誕生日なのに雪で道が止まったり会社に遅れたり散々でしたが、お気に入り登録していたのが一気に何作も更新されたので幸せおすそ分けです。
「お願いします! シミュレーションだって、基準もクリアしましたし! やれますよ!」
スカイグラスパー2号機の前で、トールがムウとマードックを相手に懸命に訴えかけている。
彼を連れてきた当の本人であるサクヤも、若干苦い顔でそれを見守っていた。
折角故郷に帰り、短いながらも実家に帰ることを許されていた少年少女達であったが、トールはその最終日の一日前に帰艦して再びシミュレータに熱を上げていた。
そして出航直前の今日。
ムウとサクヤの組んだプログラムを彼らの目前でクリアしてみせたトールが、出撃を許可するように頼み込んでいた。
「いや、まぁ……こいつが2機出れれば、色々助かるんだろうが……」
マードックは渋々といった様子で譲歩するが、ムウとサクヤは苦々しい顔のままだ。
ストライカーパックを使用可能なモビルスーツを5機運用している現状では、確かにそれを運搬可能なスカイグラスパーの機数が増えることは戦術の幅が広がるだけでなく、各機の継戦能力が向上することは間違いない。
しかし、正規のプログラムを受けたわけでもなく、かつ実機での飛行時間も皆無である彼を果たして乗せていいものだろうか。
いいわけがないだろう、とサクヤは思う。
しかし、シミュレータを用意したのは彼であるし、ムウも熱中する彼に時間を割いて様々な指導をしてきたのも事実だ。
その上、クリアすることは無いだろうと思い込んでいたシミュレーション・プログラムをクリアしてみせたのだ。
確かに、実力と素養は間違いなくあるようだった。
「ストライカーパックを俺が運べれば、ストライクだけじゃなくダガーの人達の支援だって……」
熱弁するトールに、ムウとサクヤが顔を見合わせる。
自分が認められていない、と判断したのかトールはなおも言う。
「モビルスーツの支援と、上空監視だけです! それくらいなら、俺にだって!」
「……彼女と、そのことについては話したのか?」
サクヤがそう言うと、トールはうっと言葉に詰まる。
やはりな、とサクヤは心中でため息をつく。あれだけ言ったのにもかかわらず、これなのだ。
アークエンジェルで副操舵手をやっているならば、それはまだいい。
しかし、スカイグラスパーに乗って戦場に出るのならば事情は少し変わってくる。
その上、現状として本来そうであった戦力よりもモビルスーツの数が充実している今、わざわざスカイグラスパーの数を増やす意味は薄い。
何より、ミリアリアにその話を全く通していないことが最大の問題だった。
「そういう事は、しっかり話しておかないと大変って話はしたな? 俺としては、それが解決しない限りこれには乗せられないと思う……少佐は?」
「……同意見だぜ。あの嬢ちゃんと話付けない限りは、許可は出さねぇ」
名だたるパイロットの2人にそう言われては、トールも反論できない。
がっくりと項垂れ、「ミリィと話してきます……」と言い残しその場から去っていった。
とぼとぼと歩くその背を見送りながら、ムウがサクヤに絡みだす。
「いや助かったぜ、中尉殿。俺じゃ、ああいうのは言えないからさ」
「まぁ、大変なのは事実ですし……それに」
ちら、とムウの方を見ればその先は言わずとも、といった顔をしている。
目的地まで、あと少しなのだ。そこまで行けば、彼等の除隊は認められるだろうし、その間にわざわざ危険な事をして命を危機に晒す必要はない。
それはストライクで出撃するであろうキラにも同じことが言えたが、しかしアークエンジェルを追跡している部隊との戦力差を考えればそうも言ってはいられないのが現状であった。
「誰も死なせず、ここまで来れたんだ……アラスカまで、そうありたいもんだぜ」
「違いない、ですね」
いつの間にかマードックはいなくなっていた。
少し湿っぽくなった空気を入れ替えるように、そういえばとサクヤが別の話題を切り出した。
「ところで、ちょっと聞きたいんですが……俺とバジルールの話が色々なところに広まっているのに、心当たりは?」
「……いっけね! 俺機体の調整しなきゃだった!」
◆◇◆
コロニアル様式の白い邸宅で、一人身支度を終えたカガリは最後の仕上げ、と髪を整える。
その姿を見る侍女のマーナが、その成長に感激したのか、または別の理由か―――口元に手をやり、涙を浮かべていた。
慣れないながらも、自身に用意されていたスーツに袖を通しておかしなところがないかを確認し、出ようとしたところをノックの音が引き留める。
返事もなくドアが開かれ、カガリが振り返ればその先には父のウズミが立っていた。彼は驚きに満ちた目でカガリの服装を見て、質問を口にした。
「……それに袖を通す意味は、分かっておろうな?」
「はい」
カガリは身構えた様子で答える。
幼い頃母を亡くした彼女にとって父は、ウズミ・ナラ・アスハは特別な存在であった。尊敬し、誇りに思い、そしてウズミも娘に対し深い愛情を注いでいた。
ヘリオポリスでの一件以降、衝突しその真意を図りかねていたが、様々な事を体験して今再び会ってみれば、父も迷っているということが分かった。
そして自分自身も迷っている。
アークエンジェルへ行き、彼等を助けたいと思っている自分もいた。
しかし、それは
「色々、学びました。レジスタンスで、アークエンジェルで。今でも、彼等と共に行きたい気持ちもあります」
レジスタンスで如何に自分達が無力で、相手に踊らされていたのか。
アークエンジェルで、自分の勝手さが招いた結果が何だったのか。
それら全ては自分の未熟さと身勝手さが引き起こした結果であり、その中で失われた命も多数あった。
失われた命は戻ってこない。
ただそれでも、そんな自分にも託されたものがある。
加工して首からさげられるようにしてもらった、マラカイトのお守りが僅かに熱を帯びた気がした。
「でも、それは私のやるべきことじゃない。私のやるべきは、銃を取って戦うことだけじゃないって」
離島でザフトのパイロット、アスランと対峙した時のことを思い出す。
その後救出され、キサカ共々サクヤに叱られたことも。
君の生まれ持った責任を本当に自覚しているのか、砂漠の戦いで何かを託されたんじゃないのか、と。
「お父様は私に世界を見てこい、と仰られた。その意味が、今ならわかる気がします」
ウズミは黙ってカガリの言葉を聞いている。
当初は驚くばかりのウズミであったが、愛娘の成長を目の当たりにして深い瞳でその姿を見ていた。
「銃を取るばかりが戦いではない……だから、今は」
「もうよい、カガリ」
ウズミが優しく言う。
数年ぶりに見る、穏やかな表情をした父がそこに居た。
「おまえの成長を、嬉しく思う……辛い経験を、したのだな」
ウズミの大きな手がカガリの髪を優しく撫でる。
キサカからは主だった事象についての報告を受けていた。
自身の判断ミスで仲間を殺してしまったこと、その母親との会話、無断出撃であるものの起死回生の一撃でザフト艦に報いたこと、他にも様々なこと……。
失敗に伴う犠牲は大きい。それは、一生カガリの胸中に残る事であろうし、それは本人が背負って歩いていかなければならないことだと思う。
しかし、こうも思うのだ。
誰かに何かを託されることを知った彼女は、これから良い方向に変わり続けていくのだろう、と。
カガリは、小さい頃からこの大きな手に撫でられるのが大好きだった。
身体が大きくなった今でも、その心地良い感触は変わらない。
多くは語らず、彼女に背を向けるとウズミはそのまま歩き出した。遅れまいと、カガリが慌てて続く。
「……参ろう。彼等が、旅立つ」
ウズミの大きな背に頷きを返しながら、カガリは歩き出した。
◆◇◆
「なんとか修復は間に合ったけれど……」
「戦闘は保って2度3度、でしょう? アラスカまでなら、何とかなりますよ」
ドミニオンとアークエンジェルに分かれて搬入されていくストライクを眺めながら、エリカが心配そうに言う。
ストライクの修復作業と新型の調整も同時並行に行っていたせいか、あまり休めていないようで化粧では隠しきれていない隈があった。
同じくその新型もまだまだロールアウトにはほど遠い状況で、結局未だに工廠の最深部で作業が続けられている。
サクヤ自身は実機を一目見ようとも思ったのだが、アズラエルから「こういうのはサプライズが大事なんですヨ」と見せてもらえずにいた。
「1号機も修復は完了しているわ。こちらはまだ余裕はあるけれど、あまり無理はさせないでね」
「分かりました」
同じく説明を受けていたキラが頷く。
ドック内では、アークエンジェルに取り付いて作業していたモルゲンレーテの技師たちが退避していき、それがまもなくこの艦が出航するという事実を物語っていた。
そろそろ俺達も、とサクヤ達が戻ろうとしたところ、駆け足でこちらに向かってくる少女らが4人。
カガリと、アサギ達M1アストレイのテストパイロットだ。
「おーいっ!」
「挨拶もなしだなんてひっどーいっ!」
今日のカガリは普段とは全く違うスーツ姿で、アサギ達もサクヤが初めて見るオーブ軍の制服姿だった。
見送りには、いつもの格好だと砕け過ぎたのかもしれない―――と考えれば、彼女たちの義理堅さが少し可笑しく思えた。
カガリはキラのところへと駆け、そして残りの3人はサクヤのもとへ。
肩で息をしながら、いつも通りに3人が同時に喋り出す。
「なんで昨日言ってくれなかったんですかっ! もう会えなくなるかもしれないのにっ」
「ホントですよぉ。アサギなんて、昨日出航の事聞いたら泣き出しちゃって」
「ま、気持ちは分からなくもないケド……」
「ちょっ、それは言わないって約束したじゃん!」
別れ際になっても、この姦しさ。
いつもと変わらない彼女らに苦笑しながら、しかし確かにもう二度と会うことは無いかもしれないというのに挨拶無しは不味かったな、とも思う。
とはいえ先の事を考えれば、本当に彼女らに深入りしすぎてしまったなとの後悔もあった。
覚えている限りでは、彼女らは―――と考えたところで、思い浮かんだそのビジョンを消し去る。
事実がそうであっても、今ここで彼女達は生きているのだ。それを、この先がこうだからという決めつけは今を生きる3人への侮辱だと今更気付いた。
未来は、誰にも分からない。
「ちょっと、言い辛くてな……すまない。だけど、こうやって最後に会えてよかったと思う。元気でな」
「中尉、また会えますよね? いつかまた……」
「ああ。いつかまた、な」
瞳に涙を溜めながらサクヤの胸に飛び込んでくるアサギと、それを驚きながら受け止めるサクヤ。
後ろではマユラとジュリが黄色い声を上げ、冷やかしを入れている。
どうしたものか、と困っているサクヤだったが顔を赤くしてこちらを見ているキラと、呆れ顔のカガリが視界に入り、2人に助けを求めた。
「……お前、節操なさすぎ」
そう言われれば、ぐっと言葉に詰まる。
ナタルの件についても再燃しつつある今(特に某少佐のせい)、あまり火に油を注ぐことは避けたいと考えるサクヤであったが、この状況ではどのようにしても焼け石に水である。
やれやれ、とため息をついたカガリが近付き、アサギを引き剥がした。
「もう、いいだろ? 本当に、世話になった。言われなければ私はまた、何度も同じ間違いを繰り返すところだった」
「いや……いいさ。その服を着ているという事は、自分のやるべき事が分かった、って事なんだろう?」
「ああ。これからは、自分の責任を果たせるようにもっと色々な事を学んでいこうと思う」
そう言うカガリの目は、砂漠で会った頃よりももっと遠く、広くの物を見ているような眼差しだった。
これならば、もう大丈夫だろうと思う。少なくとも、初めて会った時よりは多くの物が見えているはずだろうから。
間もなくドックへの注水が開始されるというブザーが鳴り響き、辺りが慌ただしくなる。
「中尉、絶対ですからっ! またいつかっ!」
未練がましく縋る3人、特にアサギとこちらに大きく手を振る3人に背を向け、サクヤとキラはそれぞれの艦へと歩き出した。
◆◇◆
「……足付き、オーブ領海から離脱を確認!」
「ここまでは、アスランの読み通りだな……各員に、戦闘準備をさせろ」
ボズゴロフ級2番艦『クストー』の発令所で、クルーゼが顎に手を当てながら指示を出す。
アスラン達が要求した増援要請は、本来ならばパナマ攻略戦の準備で忙殺されていたカーペンタリアで受理される事なく、現有戦力で対処せよとの指令が降りるはずであった。
しかしここで
「彼等も、運がいいですな。ジブラルタルは遠く、カーペンタリアも作戦準備で増援を出せる状況にないというのに」
「持っているのさ。英雄、と呼ばれる者達はな……」
はぁ、と隣に控えていた艦長が怪訝そうな顔をする。
噂通りよく分からない人物だ、と思いながら離れていく艦長を気にせず、クルーゼは目の前に広がる共通状況図を睨み、そしてほくそ笑んだ。
―――どうやら持っているのは、アスランだけでなく私もそうであるようだな……。
この戦いが、戦争を一変させる鍵となる。それはこの作戦に参加する誰もがそう思っていたが、しかしクルーゼは別の意味でそう感じ取っていた。
遂に、
そしてそれを嵌め込むのは、自分である―――と、仮面の下の顔を邪悪に歪めた。
じゃあ、行ってきます。
───ストライクの少年
映画のキャラを
-
出せ♡
-
出すな♡
-
設定が固まってから出せ♡
-
ノベライズ下巻出るまで考えろ♡