勢いよく射出されたサクヤのパーフェクトストライクに続き、キラのランチャーストライクも同じようにアークエンジェルのリニア・カタパルトから射出される。
宇宙と違い、下へと引っ張られる感覚に慣れないキラは高度を維持できず、急速に近付いてくる地表に戸惑い、恐怖した。
「うっ! これが、重力……!」
「ヤマト少尉は、アークエンジェルの甲板に上がれ! そこで後方支援!」
射出された勢いのまま砂漠に突っ込み、体勢を崩したランチャーストライクが砂地に膝をつく。
事前の調整で砂漠に足を取られることはなかったが、それでも慣れない重力下の戦闘、その上砂漠地帯とあってはまず慣れることから始めるべきだろう、とキラは場違いなことを考える。
が、すぐにストライクのスラスターを吹かしてアークエンジェルの右舷甲板に飛び乗った。すぐに320mm超高インパルス砲「アグニ」へパワー・ケーブルを接続する。
眼下の砂の海を見遣れば、艦の周囲に接近していた戦闘ヘリ『アジャイル』はパーフェクトストライクの120mm対艦バルカン砲と75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」によって既に無残な躯と化しており、艦のレーダーと同期させている機体のレーダーにも他の敵影は映っていなかった。
「すごい……サイジョウ中尉はもう倒しちゃったのか」
「油断するなよ、恐らくこれは敵の先遣……来たっ!」
アークエンジェルと2機のストライクのコクピット内で、敵の接近を知らせる警告音が鳴り響く。
砂丘に佇むパーフェクトストライクが、350mmガンランチャーを撃ち放ったのと同時に丘の陰から黒い影が複数躍り出た。
放たれた2発の誘導弾が飛び出してきた影に殺到したが、野生の獣を思わせる敏捷な動きで四つ足の機体はその四肢で地表を蹴り、跳んで自身に牙を剥く誘導弾を回避した。
「敵機5! 機体照合、『TMF/A-802 バクゥ』ですっ!」
「バクゥ!?」
CICで照合作業を行っていたサイ・アーガイルが大声で報告し、その報告にマリューとナタルが目を見開く。
ブルーグレイの機体の姿がモニターに映し出される。
神話上の伝説の獣、グリフォンにも似た形状の機体は翼の他にその背に450mm2連装レールガンであったり、400mm13連装ミサイルポッドを背負いまるで狩りをするようにサクヤのパーフェクトストライクを取り囲んでいた。
4本の脚部を用いた軽快な機動、もしくはキャタピラによる高速機動により連合軍の主力機甲戦力でもあるリニアガン・タンクを瞬く間に駆逐し、陸戦の王者の名を欲しいままにした機体が5機。数の上では、圧倒的にザフトが優位であった。
「アークエンジェル離床! ここで固まっていたらやられるわ!」
「了解! 離床と同時に、バクゥへスレッジハマーを発射!」
「それは、中尉のストライクに当たりますっ!」
「構わん! 奴ならなんとかするっ!」
ナタルの命令に、担当のトノムラが抗議を始めるがナタルはピシャリと言い放ち、早く撃てと目で制する。
何とかなる、と言い切ったのは士官学校以来の付き合いであるからだろうか。妙に断言している気配があった。
ストライクのPS装甲はミサイル等の実態兵器に対して無類の防護力を誇るが、それはあくまでもエネルギーが十全にある状況であって、このようなストライカーパックの交換を望めない混戦状態ではエネルギーの消費を抑えて戦闘しなければならない。
艦の直掩に就いているキラを向かわせるのも一つの手であったが、未だ敵の動きが読めない以上、マリューもナタルも直掩を動かすことができなかった。
同じくキラも、甲板上でバクゥに照準を合わせているもののその素早い動きに対応しきれず、味方撃ちを恐れて発砲できていない。
しかし5機のバクゥに囲まれているパーフェクトストライクの圧倒的不利は見るまでもなく明らかであり、何かしらの介入をしなければならないといった思いは皆の共通認識だった。
「……了解! スレッジハマー、発射!」
「サイジョウ中尉っ!」
トノムラが意を決したように発射ボタンを押し、アークエンジェルの後部ミサイル発射管から多数のミサイルが放たれた。
それと同時にミリアリアがサクヤに警告を発するが、ミサイルの発射を確認したバクゥ5機がその場を離脱。同じく離脱するような素振りを見せたサクヤには、バクゥからミサイルとレールガンの嵐が降り注ぎ機体をその場に固定させられていた。
鉄の暴風を凌いでいるサクヤに、アークエンジェルからのミサイルが降り注ぎその暴風が更に力を増していく。
着弾の衝撃をもろに浴び、固定しているはずの身体がシート上で跳ね回り、サクヤはヘルメットごと頭をしたたかに打ち付けた。視界に火花が散り暗転しそうになる意識を、再度頭を自分からシートに打ち付けて繋ぎ止める。
「くそっ、死ぬぞ……っ!」
エネルギー表示を見れば、まだ何とかはなる数値であったがそれでもこの状況では少し心許ないな、と判断したところで、自身から少し離れた地点に火柱が上がった。
よく見れば、スレッジハマーの着弾を避けるために散開したバクゥを甲板上で狙撃するランチャーストライクの姿があった。味方撃ちの危険が無くなり、そして回避行動で動きが直線的になったところを狙ったのだろう。
怪我の功名だな、とサクヤは機体を立ち上がらせ、右手に15.78m対艦刀「シュベルトゲベール」を持たせる。
もう一つの火柱が砂漠の闇を赫々と照らし出したところで、残存する3機のうち1機に狙いをつけ、機体を疾らせた。
敵は残り3機、先程の攻撃の結果大きく散開していて、合流するまではまだまだ時間がかかりそうだった。
「犬は、ちゃんと繋いでおかないとな!」
レールガンの砲撃を横滑りさせながら回避し、左腕に装備されたロケットアンカー「パンツァーアイゼン」を射出する。
高速で飛び出したアンカー先端のクローが展開し、バクゥの首元を掴んでその動きを止めた。
「なっ……!?」
「でぇいっ!」
ストライクがぴんと張ったワイヤーを思い切り引っ張り、急速に巻き上げてバクゥとの距離を詰めていく。
バランスを失い、体勢を崩したバクゥとストライクが交叉した瞬間、逆手に持ったシュベルトゲベールが一閃。
「ひとつっ!」
機体を真っ二つにされたバクゥが背後で爆発するのを確認し、サクヤは機体を空中へ飛び上がらせる。
同時に左手でビームブーメラン「マイダスメッサー」を抜き、敵機を追い駆けながら右肩の『コンボウェポンポッド』のバルカン砲を撃ち散らした。
バクゥはその機動性を活かして縦横無尽に駆け巡り、その弾丸を回避していくがサクヤはすぐにその先を読んでビームブーメランを、やや遅れて対艦刀を投擲。
「そんな攻撃、俺らには通用……!?」
バルカン砲と、やや遅れてやって来たビームブーメランを回避したバクゥであったが、その回避コース上に
砂上に突き刺さった対艦刀により、バクゥが正中線から縦に切り裂かれ、コクピット内のパイロットは迫り来るビームの刃を知覚した瞬間に絶命。
バルカン砲、ビームブーメランに気を取らせて本命の対艦刀から気を逸らす、というコーディネイターの目の良さを利用したサクヤの作戦勝ちだった。
そして、残り1機。
不利を悟り、離脱しようとするバクゥをコクピット内のスコープ越しに捉えてロックオン。
エネルギーは恐らくあと2射分。距離的にコンボウェポンポッドの武装では撃破は期待出来ず、援護のキラも射線を確保出来ず射撃不可。
ならば、と機体をジャンプさせて再度逃げるバクゥに狙いをつける。
「───見えたっ! そこかっ!」
アグニの銃口をわずかにずらし、バクゥの左前に着弾するようなコースで発砲。
こちらの射線から逃れようとしていた敵であったが回避コース上の射撃は避けられるはずもなく、極太の熱線が機体を貫き、パイロットを灼き、そして爆発した。
「先読みが冴えてるな……」
これで全てのバクゥを撃破したか、とサクヤがレーザー通信でアークエンジェルと同期して、一息つこうとした瞬間―――再度の警報。
モビルスーツや航空機のそれとは違い、高速かつ放物線を描きながらアークエンジェルへと飛来する多数の熱源が艦砲である、と気付いた時には回避行動を取る艦の姿が見えた。
「回避ーっ!」
揺れるブリッジの中で、マリューの指示通りに艦が動き、飛来する艦砲をすんでのところで回避。弾着地には爆炎と巻き上げられた砂が柱を形作り、その威力を艦橋の全員に悟らせた。
飛来した砲弾のコースから敵の現在位置を割り出していたサイ・アーガイルが叫ぶ。
「敵砲弾、南西20km地点から発射されたと推測!」
「本艦の装備では、対応できません!」
サイの報告に、トノムラが被せる様に続けた。
レーダーが使用不可能である今、誘導兵器はレーザー誘導等の方法でしかその性能を発揮することができない。そのため、地上ではレーザー誘導を含めた各種手段で誘導兵器や間接射撃を誘導する観測者の役割が増大しており、アークエンジェルへの艦砲射撃も観測者を介しての射撃であった。
観測手段を現状モビルスーツ等でしか持たないアークエンジェルでは、直射兵器の射程範囲外の敵には攻撃ができない状況にあった。
代替手段を思いつかないナタルが、悔しそうに唇を噛むがそこへ格納庫から通信が入る。
「スカイグラスパーで出るぞ! 俺がレーザーデジグネーターで誘導するから、それでミサイルを撃ち込め!」
「少佐!? こちらで手隙のモビルスーツを出せばっ」
「こっちの方が速い! 帰るまで落ちてくれるなよ!」
巡航速度ではモビルスーツよりもスカイグラスパーに軍配が上がる。
そして搭載されているレーザーデジグネーターで照射すれば、レーダーの範囲外であってもレーザーの反射により敵の位置を特定しその位置へミサイルを誘導できた。
ただし、それはあくまでも敵を発見して照射できれば、といった条件付きで今出撃したところで確実に発見できる保証はない。
それでもやらねばならないとムウはスカイグラスパーで出撃し、それを信じることしかできないマリュー達は艦を防護する事しかできなかった。
そして、無慈悲な第2波がアークエンジェルに押し寄せる。
先ほどの2倍以上の砲弾。確実にアークエンジェルを仕留めにかかっていたそれを、モニター越しに知覚したキラが呻く。
「あんなのが直撃したら……!」
キラの脳裏に宇宙で父を失った時の泣きじゃくる赤髪の女の子が、自身の胸に飛び込んできた思いを託してくれた彼女の姿が、先程まで自身がその手に抱いていたフレイ・アルスターの姿が蘇る。
―――私の思いは、あなたを守るわ……
何かが弾ける音が、身体の底から聞こえた気がした。
光を失った目で、飛来する砲弾の軌跡を睨みつける。
右肩のバルカン砲を撃ち散らしながら、アグニを構えた。その間にも、飛来する砲弾の軌跡から予想進路を割り出して、照準を射向束の端につける。
意識が針の先のように一点に集約され最大まで高まったところで、その指がトリガーを絞った。
「もう誰も、死なせるもんか……!」
熱線が緑の砲身から迸り、まるで光の柱の如く夜空を照らしていく。
キラはそれを横に薙いで、飛来する砲弾を次々と撃ち落としていった。
超高速で飛来する砲弾を全て撃ち落とすという神業のような所業に、立ち尽くしていたサクヤが目を瞠る。
「……すごい……」
不思議なことに、それ以上の砲撃は無い。
生き残れた喜びよりも、神業を目にした衝撃の方が大きいようだった。
静まり返るアークエンジェルの艦橋では、後方から接近する車両をキャッチしていた。
◆◇◆
「撤収だ」
「はっ? しかし、まだ待機中のディンが……」
「空っぽのボディバッグをまた増やすつもりかい?」
バルトフェルドが告げれば、副官のマーチン・ダコスタは双眼鏡から目を外し、指揮車へと戻っていく上官を見送った。
まるで悪夢を見ていたようだ―――とダコスタは思う。
威力偵察と銘打ってはいたものの、いざ蓋を開けてみればバクゥ5機とアジャイルを全て失い、艦砲射撃も全てが回避、もしくは迎撃された。
バクゥ5機が、ストライクを包囲していた頃まではほぼバルトフェルドの予測通りだった。狂ったのはそこからだ。
包囲までは成功したが、それ以降は決定的な打撃を与えることもできず、ミサイルにより散らされ分断されたところを各個撃破され全滅。
当初の目的は十二分に果たしたといえるが、これで本当に任務達成といえるかはバルトフェルドも首を傾げるものであった。
「全く……『流星』も一緒に落ちてたとは、聞いてないぞ」
2人は戦場から離れた砂丘の陰で、その推移を見守っていた。
当初は砂漠に足を取られる機体が見えたものの、その1機はすぐに甲板へ上り後方支援に徹し、そして動きのいい1機は左胸の流星マークを煌めかせながら5機のバクゥと対等、それ以上に渡り合って見せた。
失った5人のパイロットは、バルトフェルドの隊の中でも腕利きの者を選抜したはず―――にも関わらず、この結果である。
そして、駄目押しの艦砲射撃を撃ち落としたストライクの手腕。
「あれが、ナチュラルの仕業だと―――?」
バルトフェルドは唸り、皮肉な笑みを浮かべた。
地球圏のメディアで喧伝されている、地球連合軍のエース部隊、特殊戦技教導隊。
その中の一人、人の好さそうな、精悍な青年の顔を思い浮かべて指揮車へと飛び乗った。
「ダコスタくん、本国に連絡だ。『流星』は燃え尽きていなかった、とな」
最後に、ちらと敵方を見遣れば白亜の巨艦とモビルスーツの周りに集結しつつあるバギーの姿が見える。
これも利用できそうだな―――とバルトフェルドは悪巧みを思いついた少年のように悪戯っぽい笑みを浮かべた。
アイツあの事まだ怒ってんのかな……
───スレッジハマーに巻き込まれた中尉