MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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11話 フォーリン・エンジェル

 

「運がいいのか、悪いのか……」

 

 あのような絶体絶命の状況で、アークエンジェルの大気圏降下シークエンスの最終段階にぎりぎり間に合うように着艦できたのは幸運であると思う。

 しかしながら本隊と分断され、何も変わらなければこのままザフトの勢力圏内であるアフリカ大陸へと降下することになるというという自身の記憶は、サクヤを若干心配にさせていた。

 

 今までは本編が始まる前の事象かつ、あのよく分からない巨人のことはともかく、行動の結果としては本来の流れとは大きな影響を及ばさなかった、と自身は認識していた。

 これまでの戦役の結果は何も変わらず、自身が乗るストライク2号機等も、軍事的な尺度で考えれば存在していてもおかしくは無いのだから。

 

 しかし、アークエンジェルと合流するのであればこれ以降は本編という大きな流れに乗る事になる。

 ハルバートンと避難民の生存はそこまで影響はないだろうと高を括っているが、歴史の修正力というものは、本当に存在するのか。

 半信半疑であったが、しかしそのようなものが存在するのであれば自身は大気圏で燃え尽きてしまっていただろうとも思う。

 

 何にせよ、これからは更に気が抜けなくなるな、と考えるサクヤであったが外からコクピットハッチを解放させる音が聞こえれば、意識をそちらに向けざるを得なかった。

 

「おい、無事か!?」

 

 ハッチが開くなり、血相を変えて怒鳴り込んできたのはアークエンジェルの整備士を束ねる男、コジロー・マードック曹長であった。

 その後ろで、紫色のノーマルスーツを着込んだムウ・ラ・フラガと同じく青色のそれを着たキラ・ヤマトがこちらを覗き込んでいる。

 

「ああ、問題ないです……すみません、今出ます」

 

 ヘルメットを外し、白いノーマルスーツを着た男がコクピットから出る。 

 コクピット内部のむっとした空気よりかは若干温度の低い艦内の空気を吸い込んで、空調設備のありがたみに感謝しつつ周りを見渡せば、整備士の多くが怪訝そうな顔でこちらを覗き込んでいた。

 それもそうだろうな、と思う。

 

 ローレンツ・クレーター基地で建造されていたX100シリーズはその存在をヘリオポリスの開発チームには知らされておらず、ストライクに2号機があるという事実を呑み込めていないのだ。

 ロールアウトの時期で言えば、こちらの方が早いんだよな……2号機だけどと思いつつ、サクヤはマードックに機体自体はヘリオポリスのもと変わらないことを伝えてムウとキラの方へ向かう。面識のないキラはともかく、ムウはグリマルディで共に死線を越えた戦友である。

 その事実と存在が、抱えている不安をいくらか楽にしてくれていた。

 

「よ、久しぶりだな。サクヤ中尉殿?」

「お久しぶりです、フラガ大尉……じゃなくって、少佐ですか。昇進おめでとうございます」

「この状況で昇進してもなぁ……ていうか、いつの間にお前もストライク乗りに」

「教導隊ですから。彼が、こちらのストライクのパイロットで?」

 

 教導隊、というワードに動き出していた整備士たちの手が一瞬止まる。

 軍内の認識では特殊戦技教導隊はアズラエルの息がかかった部隊で、その運用には彼の意向が優先されるといった噂話が実しやかに流れていたが、それは半分事実であった。

 確かにアズラエルの意向が多々入っている部分はあるが、それはあくまでもアズラエル子飼いの将官、または佐官によって忖度されたものであり指揮監督権は間違いなく直上の総司令部にある。そこに、アズラエルもといブルーコスモスのシンパが多数いることが問題であるのだが。

 

 話題を次に移すべく、サクヤはムウの傍らに立つ少年に視線と意識を向ける。

 それに気が付いた少年―――キラ・ヤマトは若干びくりと身体を震わせた。

 

「は、はい。キラ・ヤマトといいます」

「ン、よろしく。特殊戦技教導隊所属、サクヤ・サイジョウ中尉だ」

 

 サクヤが手を差し出せば、キラも慌てて差し出してその手を取った。

 聞いておくべきか、と逡巡しつつもサクヤは最早様式美とも呼べるような質問を、キラに投げ掛けた。

 

「君は、コーディネイターかい?」

「!」

「おい、サクヤ……!」

 

 気色ばむムウに、目線で大丈夫と伝えながらサクヤは差し出した手を握ったままのキラに視線を戻し、その目を見つめる。

 全く知らない―――言ってみれば普通の地球連合の軍人にしか見えない男に、そのようなことを聞かれれば少し警戒してしまうだろうな、意地の悪い質問をしてしまった……と若干申し訳ない気持ちになりながらも努めて笑顔を崩さないように、サクヤは続けた。

 

「別に、コーディネイターだからどうこうする訳じゃない。ただの確認さ」

「え……」

「コーディネイターだからって、何かが変わるわけじゃないだろ? それに、君は俺を助けてくれた命の恩人だから礼を言わせて欲しいんだ……本当にありがとう」

「いえ、その……」

「全く……冷や冷やしたぜ」

 

 やれやれ、といった風にムウが頭を掻き、キラに礼を言ったサクヤもその手を放す。

 未だ状況を呑み込めていないようなキラに苦笑しながらとりあえず着替えたいので道案内を、と頼もうとすればこちらに近付いてくる足音が聞こえた。

 そちらに3人揃って視線を向けてみれば、こちらに歩いてきているのは現在のアークエンジェル艦長であるマリュー・ラミアス少佐と副長のナタル・バジルール中尉。

 見知った(・・・・)顔に、サクヤの表情が崩れそしてナタルの目が見開かれる。

 堅物の副長が少し動揺していることにキラ達は驚きつつも、3人の目の前で立ち止まった2人は敬礼と共に名乗り始めた。

 

「大西洋連邦第8艦隊所属、アークエンジェル艦長のマリュー・ラミアス少佐です」

「……言うまでもないと思うのだが……同じく、ナタル・バジルール中尉だ」

「特殊戦技教導隊所属、サクヤ・サイジョウ中尉です。……士官学校以来、かな?」

 

 そうだ、と憮然と返すナタル。

 あからさまに警戒する彼女を見て、過去に何かあったのだろうな、とムウとマリューは視線を交わして納得した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 結論としてアズラエルは地球に降りることなく月へ戻り、そして命辛々撤退した残存第8艦隊と合流。

 あのまま地球に降りれば、地球周回軌道周辺に残っているザフト艦隊の絶好の餌食となるため、月面のプトレマイオス基地へと退避してきていた。

 血のバレンタイン以降、第8艦隊のお膝元として隆盛を極めていたプトレマイオス基地であったが、地球圏各地の宇宙港の失陥による補給路の寸断とそれに伴う補給物資の慢性的な不足、極めつけに出撃時の7割にも満たない帰還数を見れば、基地内はあの日以来久しぶりのお通夜状態となった。

 そして、その基地の一角でアズラエルとハルバートンが顔を突き合わせている会議室内は、通夜を通り越して最早苔生す墓地と化していた。

 

「んで? あれだけ鳴り物入りで護衛していたアークエンジェル、どこに降りたんです?」

「……あの時の突入斜角から判断して、恐らく……いや、ほぼ確実にアフリカ大陸北側だ」

「あー、完全にザフトの勢力圏内ですねェ」

 

 呆れたように言い放つアズラエルに、ハルバートンは貴様のところのストライクを回収するためにそうなったのだろうが、と怒鳴りたくなる気持ちを抑える。

 ここで怒鳴れば、でもそのストライクのお陰で助かったんでしょう? と返されるのは一目瞭然であり、なおかつここで自身がそれを言えば自身を含め部下達の生命を救ってくれたストライクとそのパイロットへの恩知らずとなる、といった羞恥心はハルバートンにはあった。

 

 事実、彼には感謝してもしきれないくらいだ―――と思いつつ、その彼がアークエンジェルと行動を共にしてくれる事は複雑な思いを抱きつつ安心材料の一つとなり得る。

 それ故、自身の麾下(正式には麾下でも何でもない)たる特殊戦技教導隊の隊員が敵地のど真ん中に取り残されたというのにこの男の言い様は、と憤然たる思いを感じるのもハルバートンとその部下達であった。

 

「……アラスカ、もしくは近傍の基地に要求して補給物資を……」

「できるんですか? そもそもあの辺、マトモな基地ありました? モビルスーツの部品も、そのほかも満足にあります?」

「………………」

「送ったところで、カモにされて落とされるのも目に見えてますし?」

 

 打つ手なし。

 ハルバートンは胃の中に重石を流し込まれたような感覚を覚えた。

 ちらと隣を見てみれば、もはや使い物になるようには思えず、泡を吹いてしまいそうな形相のホフマン大佐。

 頼れる幕僚(仲間)は皆目が死んでいた。

 

「積み込んだ補給物資のリストには目を通しましたが……この、何です? 『マルチプルアサルトストライカー』? こんな重そうなモノ、使い物になりませんよ」

「しかし、『流星』ことサイジョウ中尉であれば何とか……」

「教導隊でエースパイロットだからって、無茶振りするのも考え物ですねェ」

 

 それをお前が言うか、とハルバートン含め第8艦隊の面々が心の中で突っ込んだが、誰も口にはしなかった。いや、できなかった。

 無茶振りをしたG4幕僚も、そのストライカーパックの劣悪性は知っているようでそれ以上は話題に挙げなかった。

 

「まぁ、状況的には最悪ですからねェ……サクヤ君……いえ、中尉に何とかしてもらいましょうか」

 

 いやお前がそれを言うんかい、とハルバートン達はまたも心の中で突っ込んだ。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「へきちっ!」

「汚い……」

 

 アークエンジェルの艦長室。

 自己紹介もそこそこに、モニターに世界地図を表示させつつ現状確認を行っていた士官の4人の思考はサクヤのくしゃみで打ち切られた。

 隣のナタルは不快感を露わにし、当人は何か悪寒を感じているようなそぶりを見せつつ、艦長室備え付けの流しで手を洗い始める。

 仕切り直すか、とサクヤが戻ってきたところでムウがズーム状態にしていた世界地図を等倍に戻して全図が映る状態にする。そして、再度アークエンジェル本来の目的地である地点を指差す。

 現在の大西洋連邦の母体となり、世界の警察官を自称していた超大国の飛び地であり、北アメリカ大陸から突き出して、ユーラシア大陸に突き付けたナイフにも銃口にも見えるような地点。

 そこが、目的地であった。

 

「ここが、アラスカ」

 

 つうとなぞるように、その指が南西方面へと移動し大西洋を横断したところのある一点で止まる。

 指が止まったのは、アフリカ大陸の北端に近い部分。青く塗られていた北アメリカ大陸から、反転したような色の赤で塗られた大陸の一点から指を放し、ムウは再度ため息をついた。

 

「んで、現在地がここ……もう真っ赤っか」

「フラガ大尉、ふざけるのはっ」

「そうでもしないとやってられないでしょ。それに、大尉じゃなくってし・ょ・う・さ」

 

 ムウとナタルのやりとりも3回目くらいだな、と供されたコーヒーを啜るサクヤが顔を顰めたのはその苦みのせいだけではなかった。

 アークエンジェルが敵の勢力圏内に降下することになった原因の一端でもある彼は、この状況に責任を感じないはずもなく渋面を作りながら弁解できるはずもなく、世界地図をただ見つめるだけだった。

 そんなサクヤを見かねてか、マリューが助け舟を出す。

 

「サイジョウ中尉、自分の行動に責任を感じることはないわ。貴方がいなければハルバートン閣下どころか、この艦すら危なかったのだから」

「ありがとうございます……ですが、隊から突出した結果がこの現状です」

 

 サクヤがマリューに軽く頭を下げる。

 隣でナタルが冷ややかな視線を投げかけているのに気が付いたサクヤは、やや苦笑いになりながら再び世界地図に目を戻した。

 

 サハラ以北の地中海沿岸から大西洋沿岸にかけてのアフリカ共同体は、予てより親プラントを表明している国家群である。

 プラントからのエネルギー等の支援を受ける代わりに、領土内でのザフトの活動を容認しておりその地域内に多数の基地が設置されていた。

 最早プラント及びザフトの地球での一大拠点と言っても過言ではなく、アークエンジェルは完全に敵の勢力圏内に降下してしまっていた。現に、今身を潜めているこの地点も目視できるほどの距離ではないが、即日に作戦行動を起こせるような地点にザフトの基地が存在していることは艦長室に集っている4人も承知している。

 完全に孤立してしまっている―――これが揺るがぬ共通見解であった。

 

「ともかく、この艦の目的地はアラスカに変更はありません。アラスカにGを届けなければ……この戦争を終わらせることはできないわ」

 

 艦長がそう締めれば、この議題はそこで終いだった。

 アフリカ大陸に着地してからそう時間も経っておらず、4人の顔にも疲労の痕跡が表れ始めていた。

 誰か一人でも倒れれば、目的地に到達する可能性は大幅に下がる。それだけは避けるべし、というのも共通見解の一つであった。

 

「今日はここまでにして、明日また行動方針について考えましょう。バジルール中尉、サイジョウ中尉に部屋と……あと、艦内を案内してあげて」

「はっ、承知しました……行くぞ」

 

 半ば不服そうではあったが、ナタルはサクヤと共に艦長室から出ていく。

 士官学校以来の仲と言えば同期の絆、同じ釜の飯、苦楽を共にした仲といったような言葉が想起されるだろうが、この2人に関してはそういったものを感じる余地は全くなく、むしろ険悪でギスギスしたような雰囲気さえ感じられた。

 悪い空気は勿論周囲にも伝染し、艦内の廊下ですれ違う者がぎょっとして若干の距離を保ちながら並んで歩く2人を見ていた。

 そんな気まずい雰囲気の中で、サクヤの方から口を開く。

 

「……相変わらず、みたいだな」

「貴様もだ」

 

 にべもなかった。





ありゃ絶対男と女の関係で何かあったな。

まさか。男の方はともかく彼女が……

―――アークエンジェルのオトンとオカン
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