ホロライブ・オルタナティブ第二章 feat.“Saber” 〜猛る烈火は誰の為にその命を燃やすのか〜 作:らっくぅ
──ゼボイム郊外、姫森領。
「お待たせルーナ。君の注文通り1時間しっかりに着いたよ」
「うんうん、リクエスト通りの成果を出してくれる人間は好きなのらよ──って何か多いのらね。ルーナは正直スメラギだけでもこなせる内容だと思ってるのらけど…」
スメラギ達を出迎えたのは、ピンクを基調としたドレスに身を包んだ可憐な少女だった。姫森ルーナはこっちだ、と指を差し遺跡へ案内する。
「こんな天才が権力握ったような奴、前の戦いでいたっけ…」
「かなたんは会った事ないんだったね。姫森ルーナちゃんだよ。こんなんだけど一応一国のお姫様なんだって」
「まいいや、早速依頼を請けてもらおうかな」
ルーナはロボ子の無邪気な毒気をものともせず、話を続ける。流石は権力者だ。スメラギはその逞しさを見習おうと思った。
「依頼って、そんなに大変な内容なの?」
傭兵を前に「依頼」の2文字を出すということは、金銭のやり取りが発生することを意味する。すなわち、その内容に対して報酬を用意しなければならない程には困難な頼み事ということだ。
「だってルーナイト達が怪我してるもん。間違いなく並の傭兵じゃ手に負えないのが潜んでるのら」
あれ、とロボ子が口を挟む。
「そういえばルーナちゃん、ノエル達と『業務提携』してなかったっけ」
ルーナはただ姫として踏ん反り返っているだけではない。自治領内やその周辺地域の様々な困りごとを依頼として傭兵に斡旋するほか、指揮下の騎士を派遣してもいる。しかし現状、日々増える依頼を捌き切れておらず、その分を白銀騎士団に委託しているのだ。
「ノエルちゃ達には別の依頼に行ってもらってるのら。あと暇そうな傭兵ってスメラギくらいでしょ?」
「……まぁ否定はできないけれど。ぼたんは屋内戦は不向きだろうしね…」
そうこうしているうちに、件の遺跡に到着した。遠くに中世ヨーロッパを思わせる城が見える所から、ここはどうやら姫森領の外縁にあるようだ。謎の敵(?)が潜んでいるということで、遺跡にはルーナ直属の騎士ことルーナイトが入り口を警備していた。
「ほら着いたよ。雑談ばっかしてないで、早く傭兵としての職務を全うするのら!」
「せめて説明くらいは欲しいなぁ…」
「依頼内容はゼノクロス関連遺跡内の調査及び敵性存在の排除! これまでの話で分かるでしょ。調査に入ろうとしたルーナイト達が1人残らず負傷した。その原因を突き止め、ルーナイトに傷を負わせた愚か者を討伐すること!」
「敵の数は?」
「さあ。でも調査に入ったルーナイトは一個小隊はいたのらよ?」
それだけの数をたった1人か数人で1人残らず負傷させるのは考えにくい。が、ここが異世界大戦期の遺跡ということを考えると、その可能性も捨てきれなかった。
なるほど確かに『調査』する必要がある。そう考えたスメラギは、ルーナに依頼を受領する事を伝えると、ルーナイトを下がらせる。
以前の情報では、ここはゼノクロスの数ある格納庫のうちの1つだそうだが、それに反して、せいぜいトラックの車庫にしか見えない。ロボ子によれば、ゼノクロスの存在が察知されない為に、殆どの施設は地下に建設されており、地表に見えるのは大抵入り口だけか、それも巧妙にカモフラージュされているのだそうだ。
『待つんだスメラギ・カランコエ。』
入り口の前に立ち、彼固有ではない能力を使おうとした時、セトがそれを止めた。
『
「ありがたいけど…君のボディ、戦闘用ではないんだろう? 襲撃されないように気をつけてくれよ…」
「まったく…機械だけに頼るなんて天使の名折れだよ…僕も索敵するから」
ガレージのようなシャッターを開けると、すぐ昇降装置があった。
「これ、使えるのか?」
「それこそ電気を通せば使えるんじゃないかな? ……よっと、ほらスメラギ、供給お願いー」
ロボ子は操作台の外装の一部を引っ剥がし、ケーブルを露出させる。ここに電気を流せば装置が復活するようだ。
「分かった。『超電磁砲』」
スメラギは能力を行使し、装置を稼働させられるだけの電力を瞬時に生み出す。
『超電磁砲』。それはスメラギに生まれついて授けられた能力ではない。数年前、スメラギは異世界でとある賞金首の捕縛依頼を受けた。当時、経験値の少なかったスメラギは慣れない環境ということもあって、苦戦を強いられた。絶対絶命の瞬間、スメラギの死を予期したオーガストが表に表れ、賞金首からあるものを『奪った』。それが『超電磁砲』だ。そのおかげで、スメラギは賞金首の捕縛に成功したが、同時にその時の波動が遠く故郷にまで伝わり、ゼノクロスを起動させてしまった。
しかしそんな“忌み物”も、今では自分の一部だ。傭兵業を営むのに色々と重宝する能力だと判明した為だ。まさに今のように。
膨大な電力を流すと、装置は鈍い音を立て稼働を知らせた。
4人がエレベーターに乗り、ロボ子が装置を操作すると、昇降台が起動する。
「今の所は何もないみたい」
一定間隔で設置された照明によって光と闇が交互に現れる。しかし4人が下るトンネルの先は心許ない灯りだけでは見通す事ができない。
「僕の神眼でもまだ何も察知できないな。そんな妙なものが地下にあるの…?」
ガタンッ! と、昇降装置が一仕事終えた事を告げる。
「くっら!」
「さすがに電源死んでるだろうからね…」
『セキュリティに反応がないのもそれが理由だろう。施設の防衛装置が元凶ではなさそうだ』
スメラギはナノマシンのマスクを装着し、赤外線カメラを起動させる。ロボ子とセトも同様に暗視モードへ切り替えた。
「まぁ僕は神眼があるから問題ないけどね」
明かりをつけないのは言わずもがな、潜伏しているであろう討伐対象に位置を特定されない為だ。暗闇の中を、4人はそれぞれ適切な『目』でもって探索する。
「近くに足跡があるよ。騎士達もここまでは調査していたのかな」
『格納庫は広いが、隠れられる場所は少ない。敵がいるのなら、すぐに感知できるはずだ』
セトはそう言うが、今のところスメラギのセンサーには何も引っかからない。何らかの形で探知されないよう細工しているのかも知れない。
「あっ、ねぇあの奥に魔法が施されて、るッ……!!!?」
何かを見つけたかなたの言葉が、不意に途切れる。刹那、ゴッッッ!!!!!! と、何かを殴る鈍い音が響いた。
「かなたん!?」
『警戒しろ。敵だ』
「かなた! ……くッ!?」
慌ててスメラギが駆けつけようとするが、背後に迫り来る気配に、ほぼ反射的に防御態勢を取る。直後、鈍い衝撃が、ナノアーマーを形成した腕にぶつかり、スメラギは押し退けられる。
「影っ…!?」
スメラギとかなたはそれぞれ、襲撃者の姿を捉える。それは自分自身と同じ輪郭ながらも、身体全体が黒に染まっていた。
「僕たちも援護に行った方がいいかな!?」
「僕達のことは大丈夫ッ…!」
「根源のない君達はさっさと魔導具を破壊して!!」
『根源…〈
〈
かなたの一言から影の正体を看破したセトは、ロボ子と共にかなたが発見した魔導具の元へ駆ける。
「うわぁ魔法障壁が張ってある! 僕じゃ破れないよ〜…セト、どうしたらいいかな?」
セトは半透明な薄いドームにそっと触れる。ガラスのようにコツン、と硬い音が鳴る。
『物理空間に作用している。つまり、地中には障壁はないということだ。とはいえ、穴を掘ればそこから障壁が展開されるだろう』
「じゃあナノマシンならどう? 地面の隙間を抜けて障壁の中に潜り込むのは」
『妥当な結論だ』
そう言いつつ、セトは既に自身の指先からナノマシンを流し込んでいた。
『しかし私の保有量では障壁を展開する魔法陣に傷をつけることしかできない。そこから先は破壊力が必要だ』
「そういう事なら、僕が来た甲斐があったね〜!」
ドームの内側に滲み出た銀のアメーバが、地面に描かれた魔法陣に小さな傷をつける。たったそれだけで、合理的に描かれた術式に異常が発生し魔法障壁の効力が大幅に弱まる。
薄い結界がさらに薄くなり、透明度が増したのを観測したロボ子は指先から金属製のワイヤーを展開し、ドームを切り裂く。そしてその中にある鏡のような魔導具を叩き割る。
「っ!」
「影が消えた…」
〈
スメラギとかなたがセト達の元へやって来る。彼らに大した傷はない。影に打ち勝つのも時間の問題だったのだろうとセトは推測した。
「〈
「でも確かに納得かもね〜。相手は自分より格上で、しかも同数ならまず勝ち目はないもんね。ってことでかなたん、明かりお願い〜、もう襲撃者はいないだろうし」
「はいはい。まぁとりあえず、あの才女に何も分かりませんでしたって報告する未来は避けられたね。どうする? もう少し調べて…って何か書いてある」
かなたが〈
「
その古代ギリシャ語で表された言葉は、最近書かれたもののようだ。新現代において、こんな古代の言語を使う事など普通ない。何か意味があるというのは明白だった。
『『世界から悲劇を無くすには、我々はあまりに幼く、人生は短い。故に我々にできる贖罪はただ一つ。一切を滅ぼすことだ』』
と、自身のデータベースからセトは1つの回答を出した。
「それは…聞いたことがある…! ターミナル04に“ウィータ・ブレウィス”という名の破滅派がいるのは……」
そして、そのウィータ・ブレウィスはセトが口にした言葉をスローガンに、ターミナル04各地で破滅活動を行っていたという。
「しかし彼らは数ヶ月前に、アルヴィアスによって実質的に壊滅したはずだ。彼らがわざわざこの世界にやって来たとは思えない…」
「そのウィータ・ブレウィス? ていうのに感化されて出来た分派とか? どっちにしても、こんな小手先のイタズラを仕掛けたのも、その周辺にこれ見よがしにメッセージを残したのも、破滅派の仕業って事なんでしょ?」
と、かなたは結論づける。確かにそれが妥当な判断だ。ルーナイト達を負傷させたのは、破滅派の仕業だと考えていいだろう。
「どういうわけか知らないけど、この遺跡に破滅派の痕跡があるのはただの偶然とは思えない。ルーナのところに戻ろう」