大変遅くなりました。
色々忙しく、時間が取れず今回は短めです。
11月の更新も先行き不透明で…とりあえず今月中に最低もう一度は更新したいところです。
「まったく、なんなのだあの男は!」
「閣下、声が大きいです」
いらいらと通路を不機嫌そうに進むデュエイン・ハルバートン少将が声を荒げ、彼の後ろに続くホフマン大佐がそれを咎めた。
司令官に付き従い通路を進む幕僚たちは、ハルバートンとホフマンのそのやり取りを黙って見守るほかなかった。
「確かに艦隊の再建に便宜を図ってくれたことには感謝するがな、それでも折角の虎の子を引き抜いていくとはどういう了見だ!」
「頼り過ぎたのが仇となったやもしれません。とはいえ、目的が目的な以上は……」
「その目的も、腹が立つ!」
いつになく苛立っている様子のハルバートンに、幕僚たちが怯えながらも彼の一言一句を聞き漏らさないように聞き耳を立てる
大西洋連邦宇宙軍、プトレマイオス基地。
数度の敗北により基地の保有する戦力は全盛期を大きく下回り、一時は月面からの撤退すら危ぶまれていたがローレンツ・クレーター基地との統合とその基地からの移駐部隊とその勢力によって、基地の活気は日に日に増しつつあり全盛とはいかずとも宇宙の一大拠点としての盛り上がりを戻しつつあった。
その要となっていたのが、ハルバートン率いる第8艦隊である。
低軌道会戦で戦力の大多数を失ってはいたが、予てより計画されていた艦隊へのモビルスーツ運用能力の付与、それに伴う新型艦艇の配備及び既存艦艇の改修を先行的に実施する艦隊が
とはいえ、肝心かなめのモビルスーツは現在も試験段階にあり、元々生産されていたGAT-Xシリーズ以外で実戦配備又は試験配備されているのは軍全体を合わせても2桁程度の数しかない。
その2桁程度のほぼ全てを保有しているのが第8艦隊であり、モビルスーツ運用研究の総本山たる特殊戦技教導隊の所属も暫定的ではあるものの第8艦隊へと移った。
にも関わらず、ハルバートンをここまで不機嫌にさせているのは例によってそのスポンサーであった。
「本来ならばアークエンジェルの捜索と救援は、我々がやるべき仕事だろう!? ヘリオポリスからの避難民の送り届けも! なのにあの男は―――」
「閣下、もし誰かに聞かれでもしたら一大事ですぞっ」
構うものか、とハルバートンはふんと鼻を鳴らし立ち止まった。
彼らの眼前には、強化ガラスを隔てて今まさに出航しようとする艦隊の姿が見えた。勿論、それらの中にはハルバートン麾下の第8艦隊の艦艇も数隻が含まれている。
「ええい、私が行ければ……」
恨めしそうに、ガラス越しに艦隊の中心を睨みつけるハルバートンに、ホフマンがやれやれと息をつく。
現場主義な事は結構であるが、この御方はそれが過ぎるのだ……と今更な事を思いつつも、ホフマンに今回の救援の艦隊編成に思うところがない訳でもない。
しかし、それが軍本部からの命令であるのならば従わねばなるまい、と。
難色を示す司令官をあの手この手、時にはハッタリも交えつつ説明して、理想と現実の整合性が取れた結論に軟着陸させるのも幕僚の仕事だな、と再認識しつつ、旅立つ艦を見送る。
キリキリと痛みつつある胃については、無視する事にした。
◆◇◆
「だから言ったじゃねぇですか!」
「俺だって落ちる時は落ちるさ! けどよ、そんな状況じゃなかったんだぞ!」
マードックの怒鳴り声と、それに応じるムウの反論を聞き流しながら、サクヤは自機の状態をチェックする。
マルチプルアサルトストライカーを装備した状態での海上戦闘と、それに次ぐソードストライカーでの水中戦。機体にかかる負荷は尋常ではないはずであったが、整備班の不断の努力と機体の堅牢さで補給さえ終えれば問題なく動きそうではあった。
海上より迫るザフトの水中用モビルスーツ『UMF-4A グーン』と『UMF-5 ゾノ』、そしてディンの混成部隊の襲撃を2度に渡り退けたのは、戦果としては事実である。
珊瑚海海戦で地球連合海軍の艦隊を壊滅に追い込んだモラシム隊を相手取り、大きな損害もなくそれを撃滅し得たのはサクヤとキラの駆るストライクの全領域への汎用性の高さと両者のハイレベルな操縦技量の証明であったが、問題はそれ以後であった。
潜水母艦への攻撃を実施したスカイグラスパー2機のうち、カガリの乗る2号機が帰還途中に何らかの問題が発生したのか、そのまま信号をロスト。
2号機を除く全機が帰還した後でも戻ってきてはおらず、その状況を認識したアークエンジェルが当惑と不安に包まれるのは言うまででもなかった。
艦橋に詰めるクルー達の間に重い空気が流れ、ムウとマードックが言い争いを続ける中、ナタルが口を開いた。
「艦長、MIAと認定されますか?」
「!」
淡々と問うナタルに、マリューが眉を顰める。
MIAの意味が分からず、周囲に聞き始める少年兵達にトノムラが代表して答えると、彼らはぎょっとした表情で凍り付く。
マリューとナタルの応酬を聞きながら、艦橋の不安そうな空気が流れ込んでくるのを感じたサクヤはそれを遮断するかのように自機のコクピットハッチを閉じ、そのまま言い争いを続けている艦橋へと通信を繋いだ。
「艦長、自分が捜索に出ます。敵も母艦を落とされて反撃はないでしょうし」
「サイジョウ中尉……」
「ストライクの補給もそろそろ終わります。予測エリアのデータを貰えれば、すぐにでも」
艦橋から転送されてくるデータに目を通しつつ、結局は元の流れというものは非常に強いものだなとサクヤは感じた。
既に本来の流れからは大きく逸れているはず。で、あるのにも関わらず今回の出撃とそれに伴う行方不明は発生してしまった。
彼女が成長していないとまでは言わない……が、人間の根というものはやはりすぐには変わらないものだな、と感じつつもう一度言わなければならないな、とも思う。
それが彼女の為になるかどうかは、本人次第なところでもあるのだが。
「中尉、僕も出ます。2人で探せば……」
サクヤが転送された予想データを地図と照合しつつ確認していると、いつの間にか機体に乗り込んでいたキラからの通信が入る。
疲れているはずにも関わらず、その繊細そうな顔を曇らせて純粋にカガリを心配しているキラの存在を嬉しく思いつつ、しかしその気遣いは無用だとサクヤは断った。
「いや、キラくんはここで待機だ。休んでもらうのが第一だが、アークエンジェルからモビルスーツが出払う状況は避けたい」
日没までは約一時間程度。空中からの捜索は明日以降にならなければ厳しいだろう。
何かあった場合の即応戦力として、そして明日以降の交代要員として身体を休ませてもらわねば困ると伝えれば、分かりましたとキラは素直に引き下がった。
地球に降りた当初の荒れようはどこへやら、最近は素直に応じるようになったキラを好ましく思いつつ、サクヤは自身のストライクを起動させた。
「中尉、何の手掛かりが得られなくても2時間経ったら一度帰投して。捜索状況と照らし合わせて、再度考えます」
「了解です。じゃ、出ます」
ソードストライカーを装着したストライク2号機がカタパルトによって加速され、日が傾きかけた海へと射出される。
海中へと身を沈めながらサクヤはふと砂漠で聞いた鈴の音を思い出した。
ガンバレルストライクに乗り、ラウ・ル・クルーゼと交戦した時の、あの重くのしかかってくるプレッシャーのような感覚も。
もし自分が本当にそうであるのなら、この捜索も―――と、考えたところで、ある言葉が浮かんでくる。
それは自戒も込めて、自分の思考へと溶け込んでいった。
「人がそんなに便利になれる訳は、ないものな……」
あのバカっ娘に出撃許可出したのは誰だ!?
───ゾノを仕留めて帰ってきた中尉