今回は短めです。
「随分と、派手にやったものですネェ」
会議室のスクリーンには、無残に残骸を晒すマスドライバーの姿とビクトリア宇宙港だったものが映し出されていた。
JOSH-A崩壊後に地球連合軍最高司令部が移されたこの北極のグリーンランド基地では、ユーラシア連邦の発意により各国の首脳が集められ、緊急の会議が開かれていた。
部屋の一面は耐圧ガラスで、その外でゆらゆらと魚群が通り過ぎるのどかな風景が広がっていたが内側の雰囲気は殺伐としていて、全くそぐわない。
「アズラエル理事、他人事のように言うのはやめていただきたい。これは地球規模での問題で」
「地球規模ぉ? ……ま、貴方がたにとっては、そうでしょうケド」
ユーラシア連邦の代表がアズラエルの発言を苛立たし気に咎める。
大西洋連邦の方から、失笑が漏れたのが更にユーラシア連邦を苛立たせた。
「ビクトリアの破壊によって、人類の宝ともいえるマスドライバーを一つ失ったのですぞ! 大西洋連邦の方々は、自分達が保持しているからといって、そのような態度は地球連合の結束に楔を打ち込むようなものだ!」
ユーラシアの代表が立ち上がり唾をまき散らしながら、テーブルを叩いて喚く。
言っていることは至極真っ当であり、人類の宝という点はアズラエルも大いに同意するところであったが、それを打ち消すような提案がなされていたことがアズラエル達にそういった態度を取らせていた。
「だからといって、わざわざ地球の中で争うようなことはどうなんデス? 流石に承服しかねますネ」
ユーラシア連邦からの提案―――それは以前より実施されていた中立国への協力要請、それの強化であった。
これまでは要請の域を出ず何ら強制力を伴わないものであったが、今回の提案では従わない場合の制裁……経済・軍事問わずそれを行うといったものであった。
これまで「ワン・アース」という標語をただのお題目としていた地球連合であったが、それをついに強制力を以て実施しようというのだ。
この提案に対して、各国からの視線は冷やかであった。
JOSH-Aの自爆により、大幅に戦力を失った大西洋連邦は侵攻直前に戦力を撤退させたユーラシア連邦の動向を訝しんでいた。
また、パナマ防衛戦での勝利とその際に鹵獲した戦利品……『ニュートロンジャマー・キャンセラー』を入手した大西洋連邦は、エネルギー供給問題を解決するとともに核戦力の再整備を急ピッチで進めている。
そのため、地球圏内での軍事制裁に割く戦力の余裕がないというのも実情であった。
「我々としても、その認識です。向こうから撃ってこないのであれば、放っておいても問題はないのでは」
東アジア共和国も大西洋連邦のスタンスと同様で、中国大陸で国境を接するユーラシアとは一定の距離を保ちつつ、その動向に注意を払っていた。
援護射撃を心地よく感じつつ、この会議の後は
アズラエル傘下でのモビルスーツ開発と、ヘリオポリスでのそれの両方に技術者を出向させており、元より協力関係にあった東アジア共和国は今やモビルスーツ製作にかかる器材や関連する部品の輸出で、大西洋連邦の戦力整備に多大な貢献をしていた。
貢献の見返りとして、ダガー等のモビルスーツの供与が決定したのはつい先日の話。
「我々は、みな命を懸けて戦っているのですぞ! 『人類の敵』と! それを中立だからといって、協力しないことを認めていいのですか!?」
「『人類の敵』、ねェ……」
アズラエルにとって、コーディネイターというのは自然の摂理に反したものであるという認識は未だ変わっていない。
しかし、こうも考えるのだ。
ナチュラルの生産性を1とした場合、コーディネイターのそれは2以上にも3以上にも、それ以上になる。
経営者の目線で考えるのならば、これ以上にない労働力だ。
また、遺伝子を操作する過程で各別の能力に特化させたコーディネイターを作ることも可能であり、だからこそ太刀打ちできないナチュラルはその能力差により職を失う事を恐れた。
その結果が排斥運動であり、この戦争の発端だった。
しかし、彼等は世代を重ねるごとに行われる遺伝子操作によりその配列が複雑化し、結果として遺伝子の型が組み合わない者同士での出産は不可能となってしまった。
そのため、誕生時からの婚姻統制もしくはナチュラルと番わなければ人口を増やす事すらままならない。
要は、彼等は誰かが手綱を握らなければ種の存続を為し得ない、ある意味ナチュラルよりも惰弱な存在なのだ。
であれば―――折角産み出したものなのだから、せめて上手に扱ってあげないと―――と考えるのが、今のアズラエルだった。
全てを滅ぼす必要はなく、こちらでコントロールしてやってその労働力を調整してやればいい。
そのコントロールに失敗した結果がこの戦争であるが、これも教訓としてやればいいのだ。
にもかかわらず、老人共は存在に恐れ、怯え、憎しみ、滅ぼそうとしている。
ああ、昔のボクはなんと勿体ないコトを―――
「エンデュミオン基地から始まり、アラスカ、そして今度はビクトリア基地! 彼等は、我々の財産を悉く奪ってきた! このような暴虐を許していいものでしょうか!」
思索に耽っていたアズラエルを引き戻したのは、ユーラシア連邦代表の声だった。
何故あの程度の人間がここに、と不快感を覚えつつ思考を引き上げてその方向を見ると、やはり想像した通りに立ち上がり、唾をまき散らす男がいた。
「連中は我々の―――地球の同志を手にかけただけでなく、環境すら汚染している! アラスカとビクトリアの惨状を見れば、これは歴然!」
モニターには、エンデュミオン基地とアラスカ基地であったところにぽっかりと空いたクレーターとビクトリア基地であったものが辺り一面に広がる映像が映し出されていた。
そのモニターから、アズラエルはユーラシアの席の方向を透かして見る。
アラスカ基地跡で行われた調査からは、核兵器使用の痕跡は一切検知されなかった。
そして、ザフトが核兵器並の破壊力を持った兵器を開発、配備したという情報は全く入ってきていないし、これまで別の戦線で使用された痕跡もない。
そもそも、そういった類の兵器をアラスカで使用したのであれば自爆したビクトリア基地でもそれを使うはずであろうが、しかしアラスカとビクトリアの破壊後の様子はまったく一致しない。
むしろ破壊後の様子で似ているのはエンデュミオン基地とアラスカ基地であり、アズラエルは双方の基地の地下に『サイクロプス』が設置されていたことは認識している。
「とはいっても、今回のは証拠が全く出てきてないんですよネェ……」
小声で呟きながら、うんざりしたように目を閉じる。
ユーラシア連邦の演説は、まだまだ続きそうであった。
◆◇◆
「あーもう、老人たちは頭が固くっていけませんネェ」
「オーブへの協力要請、ですか」
ドミニオンのブリーフィングルームの中で、アズラエルは不機嫌もありありといった表情をサクヤとナタルの前に向けた。
それは先程終了した首脳会議が彼の思い描くシナリオの通りに推移したものではない、という事を2人に悟らせると同時に、また無理難題を押し付けられるのだろうな、という事も悟らせた。
「1-2週間後に出す声明と同時に、要請に応じない場合の措置が発動する予定……なんですが」
広げられている紙資料から読み取れることは、地球連合による中立国への協力要請に係る文言と、それに従わない場合の経済・軍事問わない措置の内容であった。
よくもこのような幼稚な内容が通るものだとサクヤ達は眉をしかめたが、その第一段階がオーブに対するものであったことも一因だった。
「この軍事制裁が問題でしてネ。ユーラシアはオーブ近海に軍を展開させるようデス」
「ここで、こうなるのか……」
「幸いと言うべきか、ウチも東アジアも展開させる予定はありまセン。ウチも、派手にやり過ぎてカツカツですしネ……」
ついでにこれのせいで東アジア共和国の高雄奪還作戦も、ユーラシアが参加しないことになったのでちょっと延期デスとアズラエルが付け加えた。
パナマ防衛戦、その宇宙と地上の両戦場では宇宙軍と地上軍ともに勝利と呼べる戦果を挙げ、特に宇宙ではニュートロンジャマー・キャンセラーを装備した核搭載機を鹵獲するという大金星であった。
しかし、被害も大きくそれを立て直すには相応の時間が必要であり、かつ鹵獲したモビルスーツの解析とそれで得られたフィードバックを現在開発中の新型に反映させるというアズラエルの方針で、それぞれの現場は狂奔状態でもある。
加えて、第13独立部隊は旗艦でもあるドミニオンの整備が必要という事もあり足すら奪われている状態だ。
その中で、この合理性の欠片もない軍事制裁に参加する必要がないというのは不幸中の幸い―――と考えたところで、結局オーブへの侵攻は発生するのか、とサクヤは少し落胆した。
「ま、オーブへの制裁に関してウチは全く関与しないスタンス―――と言いたいところなんですガ」
来たな、とサクヤは身構える。
だいたいこういう時に無理難題を押し付けられる―――というのがサクヤ達の共通認識であったし、今回もそれは全く間違っていなかった。
とはいえ今回は、そのスケールが全く違った。
「ここでオーブを奪われて、連中に美味い汁を吸わせるのは違う―――という事でですネ」
アズラエルがじっとサクヤの方を見据える。
いやまさか、そんな事は……と考えて頭の中からその可能性を排除する。
流石にそれはリスキーであるし、発覚した際の不利益をカバーできるような材料もない。
嫌な予感を表情に出さず、隣のナタルの方をちらと見るが同じことを考えているようで、彼女は既に眉間に皺を寄せて額を手で押さえていた。
「サクヤ君。しばらくオーブに行ってもらいマス」
あ、ついでに新型も受領してきてくださいネ。
―――無理難題を仰る出資者