MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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いつも素敵な感想を頂き感謝しております。
しばらく蒙古と戦ってくるので感想への返信ができなくなります。
再来週分まで予約投稿してあるので更新は予定通りです。




18話 果ての先

 

「僕はコーヒーには一家言あってね……その辺にかけたまえ。自分の家だと思ってくれていい」

 

 サイフォンを弄りながら、先程のサングラスの男―――アンドリュー・バルトフェルドが言う。

 キラがソース塗れになったケバブを食べ終えた後、ブルーコスモス……サクヤが言うにはその名を借りているだけのテロリストの襲撃を退けた一行はバルトフェルドからお礼と言って自身の拠点へと案内されていた。

 

 高級ホテルを徴用したその部屋は、元はこのホテルの中でも最上級の部屋だったのだろう。中庭に面した側はフランス窓になっており、それに背を向けてアンティークのようにも見える書き物机が置かれている。

 間違いなくこの部屋の主の趣味を反映したであろう部屋で、キラは落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見回す。

 その中で、サクヤはそうさせてもらいますと言ってソファーに座り、自分の家程ではないにしろくつろぎ始める。そのサクヤが、大理石のマントルピースを注視し始めれば、つられてキラもそれに目を向けた。

 

 誰もが必ず一度は目にしたことのある奇妙な生物の化石―――そのレプリカだった。

 

「『Evidence01(くじら石)』……実物を見たことは?」

 

 バルトフェルドが人数分のカップをサクヤの前に置き、キラに尋ねる。

 いいえ、とキラが答えればそれも当然だろうとバルトフェルドが言い、同じくしみじみとそのレプリカを眺めた。

 

「今は、プラント市民しか見れないからねぇ。そこのキミも、そうだろう?」

「ええ。映像では見たことありますが、こうやってレプリカでもくじら石を見るのは初めてで」

「くじら石、ねぇ」

 

 軽く笑いながら、バルトフェルドは自身が淹れたコーヒーの香りを少し嗅ぐと、興味を無くしたようにくじら石から目を外して前に座るサクヤへと向き直る。

 

「ジョージ・グレンが持ち帰った遺物って、言うけど……本当に持ち帰ったのはこれだけなのかねぇ?」

 

 何を言っているんだ、とキラがバルトフェルドの方を見ると同時に、サクヤがすっと目を細めるのが分かった。

 その反応に満足したように、バルトフェルドが続けた。

 

「このくじら石だけがそこにあった……って言われているのはもう周知の事実だけどさ。もっと他にも何かあったんじゃないか、って。ま、これは僕が勝手にそう思ってるだけなんだがね」

「……例えばどんなものが?」

 

 サクヤが聞けば、バルトフェルドは顎に手を当てて唸り始める。

 ああでもない、こうでもない……と首を捻り、考える彼を見て同じくサクヤもくじら石の他に何かしらの遺物があったら、と考え始めて突如脳内にエンデュミオン・クレーターで見た光景が脳裏に浮かぶ。

 得体の知れない、光に包まれた巨大な何か。巨人かもしれないし、巨神かもしれない。

 そこまで思い浮かんだところで、またも別の何かが思い浮かぶ。過去の記憶、太陽系第五惑星に眠る血塗れの巨神。そこまで考えたところで、まさかと思う。

 もしそうであれば、アレがそれであるならば既に人の意思を吸って発動してしまっているだろう。

 そこまでの人死にがでているのだから、と考えを打ち切ったところでバルトフェルドがああ、と手を打った。

 

「そうだな……巨大異星人の機動兵器、なんてのはどうかね?」

「はは……」

 

 最早乾いた笑いしか出なかった。

 会話をここで打ち切ろう、とサクヤが供されたコーヒーに口をつければ、キラも慌てて口をつける……も苦かったようで、少し表情に出してしまった。

 それを見たバルトフェルドが愉快そうに笑う。

 

「ふむ、きみにはまだオトナの味は早かったようだなぁ……そっちのきみはどうだい?」

「美味しいですよ。久しぶりに本物を飲みましたし」

 

 事実、これまでは不評しか聞かない代用コーヒーばかりであったのだ。

 そうかそうか、これが本物だと分かるかとバルトフェルドは嬉しそうに相好を崩しながら美味そうに自身の前に置かれた黒い液体を啜り、再びマントルピースの方へと視線を戻した。

 

「まぁ、持ち帰ったそれが何個だったにしろ……厄介な存在だよねぇ、これ」

 

 キラが聞き咎める。

 隣に座るサクヤは確かに、と呟いていた。

 

「厄介……ですか?」

「そりゃあ、そうでしょ? こんなものを見つけちゃったら、さ。希望―――いや、可能性の方がいいかな? そういう、不確かなものを信じるようになっちゃったわけだし……」

 

 相手の言葉が理解できず、キラは首を傾げる。

 彼に分かりやすく説明するように、サクヤが口を開いた。

 

「人は今、戸口に立っている……可能性って、そういうことさ」

「きみは、よく分かっているようだねぇ……その通りさ」

 

 サクヤ自身にも、身に覚えが無い訳でもない。

 前の追撃戦、ひょっとすればそれ以上前からそれは始まっていたのかもしれない。むしろ、ガンバレル適正があった頃から疑うべきだったなとは今更ながら思う。

 自惚れでなければ、自分はそれに間違いなく覚醒し始めている―――本当に、その扉の前に立っているのかもしれない。

 その事実は、自身をどうしようもなく遣る瀬無い気分にさせた。

 

「コーディネイターか、ナチュラルか……それとも、ジョージ・グレンの言う新人類(ニュータイプ)か……ま、そんなものはまだ存在しないだろうがね。ともかくその可能性ってのが、この戦争の根底にあるものさ」

 

 可能性に、終わりはない。

 我々はまだ、この先へ進むことができる。

 いつか、時間さえ支配できる。

 だからこそ他者より強く。

 何よりも他者より先へ。

 どこまでも他者より上へ。

 

 そうして人は、神の領域へと手を出した。望む姿、形、力を身に着けられるよう人の意思が介在して生み出されたそれを、コーディネイターと呼んだ。

 生み出されるコーディネイターは様々な人の貪欲さを呼び、これができるのならばそれ以上、さらに先へと可能性を引き伸ばして多くが生み出されていく。

 そうして全ての人類は自身のエゴを肥大化させ、貪欲に可能性を貪り続けた結果ナチュラルとコーディネイターといった対立構造を生み出し、この戦争を引き起こして何十億もの人を殺してきた。

 

 あまりにも哀しい結果だと、キラは考える。

 しかし、こうも考えるのだ。貪欲さがこの戦争を引き起こしたのならば、自分達コーディネイター自体がこの戦争の根元なのではないか、と。

 そのキラの考えを見透かしたかのように、バルトフェルドが言う。

 

「コーディネイターの存在が、戦争を引き起こした……とも僕は最初は思ったが、しかし、我々は生み出された側だ。さて、生み出す側と生み出される側のどちらに、非があるのかね?」

「……非なんて、どちらにもありませんよ。生み出す親の理屈も、生み出される子の理屈も並立しますから。どちらもエゴだから、衝突するんでしょう?」

 

 バルトフェルドの言葉に、サクヤが真っ向から返す。

 ほう、と感心したように意外そうな顔で見つめるバルトフェルドとサクヤの方を静かに見つめるキラ。

 強引に話題を変えるように、控えめなノックの音が部屋に響く。

 3人がそちらを振り向くと、アイシャに続いてカガリが入室する。が、カガリは彼女の背後にくっつくようにして部屋の中に入り、その姿はよく見えない。

 

「恥ずかしがることなんて、どこにもないじゃない? ほらっ」

 

 アイシャが笑い、彼女を自身の背から追い出す。

 キラがぽかんと口を開け、サクヤはふぅんとカガリを見遣った。

 

「ほっほーう……」

「おんな……の子……」

 

 バルトフェルドがソファーから立ち上がり、カガリの姿をじろじろと見聞した後アイシャにいい仕事だと言って彼女を褒める。

 髪を結い薄い化粧を施され、裾の長いドレスに身を包んだ姿はいつもの男勝りな姿からは想像もできないほど女性らしさが前面に押し出され、キラを赤面させた。サクヤは全く趣味ではなかったので女は変わるものだな、といった感想を抱いただけだったが。

 思わずつぶやいたキラの感想が逆鱗に触れ、カガリが怒りの形相で詰め寄り、慌てて弁解するキラ。

 アイシャは用事が終わったのか、部屋から出て行っていた。

 

「まぁまぁ……2人とも、ゆっくりコーヒーでも飲みたまえよ。きみは彼女の恰好、どう思う?」

「ン? ああ、似合ってると思いますよ。どこかのお姫様みたいだ」

「んなっ!」

 

 突然の誉め言葉にカガリが狼狽する。それとも、お姫様という言葉に驚いただけだろうか。

 あまり考えないで発した言葉であったが、本当にわかりやすい子だな、とサクヤは思う。

 

「お姫様―――ね。うんうん、実にいい誉め言葉だよ」

「お前なっ!」

 

 カガリの反応に気をよくしたのか、バルトフェルドが朗らかに笑う。

 カガリは今にも食って掛かりそうな雰囲気であったが、キラが押し留めているお陰でソファーから動かないでいた。

 

「いや……今日は本当に、いい話ができた。感謝するよ。折角だし、お土産にこれでも持って帰りたまえ」

 

 嬉しそうに、にこにこと笑うバルトフェルドが自身の書き物机の上に広げられていたコーヒー豆を手早く包み、サクヤに手渡し握手を求めて右手を差し出す。

 コーヒー豆を受け取り、若干考える素振りを見せ躊躇しつつも、サクヤはその手を取った。

 嬉しそうに手を握るバルトフェルドだったが、小声でぼそりと呟いたそれはサクヤの身をひやりとさせるのに十分な言葉だった。

 

「―――次は存分に、な。『流星』くん。あのコーディネイターの彼も」

 

 ここまでの殺気を隠せるものなのか、とサクヤは心胆寒からぬ思いで自身の敵の顔を見据える。

 凄味を湛えた笑みは、やっと見つけた獲物を自分の手にできるといったものだろうか。飲み込まれそうになる自身を奮い立たせ、動かなくなりそうな手に力を込めて握り返した。

 虎は、笑っていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「失礼します! バルトフェルド隊長、周辺の状況についての質問ですが」

「ん、入りたまえ」

 

 執務室のドアがノックされ、許可を出せば真面目そうな少年が部屋の中に入るのが分かった。嗅ぎ慣れない臭いに怯むのも、上官たるバルトフェルドの隣に女性が侍っているのに赤面するのも感じ取ることができた。

 初心なエリートなのだな、と思えばまだまだ少年なのだと微笑ましくも思った。

 

「きみもまだ、オトナの味が分からないクチかね? その様子だと、歌姫様と手も繋いでいないみたいだねぇ」

「ら、ラクスの事は……」

 

 そこで何故か、顔を赤くして狼狽えるアスランと先ほどこの部屋を訪れていた少年が重なって見えた。

 何か縁があるのかもしれない、と思いながら持っていた質問のリストを受け取り、さっと目を通す。

 どれもこれも、ダコスタの情報とレセップスのデータベースを参照すれば判明するような事実ばかりだな―――と思いつつ、後で解答を渡そうと言えばアスランは敬礼をして部屋から出ていった。

 アイシャと2人きりになった部屋で、バルトフェルドは再び窓の外へと目を遣り、沈み始める夕日を見つめた。

 

「あらあら……ご機嫌ナナメみたいね」

「全く、嫌になるな。やっと話せるトモダチを見つけられたのに」

 

 気まぐれに街なんか出るからよとアイシャが歩み寄り、バルトフェルドに身体を摺り寄せる。

 擦り寄って来たアイシャの身体を両腕の中に収めて虎は愛人に問うた。

 

「メーターが、200キロまでしかない車で200キロ以上出そうと思えば、どうなると思う?」

「どうもこうも、何百キロでも出せるわ」

 

 アイシャが短く答える。

 

「そう。アクセルさえ踏めれば、何百キロだって出せるのさ。……でも、今日はちょっとそうできるか不安になっちゃってね」

 

 アイシャが意外そうにバルトフェルドを見上げる。

 いつになく自信のなさそうな顔だった。

 珍しいものを見たかのようにアイシャが微笑む。

 いつもならば、自信に満ちている彼であったが今日は少しナーバスになっているようだった。

 自身の趣味もそうだが、色々と馬の合う存在と出会えた。

 その事実が、彼をそうさせていた。

 

「……彼を殺さなければならないのが、本当に残念だよ。もっと色々と話したいこともあるのにな」

「でも、存分にその彼と死合いたいのも……そうでしょう?」

「そうなんだ」

 

 残念そうに、寂しそうに微笑むバルトフェルドに、アイシャは蕩けるような笑みを浮かべる。

 殺すことが残念だと言いつつ、しかし自分の実力を十全に出して戦うことのできる存在の出現を嬉しく思うという二律背反。

 どこまで自分がやれるのか、どこまで相手が自分に食らいついてくれるのか、もしかしたら喉元に食らいつかれるのは自分なのかという可能性の追求。

 

 その彼と死合うことになれば、自身もその場にいるだろう。果たして、自分の愛する男はその時にどのような表情でいるのだろうか。

 それを思い浮かべれば、ますます惚れてしまうかもしれない。

 ひどく残念そうな、しかしこれまでにない笑みを浮かべる彼の頬をそっと撫でた。

 

「かわいそうに……」

 

 その言葉は誰に対するものか。

 先ほど出会ったトモダチに? それともバルトフェルド自身に?

 呟いたアイシャですら、分からない。

 だからこそ―――魅力的なのだ。





それか異星人の演算ユニットなんてのはどうだい?

―――戦後は木星行きを考えている男

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