お久しぶりです。
遅くなりました。何とか月1更新…
ユーラシア連邦軍は第1梯隊の残余を上陸させ海岸堡を確保したのち、引き続き超越して内陸部に侵攻する第2梯隊の上陸を開始させていた。
展開していたオーブ軍を焼き払った『ギガンテス』は脅威の象徴としてかそのまま海岸に駐機されており、その周囲を数機のハイペリオンGが固めている。
陸戦部隊の幕僚からの報告を聞きながら、ビラード中将は満足そうに海岸の黒い巨体を見つめるガルシア少将を胡乱な目でちらと見た。
「アレが、君の言うスペシャルかね?」
ビラードが問えば、ガルシアは機嫌が良さそうにまさしくその通りですと答えてみせた。
「前回のビクトリア奪還作戦では間に合いませんでしたが、今回はもう問題ありません。閣下も見たでしょう、あの圧倒的な力を」
「その割には、先程から海岸から動いていないようだが?」
ビラードがそう言うと、ガルシアはとんでもないといった表情で弁明する。
話題に上った『ギガンテス』が映し出されているモニターの中では、周囲を忙しなく動き回る整備員と何やら電源コードのようなものを繋げているモビルスーツ達、そして消耗しきったようにも見えるパイロット2名が白衣の集団に囲まれ何らかの診察を受けているようだった。
ユーラシア連邦軍の最大戦力でもあるモビルアーマーを動かすパイロットが年端も行かぬ少女だとは、ビラードは唾棄するような思いでガルシアの話を聞き流す。
「確かにパイロットへの負担も大きく、補給にも時間がかかります……が、アレは消耗品。謂わば生体CPUといったものですな。故に替えが効く」
甲板上には、まさにヘリに乗り込もうとしている交代のパイロット2名がいた。
その両名はともに画面の中の幼い少女と同じような体躯であり、それもビラードの気分を滅入らせた。
「補給と交代を急がせろ! それらが済んだら、モビルアーマーと随伴機を第2梯隊の先頭につけて前進だ!」
唾を飛ばすガルシアを冷やかな目で見つめるのはビラードだけでなく、旗艦のブリッジに詰めている全員が同じような気持ちであった。
しかし、オーブ護衛艦隊を排除した立役者に何も言えるはずもなくガルシアだけが意気揚々と指示を出し続けていた。
◆◇◆
市街地を挟んでユーラシア連邦軍と対峙したオーブ軍とアークエンジェルの一隊は再編と補給の最中で、モビルスーツを艦内に収容する時間も惜しく集結地でそのまま補給を受けていた。
誰もが疲れ切った表情の中、着陸しているアークエンジェルのブリーフィングルームでは剣呑な雰囲気で対峙している集団があった。
「……で、今更俺達の前に出てきた理由は? 返答によっちゃあ、俺は……」
「やめなさい」
疲れを見せながらも苛立ちを隠せないムウを、マリューが制止する。
彼等の視線の先には、見慣れた地球連合軍のものではなく新品真っ新、オーブ軍のノーマルスーツを着たサクヤが立っていた。
どこから話したものか、とサクヤは言葉を選びながら思考を巡らせる。
ムウ達の背後にはキラとトール、アサギ達が心配そうに成り行きを見守っていた。
「まず一つずつ話していきましょうか。その方が恐らく理解が速いでしょうし」
マリューがそう言うと、サクヤはかけていたサングラスを外しその場にいる旧知の人々に素顔を晒した。
アラスカを出た後のこと、パナマ攻防戦、第2次低軌道会戦、そしてオーブ侵攻からサクヤが派遣されるに至った件……どれも話せば長くなるような事項であったが、彼らが聞きたかった要点を話すサクヤの姿勢にムウ達の警戒も少しは緩んだようだった。
「それじゃ、アラスカの自爆の件は……」
「断定はできません。ただ、事前に守備隊がユーラシアから大西洋連邦の部隊に配置換えがあったことは事実です。併せて陽動の件も、アズラエル理事とサザーランド大佐の様子からそういった話が進んでいたのは考えにくいかと」
「だとしても、色々と出来過ぎな話なんじゃねぇか……」
ムウの眉間に皺が寄る。
一通りの説明を受けて理解はしたが、納得はしていないようだった。
それでも向けられていた警戒が和らいだのを感じることが出来ただけでも、サクヤは説明の甲斐があったなと安堵する。
「それはアズラエル理事も同様に感じてます。ただ、独自の量産モビルスーツとあの機体の存在がユーラシアが強気に出られる理由なのかも……」
「サクヤ、ありゃあ……」
ムウの眉間の皺が更に深くなり、サクヤが頷く。
エンデュミオン・クレーターで見た巨
明らかに異質なもの。ハイペリオンGとは全く別系統のものだと直感的に感じてはいたが、それを理論的に説明するとなると難しいものだった。
その話をしても仕方がない、とムウが首を振って打ち切り、別の話題を口に出す。
「で、お前は俺達が脱走してオーブにいるって事を報告するのか?」
今度はマリューとキラがはっとして身を固くした。
今のアークエンジェルの立場は脱走兵であり、そして本来大西洋連邦軍の所有するストライクだけでなく核動力のモビルスーツ、フリーダムを所有している。
自分達がどういった立場なのかは誰もが理解をしてこの戦闘に参加しているが、大西洋連邦に所属する者がこの場に居れば話は別だった。
部屋の空気が再び剣呑なものに変わり、ピリピリと肌を刺すような視線がサクヤに向けられる。
やや目を伏せ、そして再びサクヤはサングラスをかけた。
「今は、オーブ軍のアレックス・ディノ2尉です。オーブ軍の所属が、大西洋連邦に報告する義務は……?」
中々に苦しい言い訳だな、と心中で苦笑した。
確かにここで報告して彼らの存在を理由に、大西洋連邦が介入する余地を作ることは可能だろう。
しかし現にこの戦闘は全世界に発信されており、その中にはアークエンジェルが参加しているという情報も含まれている。
ここで報告したところで、というのがサクヤの本音でもあった。
「……真面目なんだか、不良なんだか……そうしたら、今は信用していいんだな?」
「ええ……」
信頼はしてもらえずとも、一旦の信用は貰えたようだった。
その場はここでお開きとなり、詰めていた面々が続々と部屋から出ていく。
その中でサクヤは、不意にキラに声をかけた。
「よくあの爆発の中で……いや、生きていてよかった」
「色々と、助けてくれた人がいたんです……サクヤさんも、お元気そうで」
そこまで言って、キラはあっと声を出して今はアレックスさんでしたね、と訂正する。
今はいいさとサクヤが苦笑すると、釣られてキラも少し笑った。
格納庫までの道すがら、雑談をしながら歩く2人だったがふとサクヤは思い出したようにキラの方に顔を向けた。
「一つ、頼みがある。俺が連れてきたパイロットのことなんだが」
「あの……女の子のことですか?」
そうだ、と頷いてサクヤはチョーカーと手錠のキーを取り出し、それをキラに渡す。
それが何を意味するか―――理解できないキラではなかった。
「それは、でもっ」
「頼む。このまま大西洋連邦に連れ帰っても、彼女には……」
「あぁっ! いたっ!」
サクヤの声が途中で割り込んだ声にかき消され、その方向へ顔を向けるとずんずんと近付いてくる少女がいた。
懐かしい顔だったが、この場ではあまり会いたくない人物ではあった。
ただ、それに続く言葉はサクヤの想像通りにはならなかった。
「お前っ、何でアレに乗ってる!? 間に合わなかったのか!?」
「……?」
「ルージュはアークエンジェルの予備機って聞いてたんだぞ! それをどうして……!」
「ちょ、ちょっとカガリ……」
カガリの言う事を理解できず、サクヤとキラはたじたじになって彼女を押し留めるが何かを思い出したように声を出し、そしてサクヤの腕を引っ張り外に連れ出していく。
全く訳が分からずされるがままになっていたサクヤは、慌ててサングラスを掛け直して彼女に追従する。
「待ってくれ、何がどういうことなのか……行先はっ」
「待ってくれも何も、用意していた機体のところだ! エリカのヤツ、まさか……!」
外で待機していたキサカの運転するエレカに乗せられ、モルゲンレーテの方向へと走り出す。
アズラエル達が用意していたのがストライクルージュではないのか、と問うサクヤにカガリはあれはそもそも誰のものでもないと答える。
エリカ・シモンズが何かをしたのだろう。真相は向こうに着いてからでも遅くはない、とサクヤはエレカのシートに身を深く沈めた。
◆◇◆
翌日早朝、払暁。
誰もが疲れ果て、疲労と不安の中で神経を尖らせていた司令部の中で、それに気付いた誰かが声を上げる。
それは瞬く間に周囲に伝搬し、眠っていた司令部機能を再度動かすうねりとなり、関連施設を呑み込んで慌ただしく動かして回り、遂には行政府にも伝搬した。
「……これが、会談要請の回答か! 敵とみなせば、声すらも聞かずか!?」
ウズミが怒りを浮かべ、モニターに表示された動き出す敵の集団に怒鳴る。
補給を終え、休息も兼ねて地下の格納庫に戻っていたアサギ達も発進準備に駆け回り、スタンバイ状態の機体に乗り込んでいく。
放送によると、上陸してきた敵が再度侵攻を開始してそれを援護するように海上の艦隊からの支援射撃が着弾している状態らしい。
島のあちこちで迎撃部隊が動き出し、撃ち漏らしたミサイルの弾着が地鳴りと共に駐機されているM1アストレイを揺らした。
「サイジョウ……じゃなくって、ディノ隊長は!?」
「モルゲンレーテ行ってくるって、そのままじゃないの!」
「じゃ、じゃあ部隊の指揮は……」
海岸で多くの損害を受けたカグツチ隊は、アレックス・ディノの下にアサギ達3人が配属されたモビルスーツ小隊として再編されていたが肝心の指揮官は機体を残置したままモルゲンレーテへと連行され、未だ戻ってきていなかった。
私がやらなきゃ、と自分を鼓舞してアサギは機体を動かす。
副小隊長という役職は無かったが、代行指揮官という序列で見るのならば自分がいつも一番上だった。
そしてそう考えているのはアサギだけでなく、ジュリとマユラも同様だった。
「カグツチ隊、出ます! 指揮は私がっ!」
「了解!」
先陣を切って、アサギのM1アストレイが出撃しその背にジュリ達が続く。
前進を開始した敵の第2梯隊は、ハイペリオンGの部隊を尖兵として先行させており既に出撃をしていたオーブ軍との交戦を開始している。
ここにはあの巨大な機体はいない―――と安堵するも、市街地に展開し始めている敵部隊を見ればその安堵もすぐに吹き飛んだ。
「好き勝手、しないでよっ!」
左右に展開したジュリ、マユラと連携しつつチームプレイで敵のハイペリオンGへ攻撃を仕掛ける。
敵の正面で戦闘して意識を引き付けさせる役割と、その隙を突いて意識の外から攻撃する役割を3機で交互に入れ替えつつ敵を撃墜していく。
敵の主攻正面―――と判定されたこの市街地方面にはカグツチ隊だけでなくアークエンジェルのモビルスーツも戦闘に参加しており、敵の尖兵部隊はみるみるうちに数を減らしていく。
押し返せる、と思った矢先ムウの焦ったような声がその場の機体に響く。
「来るぞ! デカいのだ!」
ミサイルの着弾とは違う地響き。
敵尖兵と対峙するあまり、遠くの索敵が疎かになってしまった―――と後悔するも、それは遅く代償はとてつもなく大きかった。
「ジュリ、マユラっ! 散開して―――」
刹那、
アサギ達は散開していたおかげで巻き込まれずに済んだが、それでも逃げ切れなかったM1アストレイが数機巻き込まれ、爆発する間もなく焼失した。
相変わらずの破壊力に戦慄し、足が竦む。
恐怖に駆られた他のモビルスーツが散発的に射撃を開始するが、それも装甲の直前で緑色に弾けて阻まれてしまった。
「っ……あんなの、どうやって」
アサギ達が浮足立っている間にも、随伴機を従えたギガンテスはオーブの大地を揺らしながら市街地を蹂躙しようと徐々に近付いていく。
その中で、空中にいたフリーダムだけが突出できたのは機体性能だけでなく、パイロットの技量もあったのだろう。
「キラッ! 不用意に近付くな!」
「でも、あそこに人がっ」
デストロイの針路上から少し外れたところに、避難民の姿があった。
フリーダムのサブモニターからは子ども達を熱風から守るように覆いかぶさっている大人の姿が確認でき、負傷はしていないようだった。
逃げ遅れてしまったのか、それとも途中で巻き込まれてしまったのか―――そこまで判断する余裕はキラにはなく、助けなければという一念しかなかった。
しかし、それは致命的な隙でもありデストロイにとっては絶好の機会でもあった。
「やめろぉぉぉぉっ!!」
フリーダムを捕らえる網のように無数の砲口が煌めき、周囲を焼き尽くす。
右手で鞘走らせたビームサーベルとシールドで自身に向けられた殺意を捌くが、しかし自らを守る手段を持たないその家族は―――!
「下がれ、キラッ!」
「っ……!」
「キラ、だと……?」
随伴機と交戦していたムウが、敵機と格闘戦を繰り広げながら再度の警告を飛ばす。
パーフェクトストライクのシュベルトゲベールを左手のシールドで受け止めていたその随伴機は、接触回線で偶然その警告を聞いてしまった。
先程まで家族のいたところはビームで巻き上げられた砂塵で何も見えず、安否は確認できない。
キラは歯噛みしながら後退しようとするが、それを遮ろうと飛び出してきた熱線がフリーダムのシールドを焼いた。
「キラ、と言ったな……」
パーフェクトストライクを振り切り、フリーダムを追撃するように追い縋る機体。
その機体は他の随伴機と違い両翼にバインダーを持ち、そして何より特徴的な頭部―――いわゆるガンダム・ヘッドの機体であった。
「遂に……遂に見つけたぞ! キラ・ヤマト!!」
機体の名は『CAT1-X1/3 ハイペリオン』。そしてそのパイロットの名は、カナード・パルスであった。
……今行ったら、軽蔑されちゃうかも。
───行かないでいいの、と聞かれた3尉