MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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4話 潜航のサクヤ

 プトレマイオス基地に帰還した地球連合軍宇宙艦隊の雰囲気はそれはもう暗いものであった。

 お通夜を通り越して幽霊船が帰ってきたのか? と事情を知らない基地の留守部隊は冗談を飛ばしていたが、帰還した艦隊の状況を知るうちに誰もが口を開けなくなり、そして沈黙した。

 

 『血のバレンタイン』と呼ばれることになるこの事件は、地球連合軍に多大な損害を与えるとともにプラント側にも多大な民間への被害と心理的影響を与えた。

 食糧生産コロニー『ユニウス・セブン』の崩壊はプラントに住むコーディネイターに対して、元から底値であった地球連合への感情を底なしの沼へと落とし、食糧生産コロニーを破壊したことにより自らの生存権を脅かす存在にすら昇華させてしまう。

 

 それに加えて最高評議会議長シーゲル・クラインによる『黒衣の独立宣言』は、プラントの地球連合からの独立と宣戦を布告する内容であり、報復を叫ぶプラント市民に対しては強力な麻薬となった。

 こうして、人が宇宙に進出し地球外生命物体の存在を確認さえする時代にナチュラルとコーディネイター、2つの人種が互いを憎悪で覆い尽くさんとする絶滅戦争が始まってしまったのである。

 

 そうして、正式に戦争が開始されて1か月。

 この間だけで地球連合、ザフトの双方はお互いに多大な損害を被ることになり、更には人類初の宇宙都市『世界樹』が宇宙に浮かぶガレキの一つとなった。

 世界樹攻防戦においては、両勢力ともに多大な損害を出す事になったが、これの主な原因として挙げられるのがザフトが投入した新兵器『ニュートロン(N)・ジャマー』である。

 

 この新兵器は主な機能として核分裂作用の抑止が挙げられる。

 現在地球連合軍の主力となっているMk.5核弾頭は起爆に原子爆弾を用いるテラー・ウラム型水素爆弾であり、これは内部の小型原子爆弾の爆発、つまり核分裂反応により発生したエネルギーを利用して内部の核融合燃料を圧縮、発生する多大なエネルギーを破壊力に転用する旧世紀から利用される核弾頭であり、先の世界樹攻防戦においてもメビウス部隊及び各艦隊に配備されていたが、投入されたNジャマーにより起爆の第一段階である核分裂反応が阻害され、結果的にその全てが無用な放射性廃棄物と化した。

 

 それに加え、Nジャマーには各種電波の伝達が阻害されるという副次的な効果があった。

 これにより地球連合軍の各艦及び艦載機等の高度なデータリンクによるC4ISTARが使用不可能となり、情報の優越を得られなくなった地球連合艦隊は多大な損害を出す事になる。

 データリンクでコミュニケーションを確立していた艦隊と艦載機は分断され、かつ各艦及び各艦載機の1艦1機のコミュニケーションさえ寸断される状況は、耳目を失った状態で混雑した高速道路を走らされるに等しい状況であった。

 

 あらかじめ電波阻害の効果を認識していたザフトでさえ、Nジャマーの投入により作戦行動の一部に支障をきたし損害を被るほど重大な効果であり、従来の情報伝達に頼らない新たな手段の普及が急務とされた。

 

 本来の勝ち目としての長距離火力の発揮がほぼ不可能となった上に、近接戦闘においてはザフトの保有するモビルスーツに後れを取る現状では、地球連合軍は対抗策としてのモビルスーツ開発計画を決定せざるを得ず、軍の支持母体でもある国防産業連合理事たるムルタ・アズラエルの支援(ゴリ押し)により実証及び試験運用部隊の編成も含めて大量の予算が計上されることになった。

 デュエイン・ハルバートン提督のプランを母体とし、その計画に大量の予算と人員を投入することが決定。

 

 オーブの国営企業である『モルゲンレーテ』を巻き込み、MS運用艦の建造も含めた一大プロジェクトがここに開始されたのである。

 時を同じくして、開戦して数か月にも関わらず保有するモビルアーマー戦力を半分以下に減らしたプトレマイオス基地駐留艦隊では、再編に伴う人事異動、補充機の受け入れ等が行われており1か月前の様子とは打って変わって基地内は忙しなく動き回っていた。

 にも、関わらず。

 

「え、このタイミングで地球に異動ですか?」

「そうだ。ついでに中尉昇任の内示も出ている。これはこの前の賞詞の副賞みたいなものだな」

 

 最早モビルスーツ開発の方面に関わることを諦め、メビウス・ゼロのパイロットとして、ルーズベルト航空団攻撃飛行隊先任小隊長兼運用訓練幹部として生きていく決心を決めたサクヤにとっては、晴天の霹靂であった。

 ガンダムもどきに乗ってくるはずが未だに正体の分からないモビルスーツに乗ってくるゲームの初見プレイ時並の衝撃である。

 なんだこれは、と思う間もなく飛行隊長から追加事項の雨あられが降り始めた。

 

「出発は明後日だ。携行書類は明日渡すから、今日はもう上がって荷物を纏めておけ。新しい階級章やら身分証は異動先でもらえるらしい」

「分かりました。地球への足は明後日出航予定のシャトルですか?」

 

 飛行隊長が頷くとともにサクヤに辞令書を渡す。

 それを受け取り、あとで目を通そうと持ってきていたバインダーに挟み込んで部屋から退出しようとすれば、

 

「送別会兼ねて昇任祝いは明日の夕方に基地のクラブでやるからな。今日は胃腸を休ませとけ」

 

 と声がかかる。

 全力で胃腸を休養させますと返答して隊長室から出ていったサクヤであるが、嬉しいはずの異動内示に不可解なものを感じ、挟み込んだそれを読みながら歩きだす。

 確かに間違いなく正式な公的文書であるな、と読み進めてみれば、どこかで見たことのあるような文字列が目に留まった。

 

「『特殊戦技教導隊』……マジで?」

 

 各種操縦技術に精通したパイロットを各部門から集め、人型機動兵器のモーション・パターンの構築を目的とした伝説的なエリートパイロット集団。

 まさかこの世界ではモビルスーツではなくパーソナルトルーパーの開発が決定してしまったとか!? と混乱しだすサクヤであったが、どこか名状しがたい不安のような嫌な予感もそこにあった。

 

 あまりにも都合が良すぎないか? と思いつつ、たった一度与えられた命はチャンスだからとか逃げたらひとつ、進めばふたつ……と様々な故事(オタク語録)で自分を鼓舞する。

 少なくとも、今の死と隣り合わせの明日のパンツが吹き飛びそうな生活と比較すれば幾らかはマシになるだろう。すぐに元の、同じパンツを1週間履き続ける生活に戻る可能性だって十分あるが。

 隊長の指示通りに荷物を纏めるべく自室へと戻っていくサクヤ。

 その足取りは重いと言えず、しかし軽いとも言えない微妙なそれであった。

 

 

 ちなみに翌日の送別会では、基地司令以下多数によるアルコール・ハラスメントを強靭な肝臓で全て跳ね返すサクヤの姿があった。

 跳ね返し過ぎて主賓にも関わらず後処理に駆り出される姿もあったという。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 地球の重力も久々だなぁ、と若干二日酔いの身体に鞭打ちつつサクヤは地球連合軍アラスカ基地の滑走路に降り立った。

 3月のアラスカは、遊び過ぎた士官学校4年次の卒業直前の時期よりも寒々しく、サクヤは支給品のコートの襟を立てる。

 基地に連絡機が到着したならば、迎えの車を寄越す―――とは着隊前の連絡で受けていたが、滑走路にそれらしい車の姿は無く、しずしずとランウェイを去っていく連絡機にも取り残され、ぽつんと一人。

 まさかこのまま放置プレイ? と思っていればこちらに向かってくるジープを視界の端でとらえた。

 サクヤの目の前で止まったジープの運転席に収まる色黒の男性が、申し訳なさそうに、しかしどこか親戚のオジサンのような気安さをもって尋ねた。

 

「いやぁ、悪い悪い。なにせこの基地は広いもんで……えぇと、サクヤ・サイジョウ中尉?」

 

 数秒のフリーズ。自前の脳内検索エンジンによる超高速画像検索によるものであったが、その検索結果により1人の男の詳細なプロフィールが浮かび上がった。

 まさか、と思いつつも目の前にある現実に嬉しさで舞い踊りそうになる自分(ガノタ)を堪え、目を食いしばり踵を合わせて返す。

 

「はい、サクヤ・サイジョウ少尉……訂正、中尉です」

「ははっ、そんな固くなるなよ? エドワード・ハレルソン中尉だ。よろしくな」

 

 またやってしまった、舞い上がっちゃったせいかな……と脳内反省会を始めるも取りあえずは目の前に集中、とサクヤは男に目を向ける。

 この世界に意識を移してから数年。自身の検索エンジンに引っ掛かった人物は彼が複数居たが、そういえばのレベルで覚えていたサザーランド大佐と違い目前の男、エドワード・ハレルソン中尉は、しっかりとその記憶がサクヤの脳に刻まれていた。

 あのゲームのOPは感動したしマンガでの話も良かったよねと感傷に浸りながら、彼に促されるままにジープの助手席に乗り込む。

 広い滑走路から、地下の基地施設内に移ってもアラスカの寒さは和らぐことはなかった。

 

「ハレルソン中尉はいつこちらに? まだ準備隊の段階とは聞いているんですが」

「俺も一昨日ここに来たばっかだな。連合軍が攻めてきたと思ったらすぐに編入されてアラスカへ行けってさ。あと、エドでいいぜ。肩が張るのは苦手だからな」

 

 だから俺もサクヤって呼ぶな、というエドの言葉に感動を噛み締めつつもその話の内容を反芻する。

 血のバレンタイン直後、クライン議長による積極的中立勧告は非プラント理事国に対し天啓と呼べるものであった。

 既に戦時体制に移行している大西洋連邦、ユーラシア連邦等からの食糧・エネルギーの輸入が困難となり国内の懐事情の悪化が政府内で見積もられている中、プラントから地球連合非加盟国に対し優先的に各種物資を提供するという宣言は、まさに南アメリカ合衆国にとっては渡りに船であったが、しかし海を隔てて国境を接する大西洋連邦にとっては、非常に都合の悪いものであった。

 直下にある無視できないレベルに大きな国家が、戦争中の敵国から支援を受け潜在的な敵国となるという事は、その国境に現在よりも多くの兵力を張り付かせる事を意味する。

 つい先日に実施されたビクトリア攻防戦では、システム化された長射程対空火器の多数運用という我の勝ち目を十全に発揮した対空作戦により、ザフトの侵攻を阻止する事に成功したが、連合軍情報部(G2)は今後も地上での戦闘が生起する可能性は十分存在するという見積を提出した。

 未だ楽観論が多数を占めるアラスカのモグラ達もこの見積を無視することはできず、また国境への戦力の固定化を嫌った大西洋連邦は南アメリカ合衆国の侵攻を決定。

 電撃作戦によりパナマ宇宙港を制圧し、その後南アメリカ合衆国を併合した。

 宇宙港の占領及び首都の制圧により、南アメリカ合衆国はその戦力をほぼ損耗することなく大西洋連邦軍に編入されることになり、そのまま地球連合軍に参加することとなる。

 エドワードはそのような複雑な事情を持っていたが、しかしそれを気にするような素振りを見せることもなかった。

 

「だから隊のフロアもまだごたついてる。人手が増えて助かるぜ」

「そりゃ、大変ですね……」

「しばらくは荷物運びかもな。おっと、着いた着いた」

 

 速度が緩まり、ジープが倉庫のような建物の前で止まった。

 地下をくり抜いたような構造のアラスカ基地は、他の基地と比較してあまりにも巨大でありその機能や設備は地方都市のそれに匹敵する。

 

「車戻してくるから、先に隊長のところに挨拶に行っててくれ。案内はまた後でな」

「了解です。ありがとうございました」

 

 ジープから降り、その倉庫の中に入ればやはりエドワードの言う通り内部は雑多としており、それはあっち、これはそっちといったように兵士が忙しなく動き回り各種資材を運び込んでいた。

 その内の一人を捕まえて隊長の所在を聞き出し、その示された部屋へと向かう。

 雑多具合、兵士たちが作業する様を見てサクヤは前職の具合を思い出す。そういえば忙しい時期の雰囲気ってこんな感じだったよな、どこも共通なのかなと懐かしみながら歩けば、すぐに隊長室と簡単な表示がされたドアの前に辿り着く。

 脱いでいたコートを手近なフックに引っ掛け、ノックをして入ってみれば。

 サクヤは仰天した。

 

「宇宙からようこそ。隊長のレナ・イメリア中尉よ。歓迎するわ、サイジョウ中尉」

 

 ―――MSVのお祭りかよっ!

 ガノタ的幸福回路を刺激され過ぎたサクヤは、生まれて初めて卒倒しそうになった。





連合軍の核兵器、少なくとも核分裂使わないレーザー水爆でないのは分かるけど原子爆弾か普通(?)の水素爆弾かどっちか分からないので破壊力がデカい後者にしました。

何かそういうソースをお持ちの方はこっそり私に教えてくださいネ

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