MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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10話 重力井戸

 

「ええい! 無様にも程があるぞ! 対空弾幕をもっと密にしろ!」

 

 第8艦隊旗艦『メネラオス』のブリッジで、艦隊司令のデュエイン・ハルバートン提督は隣で自身の副官でありメネラオス艦長でもあるホフマン大佐が、声を張り上げて艦隊防空の指示を出しているのを聞き流しながら、苦虫を噛み潰したような表情で共通作戦状況図(COP)を見つめていた。

 艦艇及び艦載機の損耗率は20%以上をとうに上回り、間もなく30%に到達する公算が大という絶望的な報告をホフマンが受けて絶句し、隣のハルバートンもそれに唸る。

 

 艦艇を指揮したことのないような後方勤務の将校と促成課程を卒業したばかりの新兵では失った将校と熟練兵の穴埋めにもならず、そのような人員を詰め込んだ艦艇から戦線を脱落し、真空の地獄に吸い出されていった。

 

 当初の作戦目的であるアークエンジェルの降下地点までの護送は果たせそうになく、移し替えた避難民のシャトルの発進すらままならない状況で。

 しかし艦隊旗艦たるメネラオスは孤軍奮闘するかの如く狂ったような密度の弾幕を吐き出し、それを掻い潜るように艦載機のメビウスが懸命にザフトのモビルスーツ部隊を押し留めていた。

 

「『ベルグラーノ』、撃沈! 脱出艇は確認できずっ!」

「艦載機の損耗率、4割を突破しましたっ!」

「閣下! これ以上は本艦も保ちませんぞっ!」

 

 怒鳴るホフマンに、まだだとハルバートンも応じる。

 状況は悪化していく一方で、アークエンジェルの予定降下地点までもまだまだ距離があった。

 艦の周囲では奪取されたGの4機とジンが跳梁跋扈し、直掩のメビウスを叩き潰し艦の対空火器を蹂躙していく。

 

 変形したイージスの580ミリ複列位相エネルギー砲『スキュラ』がメネラオスの艦隊を掠め、メビウスを纏めて2機貫き宇宙の瓦礫へと変化させる。

 直後に、バスターの連結させた超高インパルス長射程狙撃ライフルが命中、艦を大きく揺らし艦橋にまでその振動が届いた頃。

 何かに気が付いたオペレーターが戦闘の喧騒に負けじと声を張り上げた。

 

「アークエンジェルより、ストライクとメビウス・ゼロが発進! それと、後方から3機! IFF確認、特殊戦技教導隊……ガンダム・チームです!」

「何だと!?」

 

 モニターに、光学レンズが捉えた映像が2つ映し出される。

 一つは、地球光を反射して白く輝く白亜の巨艦と赤い翼を持った機体。もう一つは、ザフトのモビルスーツ部隊を蹴散らしながらこちらへ接近してくる3機のモビルスーツ。

 どれも、ハルバートンには馴染みのある機体であったが、後方から近付いてくる3機にはまさか、という思いがあった。

 

 ガンダム・チーム? アズラエルの子飼いがなぜここに───!?

 

 政治的交渉、その他諸々の事情もありデータを供出せざるを得なかった3機───ある意味ではザフトと同じように奪われたとも同義である3機が、こちらの救援に来てくれていることがハルバートンにとっては信じ難い事であった。

 しかし、事実その3機は周囲のジンを排除しつつ鹵獲されたGを牽制している。ザフト側も、G系列機を連合が更に保有していたという事実は把握していなかったようで機体の動きに動揺が見えた。

 モニターを食い入るように見つめるハルバートンとホフマンの2人であったが、そこから意識を放つに十分な光量のビームを前方から撃ちかけられ、目を離してその光の方向に目を向ける。

 そして、驚愕した。

 

「ろ、ローラシア級接近!!」

 

 いつの間にか突出してきていたザフトのローラシア級MS搭載艦『ガモフ』が、メネラオスへと迫ってきていた。

 

「なっ……対空監視、何をしていたっ!」

 

 ホフマンが唾を散らしながら、ガモフへ火力を集中するよう指示を飛ばす。

 

「『ペルディッカス』が盾になってくれてます……ああっ!」

 

 周囲の駆逐艦が、ガモフを止めようと盾のようにメネラオスの前に出る。しかし、猛烈な一斉射撃で沈黙、撃沈された。

 アークエンジェルから出撃したメビウス・ゼロがガンバレルを展開、機体下部のリニアガンと共にガモフへ一斉射撃を撃ち込むもその勢いは全く衰えない。

 刺し違えるつもりか、とホフマンが顔を青褪めさせ、ハルバートンに覚悟をさせた時、それは眼前に現れた。

 

「サクヤかっ!?」

「フラガ大尉っ! あとは俺がっ!」

 

 メビウス・ゼロを背中に背負ったストライク───ガンバレルストライクが、背負った下僕をガモフへ殺到させると同時に、自身もビームライフルを撃ち散らしながら突撃。

 艦橋と推進部を撃ち抜き、砲塔を全て沈黙させたがそれでもガモフは止まらず、執念深くメネラオスへの針路をあくまでも維持し続けた。

 

「止まらんか……避難民のシャトルを発進させろ」

「閣下!?」

「今脱出させねば、我々とともに……」

「駄目だっ! メネラオスは、離脱しろっ!」

 

 ストライクからの通信。

 それと同時に、ガンバレルを背に戻した白い機体がガモフの横腹へ回り込み、そのまま機体各部のスラスターを全開にして艦を押し出していく。

 

「何を……!」

「たかが戦艦、ガンダムで押し出すっ!」

 

 ガンバレルストライクの背からスラスターの青い炎が煌めき、未だ執念深くメネラオスへと突進するガモフの針路を徐々に直撃コースから逸らしていく。

 ガンダム・チームのデュエルが同じくガモフに張り付き、バスターが警戒にあたり援護の火箭を吐き出して、周辺のザフトのモビルスーツを追い払っていた。

 

「ローラシア級が、逸れていきますっ!」

 

 オペレーターからの報告に、助かったのかという思いがハルバートンの胸に去来する。

 ガモフはメネラオスと衝突するコースを逸れ、地球の重力に引き摺り込まれようとしていた。艦艇の下部から炎が上がり始め、徐々に船体から誘爆の炎の柱が上がり始めた。

 押し出していたデュエルとストライクは既にガモフから離れ、今なお追い縋る敵モビルスーツとの交戦を開始していた。

 

「……離脱だ。ガンダム・チームにもここから離れろと打電! 急げ!」

 

 隣のホフマン、艦橋のオペレーターに指示を出せば、内部はにわかに騒がしくなり、艦が向きを変えて離脱のコースを取り始める。

 眼前でガモフを押し出していたストライクのコクピットから、淡く虹が漏れ出していたのを、ハルバートンはふと思い出した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「……厄介だな」

「はっ?」

 

 誰に言うでもなく呟くと、クルーゼはヴェサリウスに設えられた自身の席から立ち上がった。

 怪訝な顔でこちらを見つめるアデスに、戦闘中の隊員達へ地球の重力に掴まらないように警告しろと伝えて格納庫で発進待機させていた自身の専用機である『ZGMF-515 シグー』へと乗り込む。

 その背には通常のシグーとは違い、ジンのウイング・バインダーに似たバックパックでなくさらに大型の、試作有線式ドラグーン・プラットフォームユニットを搭載していた。

 

「ラウ・ル・クルーゼ、シグーで出るぞ!」

 

 ヴェサリウスから加速した異形のシグーが宙に躍り出る。

 生き残っている艦とメビウスがその進出を阻むべく、残った力を振り絞り一斉射撃を仕掛けるもクルーゼはそれを全て躱し、行き掛けの駄賃とばかりに背部のドラグーンを展開させ、その冷徹な刺客を巡り回させた。

 

「フ……あの男に出来て、私に出来ないはずがない!」

 

 2基の死神が光条を次々と吐き出し、その場で動く者を全て撃ち貫いた。

 何が、と知覚する前にメビウス部隊と艦隊が爆散する。

 ドラグーンを背に戻し、初めて使う試作兵器の感触を十分に確かめながらクルーゼは口元を緩め、この戦場をかき乱した元凶の元へと機体を疾らせた。

 

 メネラオスを含む残存した第8艦隊は這う這うの体で戦闘宙域を離脱し、残るは地球の重力に掴まった哀れな連合の艦と今まさに地球へと降りようとしているアークエンジェル、そしてその周囲でそれを阻止すべく攻撃を仕掛けるザフトと連合のモビルスーツ。

 そのうちの1機───ガンバレルストライクに目を付けたクルーゼは、再度ドラグーンを射出しながらその機体に迫った。

 

「感じるぞ、サクヤ・サイジョウ……! 貴様も、私を感じるか!」

「ラウ・ル・クルーゼか!?」

 

 壁となる感覚を感じながら、クルーゼは自身の意のままに動く高速機動兵装(ドラグーン)2基をストライクに殺到させる。

 同じく、サクヤも背のガンバレルをそれの迎撃に回しつつ、クルーゼのシグーに迫った。

 子機同士の高速戦闘の合間を縫いつつ、サクヤとクルーゼが激突する。ビームライフルを避け、左腕の複合兵装防盾システムからビームの刃を発振させて斬り掛かるクルーゼ。左腕のシールドでそれを受け止め、押し合い圧し合いとなるストライクとシグー。

 パワーはストライクが上回っていたが、しかしシグーの背のプラットフォームの推進力はガンバレルストライクとほぼ同等であった。

 

「ムウ・ラ・フラガとは違ったこの感覚……これもまた、私を不快にさせるのだな!」

「それは、こちらの台詞だ……! 重いんだよ、ラウ・ル・クルーゼ!」

 

 刃を圧し払ったストライクが、左手で隠し持っていたアーマーシュナイダーを返す刀でシグーに突き刺そうとする。

 それをわずかなサイドステップで避け、重突撃銃を単発で固め撃ち。しかし射線自体を読んでいたのか、それとも攻撃自体を読んでいたのかストライクが回避しつつ右腕を蹴り飛ばした。

 

「ちぃッ、やるな! だが……」

 

 ドラグーンを呼び戻し、距離を取るべくサクヤのストライクへと攻撃を集中させる。

 同じくして、計器類を見れば間もなく地球の重力から逃れられなくなるような数値類の表示。ここで井戸の底に身を投げるつもりのないクルーゼは、同じく地球の重力に掴まりそうな部下達へと通信を入れた。

 

「各機、撤収だ! 重力井戸に掴まるぞ!」

「逃がすか! お前は、ここで落とす!」

「私自身で手を下せないのは残念だが、貴様はここまでだ!」

 

 ドラグーンに射撃を中止させ、その端末自体をストライクへと突っ込ませる。

 半ば特攻紛いの攻撃を避けるストライク、その眼前でドラグーンが交差して通信ワイヤーがサクヤの機体を絡めとるように巻き付いた。

 十分に絡みついたドラグーンと通信ワイヤーはストライクの機体から自由を奪い、その動きを止めさせることに成功していた。すかさず背部のユニットのスラスターを全開にした状態でパージ、動けないストライクへと突っ込ませた。

 

「なっ……!」

「愛すべき故郷に焼かれて、死ぬがいい!」

 

 ユニットの推力に対応できず、釣瓶の如く重力井戸へ落ちていくサクヤとストライク。

 仮面で隠し切れない口元を邪悪に歪めながら、ストライクを圧し続けるドラグーン・ユニットに狙いを定め、弾倉に残った弾を全て吐き出させる。狙いを過たず全ての弾がユニットに吸い込まれ、クルーゼの目論見通り誘爆し、その爆発によりストライクの機体が更に重力の手に落ちていく。

 フェイズシフト(PS)装甲で機体へのダメージはほぼ皆無であったものの、それに伴うエネルギーの消費と爆発の衝撃は殺しきれるものではなく機体は落ちていき、そして鮮やかであった白と赤、青の機体色は鈍い灰色へと変わる。

 

「さらばだ、サクヤ・サイジョウ……」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「くそッ、ラウ・ル・クルーゼ……!」

 

 爆発の衝撃で流れた機体を立ち直らせつつ、サクヤは現状をコクピットの計器類で判断する。

 機体のエネルギーはほぼ尽き、武装類は先ほどの爆発で全てロスト。ガンバレルストライカーも半壊して、それを頼みとしたブーストも不可能。

 それ以前に、機体単独で離脱できるほどの位置にはなかった。

 

ノイズに塗れた無線で、レナとエドが自分を呼ぶような声が聞こえる。

 メネラオスを、ハルバートン提督の離脱援護をした上、アークエンジェル救援のために突出しすぎたな、と思う。

 とはいえ救援には成功してメネラオスは戦域から離脱、避難民を乗せたシャトルも発進することなく搭載されたままで避難民も無事。

 流れを変えられただけ、上出来ではないかとサクヤは思う。

 しかし。

 

 最早棺桶と化したストライクの中で、しかしサクヤは残った推力とエネルギーで機体を制御して少しでも生存の確率を伸ばす。

 ガンバレルストライカーに残ったエネルギーを全てストライクに移し、ストライカーを排除。

 カタログスペック上では、GAT-Xシリーズの全ては単独での大気圏突破が可能───ただし、PS装甲展開下であるが───という事実を念頭に、機体を突入に適した姿勢へと制御する。

 

 ビームサーベルの直撃を受けて、半死半生の状態で大気圏を突破した事例だってある。

 この状況は、半ばお約束なのだと自身を鼓舞するが、機体の方はそうでないようで計器類が悲鳴を上げだした。

 

「まだ序盤の序盤だってのに……」

 

 このままではと歯噛みするサクヤであったが、接近警告音が計器類に集中していた意識をモニターに呼び戻す。

 横に目を向ければ、こちらに手を伸ばす自身の駆る機体と同型機───ヘリオポリスで建造されていたストライクが、視界の一杯に映った。

 

「こち……掴まっ……やく……」

「ストライク……!?」

 

 こちらを助けるように手を伸ばすストライクへ、サクヤも同じくその手を掴む様に伸ばした。

 機体の手と手ががっちりと絡み合い、接触回線で交信がクリアになる。

 

「まだ間に合います! アークエンジェルへ!」

「すまない!」

 

 見れば、アークエンジェルは降下シークエンスへの最終フェイズへと移行しつつあった。

 そのような中でこちらを助けに来てくれたのか、という申し訳なさとこの声がキラ・ヤマトという驚きがサクヤの脳内を支配した。

 が、しかしすぐにこの状況からアークエンジェルへ着艦するためにどうすべきか、と脳を切り替える。

 キラ・ヤマトのストライクの背にはエールストライカーが装着されており、その推力ならばこの状況でもアークエンジェルにまで移動できる推力は確保できるように思えた。

 

「見ての通り、こちらはエネルギー切れだ……曳航を頼む!」

「は、はいっ!」

 

 エールストライカーの背から蒼く輝く炎が噴き出し、サクヤのストライクを引っ張りながらゆっくりとアークエンジェルへと近付いていく。

 アークエンジェルも、ストライク2機を救助すべく艦をこちらに寄せてくれているようだった。

 モニター一杯に映る地球と、アークエンジェルの船体を目で捉えながらサクヤは、目の前の地球への虹光の道筋がつながっていくのが見えた。

 

 

 C.E.71年2月。

 流星は、夜を切り裂いて地へと降りた。





宇宙の虹、だと……!?

───仮面の男
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