MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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14話 蜃気楼

 

 アークエンジェルは、戦闘地域からほど近い地点に着底した。

 戦闘は夜明け前に終わっていたが、正体不明の武装勢力のバギーとの一触即発の気配と、牽制するように間に立つ2機のストライク―――PSシステムがオフの『ディアクティブモード』の状態で、サクヤはシュベルトゲベールを地面に突き刺し、キラはアグニを両手に持たせた状態で佇ませている。

 バギーに乗る面々はどれもアラブ系の顔立ちをしており、衣装であったり年齢であったり、果てには個人携行火器でさえも統一性がなく、明らかに正規軍所属といった風体ではなかった。

 様子から見るに周辺で活動しているゲリラだろう、とマリュー達は判断していた。

 

 そして今は、彼等と話をすべくハッチの前でそのロックが解除されるのを待っている。

 その脇ではクルーの数人が小銃を持ち、身を潜めている。いざという時は、と考えて隣で拳銃の弾倉を装填しているムウに目を向ければ、あまり乗り気ではないようで渋い顔をしていた。

 

「俺、こういうのはあんま得意じゃないんだけどねぇ」

 

 やや慣れない手つきで弾倉を装填すると、その拳銃を腰のホルスターに戻す。

 意外、と思ってムウを見ていたマリューだがいつもの調子のムウに少し元気づけられるような気がした。

 少し緊張がほぐれ、やれやれと落ち着かないようにホルスターを触るムウに微笑んだ。

 着艦せず、自らキラを伴ってゲリラへの牽制を買って出てくれたサクヤといい、エースパイロットと呼ばれる人物には部隊を支えてくれる何かを持っているのかもしれない。そして部隊がピンチの連続に陥った時、どうにかして活路を切り開いてくれる―――そう思うと、彼等が今ここで自分達を支えてくれていることに心強く感じた。

 

 ムウがハッチを開き、朝のひんやりとした風が少量の砂と共に艦内へ流れ込む。

 外へと踏み出せば、こちらをじっと見つめていたゲリラの一団が警戒に目を光らせた。何者か知れない男達の集団の中で、ひときわ目立つ年長の男がずいと前に出る。

 どうやらその髭面の男が、この集団の頭領のようであった。

 

「地球軍第8艦隊所属、マリュー・ラミアス少佐です」

「あれぇ? 第8艦隊ってのは、全滅したんじゃなかったっけ?」

 

 マリューは思わずその集団の中で発言した若い男を睨み付けたが、頭領らしき男が低い声で制すればそれ以上は何も言わなかった。

 

「俺達は『明けの砂漠』だ。俺はサイーブ・アシュマン。勘違いしてもらっちゃ困るが、別にあんた達を助けに来たわけじゃないぜ」

 

 サイーブの言葉に、マリューがその真意を探るように彼の目を見つめた。

 すると男は、にやりと笑ってその目を見つめ返した。

 

「俺達も俺たちの敵を撃ったまで、でね?」

「あの砂漠の虎の、モビルスーツ相手にこんなことを?」

 

 ムウが呆れたように聞けば、サイーブは目を細めてその顔をじろじろと見る。

 なんだなんだとムウが戸惑えばああ、と思い出したようにサイーブが膝を打った。

 

「アンタの顔、どっかで見たことあると思えば……エンデュミオンの鷹か。ついでにあそこのモビルスーツの胸につけてるマークも思い出したぜ。『流星』だな?」

 

 ムウがわずかに意表を突かれた表情になり、マリューも驚くがそれを表情には出さない。

 連合軍の大々的な宣伝により、ムウとサクヤの存在はエースパイロット、勝利の立役者として喧伝されていたが、それでもザフトの勢力圏内で顔とマーキングを見ただけで判断できるというのは、大した事情通ではないか。

 2人の警戒心が上がり、会話を拾い聞きしていたサクヤもわずかに前のめりになった。

 

「んで、あんたらの艦が地球軍の新型特装艦アークエンジェルだろ? クルーゼ隊に追われて地球へ降りてきたって。そんであのモビルスーツが……」

「X105……ストライクと呼ばれる地球軍の新型機動兵器のプロトタイプ。なんで2機あるのかは知らないが」

 

 サイーブが傍らに立つストライクを顎で指せば、会話に割って入るようにやや高めの声が差し込まれる。

 その声の主である金髪の少女は、他のゲリラと同じく防弾ジャケットを着込んでいたがそもそも人種から違うようで、集団の中からは浮いて見えたが、会話に割って入るまでマリュー達はその存在に気が付かなかった。

 しかしマリュー達は彼女の詳細なプロフィールより、極秘であったXナンバーの情報をなぜ、どういった経路で入手しているかについてが気にかかった。

 

「さて、お互い自己紹介も済んだことだしめでたしめでたし―――といきたいところだが、そうもいかねぇ。こっちとしては目立つモンが降ってこられてびっくり、あんた達もこんなところに降りてきちまってびっくりしてるんだろうが……これからどうするつもりなんだね?」

 

 サイーブはあくまでも無害そうに話したが、しかしその目はこちらから何かを引き出そうとしていると窺い知れた。

 マリューは相手の企図に乗らないように、そっと尋ねた。

 

「力になっていただけるのかしら?」

「ンなら、まずは銃を下ろしてもらわねえとな? アレのパイロットも」

 

 どうやらサイーブは、ハッチ脇で待機させていたクルーの存在に気がついていたらしい。

 番人よろしくゲリラとの会談を見守っていたモビルスーツも武装を解け、といったように顎で示した。

 マリューはハッチの脇で様子を伺っていたクルー達に手で合図して警戒を解かせると、引き続き2機のストライクに向き直る。

 

「サイジョウ中尉、ヤマト少尉! 降りてきて!」

 

 果たして2人は、マリューの指示通りにハッチを開けてラダーに掴まり、砂漠の砂地へと降りた。

 2人はマリュー達と合流すべく、一緒に歩き出しながらヘルメットに手をかけて一息に脱いだ。

 現れた顔―――特にキラの顔を見て、ゲリラ達がどよめく。

 

「あれがパイロットかぁ?」

「白いのはともかく、あっちはまだガキじゃねえか」

 

 どよめくゲリラ達の中で、大きく息を呑んだ者が一人。

 次の瞬間、屈強そうな長髪の男の脇をすり抜けて先ほどの金髪の少女がキラの目の前に飛び出した。

 

「お前……っ!」

 

 これまで慎重に動きを探り合い、読み合いをしていた会談で、この衝動的な行動は突出して映り、かつ誰もが意表を突かれて動き出せなかった。

 一番最初に動き出せたムウが、ホルスターに手をかけようとすればその動きを牽制するように先ほどの長髪の男が眼前に立ち塞がった。

 一方で、ただならぬ雰囲気を察知したサクヤはいつでもキラを庇えるように少し腰を落として身構える。

 

「おまえがなぜ、あんなものに……っ!!」

「少し、乱暴が過ぎるんじゃないか?」

 

 喧嘩腰に叫んだ少女が、キラに手を上げようとしたところをサクヤが前に出て止め、その拳を受け止めた。

 拳を受け止められた少女は悔しそうに睨みつけて、当人がその勢いに若干たじろいだ姿を見せると今度は標的を変えてサクヤに食って掛かった。

 

「あんたも……っ! なんでストライクが、2機もあるんだっ!」

「軍機だとか、色々ある。おいそれとは答えることはできない」

「地球軍の言いそうなことだなっ!」

「地球軍だからな」

 

 押し合い引き合いの押し問答の末、サクヤがぱっとカガリの拳から手を離せばバランスを崩してその場に尻もちをつく。

 何とも言えない空気の中で、サイーブの咎めるような怒鳴り声にびくりと体を震わせてしぶしぶと立ち上がり、サクヤとキラを睨みつけた後仲間たちの方へ戻っていく。

 

 ―――あれで、一国のお姫様なんだものな……

 唖然として彼女を見送るキラとともに、サクヤも半ば呆けながらその背を見ていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 砂の海の中に、氷山の如く突き出した岩山にアークエンジェルが近付いていく。

 降下地点から200km近く離れた場所に、このゲリラの拠点は存在していた。

 岩山の表層にはぽっかりと多くの穴が開けられており、元からあった洞窟なのかどうかは分からなかったがその中には多くの武器や弾薬、生活物資が非正規の武装集団にしては整然と積み上げられていたがその統一性のなさが雑多な印象をアークエンジェルのクルー達に与えた。

 岩山に囲まれた谷底にアークエンジェルが、両翼で岸壁を削りながら着底する。その艦体の上からサクヤとキラのストライクが上空からの隠蔽用に偽装網をかけていく。

 結局戦場の主役がモビルスーツと特装艦に移り変わってもやることは変わらないのか、とやや過去(前世)のトラウマを抉られながらその作業を終え、格納庫に戻りコクピットから降りると、いつの間にか艦に乗り込んでいた先ほどの金髪の少女―――カガリ・ユラが見えた。

 

「……セキュリティは、どうなってるんだ」

 

 ここから摘まみだそうと、サクヤが彼女に近付いていくよりも早くカガリがキラと接触してしまった。

 上目遣いに睨むようにして、キラと何かを話しているようであったがアークエンジェルの留守指揮官を任されているサクヤにとっては、今後味方となるかもしれない存在であっても、例えどこぞの中立国家の国家元首の一人娘であってもその侵入を許すわけにはいかなかった。

 ちなみに今回はいつもの発作は起きていない。完全に趣味の範囲外だったようだ。

 

「ここは立ち入り禁止だ。どこから入ったんだ、全く……」

「あ、サイジョウ中尉」

「んなっ! いいだろう、少しくらい!」

「いいわけないだろ!」

 

 艦とモビルスーツの存在を知っているからなのか、それともこれを建造した国の指導者の娘という意識からだろうか、あくまでも少しくらいは問題がないと言い張るカガリに、若干の苛立ちを見せつつサクヤがその場から引っ張り出そうとする。

 またも押し合い圧し合いとなり、目の前で険悪な雰囲気になっていく2人を見かねたのかキラが仲裁に入ろうとしたところで、突然―――

 

「ちょっ、待てよフレイ! そんなんじゃ、分からないよ、ちゃんと話を……」

「うるさいっ! 話なら、もうしたでしょう!?」

 

 キャットウォークの上から言い争う男女の声に、掴み合っていた大の大人と少女2人、それを仲裁しようと止めに入るキラに加えて格納庫で作業をしていた全員の視線がその方向に一斉に向けられる。

 機動兵器の鎮座する格納庫に似つかわしくない口論していたのは、フレイと彼女に追い縋るサイだった。

 まさか、今のタイミングでアレなのか―――と身を固くするサクヤの予想とは違い、その2人は格納庫から出ていく。

 

「あれ、違う……?」

「何がだよっ」

 

 いつの間にかサクヤの手から逃れたカガリが、先程と同じく上目遣いで睨みつけながら言う。

 

「何でもない。いいから、早くここを出ろ。勝手な行動が続けば協力が御破算になるぞ」

「っ! いちいち嫌な言い方をするな、お前はっ」

「地球軍じゃまだマシな方だよ」

 

 予想が外れたな、と首を傾げつつ近くの手透きの整備兵を呼びつけカガリを格納庫から出すように言うと、渋々と格納庫から出ていく。

 その背が通路に消えるか消えないかの寸前で、サクヤはキラに向き直った。

 

「さ、それじゃもう一仕事しようか」

「あ、はい」

 

 ハンガーに固定されている2機のストライクに向き直れば、先程の戦闘で目立った損害のない1号機と、それと同じ程度に修復がされた2号機の姿が目に入る。

 ディアクティブモードでは外観上に大きな差異はなかったが、起動時はやや明るめの機体色の1号機に暗めの色調の2号機、といった色調で見分ける事ができた。

 それ以外では、最も顕著な特徴として左胸の流星マークが目についた。

 

 グリマルディ戦役での大勝利(・・・)の後、宣伝に利用されたパイロット達には味方の士気高揚、敵の萎縮を狙いパーソナルマークであったりカラーが与えられることになった。

 

 エドやレナは自分のセンスを発揮してそれぞれ好きなようにしていたが、自身にそういったデザイン面のセンスが皆無なことを分かっていたサクヤは、そのデザインを企業に委託した。その企業がアズラエル傘下の広告代理店であったことは当人の知るところではなかったが。

 ともあれ、英雄から委託されたとあれば、企業の威信にかけて社内で大規模なデザインコンペティションが開催される運びとなり、その結果選ばれたのが青い星に2本の赤線があしらわれた流星マークである。

 デザインが決定したその日、終日機嫌が良かったのは言うまでもない。

 

「……中尉のストライクと、ぼくのストライクは何か違うところがあるんですか?」

「色とOSくらいかな」

「それで、あの動き……」

 

 開発初期のOSを知っているキラにとって、それでザフトのコーディネイター達に大立ち回りをしてみせ、剰え自身が使用するのを躊躇うほどにバランスの悪いマルチプルアサルトストライカーを装着したパーフェクトストライクを手足の如く操ってみせたサクヤの技量は信じられないものであった。

 同じくサクヤも、土壇場で敵の砲弾を撃ち落としたキラの射撃と技量を自分には真似ができないだろうと確信していた。

 

「教導隊だからさ。あのくらいはやってみせないと、色んな人に怒られる」

「教導隊……あの、教導隊って」

 

 整備兵達から流れている噂は、格納庫にいれば否が応にも耳に入る。

 曰く、教導隊はムルタ・アズラエルの私兵であり運用にはその意向が多分に含まれているだとか、地球連合軍に所属するコーディネイターはMSに乗らされて教導隊の実弾射撃の的にされている、といった様々な根も葉もない噂が流れていた。

 前者はともかく、後者はありえないだろう―――と艦内でも否定の声が多数であったが軍内のあれこれを知らぬ少年兵達……ヘリオポリスの学生達の中ではそれを信じ込んでしまう者もいた。

 

「ブルーコスモスの私兵、かい?」

「あっ……いや、その」

 

 その手の噂に慣れていたサクヤは、しどろもどろになるキラにやや苦笑いではあったが笑いかけた。

 コーディネイターの排斥を掲げる団体の私兵ともあれば、コーディネイターである自身のことはどう思っているのか―――ファースト・コンタクトでああは言っていたものの、流れている噂を聞けばキラは不安にもなってくる。

 努めてその不安を解消すべく、サクヤはあまり深刻にならないよう言った。

 

「俺は地球連合軍の……大西洋連邦の軍人さ。今はそれ以外の何者でもない」





ウワサもここまで荒唐無稽だと訂正する気すら起きなくなってくるな……

───でもちゃんと隊の名誉を守る中尉
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