MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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ランキング入りしたりしてビックリです。
これからものんびりゆっくり週2投稿(月/木基準)で頑張ります。



5話 おまえは教導隊

 ガノタ冥利に尽きるMSV春のエースパイロット祭り。

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

「ウォロエ……」

 

 などと述懐しつつ、サクヤは暑さと不快感と胃の収縮から来る吐き気を堪えた。

 もう既に何時間経っただろうか。

 肉体は所有者に反逆して動かず、思考は靄がかかったようにぼやけて定まらず。身体を包むノーマルスーツは鉛の防護服のように重い。

 しかしそんな中でも眼前のモニターに映るジンは、当人の状態を気にすることもなく突撃して、そして両手に持つ重斬刀を振り下ろした。

 半ば無意識領域で脳を動かし、目を動かし、手を動かし、自身のジンに持たせた重斬刀でそれを受け止める。

 

 僚機のエドワードはつい先ほど、限界が来たのか動きが鈍くなったところを500mm無反動砲によって撃墜された。

 エドワードへの射撃で弾が尽きたそれを投棄し、転がる残骸を蹴飛ばして重斬刀を両手に構えたジンが突撃してきたのがつい先ほど。

 そして重斬刀同士の鍔迫り合いがしばらく続いたところで、眼前のジンが片手を外してサクヤ機の胸部を殴りつける。

 目にも留まらぬ連続パンチ。思わず完全な脊髄反射(ガノタ悲鳴)で姫様が乗ってるんだぞぉ、と口走りそうになったが、脳を揺さぶられ続ける衝撃の連続で遮られてしまった。

 鉄の巨人たちがぶつかり合い、減殺しきれないコクピットへの衝撃についにサクヤも限界が訪れ、一瞬だけ白目を剥き意識を眼前から外してしまう。

 それまでだった。

 

「全滅ね。昨日よりは30分ほど粘ったかしら?」

 

 涼しげなレナの声を、モビルスーツ・シミュレーターの中で聞いたような気がする。

 半ば芋虫の如くシミュレーターから這い出し、持ち込んでいたボトルを開けようとしたがそれは既に空になっておりサクヤの渇きを更に煽った。

 隣を見てみれば、同じく這う這うの体で出てきていたエドワードが虚ろな顔で冷えたビールと呟いていたが、そんなものよりも水の方がサクヤには必要だった。

 

「今日はここで上がりにするわ。来週から実機に移るから、今日明日はゆっくり休みなさい」

「了オウェッ…解」

 

 いつもと変わらぬ足取りでシミュレータールームから出ていくレナを見送りながら、未だに立てそうにないサクヤとエドワードはくたびれた体勢のまま床に大の字になり寝転んだ。

 

 2人がアラスカ基地へ赴任してから2カ月が経ち、準備隊の段階であった特殊戦技教導隊は正式に総司令部直轄部隊として設立。隊長にはそのままスライドする形でレナ・イメリア中尉が就任した。

 この2カ月の間にも情勢は目まぐるしく変化し、地球連合軍は宇宙における勢力圏を徐々に喪失し、地上にはザフトの海岸堡が確立。

 一大勢力圏であった月ではローレンツ・クレーターに基地が設置され、グリマルディ・クレーターを境に小競り合いが続いていた。

 中でも特筆すべきは、4月1日の大規模インフラ破壊工作によるエネルギー危機である。

 

 世界樹攻防戦、ビクトリア基地攻防戦の結果により、ザフトは地球連合との戦争戦略を一部変更する必要に迫られた。

 地球の内部、つまり重力下での作戦行動を実施する場合において地上に拠点を持たないザフトは、その度に戦力を地球へ降下させなければならない。

 しかし、大気圏外から大量の戦力を降下させる場合において、問題となるのがその降下時である。

 如何に機動性と近接戦闘能力が売りとなるモビルスーツであっても、大気圏突入から地表へ降下する際は無防備になる。

 そのため、ビクトリア攻防戦ではその弱点を地球連合軍に衝かれ、濃密な対空火力の発揮によって多大な損害を出し、作戦が失敗する結果となった。

 

 これらを踏まえ、プラント上層部は地上での拠点の確保、マスドライバーを含めた宇宙港の制圧による連合軍の地球への封じ込め、そして核兵器の使用及びエネルギーと通信インフラの破壊を目的としたNジャマーの敷設の3つを主目的とした『オペレーション・ウロボロス』を発案。

 4月1日の夕にNジャマーの敷設が実施され、地上にダミーを含めたそれらが大量に飛来。

 地中深くまで埋没したそれらは地球全土で起動し、原子力発電がエネルギーの中枢を担っていた社会インフラ、そして経済活動等の中心となっていた通信インフラのほとんどを破壊。あらゆる産業はその活動を停止せざるを得ず、市民生活は旧世紀以前の水準に一時後退をせざるを得ない状況に追い込まれた。

 

 アラスカ基地も例外なくNジャマーの影響を受け、一時は基地機能の全てがダウンする状況が続いたが非常電源や各種艦艇の動力の接続等により、基地機能を維持。

 不断の復旧作業の成果により、現在では各種レーダー及び無線通信機能を除き殆どの機能が復活していた。

 

 未曾有の大惨事、後にエイプリル・フール・クライシスと呼称されるこの生活インフラに対する破壊工作の結果、市民のプラント及びコーディネイターへの感情は過去最高に悪化。

 地球に住むコーディネイターはあらゆる迫害を受け、職業を剥奪されるのはまだ軽いもので、リンチや私人による処刑が横行。

 その身を守るためオーブやスカンジナビア王国といった中立国、または大洋州連合等の親プラント国家へ移住する者が多数存在したが、その中で地球連合軍へ志願し、コーディネイターとの戦争に身を投じる者もいた。

 地球連合はコーディネイターへのあらゆる私刑を黙認しつつも、軍や関連企業に志願するコーディネイターには門戸を開いた。

 軍やその関連企業への志願は家族の安全を保障する―――逃げ遅れたコーディネイターは現状を鑑み、この約束を頼みに多数がこれに志願。

 例え収容所送りであっても、私刑から逃げられる程度の安全が保障されるのであれば、と志願者は多数存在し、その殆どが最前線へと送られることになり、ヤキン・ドゥーエ攻防戦ではコーディネイターで編成された部隊が多大な戦果を挙げた。

 

「エドさん、動けます……?」

「あとちょい休ませてくれ……今日もレナ教官はキツかったぜ」

 

 ノーマルスーツを胸元まではだけさせて新鮮な空気を中に取り入れる。

 それだけでも生き返るような心地がしたサクヤは、若干回復した身体を引き摺りながら立ち上がり、出口へと歩いていった。

 その後ろに同じく満身創痍のエドワードが続く。

 

 特殊戦技教導隊が設立、創隊されてからしばらく。

 本日も日課と化したモビルスーツ・シミュレーターによる訓練をこなし、隊長かつ教官たるレナに散々に絞られ生ける屍半歩手前の2人は冷たい水と新鮮な空気を求め歩き出す。

 士官学校の名物たる武装障害走以来の熱と渇きだった。

 

「にしても、しばらくシミュレーター漬けとは思わなかったな」

「普通に動かせちゃったから、訓練日程とか繰り上げられてるらしいですよ……なんだかんだ俺たちのモビルスーツも明日届くとか」

「マジか? 鹵獲したやつの在庫はまだあったのか」

 

 準備隊としての諸業務を終え、正式に特殊戦技教導隊が創隊されてからすぐに実機での検証試験は開始された。

 設立以前からモビルスーツ開発計画の一員として関わっていたレナはともかく、サクヤとエドワードはそもそもモビルスーツに触った事すらなく搭乗するのが初めて、といった状況でこの2人は普通に、それが当然であるようにモビルスーツの基本操縦をこなしてみせた。

 これまでこの光景を何度もシミュレート(脳内妄想)してきたサクヤ(ガノタ)にとっては、これくらいは造作もない事であった。

 あらゆるゲームに精通し、あらゆるモビルスーツをその両の手で操作してきた彼にとって、今更開発初期のモビルスーツを動かすなど朝飯前である。

 しかしレナとエドは違う。

 コーディネイターと同等もしくはそれを超越する反射神経を持ち、更にそれを思考と融合させるといった決して常人には達することのできないそれをやり遂げてみせたのだ。

 

 上層部はこの結果に満足し、訓練スケジュールの繰り上げと教導隊へのモビルスーツ配備の前倒しを決定。

 それに伴い、戦力化が急務とされた3人が選んだ手法が長時間の対モビルスーツ耐久訓練である。

 

 当初、これまで交戦したジンのコンバットパターンを記録したデータを用いたシミュレーションにより基本的な戦闘機動を確立した後、3人の中で現状最も優れた操縦技術を有するレナが教官役もとい仮想敵となりサクヤが、エドワードが、または2人が同時にかかっていくという原始的ではあるが実戦形式に近い形での訓練が実施された。

 開始された直後は5分ともたなかった2人であるが、1カ月が経過した今では1vs1でのキルレシオは3:1もしくはそれ以下にまで持ち込むことができるようになっていた。

 このシミュレーションで得られたデータは各種データバンクに蓄積され、解析し各種の最適化が図られることによりモビルスーツのコンバット・モーション・パターンが大量に構築される。そしてそのデータは各関連企業や軍の工廠に送られ、モビルスーツ開発の礎となっていく。

 

 サクヤとエドワードが血反吐を吐き、床を吐瀉物で汚していく度に知恵は積み上がっていく。

 2人は、それが少し誇らしかった。

 

「どうもアレ、構造が単純みたいなんで解析が終わったパーツから生産が始まってるみたいですよ。来るモビルスーツも鹵獲したやつを、ウチが生産したパーツを使って補修したのが来るとか」

「へぇ、ウチもやる事はやってんだな。そのうち、純地球連合製のジンが来たりして」

「あり得そうっすね、それ……」

 

 ビクトリア攻防戦において、撃破した降下部隊の中には対空砲火により降下カプセルのシステムが破損し、それが開かずに地表に落下したものもあった。

 それらのほぼ全ては積荷ごと大きく破損し、使い物にならないものばかりであったが運良く中身が無事なものも幾らかは存在しており、大西洋連邦及びユーラシア連邦はそれらを回収、リバースエンジニアリングによりジンの構造と機能を解析していた。

 

 結果、使用されている技術は基本的に既存の技術のそれを積み上げたものであることが判明し、案外拍子抜けしてしまった軍部と企業であったが、そうであるならばこちらにも分というものは存在する。

 向こうはコーディネイターの知識、技術がプラントの持つ強み、勝ち目であると考えているだろう。

 新型モビルスーツのお披露目までして、自身らの技術力には地球連合のナチュラル達は敵うことはない、とも考えているだろうが何のことはない。

 

 地球連合にも、コーディネイターはいるのだから。

 その上、自らをこのような状況に追い込んだプラントへの憎悪で怒り狂っている、優秀なコーディネイター達が。

 

 かくして地球連合軍のモビルスーツ開発計画はコーディネイターの血、教導隊の汗、地球市民の涙をその糧として、邁進させられることになったのである。

 C.E.70年5月。アラスカ基地は、わずかに春の訪れを感じさせていた。





なんでMS隊なのにパジェロで追い回されなきゃならんのです!?

───耐衝撃訓練中の教導隊中尉
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