ホロライブ・オルタナティブ第二章 feat.“Saber” 〜猛る烈火は誰の為にその命を燃やすのか〜   作:らっくぅ

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第十二話 欠陥があるのはキミだよ

 

 いつまでも隠れているわけにはいかない。

 

 敵を攻略するなら、まずは分析からだ。

 そこで、トワは最初に感じた違和感を思い出す。

「あいつ、魔法を無詠唱で行使してた。ありえないよ。どんな魔法だって必ず術式や詠唱が必要になるはず」

 魔導具の可能性もよぎったが、にしては攻撃パターンが多彩だ。あれは本当の魔法と考えていいだろう。

「魔術の可能性も薄そうだね。魔法でできる事をわざわざ遠回りで再現する合理性なんてないし。……にしてもあいつの魔法、やけに強かったな……天使の僕より扱いが上手いってどういうことだよ……」

 

「やけに強い……確かに」

 

 かなたの何気ない一言が、トワの頭の中に引っかかる。

(〈紫電狼牙(ガヴ・ノアヴス)〉のあとに撃ったアレは、かなたと同じ〈 聖域熾光砲(テオ・トライアス)〉……なのに威力が桁違いだった)

 さっきかなたが言ったように、新現代において、戦場で魔法を連射できる魔法使いはそういない。

 数千年前の異世界大戦による技術衰退も一因ではあるが、そもそもそんな撃ち合いが発生する場面は平和な時代にはないのだ。

 だから、魔族や人間が上位種族である天使より魔法に長けているなど、よほどの達人でない限りあり得ない。

 

 だからこそ、トワはその考えを否定する。

(にしては無駄がありすぎる……うーん、何かカラクリがあるのは確定なんだけど……)

 

「天使よりも魔法が上手い……上手すぎる……」

 

 かなたの言葉を反芻する。

 ここにヒントがあるはずなのだ。

 トワの勘がそう言っている。

 

 天使は世界の秩序たる神々からの恩恵をダイレクトに受けている種族だ。

 よって、同じ世界の秩序たる魔法を高度に扱えるのは必然。

 そんな天使の放つ魔法より優れているとするならば、それはきっと非の打ち所がない、完璧な魔法なのだろう。

 

 

 

 

「──完璧な、魔法?」

 

 

 脳裏に何かがひらめく。

 

 人間界に留学する前、クソガキ魔女っ子先輩に唆されて深夜の図書館に忍び込んだ時。

 

 

 

 

『それ』を見たことがあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「っ〈完成(ジ・エンド)〉! あいつは多分〈完成(ジ・エンド)〉を使ってる!」

 

「ジエ……それって、近代に開発された魔術だっけ?」

 かなたはピンと来ていないようだ。

 天使なら何でも知っていると思っていたが、意外とそうでもないらしい。

 

「一度見聞きした魔法とか技を使用者より精密に、完成された状態でコピーできる魔術だよ。魔法陣や詠唱を使わないのは省略しているからじゃない。コピーだから元々必要がないんだ。強すぎるから禁忌魔術に指定されているはずなのに、どうやって……」

「それよりも今は対処法を考えよう。……なるほど〈完成(ジ・エンド)〉か、厄介な魔術を使ってくる……あいつの前じゃ一度見せた魔法は意味をなさないってわけだ。術式を見せず、かつ一撃で再起不能にするだけの“必殺技”…それしか勝ち目はない──」

 突然、かなたが大通りの方を向く。

 ブレストが近づいてきているのだ。

「僕が時間を稼ぐ! トワは“必殺技”を考えて!」

 そう言うと、すぐにかなたはビルの屋上へと飛んでいってしまった。

「無茶言うなっ…!」

 

 とはいえ、自分の言葉にその糸口がある気はしている。

 

 すなわち、禁忌。

 

 悪魔の割に困ってる人は助けるし、ゴミのポイ捨ても許さないトワだが、それでも清廉潔白かと言われると答えはノーだ。

 魔法の研究にのめりこむあまり、トワはついに禁忌魔法にまで手を出すようになっていた。

 研究といっても、実際に再現して使えるようにしたいわけではなく、あくまで学問として、魔法の歴史を探究するためだけだ。

 

 とはいえ、実は何個か術式の細部まで覚えてしまっているのもまた事実で。

 

(まず火力を出すには深層魔法であることが前提。難易度は高いけど、この空間のマナを使えば魔力は足りる。あとは術式を構築する時間さえあれば──)

 だがそこで、思考が止まる。

(……ダメだ。あいつだって深層魔法を使ってた。禁忌だからといって、〈完成(ジ・エンド)〉で底上げされた魔法に勝てるわけない………どうする…っ!?)

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 廃ビルの屋上ほどの高さまで飛び上がると、かなたは魔法陣を展開する。

 しっかりトワがこの場から離れたのを確認すると、

「〈紫電狼牙(ガヴ・ノアヴス)〉」

 空からブレストが最初に放ったのと同じ紫の雷を降らす。

 

 

 ただし桁違いの数を。

 

 ちょうどブレストは、かなた達がさっきまでいた路地に入ったところだった。

「わお、まるで狼の群れだね」

 無数の紫電が、そこへ降り注ぐ。

「〈紫電狼牙(ガヴ・ノアヴス)〉は確かに扱いづらいけれど、高い威力を持つ攻撃魔法だよ。牽制として使い捨てるには勿体ないとは思わない?」

 物質を跳ねながら対象を追尾する〈紫電狼牙(ガヴ・ノアヴス)〉の真価が発揮されるのは、やはり密閉空間だ。

 ビルとビルの壁を複雑に行き交いながら、狼のごとく雷が四方八方からブレストに襲い掛かる。

 

「そうかな? 私にはやはり、牽制程度の魔法にしか思えないけど」

 それらはすべて、ブレストに食らいつくことなく霧散していく。

 強力な魔法障壁が術式ごと〈紫電狼牙(ガヴ・ノアヴス)〉を消し去ったのだ。

 

「……」

 だがそれは、かなたの想定を超えるものではなかった。

 かなたは、あくまで神眼を凝らしてブレストを観察する。

 

 お返しとばかりに、真下から光の砲弾が飛び上がってくる。

 ただし、かなたがさっき撃ちだしたものとは比較にならないほど速く、強い光を放っていた。

「ッ!」

 それを寸でのところでかわし、大通りの方へ後退する。

 依然、宙に浮かんだままで。

 

「確かに上を取った方が有利とは言うけど、有効打はないんだろう? 戦術上の勝利が戦略上の敗北を覆すとは思えないね」

 

「後退したのは巻き込まれないためだよ。自分が今どこにいるか、理解してる?」

 

 ズズズ、と。

 壁が揺れる。

 

 

 〈森羅万掌(イ・グネアス)〉。

 

 巨大な青白い手が2棟のビルを掴み、ブレストごと押しつぶそうとしているのだ。

 

 肉体強化魔法をいくらかけようとも、これほどの質量、動かせるはずがない。

 

 しかし天使の中でも、(こと)膂力に長けるかなたならば。

 

 

 

 スパン! と。

 

 ビルは綺麗に地盤から引きはがされ、いっそ手と手を合わせるかのような速度でぶつかる。その勢いで、ビルのガラスというガラスが全て粉々に砕け散った。

 

 

 だがこれでは終わらない。

 

 2つの粘土の塊を1つに合わせるように、かなたは尚も青白い掌に力を加える。

 凄まじい轟音と共に2棟のビルはもはや原型を失い、1つの瓦礫の山を形成していく。

 

 挟まれた人間の生死など、言わずもがな。

 魔法障壁を張ろうとも、圧倒的質量の前では無力に等しい。

 よしんば瓦礫による外傷を免れたとしても、その先に待っているのは圧死だ。

 

 

 

 ではあるが。

 

 

 

「そうだね。これでは終わらないだろうね」

 

 瞬間、ブレストを生き埋めにしたはずの瓦礫が灰燼に帰す。

 

「ふうん、もしかしてタネが割れちゃったかな?」

 

「それもあるけどね。傾向を見てたんだよ」

 

 ふわりと、かなたは地上に降り立つ。

 もう様子見は終わりだ。これ以上は『隠し玉』がバレる可能性がある。

 

「傾向? 私の〈完成(ジ・エンド)〉にどんな欠陥があるのかな?」

 

「〈完成(ジ・エンド)〉なんて大仰な名前がついてるんだから、欠陥なんてあるわけないでしょ。……まぁ完璧すぎるっていうのも問題ではあるけどね。要は」

 

 かなたは思い切り地面を蹴った。

 たったそれだけで、弾丸を超える速度でブレストを至近距離に収める。

 

 

 ゴッッッッッッッッ!!!!!!!!!!! と。

 

「欠陥があるのはキミだよアリスタルフ・ブレスト。その魔術は最近覚えたみたいだね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 鈍器で金属を叩いたような鈍い音とともに、凄まじい衝撃が周りの瓦礫を吹き飛ばす。

 

 拳はブレストに届くことはなかった。

 

 しかし、彼を守る半透明の壁にはいくつもの亀裂が入っていた。

 

「攻撃魔法だけで何とかなると思ってるようなら、キミはここにいるべきじゃない。新しいおもちゃで遊びたいんなら魔物を相手にしたらどう?」

 

 かなたがさらに力を加えると、魔法障壁はミシミシと音を立て始めた。

 対するブレストに打つ手はない。

 

 

 かなたがこれ見よがしに空中にいたのは、隙を見せていたからだ。

 〈重加(デドン)〉や〈重引縫地縛錨(ディ・ベルダゴーゼ)〉などの補助魔法でかなたを地上へ引きずりおろすか、もしくはブレスト自身も宙へ飛び空中戦へ移るか。

 

 だがブレストは終始対空射撃に留まっていた。相手を拘束したり弱体化するような魔法をコピーしていないのだ。

 

 つまり、接近して攻撃魔法の射程外に潜り込んでしまえば、ブレストは攻め手を失う。

 でもって、魔法を使わず純粋な天使の加護を使えば〈完成(ジ・エンド)〉でコピーされることもない。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

「がっっッ…………は……っ!?」

 

「確かに補助魔法はコピーする時間がなくてね……けど、自衛手段がないなんて決め付けるのは早計だったんじゃないかなぁ?」

 あくまでも軽い口調で、ブレストは呟く。

 

(()()()()()…!? 聖属性の魔法じゃなく……!? いや、これはトワの…)

 

 四肢から力が抜け、膝をつく。

 見ると、腹部に拳ほどの風穴が空いていた。

 衣服には一応魔法の効力を弱める加護が施されているはずだが、集束された〈 獄炎殲滅十砲(ジオ・グレイツェン)〉──しかも〈完成(ジ・エンド)〉で底上げされた──を前にそれは無力だった。

 

 

「……ぐっ」

 

「無理しない方が良いよ? 根源には当たってないとはいえ、その傷じゃ満足に戦えないでしょ」

 ブレストはあくまで距離を保ったまま、身じろぐかなたに手をかざす。

「天使って言う割には意外とあっけなかったなぁ……まいいや。じゃ、終わらせようか」

 

 

「やっぱり……キミは、戦いに出るべきじゃ、なかったね……」

 

 息も絶え絶えで、それでもかなたは告げる。

 

 

 

 最後の最後に、後押しができて良かった。

 

 

 

 

 『隠し玉』の成功率を高めるための一押しを。

 

「いちいち照準をつけないと魔法を撃てないんじゃ……せっかく陣を隠していても、意味ないんじゃない……?」

「なにを──」

 

「最初から、()は2人だっていうのに」

 

「──!!!」

 

 

 ブレストは瞬時に振り返る。

 

 

 

 その視線の先には、緻密な円形魔法陣を構築した『隠し玉(トワ)』がいた。

 

「くらえ──〈極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア)〉」

 




2話で終わるかと思ってたら終わりませんでした。よって次話で決着を着けます。
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