MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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あけましておめでとうございます&お久しぶりです。
年末がウルトラ忙しく、正月も体調を崩し執筆時間が全く取れませんでした。
可能な限り週一での更新を目指しますので、今後もお付き合いいただければと思います。


28話 平和の国

 

「承知の通り、我がオーブは中立国だ」

 

 アークエンジェルの主だった士官3名、ドミニオンよりアズラエルに加え御付のサクヤを含めた5名と会談用のテーブルを挟んで目の前に座った壮年の男が、厳めしい顔つきで言った。

 前代表首長、ウズミ・ナラ・アスハ―――カガリの父親であり、代表職を退いた今でも大きな影響力を持つ指導者だ。

 硬くなったマリューがはいと頷くも、ウズミの視線は注意深く真っ直ぐに、アズラエルの方へと向けられていた。

 

「勿論、百も承知ですヨ。ボク達はヘリオポリスからの避難民をお届けに来たワケですからねェ……ま、その避難民で、アークエンジェルに御令嬢が残っていたとは思いもしませんでしたがネ。もしかしてそれで交渉に?」

 

 嘘である。

 アークエンジェルからカガリが降りる際に、それを目敏く見つけたアズラエルにマリューが追及された際の、ムウが庇ってついた嘘だった。

 随分と大胆な嘘をついたものだ、とサクヤはちらとムウの方を見るが、当の本人はいつもより真面目な表情をしているものの、あまり焦っているような感じは見受けられなかった。

 ここでサクヤが真実を言えばどうなるか、と考えたがしかしそれを言えば、ただでさえズレ始めている自分の知っている原作(・・)から大きく乖離し、本当に手に負えない事態となってしまう。

 ただでさえ敵は現時点で核動力搭載機を投入してきているのだ。となれば、いつ最悪の状況が起こってしまってもおかしくはない。

 現状では一介のモビルスーツのパイロットでしかないサクヤが出来るのは、可能な限り自分のコントロール可能な範囲で段階を踏ませていく事ぐらいなのだ。

 そういった意味では、現状の立場はかなり都合のいい立場であった。

 

「国の命運と家出娘の命、秤にかけるとお思いか? アズラエル理事」

「家出娘、ね……これは失敬」

 

 本当にそう思っているかもどうか分からない、むしろ確実に思っていないような軽さでアズラエルが謝罪する。

 マリュー達が目前の獅子の威圧感に圧倒されているのにも関わらず、年齢もそれほど離れていないアズラエルがこうも飄々と前国家元首に対し飄々と接することができるのは、ビジネスの場で数えきれないほどの修羅場を潜って来たのか、それとも元々の性格から来るものなのか。

 恐らく、きっと、多分、もしかしたら後者ではないかとサクヤは推測した。

 ウズミはアズラエルの様子に軽く息を吐くと、顔を引き締めた。

 

「そうであったら、いっそ判りやすくて良いのだがな。ヘリオポリスの件、巻き込まれて志願兵となった子ども達……そして、戦場におけるXナンバーの活躍」

 

 ウズミがちらとサクヤの方を見る。

 どれも、マリュー達には耳が痛くなる話であった。

 しかしウズミの声に責める調子はなく、あくまでも事実を語るように淡々としていた。

 

「そして今は、避難民の受け入れと称してその艦をここに受け入れている……これが正しい選択だったのかは、今でもわからん」

「ボクとしては、正しい選択だと思いますがねェ。どっちつかずの態度でいれば、何が起きるか分かったモンじゃない」

「それも正しい物の見方であろう。しかし、我々が中立を保つのは、ナチュラルとコーディネイター、どちらも敵にしたくないからだ」

 

 語り始めるウズミを、つまらなそうにアズラエルが見遣る。

 また始まった、と言わんばかりの態度だ。

 

「が、力なくばその意志を押し通すことはできず、だからといって力を持てば、それもまた狙われる……」

「だから、結局力が要るんでしょうに……」

 

 アズラエルが小声で言う。

 このような場でなければそれを言ってのけて、ウズミとの弁論大会が始まるところであったが、しかし今回の会談はそのような場ではなかったために、少し自重していた。

 とはいえ、何度も聞いてきたその言葉にいい加減ウンザリした様子で切り出した。

 

「―――そんな事より、いい加減本題に入りません? 時間も無限じゃ、ありませんしねェ」

「……承知した」

 

 アズラエルが言えば、ウズミは鷹のように鋭い目で彼を睨むように、そして並ぶ士官を見据えて言った。

 

「『ストライク』のこれまでの戦闘データ、それとパイロットである2人―――キラ・ヤマトとサクヤ・サイジョウ中尉両人のモルゲンレーテへの技術協力を、我が国は希望している……」

 

 その言葉に、サクヤを除く士官組が驚愕に表情を歪めた。

 ここまでは予想通り、と思いつつ自分が技術協力の範囲に入っていることも想定内であったサクヤは、出資者でもあるアズラエルの表情を窺った。

 彼はいつも通りに交渉が自身の思い通りにいった時のように余裕そうな表情をしており、つまりそれは、この本題はあくまでも決定事項の確認であるのだ、という事を彼に認識させた。

 

「アークエンジェルの修理と、ストライクの予備パーツの供出もお忘れなく。ウズミ前代表?」

「無論だ」

 

 ウズミとアズラエルの無言の睨み合いが少し続いた後、会談は終了となった。

 士官組とアズラエルはアークエンジェルへと戻り、今後について検討すべく艦長室へと集まっていたが真っ先にナタルが口を開いた。

 

「アズラエル理事にお聞きしたい。この件については、既に決定していた事項なのですか?」

「ン?」

 

 艦長室のわりに狭いですねぇと零すアズラエルに、ナタルが鋭い視線と質問を投げつける。

 

「事前交渉もなしに、この国が軍艦を受け入れてくれるワケはないですからネ……ぜーんぶ、決定事項ですヨ」

「何故です!? ストライクは、我が軍に残された最重要機密の機体では!?」

「キミ、ストライクってどこが建造していたか覚えてます?」

 

 用意された椅子に座り、足を組み横柄な態度でナタルに問う。

 その問いにムウとマリューははっとしてそういう事か、と苦い表情になりナタルは困惑する。

 説明してあげなさいとアズラエルに促されたサクヤが、事前に渡されていた今回の件に関する資料の内容を思い出しながら説明を始めた。

 

「元々Xナンバーもその運用母艦のアークエンジェルも、モルゲンレーテ製だ。ヘリオポリスにあったそれはあくまでも支社のようなものだろうし、そこにあったデータがここオーブの大元に残されていないはずがない。それに、Xナンバー自体は全ての系列機が奪取されている訳だから今更機密も何も、って話だ。それに……」

 

 サクヤが言い辛そうに一旦そこで区切り、アズラエルの方を見る。

 その事実は彼にとっても受け入れ難いものであったし、勿論知らされていない3名にとっても到底受け入れられるようなものではないと分かっている。

 これまでの轍を無駄にするようなことを、短い間ではあったが共に死線を潜り抜けてきた彼等にそれを言うのは、裏切りではないだろうか。

 しかし続けなさい、と促されればそれは言わなければならない。

 結局、遅かれ早かれなのだ。

 

「ストライクの量産型であるダガーの生産開始、そして量産モデルの生産体制を確立しつつある今……大西洋連邦にとって、『ストライク』自体の技術的価値は既に失われている」

 

 告げられた事実に、ナタルが噛み付くように反論する。

 

「馬鹿な! なら、アラスカにストライクを届けるという我々の任務は!?」

「それは……」

 

 言い淀むサクヤに、ナタルが詰め寄る。

 ムウとマリューが彼女を制止するが、止まらない。

 見かねたアズラエルが、場の注目を自身へ向けさせるように大きく2回、手を叩いた。

 

「はい、そこまで。そんなに詰問したら元カレが可哀想ですヨ」

 

 ナタルを含め、場の視線を一手に集めたアズラエルは椅子から立ち上がり、机に手をつきながら話し始めた。

 

「オーブを出港後、アークエンジェルは予定通りアラスカへと向かってもらいます。ドミニオンも同行するのでご心配なく。技術的価値がない、といっても実機のあるなしは色々と違いますからネ。それに捕虜……砂漠の虎も収容所に移送してもらわないと。これもアラスカ方向ですからネ。だから、結局やる事は変わりません。オーブにモルゲンレーテ製のストライクのデータと、パイロット2人を差し出せばいいワケです」

 

 簡単でしョ? と言い放つアズラエル。

 それを受けて、ムウは少しため息をつきアズラエルの方へ向き直った。

 

「了解しました。では、『ストライク1号機』のデータ提供準備にかかります」

「ン、そういう事です。エンデュミオンの鷹は飲み込みが速くていいですねェ」

 

 キミも教導隊に来ます? というアズラエルの問いをやんわりと断るとそれは残念と言いアズラエルが艦長室から退出する。

 残された4人は、どっと疲れが押し寄せたかのように近くの椅子に座り込んだ。

 マリューがうんざりしたようにデスクに突っ伏し、ぼそりと呟いた。

 

「正直、知らないところで話が進み過ぎてついていけないわ……」

 

 それは、その場にいた全員の感想だった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 人間の限界は、自分で決めるものだと誰かが言っていたような気がする。

 誰が言ったのかはもう忘れた、が、では今のこの現状を限界と決めてしまっていいだろうか。

 そんなのは、絶対に嫌だ―――とアサギ・コードウェルは霞みがかった思考の中で自分が今何をすべきかを再認識し、心を奮い立たせる。

 モニターの中では、胸部に大穴を空けてビルを粉砕したジュリ・ウー・ニェンの『MBF-M1 M1アストレイ』と、左の肩口から袈裟懸けに斬られ、残った下半身だけを無残に晒すマユラ・ラバッツのM1アストレイ。

 

「何なのよ、もう……!」

 

 あまりにも一方的であった。

 敵は1体、いくらエースとはいえ3対1であれば、付け入る隙などいくらでも出るはずだと。

 囲んで叩けば、囲んで撃ち続ければ、どこかで綻びが出るはず、と。

 しかし、最初から綻びが出ていたのは自分達の方であったと気付くにはそう時間はかからなかった。

 

 まず最初に狙われたのは、ビルに隠れて敵機を狙撃していたジュリだった。

 敵のビームが周囲に着弾し、そこから移動しようと上昇した瞬間に胴体を射抜かれ、そのまま落ちてビルを圧し潰した。

 次はマユラ。

 挟撃して同時に斬り掛かろうとしたところをマユラだけが真っ先に狙われ、そのまま何も出来ずに袈裟懸けに斬り倒された。

 2人ともが、何かを言うよりも早く撃墜されてしまった。

 そして残ったアサギだけが、ビームサーベルを構えて2人を倒したその敵機と対峙している。

 とはいえ、機体は既にボロボロで左腕はイーゲルシュテルンの斉射を受けて蜂の巣となり使い物にならず、背部のスラスターもところどころが折れていた。

 しかし、アサギの心はまだ折れていない。

 

「はああっ!」

 

 それを示すかのように、残ったスラスターを煌めかせてM1アストレイを敵機へ向けて突撃させる。

 裂帛の気合と共に繰り出された突きは、しかしビームサーベルの抜き打ちと指導官(・・・)からの指導によって叩き落されてしまった。

 

「まただ。動きが直線的過ぎで、それだからこうなる」

 

 激しい衝撃と共に、モニターがブラックアウトの後撃墜判定を示す赤文字が点滅する。

 鬱陶しく点滅するそれを苛立たしく思いながらも、身体に加わった衝撃と疲労で限界が来ていた身体にとどめを刺されたアサギは、その意識をシミュレータのシートの中で手放した。

 

「あれ? 気絶してないかこれ……衛生!」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「いやいや、お疲れさまでした。どうです、オーブのモビルスーツは?」

「どうも何も、あれを初級者が扱うのは中々に厳しいでしょうね。装甲を限定するのはいいんですが、あまりにも限定しすぎです」

 

 シミュレータから降りたサクヤを労う様に、アズラエルが声をかけた。

 別のシミュレータからは、ぐったりと動かないアサギ達が担架に載せられて搬送されていく。

 

 オーブはオノゴロ島、モルゲンレーテ社の地下工場。

 寄港したドミニオンと合流したのも束の間、サクヤはオーブとの秘密協定に基づき、モルゲンレーテ所属のテストパイロット達へモビルスーツ操縦の教導を行っていた。

 このオーブ寄港、名目上はヘリオポリスからの避難民の送還であったが、実際のところはモルゲンレーテ社との技術協力と一部技術の接収が本来の目的であった。

 ダガーの性能実証の完了及びストライクダガーの生産体制の確立が進んでいる今、大西洋連邦にとって『ストライク』の技術的価値はほぼ皆無に等しく、それよりも蓄積された戦闘データの方が希少価値は高く、また未だ発展途上であるナチュラル用OSを完成させることが急務であった。

 そしてナチュラル用OSを完成させるといった課題は、M1アストレイの生産体制を確立しつつあるモルゲンレーテもといオーブにとっても同様であり、利害の一致した両者は共同開発という結論に至った。

 あくまでも大西洋連邦主導の共同開発であり、パテントや各種の権利は大西洋連邦に帰属するという条件付きではあったが。

 

 そういった状況下で、開発は進められキラとサクヤがアークエンジェル内でシミュレータ用に構築したナチュラル用OSの存在とキラ自身の協力もあり、構築自体はスムーズに完了し、あとは実機による試験を残すのみであった。

 

「OS自体はこれで問題ないと思います。前のモビルスーツ太極拳みたいなのよりは全然。ただ、やっぱりそれを扱う人間の方ですね」

「技術はあっても、結局はそこですか……ま、キミ達みたいなのがゴロゴロいる訳じゃありませんしねェ」

 

 結局のところ、機体そのもの(ハード)とそれを動かすOSが完成していても最終的な決心は操縦する人間と運用する人間にあり、それに関する知識と経験が無ければいかに優れた物を揃えようとも無用の長物と化す。

 それはある意味ではヘリオポリスでの奪取事件の教訓でもあったはずなのだが、未だにオーブでは理解されていないようであった。

 

「そういった意味だとダガーのOSもまだ完全じゃないですね。コーディネイター用よりもちょっとマシになった程度じゃ普及はできませんよ」

「ま、そこは今回の共同開発である程度何とかなると思うんですケド……おや、主任」

 

 サクヤとアズラエルが話し込んでいるところに、30代ほどの茶髪の女性が歩み寄る。

 その表情には呆れと賞賛が浮かんでいたが、僅かばかりに呆れの方が強かった。

 

「手加減はなしって言ったはずよ、サイジョウ中尉? ま、本気出されたらあの娘達は何も分からず落とされてたでしょうけど」

「ま、現実を知るのにはいい機会なんじゃないですか? 連合のエースはこんなもんじゃないって」

「なんか、そう言われるとむず痒いですね……」

 

 呆れ笑いをしながら、その女性―――エリカ・シモンズ技術主任は先程の戦闘映像を表示したタブレットを2人に差し出す。

 タブレットの中ではサクヤの駆るM1アストレイがデータで構築された戦場を縦横無尽に駆け巡り、アサギ達を次々に撃墜していく姿が映し出されていた。

 

「乗って数日のモビルスーツをここまで縦横無尽に操られては、テストパイロット達も立つ瀬がないわ。流石は流星、といったところでしょうけど」

「いいモビルスーツだと思いますよ。素直で反応も速いですし。ただ……」

「ンで、主任? 例のアレは、見せていただけるんでしょう?」

 

 サクヤの言葉を遮るように、アズラエルがエリカに言う。

 余計なことを言うなとばかりに無理矢理割り込んだが、『例のアレ』という単語に気を取られたエリカはサクヤの言葉に反応する余裕を失っていた。

 

「理事、あの機体は……」

「前代表から、許可も貰ってるんですがねェ。そうなると技術協力の話も……」

「……承知しました。ですが、準備がありますのでそれは後日に」

 

 渋々と了承するエリカと、それに満足そうに頷くアズラエル。

 例のアレ、の内容が全く分からないサクヤは、小声で聞いてみた。

 

「理事、例のアレって何です?」

「ン、例のアレというのはですネ―――」

 






キミの、新しい機体ですヨ。

―――ある程度順調に物事が進んでいる出資者


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