MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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19話 つきあかり

 

 夜の砂漠で見る星は綺麗なものだな、と思う。

 

 虎のねぐらから出た後、迎えに来ていたカガリの付き人らしき男(キサカ)の車で拠点に戻ってから数時間。

 時間に遅れた事への謝罪、テロリストの襲撃を受けて虎と接触した事への説明を終え、休養の時間となっていたが中々寝付けなかったらしく艦内を歩き回った後、停泊するアークエンジェルの近くで誰かが消し忘れた焚火の始末も兼ねて再度火を起こしたサクヤは、ぼうっと夜空を見上げていた。

 

「……皆、まだ月にいるのかな」

 

 ふと、月に残してきた……もとい、置いてきたというべきか、それとも自分が飛び出してきたというべきか。

 教導隊は今頃どうなっているのかが頭を過ぎり、浮かぶ月を見上げる。

 人員の増加がある、と第8艦隊の救援に出る前に知らされていたが、それが誰だったかは終ぞ分からず終い。この時期であれば、ロングダガーかデュエルダガーか、どちらかは忘れたがそれの開発がそろそろ完了する頃であろう。

 で、あればソキウスの可能性もある……が、今更教導隊にコーディネイターを入れるだろうか。

 ただでさえナチュラル用のOS開発が主目的であるのに、システムエンジニアの目的以外でコーディネイターの入る余地があるのか……などと思考を巡らせながら、休養時間であるのに仕事のことをずっと考えている自分に苦笑した。

 

 よき同僚や友はいても、あくまでも仕事絡みのもので趣味やそれといった方面での交友関係は皆無に等しい。

 唯一の身寄りと呼べる親類も、全てエイプリルフール・クライシスとそれに伴う混乱で未だ連絡がつかない、もしくは死亡通知だけが届くという状況では、最早仕事しか寄る辺がなかった。

 そもそもこの身体に自分の意識が移り変わってしまってからは、血の繋がりというだけの縁だったが。

 改めて、こうやって夜に一人でいると『仕事』という柱が無くなれば自分は本当の根無し草になってしまうな、という事を実感してしまった。

 

「……ここにいたか」

 

 そうやって黄昏ていれば、この時代にもかかわらず弓矢を背負ったランボーの如き大男ことキサカが、カガリを伴ってサクヤに声をかけた。

 その両手には湯気の立つマグカップが2つある。

 

「ランボーさんと……お姫様か」

「…………」

 

 キサカとカガリはサクヤと共に焚火を囲むように座り、マグカップを無言で差し出した。

 それを受け取れば、代用コーヒーの貧弱な香りが鼻をつく。地球連合のレーションの中にも入っているそれはまずいと兵達にも不評であり、それはサクヤも同様で、バルトフェルドが淹れた本物のコーヒーを飲んだ後では尚更だった。

 それを傾けながら無言で焚火を3人で囲んでいると、徐にキサカが口を開いた。

 

「先日は、済まなかった。本来ならば私が止める立場だったのに、それをしなかった……今思えば、恐ろしいな」

「……本当ですよ。お姫様に傷がついたらどうするつもりだったんですか」

「返す言葉もない」

 

 カガリは一言も発しない。

 一瞬だけ目と目が合い、びくりとすぐに外されてしまった。が、俯いたままカガリが訊いた。

 

「……いつから、気付いていた?」

「最初からさ。俺は、『アズラエルの私兵』だぞ」

 

 嘘である。

 しかし知っていた理由と脅しも含めて、敢えてサクヤは『アズラエルの私兵』という言葉を使った。

 彼等にとってそれは即ち、ブルーコスモスがこの行為を知ってしまったと同義でもある。

 風が吹き、囲んでいる焚火がぱちりと音を立てて爆ぜた。

 

「くっ……これをブルーコスモスに知らせる気か?」

「それをやってもいい、とは思うが、今のところそれをする価値はないな」

「何だとっ」

「反抗期の悪戯なんて、親父はいくらでも揉み消せるのさ」

 

 びくり、とカガリの体が震える。

 勿論、サクヤだって彼女の父がそんなことをするとは思っていない。

 寧ろ、屁理屈をつけ保護する方に走るだろう。しかし、ここで現実を知らせておかなければまた無用な事をして状況を搔き乱してしまうだろう。

 そんなままで国家の指導者になるなど、言語道断である。どうしてこのランボーはそこまで言い含めて教育していないのか、と若干の苛立ちを覚えながらそちらを見てみれば、複雑な表情をしていた。

 

「そもそも、ここでオーブのお姫様と現役の軍人がゲリラに参加しているなんて知れたら只じゃ済まない。明らかにオーブの理念に反しているぞ」

「違う、これは私の意思でっ」

「それは子どもの理屈だよ。他の大人はそうは思わない」

 

 このゲリラが地球連合とザフトの双方を相手取る組織であったらまだマシだっただろう。それでも、十分な国際問題であるが。

 しかし彼女らが参加しているゲリラは現在この地域一帯を支配するザフトに反抗する勢力であり、そして今は地球連合の艦と手を組んで反抗作戦を実施しようとしている。

 これは間違いなくオーブの中立宣言に反する行為であり、ザフトのオーブ侵攻すら誘発しかねない事態であるのだ。

 そもそもヘリオポリスでモビルスーツの開発計画に手を貸していたという事実がある現状では、そちらの方がスキャンダル足り得るだろうが。

 

「どちらにせよ、生まれであったり何なりで生まれる責任がある、というのは覚えておいた方がいい。特に君は」

「…………」

「それよりも、戦死者の家族と会ったと聞いた」

 

 先日の戦闘の後、カガリが大人しくしていたというのはアークエンジェルの中でも有名な話であったが、実際は戦死者の家族へ彼らの遺品を届けるようサイーブから指示を受けていたらしい。

 故に大きな動きや諍いもなく、動きがみられなかったという事でそのような話が流れたようであった。

 

「……みんなの遺品を、渡しに行ったんだ。怒られるだろうな、って。どんな罵声だって、覚悟してた……でも、誰も私を怒らなかった」

 

 ぽつぽつとカガリが語り始める。

 サクヤとキサカは少女の言葉を黙って聞いていた。

 

「正直……怒られるよりも辛かった……っ」

 

 カガリの瞳から涙が零れ始め、足元を濡らしていく。

 戦死者の遺族へ、その訃報を伝えに行くのは軍の中でもやりたがる者は少ない。むしろ、ほぼほぼ皆無である。

 それをやり遂げたカガリを少し見直すとともに、泣きながら続くカガリの言葉に耳を傾けていた。

 

「皆に渡しているとき、怒られる資格すらない、って思った……あの時、皆を死なせたのは私だから……っ」

 

 でも、とカガリが大事そうに懐から何かを取り出す。

 何の種類かは分からないが、鮮やかな美しい色をした石だった。

 燃える焚火の色を反射して、夜空の下で輝いていた。

 

「アフメドの母さんが、これを私にって……あんたは生きて戻るんだよ、って」

 

 隣のキサカが、この石の名と意味をサクヤに小声で伝える。

 孔雀石、マラカイトと呼ばれるそれは洞察力の石、魔除けの石という。

 邪悪なものを吸い取り、危険が近付くと知らせてくれる、という言い伝えがこの地域ではあると聞けば、サクヤは何故アフメドの母親がそれをカガリに託したのかが分かった。

 なおも涙を流しながら、カガリがその石を見つめる。

 

「他の皆もそう言ったんだ。生きろ、死ぬなよって……なんで、皆、そんな……っ」

「……お前に希望を託したんだ。皆がさ」

 

 俺があの時言った言葉を思い出せ、と優しくサクヤが言う。

 未来を示し、希望を繋ぐために戦う……ならば、戦えない者のそれは誰かが背負わなければならない。

 勿論、彼ら彼女らに戦場がない訳ではなく、それぞれがそれぞれの戦場で戦うだけだ。

 しかし誰でも戦場に出て、戦えるほど人類は完全ではない。だからこそ、人は託すのだ。

 希望と、未来を。

 

 それは誰かを戦場に縛り付ける呪いかもしれない。

 サクヤ達の背負った仲間たちの未来も希望も、誰かに言わせれば呪いと言い換えられる事だってあるだろう。しかし当人は、そうは思わない。

 託された者が、それを未来と希望であると信じる限りそれは間違いなく、それそのものであるのだ。

 

 いつの間にか、焚火は消えていた。

 コーヒーを一気に飲み干し、マグカップをキサカに返して大きく伸びをしながら、サクヤは立ち上がる。

 

「託されたんだ。その意味は、考えないと駄目だぞ……」

 

 立ち去り際にいつもの調子に戻った髪をくしゃりと撫でてやれば、子ども扱いするなとカガリが顔を赤くして怒る。

 そう言っているうちは、まだまだ子どもなんだとサクヤが笑い、そしてアークエンジェルへと戻っていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ゲリラの出撃と共に飛び立ったアークエンジェルの艦内で、出撃前の食事を摂るべくパイロット達は食堂に集結していた。

 現地調達したケバブが供されてサクヤとムウがそれを口にする中、キラはぼうっと皿の上のケバブをつついているだけであまり食が進んでいなかったようだった。

 

「なんだ、緊張してるのか? 早く食っといたほうがいいぞ」

 

 やるよ、と取り皿の上からもう一つのケバブをぽいと置くが、キラの表情はまだまだ晴れない。

 料理の問題ではないな、と思いつつサクヤも次のケバブへと手を伸ばす。4枚目だった。

 

「やっぱ、メシは現地調達が一番だねぇ」

「ですね、味気ない冷凍よりも全然力が出ますよ」

「少佐に中尉も……まだ食べるんですか?」

 

 キラが2人の食欲にげんなりして尋ねた。

 サクヤもムウも正規のメニューをとうに完食しており、今はあくまで補食とされているケバブにかじりついている。

 見ているだけでも胸焼けしそうだとキラは自分の食事に目を戻すが、ムウは心外そうに言った。

 

「戦ってる途中にメシなんて食えないんだから、今のうちにうんと食っとかなきゃ」

「まぁ、食が細いなら無理強いはしないけど」

 

 ムウの言葉にサクヤがフォローを入れる。

 パイロットたるもの、戦闘前には食事を済ませて血糖値を上げるべきなのだろうが、ここまで食べてしまってはGがかかった時にこの2人はどうするつもりなのだろうか。

 満腹時に戦傷を受ければ、それだけリスクも高まる……と医官から聞いていたキラだったが、目前の2人を見ると本当にそうなのか、と疑問すら出てくる。

 

「ほら食え食え。ソースはヨーグルトが一番だって」

「食欲ないなら、チリの方がいいぞ。辛いから食欲も」

「ンな事言ったら、ヨーグルトだって酸っぱいので食欲増進がだな」

 

 チリだ、いやヨーグルトだと言い争いをする緊張感のない2人を見ながら、キラは先日の出来事を思い出す。

 それと同時にチリとヨーグルト、デスソースの混ざったケバブの味とその後に嗅いだ硝煙の香り、そして印象的な姿の敵将も。

 

「『虎』は……ヨーグルトがうまいって、言ってました」

 

 キラの言葉に、2人の言い争いが止まり同時にキラの方を見遣る。

 目を伏せている彼の前に、2人はソースの瓶を置いた。

 

「ふうん、虎ってのは味の分かる男なんだな……」

 

 買い出しに出た組が砂漠の虎と遭遇した、と言う事実は既に報告済でムウも知るところとなっている。

 キラの言葉を気に留めた様子もなく、ムウとサクヤは食べかけのケバブを頬張って飲み込んだ。

 

「けど、敵の事なんて知らない方がいいんだ……早く忘れちまえよ」

 

 ムウの言葉に、キラがはっとして沈みかけていた記憶の海から我に返る。

 次のケバブにソースをかけていたサクヤも、それに同調した。5枚目。

 

「殺す相手の事を考えていたら、それに引っ張られるぞ」

 

 キラの表情が凍り付く。

 引っ張られる? 殺す相手に? そこまで考えたところで、思い浮かぶのは自身の親友と先日出会った敵将の顔。

 記憶の中にある親友は笑っていて、一番新しい記憶の中では顔を歪めてこちらに手を差し伸べていた。そしてその後は、こちらに銃を向けて―――

 記憶が渦を巻いて、頭の中でごちゃごちゃし始める。

 ぼくは、どうすれば……と考えていたところで、鈍い地響きのような爆音と、遅れて警報が艦内に鳴り響いた。

 

「接触したか……!」

「ったく、メシくらいゆっくり食わせろってんだ」

 

 サクヤとムウが立ち上がり、格納庫へと駆け出す。

 それに遅れてキラも走り出すが、頭の中では親友と敵将の顔がまだ残ったままであった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「中尉! 本当にそれでいいんで!?」

「バクゥ相手だったら、エールの方が有効です! ヤマト少尉がそっちでいいっ!」

 

 マードックの念押しに怒鳴り返しながら、自身のストライクを起動させていく。

 既に戦端は開かれた。

 ゲリラの構築した地雷原はザフトによって全てが処理され、有効打を与えられるだろうと豪語していた障害はすべてが取り除かれていた。しかしその程度は予想内だな、と戦況を表示させたモニターを見遣りサクヤは考える。

 現在確認できている敵情については空母1と駆逐艦が1。地雷原の処理要領から見て、恐らく今回は本気を出してくるに違いない―――と分析したところで、ムウのスカイグラスパーが射出された。

 艦内と接続している今では、ブリッジの様相はその無線を通して分かり、自分の発進の順番がやって来たことも分かる。

 

 とはいえ、サクヤはキラの事が心配だった。

 食事があまり進まない様子に加え、コクピットへ駆け込む時の表情。早めに対処しなければ、取り返しのつかないことに―――はもうなっているかもしれないが、それでもメンタルの調子を見てやるのは先輩の努めだと感じていた。

 

「ヤマト少尉……いや、キラくん」

「……中尉? どうしたんです?」

 

 いきなり繋がれた通信で、モニター越しにキラの怪訝そうな顔が映る。

 緊張を解してやるように、穏やかな調子でサクヤが話し始めた。

 

「さっきの話なんだが……多分、そんなに簡単に割り切れるものじゃないと思う」

「それは……」

 

 だからさ、と続ける。

 その場凌ぎの一時的なものかもしれない。これを言えば、彼の事だから更に思い悩んでしまうかもしれない。

 それでも、サクヤにはこれしか思いつかなかった。

 ごめん、と心の内で謝りながら。

 

「君はアークエンジェルを守ることだけに集中するんだ。それ以外は、俺とフラガ少佐がやる」

「中尉……でもっ」

「それでいいんだ。君は自分で戦うことを選んだにしろ、本当は学生で今頃は皆と遊んでいるはずだったんだ」

 

 子どもが戦争をするもんじゃない、と言っていたパイロットの事を思い出す。

 彼も結局はおかしくなっていて、部下を粛清といって射殺したりその子どもに矛盾を指摘され、最終的には自害してしまっていた。

 戦争に狂わされた被害者と言えば綺麗に片付けられるが、今の自分もそうはなっていないだろうか?

 

 分からない。だからせめて、まだ理想論を言える子ども達には現実を見てもらいつつも理想を貫いて欲しい。

 そう思うのは、少し年を取ったからなのかな、と苦笑してしまった。

 

「いつも通りだ。君はアークエンジェルの皆を守ってくれ」

 

 自身のストライクがAPUによってカタパルトへと運ばれ、肩に兵装が、その背には翼が生えたようなユニットが接続された。

 いつも通りだ、とサクヤはスラストレバーを握り込む。

 

「ストライク2号機、発進どうぞ!」

「サクヤ・サイジョウ、パーフェクトストライク! 行きます!」

 

 再び、砂漠へガンダムが飛び立つ。

 

 





えっ、デスソースないんですか!?

―――激辛大好き中尉
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