ホロライブ・オルタナティブ第二章 feat.“Saber” 〜猛る烈火は誰の為にその命を燃やすのか〜   作:らっくぅ

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第十八話 まだ大丈夫

 スメラギがオーガストと交代すると、辺りに立ち込めていた恐怖は完全に消えた。

 それを見て“敵”を失ったと判断したのか、結翔もベルトのバックルから本を取り出し、鎧を解く。

「……」

 ただし依然、剣は握ったままで。

 

 少し経って、ロボ子達が駆けつけてきた。

「かなたん、大丈夫だった?」

「今のところはね」

 ちらりとスメラギの方を向く。

 ロボ子もそれで察したようだ。

 

「結翔怪我は──なんか大丈夫そうだね……。あんた逞しいな……」

 慌てて結翔の元へ駆け付けるまつり達に対して、結翔は相変わらずだった。

 緊迫した4人の空気がほどける。

「白石くん、無事で良かったです……。『スターク』と戦ってると聞いた時は本当に驚きました……」

「でもこうして五体満足でいるんですから、すごいっすよね結翔パイセン。よっゴキブリ並みの生命力!」

「というか結翔先輩、結界壊したの? 危ない真似するなぁ……一歩間違えたら戻って来れなくなる所だったんだよ? ……結翔先輩?」

 

 そんな和やかな喧騒を、しかし結翔は意に介さずロボ子とかなたを見据える。

「アンタら、グルだったんだな」

「グル? ……あぁ、そういうこと」

 その真意を察すると、かなたは否定することなく、それだけ返す。

「かなたん?」

「とりあえずこの子の話を聞こう。……まだ大丈夫」

「え? えぇと、結翔?」

 

「スメラギは『スターク』だった。ヤツらはスメラギに邪神の力を使わせ、世界を滅ぼす為に、スメラギを襲っていたんだ」

 

 その言葉に、ほどけた空気が再び緊迫する。

 

「『スターク』!? あれ、でもさっき『スターク』と戦ってるって……んん?」

「え、えっと……どういう事なんですか? 白石君……」

「結翔パイセン、マジに言ってます? ジョークだったとしたら、けっこー笑えないんすけど」

『スターク』という言葉は冗談で放てるほど、軽々しく口にできるものではない。

 世界規模の凶悪犯だと言っているようなものだ。場合によっては殺すことすら、合法化される。

 それを分かっているからこそ、ココは茶化すように、だが真剣な目でそう返す。

「お前の言いたいことは分かってる。だからこれは冗談なんかじゃない。ジ(・)ェ(・)イ(・)デ(・)ン(・)・(・)ア(・)ー(・)マ(・)ス(・)ト(・)リ(・)エ(・)が(・)“(・)鍵(・)”(・)だ(・)と(・)言(・)っ(・)た(・)の(・)は(・)こ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)だ(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)」

 対して結翔は相変わらず色のない表情で、そして迷いなく断言する。

 つまりあ(・)の(・)『(・)破(・)滅(・)派(・)』(・)は、スメラギは『スターク』だと、彼の『力』を利用して“世界”を滅ぼせと、そう遺したのだ。

「それに、妙だと思わないか。世界を滅ぼしたがってる破滅派がなんで個人を標的にする? 普通に考えたら、そいつが世界を壊せるだけの“何か”を持ってるからなんじゃねぇのか?」

 

「……」

 スメラギは、何も言わなかった。

 というよりは、言えなかった、の方が近い。

 何かを話すには、口の中が渇きすぎていた。

 自分は今、ちゃんと地に足がついているのだろうか? 

 

「そんな……でも、だったら、破滅派を倒しても解決にならないんじゃ……? し、白上達、このまま破滅派を追ってて良いんでしょうか……?」

 

「『スターク』って……」

 そこでトワは思い出す。

 かなたがどこかへと飛ばした光の鍵。

 あれは“何か”の封印を解除する術式だった。

「邪神の力、封印してたんじゃ……? な、なんでかなたは解いちゃったのさっ!?」

「落ち着いて。身内で揉めるのは今じゃない。まだ敵が潜伏している可能性はゼロじゃないんだよ?」

「落ち着いてられないよっ! かなたは何でそんなに冷静なの? 邪神の力は世界を簡単に壊せちゃうんだよ!?」

「だから落ち着いてって。『スターク』は世界を滅ぼし得る危険な存在かもしれないけど、同時に1人の人間でもあるんだよトワ。彼をよく見て」

 少し興奮気味に詰め寄るトワの肩を抑え、かなたは諭す。

「あ……ごめん、なさい……スメラギさん……」

 だがその目は伏せがちにこちらを見るだけだ。

 

「……っ」

 スメラギは、体の芯が冷えていくような感じがした。

 

「1つ補足。あの時セトが言っていたのはスメラギのことじゃなくて、この世界にいるも(・)う(・)1(・)人(・)の(・)『スターク』で合ってるよね?」

『肯定だ。彼が放った『力』の記録は私のメモリーに残っている』

「この世界に『スターク』が2人……だ、大丈夫なの……?」

 正確には人を『スターク』たらしめている源──邪神の力は魔法にも科学にも属さない、その名の通り神に由来する力ではある。

 とはいえ、ヒステラルム(全世界)共通の脅威である以上、魔法学でもその危険性を教えるのは当然だった。

 そうした『机上の空論』しか知らないトワだからこそ、『スターク』の存在に、十二分に警戒してしまっている。

 

 その前提を加味した上で。

 

「スメラギ。一応君が発端なんだから、弁明してくれるよね?」

 かなたはスメラギに注目を集める。

 混乱を引き起こしたのが誰であろうと、その渦中にいるのは間違いなくスメラギだ。

 ならば、この混乱を収めるのは、少なくとも、そのきっかけとなるのは、スメラギでなければならない。

 こういう時、かなたは必要以上に甘やかさない。

 その厳しさが、しかし彼女なりの優しさでもあった。

 

「……分かってる」

(おい──)

(逃げようとは思わないよ。あやめ達と仲直り(喧嘩)した時と同じだ。たとえ苦しくても、進まなければならない道がある)

 そう、分かっていても。

 

 視線がスメラギに集まる。

 顔を背けたくなるのを抑え、スメラギはゆっくりと口を開く。

「──結翔の言う通り、僕は『スターク』だ。普段は『力』を隠しているけれど、もう1人の人格のオーガストが表に出た時にだけ、邪神の力を使うことができる」

 淡々と、告げる。

「そして破滅派は僕と彼らの『スターク』──2人の『力』を衝突させることで、世界を滅ぼそうとしているんだと思う」

 手を握り締め、あくまで平静であるかのように。

 為すべきことを再確認するように、誰の顔も見ないように、スメラギはただ一点を見つめる。

「大丈夫……対策が無いわけじゃない。この世界を滅ぼさせはしないよ。あの時のゼノクロスがやっぱり正しかったなんてことには、絶対に……絶対にさせない」

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