サクヤのパーフェクトストライクがハイネの火器試験型ゲイツ改と交戦している真反対の方角では、キラとムウが奪取されたXナンバーの4機と交戦していた。
これまで宇宙でも、砂漠でも何度も対峙してきた因縁の相手、しかもそれが改修されて自由自在に空を飛び回っているものが出現したことにより、クルー達は一様に追い詰められた表情となる。
「大気圏内仕様に改修したというの……!?」
「ゴッドフリート、照準急げ! 当たらずとも牽制でいい!」
特に、開発に携わっていたマリューはザフトの手によって改修されたGの姿に驚愕を隠せないようで、艦長としてなるべく見せまいとしていた狼狽した表情を思い切り晒し出してしまった。
最も、そのマリューの様子を気に留める余裕は艦橋の誰にもなかったのだが。
ナタルがCICに指示を出し、要員達が各種の誘導武器に所要の諸元を入力していく。
「イーゲルシュテルン、1番から4番でイージスを狙え! ウォンバット、用意次第撃てッ!」
号令と共にアークエンジェルから次々と吐き出されていくミサイルがイージスら空中を飛ぶ3機へと飛翔し、殺到した。
しかし、優れた動体視力とモビルスーツのFCSによりそれらの全てが機体へと到達する前に撃ち落とされ、回避される。
透明度の高い海がきらきらと日の光を跳ね返して輝く島々の合間に、鉄と硫黄の華が咲いた。
「ダメです! 弾幕、抜けられます!」
近付いていく3機のモビルスーツ、甲板上で警戒していたキラのエールストライクが残置されていたアグニを拾い上げ、狙いを定めていく。
「くぅっ……相手が速過ぎる!」
先頭を往くイージス、その横に控えるはデュエルとブリッツ。
大気圏内では無用の長物と化していたイージスの可変機構を、大気圏内においても使用可能とするために作成された新モジュールは大気圏内での巡航機能の獲得だけでなく、純粋な火力強化とMS形態での飛行能力の獲得といった大幅な性能の向上をイージスに約束していた。
同じく、改修されたデュエルとブリッツも大気圏内での飛行能力を獲得しており、それぞれが機体特性に応じた様々な武装や機能を獲得している。
海上を進むバスターも、他の3機とはベクトルの違う改修が施されており空中戦能力ではなく、海中・海上での戦闘能力の強化が施されていた。
これらの改修により、ザラ隊はその能力を大幅に向上させ、砂漠の虎と紅海の鯱の抜けたザフト地上戦力において最も戦闘能力の高い部隊へと昇華させていた。
しかしながら、それでも簡単に撃破できないのがアークエンジェルであり、キラの駆るストライクであった。
濃密な火網とキラのストライクから放たれるアグニの嵐に、空中から強襲する3機も迂闊に近寄ることが出来ず戦闘は膠着状態に陥る。
海上から攻撃を仕掛けていたバスターも、ムウのスカイグラスパーによって海中に退避せざるを得なくなっていた。
が、その濃密な火力を掻い潜って接近する機体がひとつ。
「ストライクゥッ!」
イザークのデュエルが両翼のレールガンを撃ち散らしながら接近、両脇に装備されたレーザー対艦刀を引き抜く。
ディンの翼にも似た大型モジュールを装備したデュエルは、これまで装備していたアサルトシュラウドを廃して本来の白兵戦を主体とした機体構成へと変化していた。
『シグー・ディープアームズ』に試験搭載されていたそれを両手に携え、ストライク目掛けて踊り掛かる。
「取りつく気か!?」
「今日こそ落としてやるぞっ!」
キラは機体のバーニアを噴射し、その斬撃を飛び上がってシールドで受け止める。
受け止めつつも、機体の動きは止めず下半身を捻り右足で蹴りを入れた。バーニアの加速度をそのままにデュエルの脇腹にストライクの右足が叩き込まれ、バランスを崩したデュエルが吹き飛ぶ。
海上へと落ちていくデュエルであったが、すぐに体勢を立て直して再度ストライクへと迫る。
「こんな……っ! 今までと、動きが違うっ!」
「何度も何度も、貴様は俺をぉ!」
怒りに任せた斬撃がキラを襲い、大気圏内の航行能力のないストライクがバーニアを吹かしながら姿勢を変えては斬撃を回避していく。
しかしついに、空中戦能力のない機体での機動に限界が来たのかストライクが大きく体勢を崩した瞬間。
怒りに支配されていても、それを見逃すほどイザークは愚かではなかった。
「もらったぁっ!」
「しま……っ!」
デュエルの左手の対艦刀が、ストライクの左肩を切り裂いた。
これまで大きな傷を負ったことのないストライクの腕が、海へと落ちていく。
混乱の中、反撃とばかりに放ったビームライフルは牽制となったようでデュエルが追撃を諦めて距離を取っていく。
しかし、それに安堵する間もなく背部から叩きつけられた衝撃にキラの意識が漸くそちらへと向く。
「くそっ……! 何だ!?」
背中にも目を付けろ、と言われたのにもかかわらずこの始末ではぼくは何のために、と心中でごちるが機体の挙動がおかしいことに気が付く。
どうやらミラージュコロイドで姿を消していたブリッツが背部から近付いてきていたようだが、しかし機体が全く動かない。
どういうことだ、と焦るキラであったが機体のバッテリーが急速に低下していく事にさらに焦りを加速させていく。
「本当に使えるかどうか、半信半疑でしたが……これならっ!」
「バッテリーが!? どうしてっ」
ブリッツ背部の、大型モジュールから展開されたクローがストライクを捕まえて離さず、そして機体のバッテリーを放電させていく。
使用する前は半信半疑であったニコルだが、コロイド技術を応用した強制放電装置は正常に作動してみるみるうちにストライクのバッテリー残量が低下していく。
次第に動きの鈍くなっていくストライクに、残ったアスランのイージスが迫る!
「アスラン、今です!」
「アスランッ!?」
「キラッ!」
全身が刺々しく、鋭角状になった機体の左腕が迫り、その左腕に装備されたシールドが三叉に変化する。
古来の槍を模したような機構は、モビルスーツを確実に仕留めるには十分すぎる武装だった。
「ここで終わりにする!」
キラの背に冷たいものがつたい流れる。
それは初めて知覚した、死への恐怖だった。
◆◇◆
『ご覧いただいている映像は、今、まさにこの瞬間、我が国の領海からわずか20キロの地点で行われている戦闘の模様で―――』
昼時分の顔でもある落ち着いた様子が人気の女性キャスターが、興奮した声色で何度も同じ文言を繰り返している。
テレビの中では、煙の尾を引いて回避運動を取る白亜の艦とその周辺を飛び回る白いモビルスーツ、それに追い縋るように、もしくは追い駆けるように飛ぶ橙色のモビルスーツ。
『政府は不測の事態に備え軍の出動を決定し……』
行き交う人々はビルに備え付けられた巨大な街頭モニターに映し出される戦闘の様子を立ち止まって見つめ、中にはキャスターと同じく興奮した様子で見つめている者もいた。
しかし見物人達からは焦燥や恐怖といった感情は全く見受けられず、むしろよくできた映画を見て感想を言い合っているような様子さえある。
たびたび映像が止められ、映った機体が拡大されてはこの機体はどうだの、なんだのと語り始める番組のコメンテーター達を邪魔だと思いながらも画面の隅に『LIVE』と添えられた映像を、オーブで生まれ育った第1世代型コーディネイターのシン・アスカは自宅のリビングで興奮しながら見つめていた。
「すげぇ……本当に、モビルスーツで戦ってるんだ……」
テレビの中に映し出されていることが、まるで現実で起きていないかのように呟いた。
画面の中の死闘は毎週の夕方に放送されるアニメーションのそれと何ら変わらないように思え、そこに介在しているはずの生命の削り合いは画面を通して人々の
これはシンの感性だけがおかしい訳ではなく、この国の国民すべてが日々感じているものと何ら変わりはなかった。
その国の名は、オーブ連合首長国。
赤道直下に位置し、火山性の環状列島には狭い国土に比して不相応なまでに思える経済力を象徴した高層ビルと工業地帯が立ち並び、人々が忙しなく動き回っている。
火山の地熱を利用して発展したこの国はエイプリルフール・クライシスの際に散布されたニュートロンジャマーの影響をほぼほぼ受けず、他の国家が対応に追われる最中国力を発展させ、国際的な発言力を強化したという過去がある。
そして前代表のウズミ・ナラ・アスハの提唱した中立政策により、地球連合とザフトの戦争に表向きは加担せずその戦火も受けずにいた事から、国民からは戦争は遠く関係のない出来事であると受け止められていた。
国家の保有するヘリオポリスが崩壊した際であっても、一時的にマスコミが騒ぎ閣僚の一部が引責辞任したのみで騒ぎが沈静化しただけであった。
そのような大人たちに囲まれた中で、多感な年頃であるシンに画面の中で行われている命の削り合いがとても恐ろしいものではなく、エンタメとして消化していることは責められるものではない。
彼の父と母も、戦争は遠い場所での出来事だと認識しているし普段の家族の会話でそういった話題が出ることもない。
ぐずぐずと腐臭を放つ、平和であった。
「んもう、お兄ちゃんばっかテレビ見過ぎ! 私だって録画したやつ見たいのにっ」
「いいじゃんか、こんなの滅多に見れるもんじゃないんだから」
「私はそれより見たいのがあるのっ!」
ソファーから立ち上がった妹のマユが、テレビの画面を独占していたシンを引き剥がすように引っ張りチャンネルを変えようとする。
んぎぎと服を引っ張るマユに抵抗しつつ、チャンネルを死守しながら画面を覗き込むシン。
中継映像の中では、巨大な艦を背景に何度も切り結ぶ2機のモビルスーツが人々のエンタメのように映し出されている。
シンがその映像の2機から生命の削り合いを感じるには、まだまだ時間が必要であった。
◆◇◆
「落ちろよぉぉっっ!」
「ナチュラルなんかにやらせるかよ!」
パーフェクトストライクから繰り出されるすれ違いざまの斬撃をゲイツ改が紙一重で躱す。
この機体であれば切り返しの速度も斬撃の動き出しも速いはずであるのに、未だザフトの仇敵たるストライクが落とせないことにハイネは苛立ちを感じていた。
「俺は、ハイネ・ヴェステンフルスなんだぜ!?」
十分に上回っているはずの切り返しの速度は、しかしグゥルごとゲイツ改の
形勢ではほぼ互角、むしろ空中機動に対応しているだけゲイツ改の方が有利であり、また核搭載機という覆しようのないアドバンテージすらある。
にもかかわらず、相手のストライクはほぼ無傷で味方のジンを全て落とすという始末。
無能の証明を目前の機体に叩きつけられた気分になったハイネは、機体に備え付けられている全ての火力をストライクへと集中させた。
「ただの人間風情が! 生意気なんだよッ!」
「ちぃっ!」
クスィフィアス・レール砲で牽制しつつ自らの望む射線へストライクを誘導。
牽制射を避けたストライクが望み通りのレールに嵌り込んだ瞬間、ゲイツ改がリフターを展開してMA-4Bフォルティス ビーム砲とビームライフルを同時に放つ。
ハイネの殺気を感じたサクヤが、先に動く。
「誘いこまれた!? だがっ!」
「これで終わりだ!」
ビームは過たずストライクへと吸い込まれていく。
今度こそやったぞ、とハイネは心中で喝采を叫びながらビームが吸い込まれるのを待つが、しかし彼が予想した結末にはならなかった。
その優れた動体視力で、ハイネは再度スローモーションのようにその光景を見た。
奪ったグゥルを盾にするように、跳ね上げてビームをやり過ごすストライクの姿を。
で、あれば。
「何なんだよっ! お前は!」
機体を直進させ、爆散したグゥルの爆炎の中に突っ込む。
爆炎を目くらましにゲイツ改へ斬り掛かろうとしたストライクが完全に虚を突かれ、そして両機ががっちりと組み合う様に激突した。
離脱しようとするストライクであったが、逃がさんとばかりにハイネのゲイツ改が有り余るほどのパワーで機体を掴んで離さない。
こうなれば、圧倒的に有利であるのはゲイツ改の方であった。
永遠に切れることのないエネルギーと、圧倒的なまでに差のある推力とパワー。
悪あがきとばかりにストライクが頭部のイーゲルシュテルンを撃ち散らすが、しかしそれはPS装甲に阻まれて全てが弾かれてしまう。
「このまま叩きつけてやる! それで、今度こそ終わりだろ!」
「何!?」
最早本来の作戦すら忘れ、激昂したハイネがフットペダルを踏み込んで機体を急加速させる。
接触回線で流れてきた声に驚くサクヤも、同じく機体のスラスターを煌めかせて抵抗するが歴然としたパワーの差に押され、徐々に押し込まれていく。
そしてストライクの最大の弱点も、迫りつつあった。
「パワーダウンかっ!?」
アグニを外部電力で射撃し、奪ったグゥルを使用していたとはいえただでさえ機体重量のあるパーフェクトストライクを空中機動させビーム兵器を使用していれば、エネルギーが切れるのは必定である。
ムウのスカイグラスパーは艦の直掩で手一杯であるし、スカイグラスパー2号機にはパイロットが存在しない。
トールを乗せられるようにしておくべきだったか、と迷うサクヤであったがその選択肢は自分で捨てたものだろと脳から消し、現状での対応策を必死で考える。
アークエンジェルを背にした状態では援護射撃を望むべくもなく、キラとムウは反対側の敵にかかりきりだ。
故に、この状況を自分で切り抜けなければならない。
考えている間にも、バッテリーは消耗し、力負けしているストライクの関節が悲鳴を上げていく。
各部の異常を知らせるアラートは、組み合った直後から鳴ったきりだ。
「こんなところで……!」
機体が、ストライクが徐々に圧されていく。
めきめきと、フレームが軋んでいくのが分かる。
まだだ、まだ何かあるはずだ、と必死に考えを巡らせている最中。
突如、上空から何かが来る気がした。
いや、来ていた。
先に気付いていたゲイツ改が、それから逃れるように離脱して間合いを切った。
反対側で交戦していたキラのストライクが、ムウの援護を受けてブリッツの拘束から逃れてアークエンジェルの甲板へと再度降り立つ。
その場の時間が止まったかのように、戦場に居る者全てが空を見上げていた。
「あれは……!」
上空から雲を裂いて現れる巨大な艦。
神々の威光を示すかのように戦場へと降り立つ『黒い』アークエンジェル。
そして薄く幅広の青い翼に乗ったモビルスーツが3機、傷ついたパーフェクトストライクを守るように展開した。
白い頭部に青いバイザー、青を基調とした機体。
ストライクのコンピュータは認識していないが、『GAT-01A1 ダガー』と自身の記憶が認識しているその機体それぞれにエール、ソード、ランチャーのストライカーパックが装備されている。
呆然とその3機を見つめるサクヤの耳に、懐かしい声が響いた。
「よう、家出息子! 迎えに来たぜ!」
彼、なんで
───オブザーバーとして乗艦していた出資者