ホロライブ・オルタナティブ第二章 feat.“Saber” 〜猛る烈火は誰の為にその命を燃やすのか〜   作:らっくぅ

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第十四話 また頼ることになるなんてね

 頭が真っ白になるほどの光の濁流と、地震と錯覚するほどの地響きに耐え、トワは何とか顔を上げる。

 

 いつの間にか色を取り戻した空にトワは目を細めるが、その視線の先に立っている者はいなかった。

 

 アリスタルフ・ブレストは完全に、その意識を手放していた。

 

「やっ、……た」

 

「さすがのあいつも〈交響詩篇(セブンスウェル)〉を防ぎきれなかったみたいだね……よくやったね、トワ」

 と、後ろから聞き慣れた声がした。

 

「かなた! けが治すよっ!」

「大丈夫……応急処置は済ませてある。キミももう魔力残ってないでしょ」

 依然かなたは腹部を抑え、衣服の焼け焦げた部分が見え隠れしているが、出血や不自然に背景が見える事もない。

 トワはほっと息をはく。どうやら最良の結果に落ち着いたらしい。

 

 

 

 

「見つけたっ! トワちん!!!」

 

 と、張り詰めた声が聞こえる。

 見ると、オレンジ色の少女がサイドテールを揺らしながらこちらへ走っていた。

 

「まつり……てことは結界も無事に解けたみたいだね」

「まつりちゃん! みんな無事だったんだ…!」

「それはこっちのセリフ! 急にいなくなってマジで焦ったんだから!」

 ボロボロなかなたとトワの一方で、まつり、フブキ、ココ、ロボ子は無傷のようだった。

 どうやら彼女達は標的にならなかったらしい。

「かなたんがいてくれて良かったよ〜。傷は治せそう?」

「治療分の魔力は残ってる……でも補給したいかな」

「トワも欲しい……もう立てないくらい魔力カラカラだよ……」

「こんなこともあろうか…っと、経口魔素液! はい、トワちんにかなたん!」

 かなたん……と口の中で呟きつつも、かなたは経口魔素液を受け取る。

「どうトワ様? 美味い?」

「認めなくないけどめちゃくちゃ美味しい……」

「──ふぅ。一応周囲の警戒は怠らないでね。まだ伏兵がいるかもしれない」

 破滅派を撃破し仲間と合流したことで、かなたと(主に)トワの緊張の糸が緩む。

 

 が、まだ終わったとは限らない。むしろ消耗している今こそ、敵にとっては好機なのだから。

「今のところ魔力の反応はないです。ロボ子さん、そちらはどうですか?」

「僕の方も目立ったものはないよ〜。スメラギ達は相変わらずだけどねぇ」

 

 その言葉で気付く。

 まつり、フブキ、ココ、ロボ子──

「そういえばスメラギは? セトとあの男の子もいないけど」

「そう、そうなんだよ! 結翔も一緒にいなくなっちゃって! かなたん一緒じゃなかったってこと!?」

 ぐい、とまつりは前のめりになってかなたに詰め寄る。

「かなたん言うな……残念だけど一緒じゃないよ。〈鏡写しの現実(ミラーディメンション)〉はもう一つ作られてたみたいだね」

 そんなまつりを押し除けつつ、

「どうにかする方法ないんすか?」

 

 かなた達が無事結界を破り元の世界に帰れたのは、術者を倒したからだ。

 しかしスメラギ達の場合、その方法は取れない。

 おそらく術者はブレストだったはずだ。にも関わらず、結界は依然残り続けている。

 

「多分ある程度結界を維持できるよう、細工を施しているんだろうね。魔力が切れるのを待ってもいいけど──

「そんなの待ってらんないって! かなたん教えてよ〜!!」

「だーもうっ! 結界を壊すか空間を入れ替えるか! どっちも手順を間違えると中の奴らが戻れなくなるから慎重に!!」

「……かなたんって天使というより保護者だね〜」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 かなたとトワの回復が済むと、一行は遺跡の入り口へと戻った。

 2人が消えたのはこの辺りからだと言う。

 なら同時にいなくなったスメラギ達も同様のはずだ。

 つまりこの周辺にもう1つの結界があるはず。彼女達はそう推測した。

 

「ロボ子さん、何かありますっ!」

 すぐにフブキから声が上がる。

「ん、ナノマシンだ〜。何でこんなとこに…?」

 ぐじゅぐじゅと空中でアメーバのように形を変えるそれを、ロボ子は距離を取りつつ注意深く観察する。

「お〜……これはセトと同タイプのアンドロイドのものだね〜」

「セトのものじゃないってこと?」

 

 と、かなたが後ろから覗き込む。

 それに魔力は感じられなかった。魔法的な仕掛けはないようだ。

 

「どうなんだろ〜、セトの義体は汎用タイプだからなぁ〜」

 ロボ子は近づいて、掬うようにナノマシンに触れる。

 相変わらずおっとりとした口調で答えるロボ子だが、その眼には走査線が走っている。既に中身の解析を始めているようだ。

 

 

「まつりパイセンまつりパイセン、これなんすか?」

「どれど…うわっ!? こわ、なにこれ! アンドロイドが転がってるんだけど!!」

「ちょ、まつりちゃんっ! まだ敵がいるかもしれないから静かに……!」

 

 ……もしかして自分達がいない間ずっとあんな感じだったのだろうか。

 会敵したのが自分達で本当に良かった、とかなたは白い目を向けつつも。

「その個体が浮いてるナノマシンの持ち主ってことなんじゃない? “元”みたいだけど」

 アンドロイドは完全に活動を停止している。もし敵だとしても襲いかかってくることはないだろう。

 

 そして。

 何の意味もなしにこれらがここに残されている理由もまたないはずだ。

「ん〜、内部データが暗号みたいになってて読みづらいけど、多分これセトが残したものだね〜」

「セトが?」

 分断される前、セトが何か細工をしていた記憶はない。

 

 つまりこれは、分断された後に残したものだ。

 

「〈鏡写しの現実(ミラーディメンション)〉は並行世界との類似性を利用して局所的・擬似的に空間を入れ替える魔法……もしかしたらそれを逆手に取ったのかも」

 〈鏡写しの現実(ミラーディメンション)〉の特性を利用し、並行世界の同型アンドロイドを操作して自分達に伝言を残した、というわけだ。

「お〜すげぇトワちん! 冴えてるね」

「なるほど、さすがは世界最高の人工知能。……で、なんて?」

 ロボ子は解析を終えると、少し怪訝な顔をする。

 翻訳したはいいもののその意味が理解できない、とでも言うように。

 

「え〜と……『『スターク』と交戦中。“鍵”を求む』。一応原文ママだよ〜」

『スターク』。

 その言葉がかなた達の間に緊張を走らせる。

「『スターク』って……あの『スターク』、ですよね……」

「多分そうっすね」

「結翔、そんなヤバい奴と戦ってるってこと!?」

「いくらスメラギさん達がいるにしても、結構ヤバい状況じゃ……」

 流石のまつり達でも、『スターク(世界の災厄)』のことは知っているようだ。

 

 一方で、

「ロボ子、これスメラギからの伝言ってことで良いんだよね?」

 かなたとロボ子は目を見合わせる。

「うん。“鍵”を知ってるのはスメラギだけのはずだよ。つまり……嫌な予感がするね〜かなたん」

 かなたの知る限り、『スターク』はこの“世界”に1人しかいない。

 

 ならば交戦している『スターク』はこれまで潜伏していたか、別の“世界”からやって来た異邦者か。

 

 どちらにせよ、もう1人が(破滅派)だというのは間違いないだろう。

 

 そして。

 

「……はぁ、それは僕もだよロボ子……」

 その必要性を理解してしまっているからこそ。

 かなたはそう漏らす。

 

「たとえ〈鏡写しの現実(ミラーディメンション)〉を破ったとしても、『今の』戦力じゃ未知の『スターク』に太刀打ちできないよ、かなたん」

 

 更に言えば、ロボ子と同じ見解に至っていることも。

 

「分かってる……分かってるって……」

 皆で言うな、とばかりにかなたは深いため息をつく。

「やれやれ、また頼ることになるなんてね……」

 相も変わらず愚痴をこぼすが、魔法陣の構築に一切の迷いはない。

 

 1つの魔法陣が完成するとそれは光り輝き、手のひらくらいの鍵の形へと変化する。

 

 

 拡散・段階式邪神拘束制御術式“veroc”。

 

 

 それはあの戦いのあと、彼が仲間に頼んでつけてもらった鎖。

 彼がこの世界で生きていく為の封印。

 

 

 その解除術式だ。

 

 

 これを彼に渡すということが何を意味するのか、当然理解している。

 

 しかし、他でもない彼が“鍵”を求めた理由もまた、かなたには理解できる。

 きっと自分が同じ立場でも、そうしただろうから。

 

 故に。

 

「彼の者に希望を──“Non-stop Story(物語は続いていく)”」

 

 かなたが紡いだ言の葉と共に、鍵は一直線、ある方向へと飛んでいく。

 

 

 

 世界を守護する破滅者(スメラギ・カランコエ)の元へ。

 

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