MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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21話 砂塵を越えて

 

 バルトフェルドのラゴゥ・ハイマニューバを相手取り、五分の戦いを繰り広げていたサクヤにとって周囲の戦況などは只のノイズでしかなく、故に動きの鋭いキラのエールストライクがデュエルの左足を切り落とした事も、カガリがスカイグラスパー2号機で出撃した事も耳障りな騒音の一つとして処理されていた。

 口に咥えられたビームサーベルとダガー、翼のビームブレイドからの斬撃を躱し、着地の隙を狙って伸びてくるアンカーを対艦バルカン砲の乱れ撃ちで撃ち落とす。

 

「えぇいっ!」

 

 反撃とばかりに右肩の兵装を撃ち尽くす勢いでラゴゥに射撃を加えるも、先読みを上回るスピードでの機動によりその全弾が回避される。

 ならば、と高速で接近して斬撃を加えようとする敵へその針路を予測してシュベルトゲベールを逆手に構えた。

 間合いが徐々に詰まり、そしてラゴゥがその武器を叩き込むべく飛翔する!

 

「いい攻撃だ、だがっ!」

「……浅いかっ!? うわっ!」

 

 ストライクとラゴゥ、両者の影が一瞬のうちに交錯し―――すぐ離れた。

 逆手に持ったシュベルトゲベールは飛び掛かったラゴゥの針路上にあった。あるはずだった。

 しかし結果として顕現したのは切り裂かれたラゴゥのビーム砲だけであり、バルトフェルドはそれを間一髪でパージしその爆発にストライクを巻き込んだ。

 素早く切り返して体勢を立て直したラゴゥと、シュベルトゲベールを突き刺して無理矢理バランスを取りそれを杖代わりにして立つストライク。右肩のコンボウェポンパックは先程の斬撃で破壊されていた。

 勝負は、全くの五分であった。

 全くの膠着状態で睨み合う2機であったが、その均衡が崩れるのは突然であった。

 

「……スカイグラスパー!?」

「ダコスタくん!」

 

 叫ぶが早いか、レセップス上空に到達したスカイグラスパー2号機が艦体に機銃を撃ち込み、その主砲を爆散させていく。

 上空で旋回し、返す刀で艦橋の根元にパンツァーアイゼンを打ち込みそれを支点にして急旋回、展開下したシュベルトゲベールで狂ったように対空砲火を伸ばすザウートごと甲板をズタズタに切り裂いていった。

 

「あれは、2号機……!?」

「よしっ! これでっ!」

 

 スカイグラスパー2号機が離脱すると同時に、アークエンジェルの主砲たる225cm2連装高エネルギー収束火線砲『ゴッドフリート』が火を噴いた。

 何の障害もなく直進するその熱線は、狙いを過たずレセップスの後部主砲と、シュベルトゲベールから逃れた残存するザウートを貫く。

 直後、火球に包まれたレセップスは黒煙を上げ、砂の海で座礁したかのように動きを止めた。

 

「足付き奴っ! しぶといっ!」

「アンディ、まずいわよ……っ!」

 

 ラゴゥのコクピットでは、アイシャが黒煙を上げるレセップスをスコープ越しに視認していた。

 自身の上空を掠めたゴッドフリートの火線がレセップスを狙ったというのはバルトフェルドも承知の上であったが、しかしここまで自分達が追い詰められるとは思ってもみなかった。

 

 上空のスカイグラスパーに応射する駆逐艦の姿は確認できていたが、それだっていつまで続くか分からない。

 現にアークエンジェルからの射撃はその艦に向けられつつあり、落ちるのは時間の問題でいつの間にか形勢が逆転していたことにバルトフェルドは歯噛みした。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「キラッ!」

「アスランッ!」

 

 ストライクとイージス、お互いのビームサーベルがシールド上で弾けてスパークを起こす。

 片足をストライクに切り落とされて無線で喚いていたデュエルはブリッツに回収され既に後方へ下がり、バスターは上空でムウのスカイグラスパーに追い回され、未だアークエンジェルに対し決定打を与えられずにいた。

 

 アークエンジェルは戦線に復帰して、援護の火線と正面の敵艦への攻撃を再開しつつある。

 旗艦たるレセップスからは黒煙が上がり、既に大勢は決しつつあった。

 

「下がれよアスランッ! 勝負はついたぞ!」

「まだだっ! せめて、足付きは落として……!」

 

 押し合い圧し合いの中で、イージスが爪先からビームサーベルを展開させて蹴り上げるようにそれを振るう。

 機体を捻らせて間一髪でそれを回避し、ストライクがシールドで思い切りイージスを弾き飛ばした。

 PS装甲が発動して機体へのダメージは抑えられたものの、エールストライカーの推力を加えた衝撃を消し切る事はできず、弾き飛ばされた赤い機体が砂漠に数度バウンドして叩き付けられる。

 追撃するストライクであったが、上空からのバスターの援護射撃でそれを阻まれ後退、その隙にアスランは機体の体勢を立て直した。

 

「アスラン、そろそろやべぇぞ! バスターのエネルギーが保たねぇ!」

「くっ……バルトフェルド隊長は!?」

「いやぁ、無事かね?」

 

 ディアッカとの会話の最中、バルトフェルドが通信に割り込む。

 いつも通りの汗ひとつない不敵な笑みを湛えた顔であったが、どこか清々しい表情をしているように思えたのはアスランの気のせいだったのだろうか。

 

「こっちも大分、良くない状況でね……レセップスに、退艦命令を出す。残存兵を纏め上げて、バナディーヤに引き上げたまえ。すまんが、後は君に任せる」

「何を言って……!?」

「どうにも、背中を向けて逃げられそうな相手ではなさそうなんでね。申し訳ないが、頼んだよ! 僕が殿だ!」

 

 一方的な指示を告げられ、バルトフェルドからの通信が切れた。

 あの砂漠の虎が、ここまで追い詰められて―――? と思う間もなく、ストライクからの追撃が再開される。

 どうすれば、と迷っていれば斬り掛かったストライクのビームサーベルがイージスの左腕を捉え、切り裂く。

 イージスの肩口から火花が上がり、腕を吹き飛ばした。

 

「クッ!」

「アスランッ! 後退なんだろ、乗れよっ!」

 

 振り下ろしたビームサーベルを返すように、ストライクが逆袈裟にそれを斬り上げようとするが援護に入ったバスターのミサイルが直撃して吹き飛ばされた。

 その隙に機体を後退させ、バスターのグゥルに飛び乗って後退していく。後ろでは、PSシステムがダウンしてその場に膝をつくストライクの姿があった。

 眼前ではレセップスが黒煙を上げ、駆逐艦がアークエンジェルの主砲に貫かれているのが見えた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「まさか、ここまで追い詰められるとはなっ!」

 

 両翼のレールキャノンを撃ちながら、ラゴゥがストライクに肉薄する。

 ストライクは左腕のパンツァーアイゼンを射出、続いて右手で引き抜いたマイダスメッサーを投擲。コーディネイターの動体視力でそれを視たバルトフェルドは、苦笑した。

 

「これは……!」

 

 このまま直進すれば、ストライクの大剣で八つ裂き。

 左右に避ければ、鞭の如く横薙ぎに振るわれたパンツァーアイゼンに絡めとられる。

 では、上空に飛び上がれば? ジャンプした先を予測して投擲されたマイダスメッサ―が襲い掛かるだろう。

 既に敵の間合いに入り込んでしまっている。射撃武器を使わないのは、弾が切れたからであろうがそれでも圧倒的不利なのは間違いない。

 並のパイロットであれば、諦めるだろう。しかし少なくとも彼等は並のパイロットではなかったし、本人達もその自覚はあった。

 

「アイシャ!」

「任せて!」

 

 ラゴゥに残った唯一の射撃武器、翼下のレールガンが一斉に火を噴く。

 プラズマを纏った砲弾が超高速で発射され、それらがシュベルトゲベールの峰を、パンツァーアイゼンのワイヤーの根元を捉えた。偶然、と言うにはあまりにも出来過ぎている。

 どちらもPS装甲は備わっておらず、超高速で飛来する弾丸を受ければ砕け散るのは至極当然のことでそれは砲手たるアイシャの、女の意地を懸けた狙撃だった。

 

「しまった!?」

「流石!」

 

 ラゴゥが弾丸の如く加速する。

 バックパックからビームサーベルを抜き放とうとするストライクであったが、ジンハイマニューバのエンジンを転用したそれの加速に反応し切ることは出来ず、その加速の勢いのまま切り裂こうとするラゴゥの斬撃を躱しきることは出来なかった。

 

「速過ぎる……っ!」

 

 バックパックのウィングが切断され、スパークしながら爆発した。

 反応がもう少し遅ければ、機体を両断されていたとサクヤは冷や汗を流す。

 しかしラゴゥも無傷ではなく、何とか間に合ったストライクのビームサーベルの抜き打ちでその翼を片方捥がれてしまっていた。

 

「……やるなっ!」

 

 バルトフェルドがコンソールを操作し、バランスの悪くなったハイマニューバ・ユニットをパージする。

 翼を失ったラゴゥであるが、しかし依然として口に咥えたビームサーベルと牙のようなビームダガー、そして砂漠の王者の代名詞たる四肢は健在であった。

 一方で、サクヤのストライクは長期戦とそのストライカーパックの特性から既にエネルギーは底を尽いて先程のビームサーベルの一閃で最後のバッテリーパックを使い切り、残るは機体のバッテリーのみであった。

 

「……アイシャ、脱出しろ」

 

 ラゴゥに、射撃武器の類はもう存在していない。

 故に、アイシャがそこに居る意味も失われているのだ。アスランに任せた残存兵は後退の準備を始めており、ここでアイシャが脱出しても、生き残ることは出来るだろう。

 これはあくまでも自分の都合であり、これに愛人までも付き合う必要はない―――と考えていたバルトフェルドであったが、こちらを振り返り肩をすくめて笑う彼女の顔を見れば、そんな考えはすぐに吹き飛んだ。

 

「そういえばきみも、馬鹿だったな……」

 

 だからこそ、彼女に惚れたのかもしれない。

 愛しい女の笑顔を瞳に焼き付け、彼は前方に―――思う存分、自分と死合えるトモダチへと目を据えた。

 

「では、行こうか!」

 

 再度、ラゴゥが弾丸のように飛び出した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「まだ戦うのか!?」

 

 旗艦を失い、部隊が後退していくというのに未だ抵抗を続けるラゴゥは神話の獣の如き強さで、サクヤのストライクを圧倒していた。

 ビームサーベル、ビームダガーによる近接戦闘でしか攻撃の手段は残されていなかったが、それでも健在な四肢で跳び、砂漠の上を跳ねて人型たるストライクを蹂躙し、その翼を捥ぎ取る。

 

「くっ! 勝負はついたんだぞ!」

「まだだよ! まだ決着はついていない!」

 

 殿で戦っているということは理解できたが、それにしても戦場に留まり過ぎだろう、とサクヤは思う。

 まさか、自分と決着をつけるためにという考えが頭を過ぎり、そして記憶の中でも彼はこの行動をしていたと思い出した。

 彼は既に味方を逃がす死兵でもあり、そして自分の全力をぶつけるに相応しい相手を見つけた武人でもあるのだ―――と考え付いた所で、再びラゴゥが飛び掛かる。

 

「どちらかが死ぬまで! この戦争と一緒だろう!」

「何がっ!」

 

 PSシステムをカットし、機体制御に残る電力の全てを回す。斬撃を回避し、間合いを切ろうとするも虎は獲物を逃がそうとせずなおも食らい付いてきた。

 

「敵である限り、どちらかを滅ぼすまで! どちらかが絶えるまで、戦い続けるしかなかろう!」

「そんなのは……!」

 

 そんなものは戦争じゃない、と叫びかけた瞬間にラゴゥのクローが右肩の装甲を弾き飛ばす。

 このままでは、と歯噛みした瞬間レーダーに味方の反応。何事か、と見てみれば翼端から黒煙を吹き出すスカイグラスパーが見えた。

 ソードストライカーを装備しており、それが2号機であることは分かったが、パイロットが誰なのかは分からない。しかし、コクピットから感じる気配は間違いなくあの少女のそれであった。

 

「来いっ!」

「……! 分かったっ!」

 

 何故それに、と今は聞かないことにした。

 黒煙を吐き出しながらもスカイグラスパーが高度を維持してストライクの方角へと飛来すると、それに合わせてストライクが飛翔する。

 空中換装をしている暇はない。で、あればとるべき行動は一つ。

 

 決着をつけるべく、空中へ飛び上がった敵へとラゴゥも勢いをつけて砂漠を跳ねた。

 

「貰ったぞっ!」

「まだだっ!」

 

 ラゴゥの牙がストライクへと到達する寸前。

 背部のエールストライカーの推力を全開にして強制排除、その勢いのままラゴゥへと叩き付ける!

 

「うおおっ!?」

「カガリ・ユラ・アスハッ!」

「ええいっ!」

 

 スカイグラスパーからシュベルトゲベールがパージされ、灰色のストライクがそれを確かに握り締める。

 エールストライカーの体当たりが直撃したラゴゥは、空中で体勢を崩し、仰向けになった状態で地面へと落ちていく。

 同じく空中での推力を失ったストライクも落下していくが、しかし体勢を崩すことは無くラゴゥの落下地点へと両手に握ったシュベルトゲベールを振りかざした。

 

「そんな戦争を、俺はしているつもりはないッ!」

 

 先に落下したラゴゥが地面に叩き付けられびくりと四肢を震わせた後、そのまま動かなくなる。

 その切っ先を下へ向け、刺し貫くような体勢で落下していくストライク。

 ラゴゥとストライクが激突した瞬間、シュベルトゲベールの切っ先は―――

 





アンディ……!

―――愛人

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