MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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12話 月下に嘶く

 

「さてさて、噂の『大天使』様のご様子は、っと」

「はっ! 依然何の動きもありません、油断しているのでしょうか……」

 

 月が煌々と照らす砂漠の片隅で、双眼鏡を構える男と湯気の立ち昇るカップを傾ける男が2人。

 宇宙生まれの性か、それとも砂漠の夜はまだまだ冷えるのか砂漠用の戦闘服の上にコートを羽織った男達の視線の先には、停泊している白亜の巨艦―――アークエンジェルの姿があった。

 敵の最新鋭の艦を前にしてもなおコーヒーを啜り続ける男の顔は宇宙生まれにしては珍しく本物の太陽に焼かれた精悍な顔で、独特の野性味を漂わせていた。

 

「Nジャマーのお陰で、こう近付いてもバレないときた……全く、オペレーション・ウロボロス様々だな」

 

 宇宙では地球連合軍においてもNジャマーの影響下での戦闘におけるメソッドが確立されかけているのにも関わらず。

 地上ではいまだに旧来の戦闘方法から脱却しきれず、故にザフトのモビルスーツを主とした諸兵科連合の電撃戦にしてやられ続けている連合軍であった。

 それは地上に降りたアークエンジェルでも同じことであり、Nジャマーの影響下でレーダーを含む電波探知関係が全く使い物にならない現状に甘えて、警戒と索敵をおざなりにしていた。

 それ故、ザフトに―――『砂漠の虎』と称される男に付け込まれ、この位置まで接近されている。

 その男は先程よりは少し冷めたカップを傾け、そして目を剥いた。

 

「んんっ!?」

「何かありましたか!?」

 

 前方の、監視し続けている艦に何か異変が、と付き従っている副官の男が身構えながら双眼鏡を艦の全景が映るように調整し、両手で包み込むように持ち固定する。

 目を凝らして双眼鏡を覗き続ける副官に、そんなことも気にせず砂漠の虎はカップから口を放して残念そうに、しかし嬉しそうに言い放った。

 

「いや、今回はモカ・マタリを5%ほど増やしてみたんだが……これは失敗だな! 香りはいいが少し甘過ぎる」

 

 自身が飲んでいるコーヒーの感想だったようで、副官はがっくりと双眼鏡から目を外す。

 砂漠の虎は自身のコーヒー調合趣味を前線の、敵の直前まで持ち込むきらいがあり、それはコーヒーなどは妙な臭いのする苦い泥水のようなものでしかないと考えている副官にとっては、少しの苦痛であった。

 しかしながら、それでも誠実に仕えているのにはその上官が部下に対して自発的にそうさせるような雰囲気と実績と、そして性格があった。

 だからこそ、ある意味では過剰に思える戦力を投入する今回の作戦でも不平不満を言わず、不敵に構えている部下たちがその2人の立つ砂丘の傍に控えていたのである。

 

「うーん、どうしたものか……次はコピ・ルアクでも試してみるか……? しかし高いんだよな、アレは」

 

 ジャコウネコの糞から採取されるというコーヒー豆の存在をこの副官に知らせればどのような顔をするのだろうか、という子供じみた発想を頭の中に浮かべながら、砂漠の虎はカップの中に残ったコーヒーを飲み干して砂丘を颯爽と降りていく。

 月の光を受けて輝く砂丘の麓には、巨大な獣のような機体と戦闘ヘリコプター、砂漠用バギーといったザフトの地上用の戦闘ユニットが集結しており、その周辺では兵士達が忙しなく動き回っている。

 そして現在地から少し離れた場所では、レーダーからの探知とエネルギー消費を抑えるために新たな空の支配者たる猛禽が虎の指示を待ちつつ、羽を休めていた。

 

 そのような中で、砂漠の虎が彼らの前に来れば素早く整列し、いつでも動けるという威容を隊長たる彼に示した。

 いつもと変わらない、自身が鍛え上げた兵士達を前に満足そうに頷き、悠々と口を開いた。

 

「それではこれより、連合軍の新造艦『アークエンジェル』に対する威力偵察を実施する! 目的は―――新造艦とそれに搭載されているモビルスーツの性能評価である!」

「別に、倒してしまっても構わんのでしょう?」

 

 彼の言葉を受けて、不敵に構えていたパイロットの一人が口を開いた。

 砂漠の虎の下で何度も死線を潜り抜けてきた戦友の一人でもある彼の言葉に、隊長はにやりと口元を歪める。

 想定されていた質問であるが、いざ実際にそれが来るとあれば面白いと思うのが彼こと砂漠の虎であった。

 

「まぁ、その時はその時なんだが……一応、彼等はあのハルバートン率いる第8艦隊と連合のモビルスーツ部隊が死力を尽くして地球に降ろした艦だ。まぁ、一応それを忘れるなよ!」

 

 兵士達の瞳に闘志が灯る。

 自信に満ちた笑みと共に、兵士達が敬礼し砂漠の虎もそれに答礼した。

 副官が号令をかければさっと列が散り、自身の持ち場へと駆け出していく。

 各々が自身の愛機のコクピットに収まる頃には、砂漠の虎と副官の2人も指揮車の運転席と車長席に収まり、そのエンジンを始動させていた。

 

「さぁ―――戦争しに行くか!」

 

 男達の瞳に物騒な光が灯る。

 砂漠の虎―――アンドリュー・バルトフェルドは眼前の獲物に食らいつくべく、駆け出した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「運動プログラムの修正完了、っと……で、これがマルチプルアサルトストライカー? そりゃあ、バランスも悪くなりそうだな……」

「中尉なら、何とかなるんじゃないですかい?」

「そんな人を悪食みたいに……」

 

 アークエンジェルの格納庫でストライク2機の地上での運用に向けた調整を整備員たちと共に終え、自身に割り当てられたストライカーパックのデータを表示させながらサクヤが愚痴を零す。

 キラのストライクとともに、2号機の機付整備員となったマードックが何とかなるだろうといった目で見るが、流石にこれは……といった風にサクヤは首を傾げた。

 

 第8艦隊からの補給物資の中には、ストライクの予備パーツと新型の支援戦闘機である『FX-550 スカイグラスパー』、そして新型ストライカーパックたるマルチプルアサルトストライカーの姿もあった。

 エール、ソード、ランチャーの各ストライカーパックの特性を兼ね備え、全領域に対応できる……という謳い文句であったが、機体への過度な武装と重量増加に伴う機動性の低下、激しいエネルギーの消耗といった問題点ばかりが目立つ問題児でもあった。

 そもそも、戦場での換装による全領域及びあらゆる戦況に対応する、という機体コンセプトに真っ向から反抗している。

 懸念点であったエネルギー消費の増大は追加装備したバッテリーパックで解決しているそうだが、しかしこれを使うことになるとは、とサクヤは頭を抱えた。

 

 かつて父親に買って貰った登場初期の立体物限定の姿で、後年リマスターされた映像作品で出演したときは感動したものであるが自分がいざそれを使うとなれば、どうしたものかと考えていた。

 自身のストライク自体は既に整備が完了しており、OSの設定も砂漠に適したものに変更して準備は万端、といったところまで来ていたがどうしてもストライカーパックの事が頭から離れず、サクヤを悩ませていた。

 

 現状のスカイグラスパーの運用で、2機のうち1機を完全に予備機として残置するのではなく2機共にストライカーパックを装着させておいて、状況によってムウが乗り換えるといった構想は非常に理に適っているとサクヤは考えていたがその際に問題になるのがストライク本体に装着するストライカーパックである。

 エール、ソード、ランチャー、3つのうちの2つ(マルチプルアサルトをスカイグラスパーに着けるのはムウが断固拒否した)をスカイグラスパーに装着させておく、となれば装着可能なストライカーパックはマルチプルアサルトと、残ったもの1つだけになる。

 そこで素人のキラに全部載せは荷が重い、と判断したマリューの指示によりキラはストライカーパックの換装で、サクヤはマルチプルアサルトで前衛といった役割分担がなされていた。

 ちなみに予備のストライカーパックというものは補給物資の中には存在せず、各種の補修部品しかない(バッテリーパックは大量にある)と告げられた時のサクヤは白目を剥いていたという。

 

「ま、全部載せ仕様ってロマンは十分分かりますからなぁ」

「かと言って、素人にこんなのを使わせてロストさせる訳にもいきませんよ」

「中尉はともかく、坊主も乗りこなしちまいそうな気もするんですがねぇ……まぁ、確かにエネルギー計算もまだまだの素人だからっすね」

 

 言われてみれば、この時期のキラはエネルギー切れでピンチに陥ることが多々あったなとサクヤは記憶を瞬時に再生して思い出す。

 過去に見たものは欠落が少々はあるものの、ガノタであるならばこのくらいは当然と自負しているサクヤには朝飯前だったが、それと同時に敵がいつ、どこで、どのような規模で威力偵察を実施してくるのかが思い出せないくらいには少しの錆びつきがあった。

 

「そういや坊主は?」

「部屋で休ませてます。戦闘の直後だし、今は俺が待機でいるから休ませた方がいいって思いましてね」

「頼もしいですなぁ。それじゃ、一緒にスカイグラスパーの方の調整も……」

「勿論、やりますよ。これから世話になるわけですし」

 

 すんませんね、とマードックが頭を掻きサクヤを伴って、ワイヤーで固定された青と白を基調とした配色の戦闘機のもとへ歩いていく。

 

 本職のエンジニア達に及ばずとも、各種装備類のメンテナンスや調整はパイロットであってもある程度は出来なければならない。

 メンテナンス等が出来ない、という事は自身の装備に対する不理解や怠惰というマイナスなものに起因することであり、それは自身の体調管理ができませんと公言するようなものである、とサクヤは考えていた。

 だからこそ整備員たちと混ざり、時には聞きながらメンテナンスや各部の調整を行って愛機への理解を深め、より一体化していく。

 自身の身体のクセを知らなければ、いざ身体を動かす各種運動の際に思考と動作にズレが生じるのだ。

 

 そして愛機の調整も終わり、次は世話になる宅配屋の調整だな―――と思考していた2人だったが、けたたましくなり始める警報に遮られてしまった。

 

『第二戦闘配備発令! 繰り返す、第二戦闘配備発令!』

 

 敵の来襲を告げる警報にサクヤは弾かれるように駆け出し、ラダーに掴まって足を掛ければ自動でそれが動き出し、コクピットまで運ばれていった。

 待機中にも関わらず面倒くさがってノーマルスーツを着ない、という選択肢を取らなかった自分を褒めてやりたくなる気持ちを感じながら、ストライクのシステムを起動させていく。

 格納庫内の風景が映し出されたモニターの隅で、ノーマルスーツに着替えたキラがもう1機のストライクに乗り込んでいくのが見えた。

 各種システムを起動、動作状況を確かめながら通信回線を艦橋に繫ぐ。

 

「こちらR003、いつでも出られる。状況は?」

「は、はいっ。今はミサイルの迎撃中で、戦闘ヘリの姿も確認されてます」

 

 オペレーター席に座る、ミリアリア・ハウがサクヤの問いに答える。

 ヘリオポリスのただの学生だったのに、今はスカイグラスパーを含めれば3機の機動兵器のオペレートをするなんて余程優秀なんだろうな、といった感想を胸に抱きつつも流れてくる情報で現状の分析を開始する。

 

 確認できている敵影は戦闘ヘリのみ。もし自分がここで威力偵察を仕掛けるのであれば、損耗を抑えつつ敵情を確実に確認できる方法を取るだろう。

 では、どうやって―――と思考したところで、まず思い浮かんだものが地形の利用、そしてそれを砂漠地帯で容易に可能とするモビルスーツは、と思い至ると同時にサクヤは通信回線に割って入っていた。

 

「ラミアス艦長、アークエンジェル離床を具申します。敵はこちらを標定済で、恐らく……」

「サイジョウ中尉! 艦の運用はこちらの決心事項だ! 貴様はモビルスーツ隊の運用にっ」

「敵が来ているんでしょう!? 言い争ってないで、早くハッチを開けてっ!」

 

 ストライクを起動させたキラが、サクヤとナタルの始まりかけた言い争いに割って入り込む。

 ジャッキー・トノムラ軍曹とミリアリアがキラにまだ待つよう宥める様に言ったが、それに取り合わずキラは勢いよく捲し立てた。

 

「呑気なことばかり言わないでっ! 敵が来ているんなら、僕が行ってやっつけてやる!」

「ヤマト少尉、待て! 今出るのは危険だ!」

「サイジョウ中尉まで、悠長なことを言わないでください! 早くハッチ開けてっ!」

 

 思わぬ強い語気で相手をされたことに、サクヤが若干怯む。

 そういえば、と本来起こるイベントを思い出して部屋に帰したのは悪手だった、と考えるもそれは既に遅きに失しておりやってしまったと臍を噛んだ。

 

「仕方ない、艦長! モビルスーツ発進10秒前にスモークを展開、その後ストライクを射出させてください」

「分かったわ。バジルール中尉、スモークディスチャージャー準備。ストライクの発進準備も同時に」

「はっ!」

「聞こえていたな、ヤマト少尉。君はランチャー装備で、艦の直掩だ。調整済とはいえ、砂漠には降りるなよ」

 

 分かりましたと返事が来ればここは素直に応じるんだな、というのがサクヤの感想だった。

 若干荒れているような感覚、何が起きたのかは記憶を辿れば想像がつくが、本当にそれが起きたかどうかは分からない。

 及ぼす影響が未知数な以上、艦の直掩に回しておいた方がよかろう―――という判断のもと、サクヤは機体をカタパルトへと進ませた。その肩、背に全てのストライカーパックの装備が備え付けられていき、ついに全領域に対応したと開発者達が豪語する姿へと変わっていった。

 

「ストライク2号機、発進、どうぞ!」

「サクヤ・サイジョウ、『パーフェクトストライク』! 行きます!」

 

 久々の、機体ごと重力に引かれていくような感覚。

 若干の懐かしさと、初めての砂漠戦への不安を抱えながら、パーフェクトストライクはアフリカの闇夜へと飛び立った。





いやビームサーベルあるけど使う機会、ある?

―――全部載せで何とかしろと押し付けられた中尉

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