お待たせしました、お待たせし過ぎたかもしれません。
「ようこそ、この世界へ。君は───」
そう言って。手を差し伸べてきた金髪の男の眼は、遮られて見えなかった。
ただ、どこか優しく微笑みかえているような───それとも哀れんでいるような───そういった感情だけが読み取れて、残りは彼の眼と同じように何かに阻まれて読み取ることが出来なかった。
彼に手を引かれるまま身体を起こすと、薄暗い部屋の中には、自身が寝ていたそれと同じようなカプセルがいくつも置かれており、そしてそれは例外なく開いているか割られていた。
唯一無事だったその中から引き上げられた自分は───とぼうっとした頭で考えていると、男が着ていたコートを自分に着せ、そのまま連れ出すように抱え上げた。
「お姉さんと妹達は、既に外に出ている。君は───4番目、というところだな」
彼に抱えられながら、自身が眠っていたカプセルに視線を向ける。
『D-×××××』という文字だけが読み取れた。
「君の名前か。人と言うのは、こういったものにも名前を付けずにはいられないらしい」
その時、ちらと見えた男の目は外気よりも冷たく、どこまでも落ちていきそうに深く見えた。
そこからの記憶は、あまりない。
気がつけば今度は黒い髪の男が目を覚ました時には隣に居て、自分の保護者だと名乗った。
そして流されるままに───モビルスーツと呼ばれる兵器に乗り、今は自分の乗る『ドレッドノート』と似た顔をしている敵と戦っている。
中でも『デュエル』と表示されているモビルスーツは異質、だった。
敵から発せられる殺意に呑まれないように機体を操作させ、反撃していく中でそのモビルスーツだけが困惑と驚愕が入り交じったような殺意を向けてきていた。
今までにない挙動の
───何故、今、彼女と?
「ァ……!」
「これ、は……!」
デュエルの斬撃をシールドで受け止めた後圧倒的なパワーでそれを振り払うと、背部の『χユニット』から赤いドラグーンの4基を再度射出する。
有線で繋がれたそれは、ドレッドノートから齎される無尽蔵のエネルギーを受けてPS装甲を常時展開させているほか、高出力のビームの連続発射を可能にしていた。
1基につき10門のビームを備えたそれは、有線という制約がありながらも縦横無尽に動き回り、ビームの阻止網を展開させて4機の接近を許さない。
「んだよっ、これっ!」
「ウッザい……!」
「速い……!」
「必ッ中ゥ!! ああクソッ、当たんねぇ!」
オルガのバスターとシャニのブリッツがビームの網に絡め取られないように急制動をかけ後退し、それを回避。
2基のドラグーンが下がった2機を追撃するように追い掛けていき、追い詰めていく。
クロトとノーマも、同じように襲い掛かるドラグーンから逃れるので手一杯のようで、ドレッドノートに対して有効な策を講じられずにいた。
ただ、それでもドレッドノートが輸送艦群の援護に向かえずその場から動けていなかったのはオルガ以下の4機が懸命に抗戦して何とか食い止めていたからに他ならない。
オールレンジ攻撃に対しても、ドラグーンに有効な打撃を与えられていないだけでその攻撃は全て回避できている。
ブーステッドマンとマシンチャイルドの能力、それもあるだろう。
それ以上に、サクヤの駆るストライクとの模擬戦、ダガー部隊との対抗演習での経験が彼等の身体の中に息づき、能力による反射だけでなく経験による思考を根付かせていた。
しかしそれらが結び付き、彼等の思考と反射が融合するには未だに何もかもが足りなかった。
縦横無尽に動き回るドラグーンから逃げ回る4機、その中でドレッドノートは1機のモビルスーツに狙いを定める。
透かして見るその中には、自身と同じような存在───赤い瞳の少女が、自身と同じようにこちらを目標として、ライフルの銃口を向けていた。
「…………ッ」
「……そこっ!」
全く同時に放たれたビームの光条はお互いの右手に吸い込まれるように伸びていき、そのまま保持していたビームライフルを貫いた。
爆散寸前のライフルをパージして距離を取る2機、その内のドレッドノートに対してイージス、ブリッツの2機がビームサーベルを振りかざし挟撃する。
「この距離なら」
「
左右からの挟撃に対し、ドレッドノートの動きが一瞬固まる。
必殺を期した2機の動きに、観念したかのように見えた。
スローモーションのようにも見えた挟撃のモーションに、シャニとクロトが殺った! と感じた瞬間、ノーマの叫びが2人を現実に引き戻し、そしてブーステッドマンの動体視力と反射神経が相手の行動の起こりを観察させた。
「ゥ……!」
「ッアア!?」
2機が機体に急制動をかける寸前、ドレッドノートの腰の左右のアーマーが外れた。
射出された『XM1 プリスティス ビームリーマー』は牙のようにビーム・スパイクを発振させ、ケーブルをしならせながら射出される。
蛇のように襲い掛かるそれに、反射で機体に急制動をかけさせた2人であったが間に合わず、迫り来る捕食者に目を見開く。
悪態をつく暇もなく、恐怖すら感じる間もなく、ただただ目を見開くシャニとクロト。
「んなっ!」
「エェ……!」
ゆっくりと迫り来るビームの刃、しかしそれが届くことはなかった。
ただ目の前でビームに貫かれて爆散するそれと、衝撃による揺さぶりが2人にまだ生きている、という事を実感させた。
一瞬の出来事に呆けている2人に、罵声と援護射撃が届く。
「てめえらっ、ボサッとしてんじゃねぇっ! 死にてぇのかっ!」
ミサイルとガンランチャー、ライフルの火箭が嵐のようにドレッドノートへ襲い掛かり、逃げるそれを追撃するようにデュエルが斬り掛かる。
それぞれの火器を撃ちながら距離を詰めるバスターの姿に、シャニとクロトは助かった、という感情と助けられたという苛立ち、その他諸々が渦巻き形容しがたい気分になりながらも、これ以上借りを作ってはたまらないといった共通認識のもとオルガ達の勢いに乗り、攻勢に出た。
「ウゼェ……」
◆◇◆
「対艦戦闘に移る! AとBは左右に分かれろっ! Cは超越支援だ!」
指示を出しながら、ストライクのメインカメラが収集した各種の情報を処理して、それを目標情報化して後続のメビウス部隊に配信する。
その更に後方で繰り広げられているオルガ達とドレッドノートの交戦の状況が気になるところではあったが、目の前に広がる輸送艦群を改めて視界に入れたところで、サクヤは自分の思考を切り替える。
今ここでこの輸送艦、もといその積荷を逃せば地上で戦っている味方部隊に多大な損害を出すだけでなく、重要な戦略拠点の一つ……パナマ基地をマスドライバーごと喪失してしまう。
それが意味することは、同僚たちの死、ザフトによる捕虜の虐殺、宇宙へ進出するための足掛かりの喪失だけに留まらない。
マスドライバーの喪失により宇宙へ進出する手段の一つを失った地球連合は、それを保有する国から接収すべくオーブへの侵攻を決定することになる。
ただでさえ戦力の立て直しを図っている最中であるのに、そこでオーブ軍と脱走したアークエンジェルを相手取り戦力を消費した挙句に、目標すら達成できなければあの作戦は全くの無意味であり、避けるべき事項であると分かる。
この陣営に立っている以上避けられないことではあるが、アサギ達オーブ軍やアークエンジェルと事を構えたくないという感情もない訳ではない。
「あれを落とさせたら、どこも引っ込みがつかなくなる……!」
もう既に引き返せるような事態ではないのは、サクヤでも理解している。
それでも落とさせまいと躍起になるのはアレの落下も今後の惨劇に繋がるトリガーの一つであり、それを自分の手の届く限りは引かせないといった決心からだ。
連鎖的に繋がっているトリガーを作動させない為には、手の届く限りそれを引かせなければいい。
そうすれば、どこかでその連鎖は止まるはずで、止まらなくとも結末は変わるはずだ。
しかしながら、こうも思うのだ。
変わった結末が、より最悪な状態に陥る可能性もあるのではないか、と。
もし自分が今、ここでトリガーを作動させなかったがために最悪な結末に誘導される可能性もあるのではないか───とも考えてしまう。
ただ、ここで見逃してしまえば地上で戦うモーガン、レナ、エド達は無事では済まない上に、そもそもこれ自体がオーブ侵攻の引き金なのだ。
だからこそ、今ここで確実に全てを叩き落す。
未だ降下ポイントに到達していない輸送艦群は、攻撃部隊にとっては格好の的である。
その上、直掩のモビルスーツすらいない現状では貧相な対空火器で防戦するしかなく、そしてそれが通用するほどにサクヤのストライクも、メビウス部隊も消耗していなかった。
対空火器を沈黙させながら、対艦攻撃部隊の針路を切り開いていくストライク。
その機影が輸送艦群の中心に差し掛かり、敵の全てをガンバレルの射程圏内に収めた瞬間。
「そこかっ!」
自身に流れ込む敵の気配が、これまでの輪郭のはっきりしないぼやけた虚像ではなく、はっきりと意識することができる。
より正確にハッキリとイメージすることが出来る、ガンバレルと敵の位置関係に加えて狙うべき目標の位置。
今ならば分かる。これが、彼等の見ていた宇宙なのだ。
金属の擦れ合う音、もしくは鈴の音と形容すべきだろうか。それが意識の中に突き刺さり、飽和した瞬間。
4つの流星が、放たれた。
「沈めっ!」
ストライクの背から放たれた4つの流星は、縦横無尽に戦場を駆け巡りサクヤの意識した場所へと有機的な動きで滑り込んでいく。
狂ったように唸り声を上げる対空火器は悉く宙を切り、潜り込んだ
撃ち貫かれ、無力化されていく輸送艦群はそれでも大気圏突入ポッドの降下地点に懸命に向かおうとするが、そこに襲い掛かるは対艦攻撃装備のメビウス隊。
機能を喪失したそれらは彼等にとって動かない標的も同然であり、次々と放たれた対艦ミサイルが命中して爆散し、生き延びた艦もリニアガンで啄まれて遂に轟沈していく。
放たれた4つのガンバレルがストライクの背に再度戻った時、輸送艦群の全ては積荷ごと宇宙の藻屑と化し、それはこの宙域におけるザフトの作戦の失敗を物語っていた。
「……各機は、艦隊の合流まで周囲の警戒を実施。俺は加勢に戻る」
ガンバレルの残弾とストライクのエネルギーの残量から、まだ交戦は出来ることを確認したサクヤは踵を返してオルガ達が交戦している宙域へ機体を急行させた。
目的を達成したのにも関わらず、その言葉には少しの焦燥が含まれていた。
「間に合ってくれ……!」
◆◇◆
「はぁっ!」
「……!」
デュエルからの斬撃を回避して、返す刀で一撃を加えようとするドレッドノート。
しかし、デュエルはその間合いからすぐに離脱して入れ替わるようにバスターとイージスの射撃が雨霰のように加えられた。
それを全弾回避するも、回避した先にはブリッツが待ち構えておりその斬撃をシールドで受け止める。
明らかに動きが、流れが変わったと肌でひりひりと感じた彼女は焦り、ドラグーンを射出するべくブリッツを蹴り飛ばし、距離を取ろうとする。
逃がすまい、と右腕のグレイプニールが射出されそのクローがシールドを掴んだ。
「逃がすワケねぇだろ」
「シャニ、そのまま捕まえてろっ! そらァッ、必ッ殺ッ!!」
巡航形態で回り込んだイージスが変形し、強襲形態で襲い掛かる。
両手両脚のクローを展開させ捕縛して確実に撃墜する、という強い圧迫を感じた彼女は、恐怖から左腕のシールドを、唯一の近接武装でもあるそれをパージして間合いを取ろうとする。
核搭載機のパワーであれば、盾を掴まれたままブリッツごと振り回してイージスを迎撃、という選択肢もあった。
しかし彼女がその選択肢を選ぶことはなく、距離を取ってドラグーンを使う事を選んだ。
そしてそれは、隙となる。
「逃がすかよッ!!」
後退する敵に、バスターが持った全ての火器を撃ち放った。
一見無造作にばら撒いたようにも見える弾道であったが、それら全ては組み合わさりドレッドノートが取り得る回避方向を塗り潰すように放たれている。
これも、冷静であれば核搭載機の無尽蔵のエネルギーから齎されるPS装甲で防げばいい、という判断が出来た筈であった。ただ、経験の少ない彼女の判断はそうでなかった。
迫り来る弾丸の嵐の中に、彼女は一つの逃げ道を見出す。
差し込んだ一筋の光明、しかしそこに差し込まれていたのは救いの手などではなく、彼女の
「ここで……!」
「ッ!!」
回避ルートの先には、その動きを読んでいたかのようにビームサーベルを構えたデュエルが居た。
繰り返される模擬戦の中、サクヤのストライクを撃墜すべく4人で連携を考えている中で考案されたうちの一つ。
ブーステッドマンもマシンチャイルドも関係なく、未だ遥か遠くの輝きに手を伸ばす少年少女たちの足掻きの一つ。
イージスとブリッツも弾幕の一つとして持った火器の全てを撃ち放っていた。
「!!」
恐怖が過敏に反応したのか、それとも機体が彼女を守るべく反応したのかドラグーンが射出されデュエルに迫る。
立て続けにビームが放たれ、デュエルはシールドを構えて防御するも次々と放たれるビームにシールドが耐え切れず破壊され、そしてついに機体に直撃して爆散した。
「おいっ、テメェっ!」
オルガが目を剥き、シャニとクロトも同様の反応で驚愕する。
彼等が激する次の瞬間、爆発の中から
直撃を確信したのにもかかわらず、健在の敵に狼狽え、ドラグーンの動きが鈍る。
空いた左手でもう片方のビームサーベルを引き抜き、動きの鈍いドラグーンをすれ違いざまに切り裂いて無力化した。
「ここでッ!」
ストライクが離脱直前に、配信したデータの中では『頭部への攻撃を優先せよ』というものがあった。
交戦した当初は、あのパイロットの正体を確かめたい───という考えはノーマの中にあったが、今やそれは彼方へと追いやられて、命じられた事項を確実にこなす兵士のそれになっていた。
「ッ!!」
逃げるドレッドノート、しかしそれよりも早くデュエルの刃がドレッドノートの首へ迫る!
「ハァァッ!!」
振り抜かれたビームサーベルは、過たず敵機の首を刎ね飛ばした。
Nジャマーキャンセラーを失い、エネルギー供給が停止してPS装甲がダウンして動かなくなるドレッドノート。
唯一の敵を討ち果たし、宙域に静寂が戻った。
「……貴女は……」
ノーマが動かない敵を見て、呟く。
漂うドレッドノートの頭部が何かを答えたような、気がした。
メイフラワー号の巫女、という訳か……
───黒髪の保護者
映画のキャラを
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出せ♡
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出すな♡
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設定が固まってから出せ♡
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ノベライズ下巻出るまで考えろ♡