MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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大変お待たせしました。
霊峰の麓で修行しているので今後も不安定になります。


24話 追う者達

 

「だーっ! やぁっと終わったっ」

 

 深夜の格納庫で、カガリが汚れたモップを放り出して大きく伸びをする。

 普段はマードックら整備兵達の怒鳴り声と鉄と鉄がぶつかり合う音、各種器材の動作音でごった返す場所であったが、深夜の今ではカガリの他に人影は居らず日中の喧騒は嘘のように静まり返っていた。

 故に、そのカガリの声に反応する者もいない。

 

 スカイグラスパー2号機と共に行方不明となっていたカガリは、日の出と同時に発進したムウのスカイグラスパー1号機がキャッチした救難信号をもとに、海中を捜索していたサクヤのストライクがその位置に急行。

 浅海に不時着してぷかぷかと浮いているところを発見され、そして近くの無人島に退避していた彼女も確保されていた。

 機体を傷つけたことへのマードック達と、以前忠告したのにもかかわらず再度の無断出撃に対するサクヤの大目玉を食らい、処分の代わりに艦内の清掃を申し付けられ、今に至る。

 

「外から見てデカいのは分かってたけど、ここまで大きいとは思わなかったな……」

 

 大きく伸びを終えたカガリが、上に伸ばしていた勢いをそのまま地面に向け、どかっと座り込む。

 長く、細かい掃除だったと思う。

 各ブロックごとに点検があり誰も見ないような部分の埃を指摘されたり、どこから持ち出してきたのか式典に使うであろう白手袋を嵌めて埃の有無を確認したり……士官学校ではそういうところまで確認するものなのかと、カガリはあまりの細やかさにうんざりしていた。

 ちなみに出撃許可を出したムウと止めなかったキサカも、サクヤからの圧を受けたマリューから別の場所の掃除を申し付けられ、白手袋チェックが入ったという。

 

 格納庫の床に大きく足を投げ出し、リラックスした体勢で見上げてみれば自身を救出した胸に流星のマークを付けたストライク2号機と、ヘリオポリスで建造されて自身にも馴染みがあるストライク1号機がハンガーに固定されているのが見えた。

 どちらも、故国の技術が使われている機体だ。

 ヘリオポリスの避難民が緊急避難的に使用し現在に至るのであればまだ事情は理解できなくもないが、2号機については完全に大西洋連邦によって製造されたものであり、それを使用しているのも大西洋連邦の軍人だ。

 国の技術が完全にいいようにされている―――と感じてしまうのはカガリの感情ではあるが、その一方で頭の中ではそうならざるを得ないという事を理解している。

 あらゆる陣営にも属さない中立国家、と言えば聞こえはいいが実態はどの国からも見捨てられる可能性がある、という事だ。それ故、他国に頼らず自己の国で完結した防衛能力を持たなければならない。

 

 だからといって、戦争中の国家の一方と協力して兵器を開発することは―――と考えたところで、カガリの思考はストライクのコクピットハッチの開く音により中断された。

 

「……あれ? カガリ?」

「キラ? お前、どうしてここに」

 

 ストライクのコクピットから出てきたのは、少し疲れた様子のキラだった。

 立ち上がって、ワイヤーを伝って降りてきた彼を迎えるとどうしてここに、といった意味も込めて彼とストライクを見上げる。

 ああ、とキラは得心したように同じくストライクの方へ向き直った。

 

「今日、サクヤさん……中尉とシミュレータで模擬戦して、それで色々直したいところがあったから。ちょっと時間かかっちゃったけど」

「へぇ。で、どうだったんだ? その模擬戦」

 

 ヘリオポリスから1機でアークエンジェルを守ってきたキラと、地球連合軍のエースとして大々的に報道されているサクヤのどちらが強いのかといった話題はこの艦内においては頻繁に挙がる話題だ。

 その話題になる度に艦内の意見は2つに割れていたのだが、今日でその決着がついたようであった。

 キラは苦笑しながら、ストライク2号機の方に目を向けた。

 

「勝てなかったよ。やっぱり、最初からモビルスーツに乗ってる人は違うんだなぁ」

 

 負けたのにも関わらず、そういうキラの顔は少し嬉しそうだった。 

 時間があれば、トールと共にシミュレータに呼び出されているキラにとっては、教導隊のサクヤは頼れる教官といったところだろう。

 横から茶々を入れてくるムウはともかく、少年兵達のメンタルケアやストレス発散も兼ねて体力練成であったり、実行できる可能な限りのレクリエーションをマリューと共に企画して実施してくれているサクヤは口煩く軍規軍規と騒ぐナタルとは違い、頼れる年上のような存在なのだろうな、とカガリは理解した。

 実際のところ、カガリも苦手意識は持っていても嫌いであるとかそういったマイナスな感情はない。お持ち帰りの件に関しては、どうかと思っているが。

 

 特にキラは唯一のモビルスーツのパイロットであった宇宙の頃とは違い、前衛を引き受けるパイロットの存在が精神的な負担を大きく減らしていた。

 

「背中にも目を付けるんだ、って言われてね。でも、本当にそういう動きをするんだからすごいよ」

「なんだそれ、エスパーみたいだな……」

 

 呆れた顔で、カガリもストライク2号機を見上げる。

 そういえば、清掃のチェックの時もやり忘れていた部分を見透かすように隈なくチェックされていたな、と思い出す。

 案外、本当にエスパーなのかもしれない……と思ったところで、少し可笑しくなってしまったカガリは、吹き出してしまった。

 本当にエスパーだったらあそこまでナタルを怒らせるようなこともしないだろうになと言えば、つられてキラも笑った。

 ひとしきり笑ったところで、カガリは目の前の男の子がコーディネイターで、今笑う対象としている男がブルーコスモスの所属(実際はそうではない)であったことを思い出し、急に笑うのを止めた。

 急に笑うのを止めた彼女を怪訝そうにキラが覗き込むが、カガリは心配そうに彼を見上げた。

 

「なぁ、そういえばで思い出したんだけど……その、あいつって、ブルーコスモスなんだろ? なのにお前……」

「確かにそうらしいけど……でも、そういう感じの人じゃないと思うよ」

 

 捕虜の2人を丁重に扱う様に指示を出したのもサクヤさんだし、と付け加えたところでカガリがますます分からないといった表情になる。

 なぜコーディネイターの彼がブルーコスモスの私兵たる男にここまで入れ込んでいるのか……その逆もそうだが、自分が知っているブルーコスモスの構成員とは何かが違う。

 コーディネイターを露骨に嫌う訳でもなく、道具のように磨り潰すように使う訳でもなく。そして強敵であった砂漠の虎を捕虜とし、生殺与奪の権を握ったのにも関わらず、それを濫用する事をしない。

 ブルーコスモスの構成員が地球在住コーディネイターの一家をリンチして殺したなどという事実は事件として立件されるわけでもなく、暴動に巻き込まれて亡くなった不幸な家族として処理されるような時代だ。

 本当にあの男がブルーコスモスの私兵であるのかどうかすら疑わしくなってくる、と考えたところでカガリはますます分からなくなってしまった。

 

「一緒に戦う仲間、って言ってくれたから……だから、ぼくももっと強くならないと」

「お前……」

 

 ヘリオポリスで出会った頃の顔とははっきり違う顔を見て、悪い人物ではないのは間違いなさそうだな、とカガリは思う。

 とはいえ、説教と清掃チェックの細やかさは勘弁してもらいたいところだが。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「全く、隊長が移動途中に行方不明になるなど」

「まぁまぁ、イザーク、聞けば事故のようなものでしたし……こうして無事に合流できたのなら、いいじゃないですか」

「いや、本当にすまない……心配をかけたな」

 

 貴様の心配などしていない、と眉を吊り上げたイザークをニコルとディアッカが宥める。

 無人島から救出されたアスランは予定より大幅に遅れ、カーペンタリア基地へと到着していた。

 その間もイザークからの小言とディアッカからの揶揄いを受けていい加減うんざりしていたところであったが、隊長という職責の手前内心を顔に出す訳にもいかず、それがイザークをイラつかせる一因でもあった。

 

 ともあれ、隊長を救出したザラ隊は正式に編成を完結し、隊に宛がわれた母艦であるボズゴロフ級潜水母艦のネームシップ艦である『ボズゴロフ』が鎮座するドックへと到着。

 追加の補給物資と共に運び込まれるイージスを確認したアスランは、ふとその中で全く見慣れない形状のモビルスーツが同じく運び込まれているのを認めた。

 他の4人もその存在を知らされていなかったようで、怪訝そうな面持ちで見つめていたがその機体の足元で搬入を見守っていた青年がこちらに近付いてくるのが見えた。

 自身らと同じく赤服を着た青年との直接の面識はなかったが、しかしその顔は様々な媒体で見知った顔の一つでもあった。

 

「ハイネ……ヴェステンフルス先輩!?」

「お、有名人だね俺も! そういうわけでよろしく、ザラ隊の諸君?」

 

 ハイネ・ヴェステンフルスといえばアスラン達アカデミー卒業生のモビルスーツ・パイロットの中でも知らない者はいない、超がつくほどの有名人である。

 かつての同僚でもあったミゲル・アイマンが彼に憧れて自身のジンをハイネのパーソナルカラーである橙色に染めていたのは、アスラン達も知っていた。

 そんな有名人がなぜここに……と疑問に思っていれば、それを予期していたかのようにハイネが口を開いた。

 

「本国でもいい加減、足付きとストライクの活躍が目障りになってるらしくてね。そこで俺の隊が派遣されることになったんだが、ちょっと訳アリで先着しちゃってさ。ま、作戦自体は後で話すことにして……」

 

 そう言うとハイネは今も搬入作業中の自身の機体に目を向ける。

 頭部にこそ現在の主力であるジンの面影はあるが、全体的なシルエットはそれとはまったく逸脱してしまっている。

 腰部の武装であったり、何より背部の大型のユニットが目を引いた。

 

「『YFX-600R 火器運用試験型ゲイツ改』……ま、次世代機の試験型っていったところだ」

「『ゲイツ』ですか? でも、あれはまだ本国でも試験中のはずでは……」

「量産型の方は、な。こっちは別口の試験型らしい」

 

 これについては色々と機密関係でうるさくてなとハイネが愚痴っぽく言うが、自身の父が兵器開発の中心であるマイウス市の代表でもあるニコルは兵器開発が異常なスピードで行われていることに内心で驚愕していた。

 いくら奪取したGATシリーズのデータを転用したとはいえ、ここまで急ぐようなものなのだろうか。それほどまで、急ぐようなものを本国はキャッチしているのか―――とまで考えたが、通信状態が限られている現状ではそれを知ることは出来ないだろうと判断して、思考をそこで打ち切った。

 

「という訳で、しばらくよろしく頼むぜ。アスラン・ザラ隊長」

「はっ、はいっ! よろしくお願いします、ヴェステンフルス先輩!」

 

 ハイネが軽い敬礼をしてみせると、アスラン以下ザラ隊の4人はやや緊張した面持ちで固い敬礼を返す。

 緊張してガチガチに固まっている彼らの様子がおかしくなったのか、ハイネは笑い出しながら彼等にその態度を改めるように言った。

 

「そんな固くなるなって。先輩ってのもなしなし、ハイネでいいぜ」

 






ドアの通気口にホコリが溜まったままです、少佐。

おまっ、士官学校の点検じゃねぇんだぞ!

―――士官学校の先輩と後輩(白手装備)


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