ウルトラお久しぶりです。
なんとか体調も復帰して、短いですが仕上げることができました。
今後もしばらく不定期更新になりますが、お付き合い頂けると幸いです。
ちなみに劇場版はいい意味で5分に1回のペースで発狂しそうになりました。
「父さん、母さん!」
ドアが開き、懐かしい顔が見えた途端、アークエンジェルの少年少女たちは走り出していた。
それぞれが各々の両親のもとへ駆け寄り、部屋の中で今か今かと待ちわびていた彼らが安堵と戸惑いとともに子どもたちを迎える。
見慣れない、しかも他国の軍服の姿は彼らを少しだけ大人びさせて見せていたが、それでも両親たちの前では彼らはただの子どもだった。
駆け寄り心配をかけたことを詫びたトールの目前では母親が涙を流しながら息子を叱りつけ、父親は複雑な表情でありつつも笑みを浮かべる。他の子どもたちも同様だった。
あちらこちらで嗚咽が漏れ、固く抱き締めている姿を見て面会に立ち会っていたマリューも思わず涙腺が緩む。
その中で、部屋の中を落ち着かなさそうにきょろきょろと見て回る夫婦の姿を認めたマリューは、まさかと思い近付いて声を掛けた。
「あの……キラ・ヤマトくんのご両親でしょうか?」
「……! はい、その、息子は……」
やはり、とマリューは彼と面影が似ている両親に今もモルゲンレーテの工廠でモビルスーツにかかりきりの彼を重ね、そして罪悪感で胸が締め付けられてしまった。
今からこの2人に、あなた方の息子さんは『今は会いたくない』と伝えるのは余りにも酷な話だ。
しかし、それ以上に何を言えようか。
ここで噓を伝え、来ない彼を永遠に待ち続ける彼らを自分は見ていられるだろうか。
「その……大変、申し上げにくいのですが……『今は会いたくない』、と……」
「そ、う……ですか……」
マリューの告げた言葉に、酷く落ち込んだ様子の2人が答える。
どんどん小さくなっていく2人に、マリューは罪悪感でいっぱいだった。
戦地を潜り抜けてきた自身の子どもが心配にならない親などいるものか。本来ならば、親元を離れて学校に通っているだけの子どもたちが戦争に巻き込まれ音信不通になった時点で落ち着きを失うはずなのに。
息子が来ない、とあれば2人がここにいる理由はない。
キラの両親───ハルマ・ヤマトとカリダ・ヤマトはひどく肩を落とし、部屋から退出していく。
マリューは、その姿をただ見送ることしかできなかった。
◆◇◆
「ちょっと、離してください……! 僕は、今は会いたくないって……!」
「いいや、離さない。折角親に会えるのに、会わないってことは俺がさせない」
オーブ軍の施設内で、サクヤが無理矢理アークエンジェルから文字通り引っ張ってきたキラと押し問答になる。
ナチュラル用のOS作成作業もひと段落つき、解放されたはずのキラが未だ艦内に残っていたのを見たサクヤがここまで連れてきたのには、他にも理由があったが大部分を示していたのは彼の両親に関してだった。
あと少しで面会所となっている一室の近くにたどり着く、というところでキラが掴まれていた腕を振り解く。
再び掴もうとするサクヤであったが、キラがその手を払った。
「僕は、放っといてください……! 今は、会いたくないんです!」
きっと睨みつけるキラに怯むことなく、サクヤがもう一度彼の腕を掴んで無理矢理引っ張っていく。
嫌がりながら反抗するキラであったが、コーディネイターであっても訓練を受けていない彼が現役の軍人である彼に敵うこともなく、少しずつその部屋へと距離を詰めていった。
「会いたくないのは勝手だが、心配している親御さんたちのことも少しは考えてみるんだ……こんなことになって、心配しない親なんていない」
「でも……でもっ!」
再度、キラが腕を振り払う。
その目には涙が溜まっていた。
「……今、会ったら……言っちゃいそうで、嫌なんです」
ぽつぽつと話し出したキラに、サクヤは黙って聞く態勢に入る。
「なんで僕を、コーディネイターにしたの、って……」
「………………」
「そんな酷いこと、言いたくないのに……」
自分から視線を外し、少しだけサクヤが俯くのが見えた。
今会えば───両親に、酷いことを言って、なじって、今更どうしようもないことで2人を傷付けてしまいそうで───これ以上、誰も傷付けたくなんかないのに。
つい先日だって、フレイのことでサイを傷付けたかもしれない。本人には彼女のことを頼むと言われたが、それでもこの事実は変わらない。
傷付けたくないのに、傷付けてしまう。
そんな事は、もう……。
「なら、聞いてみればいい」
「え……」
いつの間にか顔を上げていたサクヤが、優しくキラに言う。
どうして、と表情で問うキラに諭すように続けた。
「傷付けていい、って言ってる訳じゃない。ただ、親と本心で話すことができないのは寂しいことだよ」
サクヤの胸に、もう会えなくなった本当の両親と自分を案じてくれていたこの身体の両親のことが去来する。
前者はもう会えるはずもなく、後者はエイプリルフール・クライシス以後今も連絡が取れていない。もしかしたら、と思うがそれを確かめる術すらない。
今、自分には心の奥底の本音を言える誰かはいるだろうか?
「親って、一番最初に本音で話せる人だろう? 俺も、昔は親に生まれて来なければよかったって言って喧嘩になったこともあった」
君とは事情が違うけどな、と言ってサクヤが自嘲する。
あれはいつぐらいの頃だろうか、ジュニア・ハイかハイ・スクールの頃だったか……と過去を朧気ながら思い出す。
思春期特有の全能感を経験と正論で否定され、自分が間違っている事を周囲が理解してくれないせいだと、肥大化したエゴを処理できなかったあの頃。
何も上手くいかない、できない自分を育て方が悪いんだと親を蔑んだあの頃。
そんな記憶ばかりだったが、しかし両親は俺を見捨てずに叱り、励まし、愛してくれた。
あの頃の自分と、今のキラの置かれている状況は全く違う。
ただ自分の未熟を他人に押し付け、苦しいことから逃げて喚き散らしていただけだが、キラは自分でやるべき道を選び、悩み苦しんでいる。
だからこそ、とキラに念押しする。
「言い合いになってもいい。喧嘩になってもいい。でも、君をここまで育ててくれた両親は、間違いなく君の理解者なはずだ」
育ての両親はキラの真実を知っているとはいえ、彼は愛されて健やかに、真っ当に育ってきたはずだ。
それは間違いないと、確信を持って言える。
今にも泣きそうな彼の背を優しく叩きながら、その部屋に向かおうと歩き出し、そしてドアから1組の夫婦が肩を落としながら出ていくのが見えた。
それを認めたキラの足が止まり、同じくサクヤも固まる。
2人に気付いた夫婦もその存在に気付き、振り返り、そして固まった。
「キラ……?」
「父さん……母さん……」
一時、空気が固まる。
その沈黙を破ったのは、キラの母親、カリダだった。
息子の存在を認めた途端、駆け出して力強く抱き締めた。それに一拍遅れて、父のハルマも駆け寄る。
父と母の懐かしい声と温もりに包まれながらも、キラは固まったままだった。しかしその目には涙が溢れている。
ここから先は家族の時間だな、とサクヤは一礼をしてその場から去っていった。
◆◇◆
「あーっ! 中尉、どこ行ってたんですか! ずっと探してたんですよっ!」
「用事があった、すまない。で、どこまで進んだんだ?」
工廠に戻ったサクヤを目ざとく見つけた少女たちが、きゃぴきゃぴと姦しく彼に詰め寄った。
彼女たちを放っておいたことに謝罪しつつ、もう少し静かにはできないものかと苦笑する。
そんな彼の心中も知らず、アサギ、マユラ、ジュリ3名のテストパイロットたちのうち、アサギだけが少しおどけた様子で敬礼をしてみせ、嬉しそうに報告した。
「不肖、アサギ・コードウェル3尉! サクヤ・サイジョウ中尉の課題をトップでクリア致しましたっ!」
「いちばん被弾してたくせにぃ……」
「もう1回やれば私がトップ取れるんだけどなぁ」
きゃあきゃあと騒ぐ3人娘に若干喧しいと思いながらも、自身が与えた課題をクリアしたことには感心をする。
これまで蓄積してきたザフトとの戦闘をデータ化(エースパイロットを除く)し、敵の能力を平均化してそれを敵役としたシミュレータをクリアしたのだ。
ナチュラル用のOSが一応の完成を見たとはいえ、短期間でほぼほぼ実戦に出せるようなレベルにまで成長しているのは彼女らの努力だけではなく、才能も非凡であることを示していた。
ここまで出来るようになるとは思わなかったと素直に感心しながらも、しかし彼女らと交わしていた約束を思い出しあっと若干苦い顔になる。
それはここまで彼女らに深入りしていいものか、という懸念とこの姦しさに今日の残りを費やさなければいけないのか、という若干の心配だった。
「と、いうわけで……中尉? 約束、守ってもらいますからね?」
じりじりとアサギに詰め寄られ、参ったなと零すサクヤ。
その後ろでは、じとじととマユラとジュリが恨めしそうに彼女を見ていた。
悪い気はしなかったが、しかし軽はずみで口約束などするものではないなと小鳥のように騒ぐ彼女らを見て、少しため息をついた。
うっそ、中尉の元カノがアークエンジェルに!?
───主任から噂を聞いたテストパイロット