ホロライブ・オルタナティブ第二章 feat.“Saber” 〜猛る烈火は誰の為にその命を燃やすのか〜 作:らっくぅ
スメラギがオーガストと交代すると、辺りに立ち込めていた恐怖は完全に消えた。
それを見て“敵”を失ったと判断したのか、結翔もベルトのバックルから本を取り出し、鎧を解く。
「……」
ただし依然、剣は握ったままで。
少し経って、ロボ子達が駆けつけてきた。
「かなたん、大丈夫だった?」
「今のところはね」
ちらりとスメラギの方を向く。
ロボ子もそれで察したようだ。
「結翔怪我は──なんか大丈夫そうだね……。あんた逞しいな……」
慌てて結翔の元へ駆け付けるまつり達に対して、結翔は相変わらずだった。
緊迫した4人の空気がほどける。
「白石くん、無事で良かったです……。『スターク』と戦ってると聞いた時は本当に驚きました……」
「でもこうして五体満足でいるんですから、すごいっすよね結翔パイセン。よっゴキブリ並みの生命力!」
「というか結翔先輩、結界壊したの? 危ない真似するなぁ……一歩間違えたら戻って来れなくなる所だったんだよ? ……結翔先輩?」
そんな和やかな喧騒を、しかし結翔は意に介さずロボ子とかなたを見据える。
「アンタら、グルだったんだな」
「グル? ……あぁ、そういうこと」
その真意を察すると、かなたは否定することなく、それだけ返す。
「かなたん?」
「とりあえずこの子の話を聞こう。……まだ大丈夫」
「え? えぇと、結翔?」
「スメラギは『スターク』だった。ヤツらはスメラギに邪神の力を使わせ、世界を滅ぼす為に、スメラギを襲っていたんだ」
その言葉に、ほどけた空気が再び緊迫する。
「『スターク』!? あれ、でもさっき『スターク』と戦ってるって……んん?」
「え、えっと……どういう事なんですか? 白石君……」
「結翔パイセン、マジに言ってます? ジョークだったとしたら、けっこー笑えないんすけど」
『スターク』という言葉は冗談で放てるほど、軽々しく口にできるものではない。
世界規模の凶悪犯だと言っているようなものだ。場合によっては殺すことすら、合法化される。
それを分かっているからこそ、ココは茶化すように、だが真剣な目でそう返す。
「お前の言いたいことは分かってる。だからこれは冗談なんかじゃない。
対して結翔は相変わらず色のない表情で、そして迷いなく断言する。
つまり
「それに、妙だと思わないか。世界を滅ぼしたがってる破滅派がなんで個人を標的にする? 普通に考えたら、そいつが世界を壊せるだけの“何か”を持ってるからなんじゃねぇのか?」
「……」
スメラギは、何も言わなかった。
というよりは、言えなかった、の方が近い。
何かを話すには、口の中が渇きすぎていた。
自分は今、ちゃんと地に足がついているのだろうか?
「そんな……でも、だったら、破滅派を倒しても解決にならないんじゃ……? し、白上達、このまま破滅派を追ってて良いんでしょうか……?」
「『スターク』って……」
そこでトワは思い出す。
かなたがどこかへと飛ばした光の鍵。
あれは“何か”の封印を解除する術式だった。
「邪神の力、封印してたんじゃ……? な、なんでかなたは解いちゃったのさっ!?」
「落ち着いて。身内で揉めるのは今じゃない。まだ敵が潜伏している可能性はゼロじゃないんだよ?」
「落ち着いてられないよっ! かなたは何でそんなに冷静なの? 邪神の力は世界を簡単に壊せちゃうんだよ!?」
「だから落ち着いてって。『スターク』は世界を滅ぼし得る危険な存在かもしれないけど、同時に1人の人間でもあるんだよトワ。彼をよく見て」
少し興奮気味に詰め寄るトワの肩を抑え、かなたは諭す。
「あ……ごめん、なさい……スメラギさん……」
だがその目は伏せがちにこちらを見るだけだ。
「……っ」
スメラギは、体の芯が冷えていくような感じがした。
「1つ補足。あの時セトが言っていたのはスメラギのことじゃなくて、この世界にいる
『肯定だ。彼が放った『力』の記録は私のメモリーに残っている』
「この世界に『スターク』が2人……だ、大丈夫なの……?」
正確には人を『スターク』たらしめている源──邪神の力は魔法にも科学にも属さない、その名の通り神に由来する力ではある。
とはいえ、
そうした『机上の空論』しか知らないトワだからこそ、『スターク』の存在に、十二分に警戒してしまっている。
その前提を加味した上で。
「スメラギ。一応君が発端なんだから、弁明してくれるよね?」
かなたはスメラギに注目を集める。
混乱を引き起こしたのが誰であろうと、その渦中にいるのは間違いなくスメラギだ。
ならば、この混乱を収めるのは、少なくとも、そのきっかけとなるのは、スメラギでなければならない。
こういう時、かなたは必要以上に甘やかさない。
その厳しさが、しかし彼女なりの優しさでもあった。
「……分かってる」
(おい──)
(逃げようとは思わないよ。あやめ達と
そう、分かっていても。
視線がスメラギに集まる。
顔を背けたくなるのを抑え、スメラギはゆっくりと口を開く。
「──結翔の言う通り、僕は『スターク』だ。普段は『力』を隠しているけれど、もう1人の人格のオーガストが表に出た時にだけ、邪神の力を使うことができる」
淡々と、告げる。
「そして破滅派は僕と彼らの『スターク』──2人の『力』を衝突させることで、世界を滅ぼそうとしているんだと思う」
手を握り締め、あくまで平静であるかのように。
為すべきことを再確認するように、誰の顔も見ないように、スメラギはただ一点を見つめる。
「大丈夫……対策が無いわけじゃない。この世界を滅ぼさせはしないよ。あの時のゼノクロスがやっぱり正しかったなんてことには、絶対に……絶対にさせない」