MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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25話 ハイネ強襲

 

「そういえば、なんですけど……」

「ン?」

 

 アークエンジェル格納庫の片隅で、シミュレータの調整をしていたサクヤの背にシートに収まっていたトールが声をかける。

 しばらくはザフトの大きな襲撃もなく、アークエンジェルは現在オーブ近海を航行中であった。

 そのためか、艦内はやや弛緩した空気が流れつつあり緩みがちな艦内規律を引き締めようとナタルが奮闘していたが、噂が独り歩きした結果それも半ば無駄足と化していた。

 

「なんで中尉はモビルスーツの操縦が出来るんです? ナチュラル用のOSっていったって、ほぼコーディネイター用だってキラが言ってたんですが」

「そんなこと……考えた事なかったな」

 

 例えコーディネイター用のOSであっても、モビルスーツの操縦自体はナチュラルであっても不可能ではない。

 ただ、あくまでも不可能ではないといったレベルのものであってそこから部隊行動や戦闘機動といった兵器としてのスペックを発揮させることがナチュラルには不可能であった。

 ただ、それを覆す存在……サクヤ達の所属する教導隊の面々であったり、反射神経や運動機能がコーディネイターと同等のナチュラルなら完全に機能を発揮させることが可能であるのだ。

 とはいえ、サクヤはなぜ一介のナチュラルでしかない自身がモビルスーツを扱う事ができるのかについて、そこまで深くは考えたことはなかった。

 ガノタだから……と考えれば、本人は納得がいくようであったが、それを他人に説明する訳にもいかず、適当な言葉で乗り切ることにした。

 

「コーディネイターもナチュラルも人間だからな……向こうが使えるのなら、こっちも使えるってものさ」

「はぁ……」

 

 納得したような、よくわかっていないような顔でトールが首を捻る。

 実際、本人もなぜ扱えたのかが分かっていないのだ。それを説明するのは、実際のところ酷な話でもある。

 

 とはいえ実情ではモビルスーツを扱えるナチュラルの数は増加傾向にあり、各方面で鹵獲したモビルスーツを操縦するナチュラルで編成された部隊が反攻作戦を実施しているといった情報もある。

 運用データが蓄積されれば蓄積されるほどに開発のペースは上がり、様々な試作機がデータ上で生まれては消え、生まれるべき機体への礎となっていく。

 その現場から離れた今では、どの程度まで開発が進んだのか確認することは困難であったが。

 

「中尉が乗れる理由が分かれば俺も、って思ったんだけどなァ」

「やめておいた方がいい。彼女も心配するぞ」

「スカイグラスパーのシミュレータでは結構いい成績だしてるんですよ! モビルスーツは無理でも、キラの支援くらい……」

 

 シートに収まっていたトールが立ち上がり、サクヤに訴えかける。

 確かにシミュレータに誘ったのはサクヤ自身であるし、トールにもそういったセンスがあるのは分かっている。むしろそのセンスが本物であるかを見極めるために誘ったのだ。

 結果としては、十分にその素質がある。コーディネイター用のOSでは無理でも、完全なナチュラル用のOSさえあれば十二分にモビルスーツを操縦する事だってできるだろう。

 では、実際に彼をモビルスーツもとい、スカイグラスパーに乗せるかと言われればサクヤは渋い顔になる。

 目の前にいる彼は画面を隔てた電気信号の存在などではなく、現実に生きているまだ高校生くらいの少年なのだ。

 この後に起こる事実を知っていれば、誰だってそれを止めようと動くだろう。

 

「その気持ちだけ、貰っておくよ。支援と言っても、戦場は戦場だ。それに、乗るんなら彼女にちゃんと話を通しておかないと色々と大変だぞ」

「……それ、実体験です?」

「多分、な」

 

 分かりました、と若干不承不承ではあったが納得はしてくれたらしい。

 やれやれ、と頭を掻きながら調整を終えたシミュレータから離れた瞬間。

 

「!」

「敵襲!?」

 

 艦内に鳴り響く警報。それと同時に周囲が慌ただしくなり、サクヤはパイロットロッカーへ、トールは艦橋へと駆け出す。

 手早くノーマルスーツに着替えたサクヤがストライク2号機に飛び込む頃には、キラのストライクとムウのスカイグラスパーが発進準備を完了させていた。

 

「敵は?」

「南北から、挟撃するようにこちらへ急速接近中!」

 

 多いな、と思う。

 恐らく、奪取されたGATシリーズとその他のザフト・モビルスーツの連中だろう───と考えるが、前衛が自分である以上はそれが何であろうと出なければならない。

 既に自身の機体にはいつも通りのストライカーパックが取り付けられていて、あとは射出タイミングの譲渡を待つだけだ。

 

「システム・オールグリーン! ストライク、発進どうぞ!」

「了解! パーフェクトストライク、行きます!」

 

 最早丁度いい心地よさに感じられるようになった発進時のGを身体全体で受け止め、ストライク2号機が飛び立つ。

 アークエンジェルとリンクしている索敵レーダに映る機影は確かに多数で、どちらも機種については判別ができていないらしい。

 

「こんな時に新型なんてのも、冗談じゃないぞ……フラガ少佐、キラくんと南の敵を頼みます! 俺は北を!」

「分かった! 頼んだぜ」

 

 発進したスカイグラスパーが南の方向へと飛び去り、甲板に着地したキラのエールストライクが警戒するように周囲を見渡す。

 同じく甲板へパーフェクトストライクを着地させ、コクピット内のスコープとアグニをリンク。メインカメラが捉えた映像を補正し、その姿を捉え───驚愕した。

 

「なんであんなのが来てるんだよ……!」

「おいおい、なんだありゃあ! イージスに、あんな機能あったか!?」

 

 会敵したムウも無線越しに驚愕しているのが分かる。

 ガンカメラを通してアークエンジェルに流れてきた映像には戦闘機のような形態から変形し、シルエットが更に鋭角的になったイージスの姿があった。

 そして、サクヤのストライクがメインカメラで捉えた映像も同じくアークエンジェルに伝送されていた。

 頭部こそジンには似ているものの、全体的なシルエットは全く違い、そしてその背にはグゥルのような巨大なフライトユニットのようなものが搭載されている。

 まさか、と思ったがしかしラゴゥ・ハイマニューバの件を思い出し、想像力が足りなかったか、と歯噛みした。

 

「これは、苦しくなるぞ……!」

 

 船体からせり上がった外部パワーケーブルをアグニに繫ぎながら、サクヤは飛来する橙色の機体───火器運用試験型ゲイツ改を睨みつけた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「先輩、頼みます!」

「ハイネでいい、って言ってるだろ? まあ、ストライクの片方は任せときな」

 

 いつまでも他人行儀の抜けない奴らだな、と思いつつもハイネは眼前を航行する足付き───アークエンジェルと、そしてその甲板に立つ2機のストライクのうち1機に狙いを定める。

 ハイネのゲイツ改とグゥルに乗ったジン4機の狙いはアークエンジェルから2機のストライクのうち1機を引き剥がす、もしくは引き剥がせずとも狙いをこの新型に集中させることであった。そしてそれは、反対側から急襲するザラ隊の4機も同じ任務であった。

 彼等は囮であって、決して本命などではない。

 当初はザラ隊の4機が囮となりアークエンジェルから防衛戦力を引き剥がした後、本命のハイネ隊がトドメを刺すという作戦であった。

 しかし、目標の脅威度を再度見積もった結果もう1グループの囮がなければ防衛戦力の引き剥がしは難しいと判断した結果、ハイネを先発させて囮の一つとして組み込むことを決定。ゲイツ改はその成功率を高めるための一手でもあった。

 

「っと! 噂通り、とんでもないビームだな!」

 

 甲板上のパーフェクトストライクから放たれたアグニの連射がハイネ達の編隊を襲う。

 散開に間に合わず、1機のジンが胴を貫かれてグゥルごと爆散。舌打ちしつつ、ハイネは機体を加速させた。

 

「さぁ、乗ってこい!」

「これ以上近付けさせるか!」

 

 再度のアグニの連射。

 それを易々と躱せるのは、ハイネの思い切りの良さと天性のセンスから来るものであろう。

 実際、4機いたはずのジンは既に1機まで数を減らしており、流星の名は伊達ではないことを見せつけていた。

 しかし今回の任務はアークエンジェル(足付き)の撃墜ではなく、ストライク2機の撃墜でもない。

 あくまでもこのゲイツ改で暴れまわり、連中の注意を両側より挟撃する自分達に集中させることだ。

 そうすれば、本命が───と考えたところで、甲板から1機のモビルスーツが飛び上がった。

 

「やっとか! そう来なくっちゃ!」

 

 腰部のMMI-M15 クスィフィアス・レール砲を展開させ、飛び上がったパーフェクトストライクを迎え撃つ。その胸には、連合のプロパガンダで何度も見た流星のマーク。

 ようやく現れた強敵に、ハイネは気分が高揚していくのが分かった。

 ストライクは機体を軽く捻ってレール砲から放たれた砲弾を回避、そのまま左手に持っているバズーカを数発連射する。

 回避することはあまりにも容易い事であったが、ここは相手の度肝を抜いてやろうとハイネは敢えてその砲弾へと直進した。それは、圧倒的な機体性能もしくはコーディネイターの傲慢から来るものであろうか。

 しかし、その傲慢さを体現するかのようにゲイツ改はバズーカの砲弾をその装甲で受け切ってみせた。

 僅かに狼狽える様子を見せたストライクに気分を良くしたハイネが、ビームサーベルを引き抜きながら再度レール砲の弾丸をストライクへと殺到させる。

 

「さっすがゲイツだ! なんともないぜ!」

「やはり、PS装甲! だったらっ」

 

 回避機動を取り続けるストライクにゲイツ改が斬り掛かった。

 繰り返される斬撃を捌きつつ、右肩のバルカンが狂ったように火を噴いてゲイツ改の装甲を空しく叩き続ける。

 何を、と思いつつハイネは何度もストライクへと斬り掛かるが、その斬撃も空を切るばかりで、数度目でようやく左手のバズーカを切り裂くことが出来ただけだった。

 そこに飛来したアークエンジェルからの援護射撃で、ハイネは間合いを切らざるを得ず後退し、パーフェクトストライクが甲板へ着地。

 甲板に残置していたアグニを拾い上げ、再度の連射でゲイツ改とジンを牽制する。

 

「エネルギー切れまで粘れば!」

 

 外部パワーケーブルを繋いでいるアグニであれば、機体のエネルギーを消費することなく最大の威力で連射することも可能であった。

 しかしそのような射撃がハイネ達に通用するはずもなく、しかしアークエンジェルの対空火器も含めた濃密な火網はハイネ達が艦へと接近することを拒んでいた。

 ここで持久を仕掛ければ、と考えたところでサクヤはふと、妙な事に気が付く。

 

 史実の機体であれば、あの機体は稼働時間が10分ももたないはずで、実際には要塞からパワーケーブルを延長して運用していたはずだ。

 では、なぜあの機体はそういったものも追加のバッテリーパックのようなものも付けず、ここにいる?

 なぜ、あれだけPS装甲もビーム兵器も使っているのに、エネルギー切れの気配がない?

 まさか、まさかと思考を重ねていくうちに最悪の結論が導き出される。

 

「……ニュートロンジャマーキャンセラーかっ!」

 

 アグニを再び甲板へと捨て、シュベルトゲベールを引き抜く。

 NJC搭載機に乗っているという事は敵のパイロットも相当な手練れに違いないと判断。であれば、射撃戦で決着を付けることは恐らく無理だろうとも判断。

 マイダスメッサーを投擲しつつ、再度甲板を蹴ってストライクが飛翔した。

 投擲されたマイダスメッサーは、ブーメランの如く軌道を描いてハイネのゲイツ改へと迫る。が、ハイネはそれをビームサーベルで難なく切り払った。

 

「見え見えなんだよ!」

「どうかなっ!」

 

 切り払ったマイダスメッサーの陰から伸びる水色の鉤爪のような何か。

 何、とハイネが反応するよりも早くパンツァーアイゼンがゲイツ改の左腕に噛み付き、がっちりとくわえ込んだ。

 

「舐めるなよっ! このゲイツのパワーならっ!」

 

 掴まれた左腕を引き、ゲイツ改がパンツァーアイゼンのワイヤーを引きちぎる。

 しかし、その一瞬の隙を見逃がさずシュベルトゲベールを構えたストライクが目前迄近付いてきていた。

 

「でぇぇぇぃっ!」

 

 裂帛の気合と共に、パーフェクトストライクが横薙ぎにシュベルトゲベールを振り抜こうとするも、咄嗟の超反応で剣の軌道を見切ったハイネは、空いた左腕でその剣戟を阻止すべくシュベルトゲベールを押さえつける!

 

「ただのモビルスーツとは違うんだよッ!」

「パワーがダンチ過ぎるっ! やはり、核搭載機かっ!」

「今だ! 殺れっ!」

 

 対艦刀の鍔にあたる部分を握りつぶし、根元からそれが折れていく。

 必殺の一撃を失ったストライクが間合いを切ろうとスラスターを吹かすが、その背後にはM69バルルス改 特火重粒子砲を構えたジンが迫ってきている。今回の作戦のために、フォルティスのデータを用いて改良が加えられたそれには以前のような威力の不足を完全に克服しており、大気圏内であってもモビルスーツであれば一撃必中の威力を備えるまでになっていた。

 

「やられるっ!?」

「ここで落ちちまえば、それも好都合だろうがっ!」

 

 ゲイツ改が対艦刀を掴んだまま、射線からわずかに離脱すると同時に、ストライクの背後にジンが迫る。

 殺った、とハイネとジンのパイロットの双方が確信した。それほどまでに、絶妙なタイミングでの攻撃であった。

 

「地に落ちろ、流星っ!」

「まだだっ!」

 

 アドレナリンに染まり切り、スローモーションとなった視界の中でふとハイネは気付く。

 無力化した対艦刀を握り締めているのが、自分だけだという事に。

 

 奴の両腕は、どこに?

 

 なぜ、ジンのパイロットの悲鳴が聞こえる?

 

 なぜ、奴はビームサーベルを引き抜いて───

 

 そこまでの思考に至った瞬間、全身の肌がぞわっと粟立つのを感じて機体を全速で後退させる。

 ストライクが右腕で引き抜いたビームサーベルの斬撃を、ギリギリのところで回避。

 では、左腕は───とその方向に目を向けてみれば、胸部に風穴を開けられたジンとこちらを睨みつけたまま左腕を後方に回し、ビームライフルを背面に向けているパーフェクトストライクの姿があった。

 

 わずか数秒。

 あれだけあったはずの必殺の確信などはとうに消え失せ、眼前のモビルスーツに対する恐怖と怒りが綯い交ぜになった感情がハイネの内面を支配していく。

 ストライクは風穴の開いたジンを蹴り飛ばし、グゥルをコントロールごと奪取した。

 

「こいつ、は」

 

 こいつは、俺達コーディネイターを虚仮にしている。

 間違いなく、生かしておけば将来に禍根を残す。

 ならば、俺の───ザフトレッドたる、ハイネ・ヴェステンフルスのやるべき事は、なんだ。

 

 自身に与えられた任務を忘れるほどに、ハイネの心がドス黒い感情に塗り潰されていく。

 その勢いは、劣勢から脱して状況的には優位に立っている筈のストライクとサクヤさえ怯ませる程に。

 

「殺してやるぞっ!! 流星っ!!」

 

 ゲイツ改の背部に装備されたリフターの翼が開き、スラスターが全開に煌めいた。

 その姿、緋蝶の如く。

 






いや本当にすみませんでした……

───艦長室で正座反省させられている中尉

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