に進められる、とサーゼクス・ルシファーという紅髪の魔王が言った。
「それで、君はこれからどうするんだい?我が同胞よ」
「同胞?そういえば、あいつらも『俺』を悪魔と言っていたが……。まさか魔王さん、どうしようっえてんだ?『俺』を」
会議を終えた後、サーゼクスはメイドに対して、うつろと二人にさせて欲しいと申し出た。メイドの方は悪魔ではあるものの、見知らぬ男と一緒にするのは躊躇われることと忠告するが、サーゼクスの意気に圧されて認めざるを得なかったようだ。完全に人間社会で人間と同化して生活していたのか、悪魔を統べる者と自己紹介したところで物怖じしない無羽うつろにサーゼクスは興味を抱いた。
「なにも君を悪くしようって言うんじゃない。特に行くあてもなければ、駒王学園で教師をやらないか?この国の教員免許があるようだし、なに、たまに顔を出す非常勤でいいんだ」
「……女子校だろ?確かそこは」
「そうなんだが、君のその実力を買ってね。私には年の離れた妹がいるんだが、その妹が日本に興味を持ったらしくてね。来るべき時に妹を護って欲しいのと、君の身柄を護る為でもある」
駒王学園と言えば、この近くにある女子校のことだ。女子のレベルが高い、と時折駄菓子屋に訪れる男子高校生が話しているのを聞くし、現に駒王学園の生徒が駄菓子屋に訪れて、うつろの容姿を見て騒いで質問攻めにされたこともある。正直、教職には興味がなかったが、サーゼクスの語る年の離れた妹への熱意がうつろが朱乃に向けるものに通じるものがあるような気がして、うつろは警戒心を緩め、手を差し出した。
「……名前」
「うん?」
「妹の名前、なんて言うんだよ?」
「気になるかい?リアスと言ってね、私はリーアたんと呼ぶがーー同好の士と見たよ、無羽うつろ君」
サーゼクスはうつろの『似た目』を見た。この男は自分と同じ、シスコンであると。具体的にはあくまでも慕ってくれる少女を甘やかしているだけだが、自分が妹に向ける感情と似たものをうつろの中に見出した。グレモリー家の出身のサーゼクスは、眷属や家族を大切にするという特色を受け継いでいた。家族がいない、うつろにとっては姫島家は無意識のうちに家族も同然との認識が生まれていた。一部の金髪が赤くなっている青年の手を取り、堅い握手を交わすシスコン二人の間に同盟が結ばれた瞬間だった。
数年後ーー
「……以上を持って、今日はこれで終了だ。質問があれば来い」
「起立、気をつけ、礼」
『ありがとうございました!』
数年後、駒王学園で教鞭を振るう無羽うつろの姿があった。この時になると女子校から共学へと変わり、学園内で見られる男の数はうつろのような教師以外に男子生徒も見られるようになっていた。
教え方が良かったのか、それとも容姿に惹かれてなのか人気があったうつろはちょっとした有名人だった。あのとき、うつろの家によく来ていた少女は魔王の妹と共に『学園二大お姉さま』と呼ばれるようになり、その容姿も母親の朱璃によく似るようになっていたが、変化していると思った性格は相変わらずでたまにSっ気を見せるのを除けば、かつてと変わらない。魔王の妹である、リアス・グレモリーと仲睦まじく昼食をとる姿は同年代の友人が出来て安心した。
「……いやあ、無羽先生ってアレだよな」
「ああ、いつもつくづく思っていたことだが」
「「朱乃先輩と幼少期からの付き合いとか羨ましい、爆ぜろ!」」
「落ち着けよ、お前ら……」
強いて問題があるとすれば、野球部にでも所属していそうな坊主頭の松田、知的な眼鏡をかけた元浜、そして一人で溜息をつく兵藤一誠。当初より、うつろは入学当初から一誠の中に強力なものを感じていたが、その力の正体が自らの『イン・マイ・ワールド』と同じ力なのか、それとも別の強大な力なのか判別に迷っていた。公然の場所でピロートークに盛り上がり、一部男子には軽蔑され、女子の敵と見なされている彼ら三人。イケメンは死ね!を大声で叫ぶ三人だったが、なぜかうつろを慕うのは慕われている側としては学園七不思議にカウントしても良かった。
「今日で何度目だ、松田、元浜。バリエーションは増やした方がいいぞ、飽きられる」
「えっ、うつろん、論点そこ……?」
うつろの受け持つクラスの一人、ツインテールの村山恭子がうつろを顕す、『うつろん』というのは一種の愛称のようなものだった。語呂が良かったので呼ばれている本人としては気にしないが、時々、職員会議の議題に上がってくる『無羽うつろは女子生徒と距離が近すぎるのではないか?』という議題。主にそれはーー
「ああ。三馬鹿だとか、性欲の化身だとかそいつらは呼ばれているがな、毎回そればっかりじゃ聞く方も飽きれんだろ。……あっ、これは俺からの願いだ、誰にも言うなよ?」
「あらあら、
スッとうつろの傍に立っていたのは、成長し母親譲りの美貌を得ていた朱乃だった。あらあらうふふ系の美女へと成長し、村山が自然と朱乃が放つ一種の威圧感のようなものに圧され、場所を譲ったのは朱乃自身の威圧の他に村山を移動させる『本能』があったのだろうか。数人の女子生徒に囲まれながらも、威風堂々と態度を崩さない金髪の教師の姿は、愛すべき馬鹿な友人二人が騒いでいるのを見据えた一誠にとっては
「他学年の教室に来るのは感心しないな?
「……ごめんなさい、先生。じゃあーー」
「今は教室に帰れ。いいな?」
「待って、うつろん!」
こくり、と頷いて朱乃を教室へと帰らせると、うつろを囲んでいた生徒達もまたそれについて行った。何人かの生徒がうつろん、と呼んでうつろの後を追いかける姿は無羽うつろという一人の教師としてではなく、兵藤一誠の中では男として尊敬に値する人物であった。性欲の権化だとか、他校の生徒にまでその『悪名』は知れ渡っている一誠だが、うつろが担任となるのと同時に憧れは深まるばかりだった。遅れて自分達をよく追い回す、村山でさえもその『カリスマ』によって従えているように見える彼は何者だろう?
「なぁ、お前ら」
「なんだよ、イッセー。それと放課後は鑑賞会やるぞ!今夜はオールだ!」
「いや、今日はいいんだよ。先生探してこなきゃ」
時間は既に放課後、放課後前の帰りの会はうつろが行なわない主義なのか、最後の授業が終われば自動解散だ。荷物をまとめ、友人たちの誘いを断って担任教師が消えた後を一誠は追った。
「なんだよ、つれないやつだな……」
「俺と松田でやろうぜ、鑑賞会」
二人残された友人は顔を見合わせ、これからどちらの家で鑑賞会を行なうのかの話に盛り上がり、時間は過ぎていく。
まさかの悪魔先生うつろんに
◇今回の元ネタ◇
村山恭子→原作では苗字しかないモブキャラに過ぎないが、キャラデザが気に入ったので名前を付けてみました。今回の元ネタ、と入れていますが、恭子って名前に特に理由があるのかと言われれば……、ぬーべーの稲葉郷子から取ってきました。同じツインテールですもの、キャラデザと原点の共通点。