MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
更新の遅い本作ですが、今年もよろしくお願いします。
今年の目標はSEED本編の完結です。できるかなぁ……




45話 夜更けの狼煙

 

「アスラン……」

「……」

 

 気遣うようなカガリの視線がアスランに向けられては外され、それが何度も繰り返される。

 病室のテレビの映像の中では、プラントの最高評議会の場において演台に立つアスランの父、パトリック・ザラが大きく映し出されプラント全土とその他各国に向けた演説の様子がニュースとして映し出されていた。

 パトリックの演説は見事なもので、決して原稿を見ることは無く巧みに緩急をつけて、プラントの市民たちの情動を揺るがし、かつその戦意を削がず高揚させるような内容だった。

 

『これまで我々は、何もかもを奪われた。ユニウスセブンに始まり、数多もの戦いで同胞を奪われてきた!』

『そして今、ナチュラルはアラスカで、パナマで、そしてビクトリアでまでも自らの住む地球を汚染して、我々の同胞を奪った!』

『私はこの戦争で妻のレノアだけでなく、息子のアスランさえも失った!』

『しかし息子は、コーディネイターの自由と正義に殉じて死んだ!』

『私は息子の遺志を継ぎ、この戦争に勝利しなければならない!』

 

 絶叫するパトリックとは対照的にアスランは沈黙して何も発さず、画面を見つめている。

 ニュース映像はパトリックの象徴的な発言をピックアップして、それに対してコメンテーターが幾らかのコメントを残しそのまま別のニュースへと移り変わっていった。

 画面から目を離したアスランは、深くため息をつくとただ一言、「しばらく一人にしてくれ」と言うだけだった。

 カガリはその言葉の通り、病室から出ていきそのまま病院を出た。

 迎えの車に乗り、少し窓を開けて風に当たると陰鬱な気分が心地よい微温風で流されるような気がしたが、それでも心の端で引っかかって離れなかった。

 

「捨てられた……んだよな……」

 

 医師の診断による絶対安静と、しばらく心のケアが必要という言葉で治療に専念させるためプラントにその生存を通告せず、完全な隔離状態で病院で匿っていたのが完全に裏目に出た、と悔やんだ。

 プラントに戻れば、必ず戦場に戻ってくる。またキラと戦うことになるかもしれない、そんな悲しい事の繰り返しは嫌だというカガリ自身のエゴが招いた結果であった。

 罪悪感を少しでも和らげさせるために、キラが生存していることは伝えてあり、いつか必ず連れてくるとは言ったものの今の状態で連れて行っていいのだろうか。

 お互いに現状の彼等を見て、また傷ついてしまうのではないか、と考えてしまえばまた思考の袋小路に入ってしまう。

 まるでハツカネズミだ―――と回り出した思考に自己嫌悪し、再び外を見遣れば車は既に行政府の区画に入り込んでおり、エントランスに停車するために減速し始めていた。

 車から降り、庁舎の中に入れば待ち構えていたマスコミに取り囲まれるが護衛のSP達に囲まれて何も言う事もなく通り過ぎ、カガリは首長や閣僚たちが居並ぶ会議室の中へ入る。

 

「最後通告だと!?」

 

 重苦しい雰囲気の中でその空気を切り裂くようにウズミが吠え、震えていた。

 傍らのホムラの手には地球連合―――実態はユーラシア連邦であるが―――からの通告文が握られており、彼がそれをゆっくりと読み上げていくうちに首長たちの顔が強張りみるみる青ざめていく。

 読み上げられたその内容は、政権の退陣と国軍の武装解除及び解体、これらの条件が受け入れられない場合にはオーブ連合首長国をプラント支援国家とみなし、武力行使も厭わないといったもので、到底受け入れられるようなものではなかった。

 武力行使も文言だけのものでなく、ユーラシア連邦軍を中心とした艦隊が南下している兆候も確認できている。

 この通告は脅しのそれでなく、既にオーブに対する降伏勧告であった。

 呼応するかのように、ザフトのカーペンタリア基地からの書簡で会談と協力の申し出も来ていたが、それもウズミの怒りを買った。

 

「どうあっても、世界を二分化したいのか!? 敵と味方、ナチュラルとコーディネイターに!」

 

 この通告を受け入れ地球連合に降ったとしてもザフトの侵攻は必定であり、その逆も然りである。

 連合と組めばザフトは敵であり、ザフトと組めば連合は敵である。

 オーブという国の進退は完全に窮まった。

 どちらかを受け入れたとしても、後に残るは完膚なきまでの破壊と破滅である。

 暗闇の未来しか見えない首長たちは押し黙り、熱くなっていたウズミも押し黙り浮かせていた腰を椅子に沈めた。

 

「……ともあれ、避難命令を出さねばな」

 

 ホムラが口を開く。

 それは、国民に対して差し迫った運命を知らせる行為だった。

 今の生活の全てを根こそぎ捨てさせ、不自由を強いる。

 その意味を理解していた首長たちは重々しく頷き、最も年長のマイリがぽつりと漏らした一言は、他の首長たちを深く頷かせた。

 

「それでも、子ども達が時代に殺されるようなことだけは……避けたいものじゃな」

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「おや、今日はいつもと……」

 

 そこまで言いかけたバルトフェルドは絶句した。

 普段通りであればキラかムウ、もしくはサクヤかの誰か―――サクヤが艦から降りキラがMIAとなって以後は、ムウが主となっていたが―――が食事を運んでいたのだが、その時間以外に誰かが来ることは滅多になくそしてキラとムウの2人がこの独房へ同時に来ることも滅多になかった。

 しかし今日は閉ざされていた拘禁室の扉が開いた上にその2人とマリュー、そして1週間に1度拘禁室の扉越しに会えるアイシャがその場に来ていた。

 

「……どういうことだい?」

 

 キラ達の様子から、尋問や移送といったふうではない。

 おかしな艦だと思っていたが、遂にここまでおかしくなったかとバルトフェルドは訝しんだが、その答えはすぐに得られた。

 

「釈放……なんて言うのもアレなんだけどさ。そういう感じ?」

 

 ムウがおどけた調子で言い、一種の答えを得たバルトフェルドは益々分からなくなった。

 自身が地球連合とプラントにとって重要人物であるのは自覚していたし、この艦から降ろされるときは捕虜交換などといった生易しいものではなく軍の施設で捕虜の暮らしを余儀なくさせられるものだと考えていた。

 しかし現実はそうではなく、妙な艦の中で悠々自適とはいかないまでもそれなりに快適な捕虜生活を送った後に解放といった、全く妙なものだった。

 

「ちゃんと説明して……この艦は、今から連合軍と戦闘します。そのため、貴方達を捕虜にする理由もありません」

 

 バルトフェルドはマリューの言葉で、更に混乱した。

 アイシャは特に考えていないようで、独房暮らしで満足のいく手入れをできず少し荒れてしまった爪を気にしているようだった。

 そんな彼女の仕草を愛おしく思いつつも、バルトフェルドは混乱する頭を鎮めて眼前の3人を見る。

 嘘をついているような感じでもなく、寧ろ今後の展開への焦燥を隠せていない感じもした。

 

「地球軍と、戦う……おかしな艦だと思っていたが、敵前逃亡でもしたのかね? それで追われる身かい?」

「おや、流石『砂漠の虎』。御明察」

 

 冗談のつもりだったが、真実だったようだ。

 へらへらと自身の感情を隠すように笑うムウとは対照的に、キラとマリューの表情が重くなる。

 状況はかなり緊迫しているようで、彼等と数名の警備兵に囲まれる形で艦内の通路を歩いていく。

 艦から降り、基地内を歩いていくうちにここがオーブの国内であることが分かり、漸く状況が飲み込めていった。

 何らかの事情で敵前逃亡をしたこの艦が、オーブに亡命しそしてまた何らかの事情でこの国が地球軍に攻め込まれそうになっているのだ。

 成程、と納得した頃には基地の営門にまで到着してしまっていた。

 

「こんな形で放り出すことになって、申し訳なく……まだ、国外に出る便は残っています。これがあれば、スカンジナビアには行けると思いますが……」

 

 マリューから押収されていたパイロットスーツなどが入ったカバンと、それなりに厚みのある封筒、そして2人分のスカンジナビア王国行きへの航空券を手渡され別れを告げられる。

 まだ便は残っている、としても侵攻の危機に晒されている国から混乱を避けて脱出できるとは思えなかったが、それでもこの航空券を用意してくれた彼等が自分達を巻き込みたくないことは理解できる。

 その気になればアイシャを人質にとって協力を要請することも出来たはずで、それをしないアークエンジェルの面々はバルトフェルドにとって好ましく思えた。

 が、この判断も中々に甘いものだと思えた。

 

「まさか、こんなお別れになるとは思ってもいなかったが……君たちの健闘を祈る、というのはおかしいかな」

「いえ……バルトフェルドさんも、どうかご無事で」

「君もな、少年(キラ君)

 

 営門が閉ざされ、去っていく彼等の背を見送りながらバルトフェルドは自身が置かれた立場を反芻してやれやれとため息をついた。

 国外へ行く便は残っていたとしても、身分を証明するものはザフトの身分証のみで現状では話をややこしくするだけの呪物でしかない。

 手渡された航空券は何らかの特権で手に入れた物だろうし、これを有難く使わせてもらえば中立国へと逃れることができ、そこからプラントへ戻ることもできるかもしれない。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 航空券を眼前に、広がる海に透かして見ようとするとそれに遮られて凪いだ海と広がる大空は見えなくなってしまっていた。

 しばらくその状態で固まっていたバルトフェルドだったが、その航空券がアイシャが奪い取りふと我に返る。

 その2枚で口元を隠していたが、彼女が試しているように見えたバルトフェルドはふっと笑う。

 

「アンディ、どうするの?」

 

 相変わらずの愛らしい舌足らずなしゃべり方で、彼女が微笑む。

 砂漠に居た頃と変わらない口調と声色だったが、これの返答如何で彼女が自分から離れていくかもしれないとも感じられた。

 プラントへ戻るのも、スカンジナビア王国で戦争が終わるまで2人でゆっくり過ごしてしまうのもいいかもしれない。

 しかし、その2つの選択肢にあまり気乗りしない自分もいた事に今更ながら気付く。

 思えば、砂漠に居た頃は自由ではあったがどこか縛られているような気もした。

 その自身を縛り付けていたのは軍務であったか、それとも祖国であったか?

 どうだったかなと考えるバルトフェルドはアイシャから航空券を受け取り、そして。

 

「知らない街でコーヒーを飲むのも、悪くないかもしれないな」

 

 2人は連れ立って、基地のフェンス沿いに歩き出す。

 輝く海の水面で、2枚の航空券が離れずゆらゆらと揺れていた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「まさか、こんな時に貴方が来るとはね。どういう風の吹き回しかしら、サイジョウ中尉?」

「色々と事情がありましてね。それと、今はその名前で呼ぶのはやめてください」

 

 どこで誰が聞いているか分かりませんし、とサングラスをかけたサクヤが用心深く周囲を見回した。

 似合っていないわよと付け足してから、エリカは彼の隣に座る少女に視線を向ける。

 水色の髪から、戦闘用コーディネイターとして生み出されたソキウスシリーズの1人だろうか。

 エリカ自身の属する派閥の長が彼等を従えているのを見た事はあるが、しかし彼等と決定的に違うのはファッションにしては無骨すぎるチョーカーを身に着け、両手を手錠で拘束されているところだった。

 その格好の彼女を連れて歩いているところを目撃されれば、間違いなく誤解されてしまう所であったがこの研究室は通常の研究室と隔絶された部分にあり、こうして隠れた会合を行うにはとっておきの場所でもあった。

 

「そうね……目的は、ミナ様から聞いているわ。こちらとしては、断る理由もないのだけれど」

 

 間違いなく、厄介事ではあった。

 しかし『彼』の来訪は地球連合が分裂しかけている状態にあることを証明し、かつある程度の持久を為し得れば侵攻の主力であるユーラシア連邦の地位を揺らがしてそれ自体を頓挫させられる可能性が僅かばかりであるが発生する。

 MSを主体として侵攻してくるであろう敵に対して、一騎当千のパイロットが味方してくれることはこれ以上なく頼もしいことではあった。

 例えその背後が漁夫の利を狙う勢力であったとしても、その協力があるならば被害を局限することもできる。

 

「軍籍も用意してもらったようで、助かります。こちらの工作でやるよりも、足がつきにくいので」

 

 サクヤの持つタブレット端末には、サハク家の工作により偽造された軍籍が2名分表示されており、サクヤはその内容に目を通していく。

 隣に座る、ノーマによく似た彼女へ見せる必要はなかった。

 元々あったものか、それとも先の戦闘で受けた物であるかは不明であるが言語障害を起こしており、言葉を発することが出来ずにいた。

 ここまで原典に寄せられると、最早何も言えなくなってしまうというのがサクヤの感想であったがしかし現状ではその言語障害はありがたいものでもあった。

 

「軍籍のデータは、もういいかしら? あまり時間もないから、機体に案内したいのだけれど」

「ああ、すみません……もう大丈夫です、機体の方にお願いします」

 

 タブレットを机上に置き、サクヤは少女に目配せして立ち上がる。

 2人はエリカに先導され、通路を歩いていく。

 

「それじゃあ、お願いするわね……アレックス・ディノ2尉、ディー・トリエル准尉」

 





この中身はひとまず預からせてもらおうか。先立つものは必要さ。

―――檻から飛び出した虎

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