MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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41話 第2次低軌道会戦

 

「まさか艦隊戦を仕掛けてくるとは……」

「頑迷なナチュラル共のことです。これしか能がないのでしょう」

 

 ナスカ級高速駆逐艦『フーリエ』の艦橋で、傍らに立つ新任幕僚の敵を侮る言に作戦部隊司令の男は心の中でため息をついた。

 地球周回軌道上には地球連合軍パナマ基地を攻撃する地上部隊を支援するべく、多数のザフト艦隊が展開していた。

 降下カプセルを多数抱えた輸送艦に、それを守るべく円形に陣を敷いたローラシア級。

 艦艇の通信可能範囲の際にはジン強行偵察型も配置され、地球連合軍からの攻撃への備えにも万全を期している、とは見目麗しいG3(作戦)幕僚から何度も聞かされていた。

 現に、月基地から出撃した地球連合軍の艦隊は接近中にこちらの警戒部隊に発見され、現在は発進したこちらのモビルスーツ部隊への対処を強いられている。

 降下開始予定時刻まではある程度の時間はあったが、敵艦隊が輸送艦に有効打を与えられる距離に到達する頃には、輸送艦の降下ポッドが全て大気圏を突破しているという報告を先程参謀から聞いたばかりであったが、司令の心中はどこか晴れなかった。

 

「敵モビルスーツ部隊はどうなっている? 出ていないのか?」

「モビルスーツについては、多数確認されていますがそのほとんどが艦隊直掩として動いているようです。突破する兆候は確認できていません」

 

 同じく傍に控えていたG2(情報)幕僚が報告する。

 確かに表示されている情報では、艦隊の周囲にモビルスーツが展開してザフトのモビルスーツ隊を迎撃していた。

 未だに艦隊決戦に拘る地球軍に、敵がここまで到達していない楽観―――それが艦橋内に蔓延し、周囲の艦や部隊にも伝搬していた。

 

(敵を侮る訳ではないが……しかし、何故こうも艦隊での突破を図る?)

 

 司令は思考する。

 突破を図る敵艦隊の中には地上部隊に多大な損害を与えたという足付き、その同型艦が含まれている。

 情報では、敵の主力たる第8艦隊はこれまでの主力であったメビウスからモビルスーツへの機種転換がほぼ完了しており、更にその司令は低軌道会戦を生き延びたハルバートン提督だという。

 それに加えて、新編されたという第13独立部隊。メディアでの公開情報が主の情報源のためか定かではないが、GAT-Xの5機を中核とした部隊編成を取っており、機動部隊の隊長はあのサクヤ・サイジョウであるらしい。

 そこまでの機動戦力が揃っている上で、何故艦隊決戦に拘る? そもそも、直掩に出てきている敵モビルスーツの組成は?

 そして、なぜ彼等(幕僚)はここまで楽観視なのだ?

 

「前線のモビルスーツ隊に伝達、敵の直掩の組成を報告させろ。それと、降下部隊の降下準備も……」

 

 司令が指示を出した途端、俄かにCICが騒がしくなる。

 何事だ、と形の良い唇を動かしてG3幕僚が報告を求めると、レーダ席に座るオペレーターがこちらに振り向いた瞬間。

 左前方を航行していたローラシア級『マルピーギ』の砲塔が、推進部が、そしてブリッジが同時に撃ち貫かれ、爆散した。

 それと同時に、直掩のジンも飛来したビームに貫かれて爆散する。

 爆炎の発する光に照り返されながら、オペレーターが報告した。

 

「敵モビルスーツ、モビルアーマー接近!」

 

 何が、と思うよりも早くレーダに映る機影と、矢継ぎ早に届く各艦からの敵襲の報告。

 次々と溢れる情報を処理しきれず、幕僚達が右往左往する中、司令のもとに前線で艦隊を抑えていたモビルスーツ隊からの報告が入った。

 艦隊直掩の中に『G』は確認できず、恐らく予備戦力として後置か―――というあまりにも、楽観的な報告。

 そしてその報告を読み終えると同時に、CICから届く報告は司令の状況判断をわずかに遅らせるような内容だった

 

「警戒部隊、何をしていたっ!」

「接近中のモビルスーツは、『G』系列機の模様! 現在、直掩モビルスーツと交戦中!」

 

 そう報告している間にも、防空に就いていたローラシア級が撃沈。

 防空網を搔き乱していく敵モビルスーツに、機能不全となった防空網を突破して輸送艦群に攻撃を仕掛けるメビウスの部隊。

 支援を求める輸送艦群に、次々と撃墜されていく直掩のモビルスーツ部隊。

 ハメられたな、と司令は眉間に皺を寄せる。

 今ここで敵艦の迎撃に出ているモビルスーツ隊を呼び戻せば、現状を打破することは不可能ではないだろう。

 しかしそれは、モビルスーツ隊が敵部隊に背を見せることになり、追撃することに格好の餌食となる。

 その上、合流したところで今度は襲撃部隊と艦隊の挟撃を受けることになり、結果的に不利な状況には変わりがない。

 

「前線のモビルスーツ隊を呼び戻すんだ! 輸送艦群が攻撃を受けている!」

「防空火器に攻撃を受けています! CIWSの8番から10番、沈黙!」

「『G』のデータは入力してあるだろう! それを基に防空プログラムを走らせるんだよ!」

 

 艦橋内含め、ザフト艦隊は混乱の坩堝に叩き込まれていた。

 それは前線の部隊も同様で、後方の味方艦隊が攻撃を受けたとの情報が入り浮足立つモビルスーツ部隊に襲い掛かるは、温存されていた第13独立部隊のダガー部隊、そして低軌道会戦の雪辱を果たすべく訓練に訓練を重ねてきた第8艦隊。

 襲撃成功の報を受けたハルバートン提督は、作戦を次の段階に進めるよう命令を出し、その下で幕僚達が起案した計画が発動されモビルスーツ部隊が、艦隊が陣形を変えて襲い掛かる。

 

 一方で、襲撃を受けていたザフト艦隊は奇襲の衝撃から立ち直ることが出来ず、防空網の維持はおろか輸送艦群に多大な被害を出す始末。

 艦隊攻撃の為に抽出した戦力には、実戦配備されたばかりの『ZGMF-600 ゲイツ』を含めた主力を投入しており艦隊の直掩に残していたのは配置されたばかりの新兵たちだったことも要因の一つであった。

 そのような状況の中で、パナマ攻略の要である新兵器を積載したローラシア級は未だ無事であったが、それでもいつ損害が出るのかは分からない。

 司令は、状況打破のために或る事を判断した。

 

「……『D』を出せ」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「はァン? 何これ、弱すぎ」

 

 グレイプニールの先端をジンのコクピットに叩き込んで沈黙させると同時に、ランサーダートで構造材ごとパイロットを串刺しにしたブリッツが、気だるげに周囲を見渡す。

 取り囲んでいたはずのジンの部隊は既に物言わぬ躯と化しており、それはブリッツ以外の機体の周りでも同じようなことが起きていた。

 敵警戒部隊の駆逐の為に先行していたブリッツは、ルート上のジン強行偵察型を隠密に処理した後襲撃部隊の主力を誘導し合流、その後は主力として直掩のモビルスーツ部隊を処理して回っていた。

 しかしあまりにも不甲斐ない直掩のモビルスーツ隊に、シャニは不満を漏らすように、動かないジンの残骸を蹴りつけた。

 

「おいシャニ! 遊んでないでこっち来やがれっ!」

 

 ローラシア級の一つを始末したバスターから通信が入り、シャニはそちらに機体を向ける。

 あまりにも手応えのない敵に、オルガも不満を漏らしていたが再び接近するジンの姿を認めれば、すぐに切り替えて迎撃の体勢に移った。

 それはシャニも同じで、攻盾システム『トリケロス』に内蔵されている50mm高エネルギービームライフルを敵方に向ける。

 

「オラオラッ!」

 

 バスターから吐き出される火箭の嵐に巻き込まれ、迎撃に出たジンの半分が嵐に飲まれて爆散していく。

 それを逃れたジンも、ブリッツに狙撃されて爆散した。

 余りにも弱過ぎる敵に、オルガが悪態をつく。

 

「何だこいつら、プログラムより全然ザコじゃねえかよ」

 

 何も言わないが、シャニも同調する。

 プログラムの中の敵は、どこまでも強く狡猾で、圧倒的に有利なフェイズシフト装甲を装備したこちらにもバズーカやミサイルと言った爆風、衝撃を伴う武器を中心に攻撃を仕掛けて、動きが止まったところに威力は低いが連射力のある重突撃機銃でエネルギーの消耗をこちらに強いてきた。

 そして実機の演習では、トップエースたるサクヤ・サイジョウ中尉のストライクに彼が指揮するダガー部隊を相手に、あらゆる戦術行動を叩き込まれてきた。

 しかし、実際のこの敵はどうだろうか。

 想定外のことには全く対応できず、数の上では有利であるはずなのにそれを全く生かそうとせず、個々に仕掛け各個撃破されてしまう始末。

 これまで自分達が積んできた演習プログラムのどれよりも、脆い敵だった。

 

「たいちょーは?」

「あぁ? あそこだあそこ」

 

 オルガのバスターの視線の先では対艦装備のメビウス部隊を引率するように、背部のガンバレルストライカーのスラスターを煌めかせているストライクの姿があった。

 輸送艦群を守るように展開していた護衛艦隊は沈黙し、残すはHPT(High Payoff Target)たる輸送艦群のみ。

 

「オルガ達はその宙域を確保しろ。俺はHPT打撃の指揮に移る」

 

 オルガ達からの返事を受けながら、サクヤはこちらから逃走を図る輸送艦の群れに目を向ける。

 間もなく対艦攻撃のレンジに入る距離、ケリを付けるか―――と考え最後尾の艦に狙いを付けた。

 あわよくば、艦艇ごと鹵獲―――などと考えたところで、輸送艦群から何かが離脱してこちらに向かってくるのが確認できた。

 

「モビルスーツか? 単機で……いや、何だアレは……」

 

 メインカメラが捉えた機影を処理し、補正された画像をモニターに映し出す。

 機体の構成は、最近に配備が確認されたゲイツに非常によく似ている。

 しかし、頭部は4本のV字アンテナに加えて背部に背負ったX字状の大型のユニット。

 そして、ザフトのモビルスーツにしては珍しいトリコロールカラー。

 まさかここでと衝撃の余り、サクヤは思い浮かんだ機体名を漏らしてしまった。

 

「ドレッドノート!?」

 

 そう呼ばれた機体は、背部に背負ったユニットと腰部の一部を射出してHPT打撃部隊に殺到させる。

 散開、とサクヤが叫ぶも遅く射出された赤い円錐状のドラグーン・ユニットと『XM1 プリスティス ビームリーマー』から放たれたビームが襲い掛かる。

 逆噴射をかけ、機体を急制動させてドラグーンからのビームを回避したストライクであったがその他のメビウス隊には甚大な被害が出ていた。

 どこから攻撃を受けているか分からず、混乱するメビウス隊は次々と撃墜されて数を減らしていく。

 このままでは不味い、とサクヤはガンバレルを分離して敵機に殺到させるが、それを予期していたかのようにドレッドノートは『MA-MV04 複合兵装防盾システム』に装備されたビームサーベルで斬り掛かった。

 

「速い……!」

 

 斬撃をシールドで受け止めるが、そこで妙な違和感が身体の中を通り抜けていった。

 

(……あの機体から、ノーマと同じものを感じる……いや、感じているのか? 俺は)

 

 シールドで受け止めたストライクだったが、核エンジンの出力の優位を思うがままに振るう敵機はサクヤを窮地に追い込んでいく。

 分離させていたガンバレルで背後を取り、射撃を加えるも無尽蔵のエネルギーによるPS装甲はその射撃をものともしない。

 ビームサーベルの出力が上がっていき、じりじりとシールドが溶断されていく。

 

「ちぃっ!」

 

 溶断される寸前にシールドをパージし、ドレッドノートからいったん間合いを切ろうとするストライク。

 ドレッドノートはストライクに引かれるように尚も接近し続けるが、意識の外からの射撃を受けてはたまらず、いったん距離を取った。

 援軍かと射撃の方向に視線を向けると、宙域の確保を命じた4機がこちらに接近してきているのが見えた。

 

「チッ、なんだよアレ……頭のカタチ、パクられてんじゃんか」

「てゆーか、苦戦してんじゃん。たいちょー」

「うっせえぞ、手前ぇら! もっとよく狙えっての!」

「あれは……!」

 

 接近する一団の中で、デュエルが突出してドレッドノートに真っ先に斬り掛かる。

 ノーマも、何かを感じているのかもしれない……と思考が一瞬ブレたが、援軍が来たならばと考えを切り替える。

 見積上の降下ポイントには、間もなく到達してしまう。

 ここで輸送艦群を見逃すことは作戦の失敗を意味し、そしてそれは地上部隊とパナマのマスドライバーに重篤な損害を与えることになる。

 あの降下カプセルに内包されている『新兵器』を落とさせること―――作戦の失敗とは、そういう事だ。

 だからこそ、心を決めて断を決するのだ。

 そしてそれは、部隊指揮官の責務だ。

 当面の敵、メビウス部隊の現状、実行の可能性……それらを総合して―――

 

「輸送艦群への攻撃を続行する! 残存のメビウス隊は、俺に続け!」

 

 元より、襲撃部隊の指揮官として現場の指揮については作戦部隊指揮官たるハルバートン提督から一任されている。

 モビルスーツ乗りの4人は尉官ではあるものの、部隊の指揮は出来ない。そういう教育を受けていないからだ。

 そして残存のメビウス隊だけでは、撃破期待率が低く任務達成は不可能。

 オルガ達を死地に追いやる判断であるが、それでもあの4人ならばやり遂げられるという確信もあった。

 指導した期間は短いが、それでも彼等は喰らい付いてきた。

 

「オルガ、シャニ、クロト、ノーマはこの機体を抑えろ! 足止めだけでいい!」

 

 ドレッドノートに牽制射を放ちつつ、レーザー通信で以前交戦した核搭載機のデータを伝送する。

 今できることはこれくらいしかないが、それでも無いよりかはマシだろう。

 残存するメビウス部隊に合流地点を示し、宙域を離脱する。

 こちらの企図に気付いた敵機が、それを阻止せんとするがオルガ達4機に阻まれた。

 

「ヘッ、落としちまえばいいんだろっ」

 

 バスターが連結させていたライフルを分離させ、デュエルがビームサーベルを引き抜く。

 イージスが変形を解きモビルスーツになり、ブリッツもビームサーベルを発振させて臨戦態勢となった。

 

「頼んだぞ……!」

 

 離脱していくストライクのコクピットで、サクヤは祈るように呟いた。

 






ハルバートン提督、随分と張り切ってますネェ……

―――見物客の出資者

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