MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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基準はあくまで基準(基準)



6話 サプライズ・アタック

 誰かが言った。

 月には、ジョージ・グレンが持ち帰ったもう一つの遺物があると。

 人類を更なる高みへと進める何かが、そこにあると。

 

 噂を聞きつけて向かった先には、確かにその遺物があった。

 かつて研究がされていたような痕跡と、研究を打ち切られた上に証拠隠滅として閉じ込められ、絶望の中で息絶えた人々の亡骸と共に。

 

「半分都市伝説、与太話の類だと思ってたんですが、ねェ……」

 

 わざわざ危険を冒して、ここまで来た甲斐があった───目の前の朽ちかけている遺物を目の当たりにし、国防産業連合理事たるムルタ・アズラエルはその威容に感嘆の声を漏らした。

 本来であれば、現在月面での最前線であるエンデュミオン・クレーターに来る必要どころか、宇宙に上がる必要さえなかった彼であった。

 が、しかしモビルスーツ開発計画を推し進めている最中どこか無視のできない噂を耳にしたのだ。

 

 現場主義を標榜する彼は、すぐさま子飼いの地球連合軍の将校に声をかけ、快く直ちに(無理矢理)軍の協力を得て宇宙へと上がった。

 もちろん、ただの噂や都市伝説の情報だけでアズラエルは動かない。動いたのは、確かにそこで、エンデュミオン・クレーターで大西洋連邦が過去に何らかの研究をしていたという痕跡を発見できたからだ。

 機密文書から公開される事なく削除されたはずのその情報は、しかしロゴスの秘密書庫の中には確かに残っていた。

 ほんの気まぐれもたまにはいいものだ、と思いつつノーマルスーツ越しにその遺物に触れてみる。

 確かに過去これが何らかの形で使われていたのだな、という感覚がアズラエルの心中に浮かび上がった。

 機密文書の中で『■■■■■(文字が掠れていて読めなかった)』と呼ばれていたそれの外壁の一部を切り取り持ち帰るよう随伴してきていた連合軍の将校に伝える。

 傍に待機していたモビルアーマー『ミストラル』がすぐに切り取り作業に取り掛かり、その作業を眺めながらそういえば、とアズラエルは機密文書に記載されていた内容を思い出す。

 この遺物の中には知的生命体が生活を営んでいた形跡があったこと、残置されている何らかの部品と思しきもの、そして───

 

「! 何事です!?」

「ザフトの襲撃です! 近くに着弾した模様!」

 

 突如の衝撃に、アズラエルは思考を中断する。

 近くの将校が無線機に怒鳴っているのを確認して、それに近づいてみれば外の状況が具に分かった。

 どうやら前線のところに長居し過ぎたらしいな、と考えたアズラエルはすぐさま作業中断を指示。しかし切り取った外壁は確実に持ち帰るように言い聞かせて、自身もスペースランチに乗り込む。

 どうやら外ではザフトの長距離ミサイルが着弾し、目視できる距離にモビルスーツが接近してきているらしい。

 全員の搭乗を確認したランチはミストラルを伴い、遺物が保管されていた場から離脱していく。

 段々と遠くなっていく遺物を見つめながら、しかしアズラエルはその遺物を諦めきれずにいた。

 

「もう少し、ゆっくり探索したかったんですが……まぁ、邪魔者を追い払ってから、って事ですかね」

 

 クレーターに出てみれば、まだ敵モビルスーツは現出していないものの、長距離ミサイルがクレーターの各所に着弾しているのが見える。

 本格的な戦闘が始まる前に離脱はできそうだな、と一安心するアズラエルであったが、漏れ聞こえる無線の向こうではかなり緊迫した状態らしく鉄火場の男たちの声が響いていた。

 迎えのネルソン級戦艦に着艦する直前、アズラエル達の乗るスペースランチを追い越してフライパスする、()()のモビルスーツ部隊が見える。

 前線に出るのならば護衛に、と自派閥の将校が慌てて自身の調査隊にアタッチさせた部隊───ちょうど宇宙での運用訓練を実施していた特殊戦技教導隊のこと、そこに配備されたジンの動きを思い出す。

 ザフトの無機質な灰色とは違い、地球連合を象徴するように青と白に塗り分けられたそれを、アズラエルを含めたランチの搭乗員達は心強さと多少の不安が入り交じった視線で見送った。

 

「頼りにしてますよ……?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 エンデュミオン・クレーター付近で停止していた調査隊は、ザフトの攻撃を誘引するには良い的であった。

 しかしそれを掻い潜り、離脱さえしてしまったのはアズラエルの悪運のなせる業であろう。

 救援要請を受けた第3艦隊は既にエンデュミオン・クレーターに到達し、襲来したザフトの艦隊とモビルスーツ部隊との交戦を開始。

 

 Nジャマーによる通信妨害は既に戦場では当然のものとなり、地球連合も赤外線またはレーザー通信等の妨害を受けない通信方法により応急的な艦隊運用のメソッドは確立できていたが、敵の勝ち目たるモビルスーツによって有視界近接戦闘における我の勝ち目を獲得できずにいた。

 

 当然の如くモビルアーマー部隊は撃墜され、艦隊指揮所に表示される共通作戦状況図は味方の不利を知らせる情報ばかりであり、艦隊司令たるビラード准将に敗北を悟らせる。

 しかしながら、状況図の一部では奮戦する味方部隊の姿も、リアルタイムで共有されていた。

 

「くそっ! あのジン、やけに動きがいいっ!」

 

 ガンバレルを母機に戻し、眼前で味方のメビウスを落として回るジンハイマニューバを追い駆ける。

 第3艦隊に所属するメビウス・ゼロ部隊のうち、現段階で生き残っていたのはムウ・ラ・フラガ中尉のみであった。

 追い駆けた先で別のジンを捉え、ロックオンの後リニアガンを斉射。狙いを過たずそれは直撃し、ジンを漂うガレキの一つと変える。

 

 しかしムウが1機を落とす間に、ジンハイマニューバは5機のメビウスを宇宙の棺桶へと転じさせていた。

 ガンバレルを射出し、敵機を取り囲むようにそれを展開させる。一撃必中のタイミング、どこかにでも当たれと念じながら放ったそれは、しかし望み通り当たることはなかった。

 

「あれを避けるのかよっ!」

 

 ムウのメビウス・ゼロを嘲笑うように、弧を描いて機動するジンハイマニューバ、そしてその周りに部下と思しきジンの集団が集っていく。

 いくらゼロでも数で圧倒されては、とムウが唸った瞬間、後方から急速接近するメビウスの部隊とその背に掴まる青と白のジンが3機、目視。

 

 遂におかしくなっちまったか、とIFFの表示を見るもその機体群は間違いなく味方である青色と、特殊戦技教導隊という部隊名を示していた。

 

「そこの零式、下がりなさい!」

 

 青と白に塗り分けられたジンからの通信。

 半信半疑ながらも、ムウはそれに従うことにした。

 

「了解……! あのゴチャついたジンには気をつけろ! 動きが違うぞ!」

 

 了解、と若い男の声がノイズ交じりの通信で入った。

 いつの間にか無線が受信できる距離まで近付いてきていた特殊戦技教導隊がメビウスの背から離れ、交戦を開始する。

 史上初のモビルスーツ同士の戦闘を間近で見れないことを残念がりながらも、ムウはその戦域を離れることにした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 宇宙における3次元戦闘では、上下左右の基準は存在しない。

 存在したとしても、それは自身の頭上や足元、右腕や左腕側といった主観的なものであり、それ故に機動して戦闘するには自身が相手に対して、友軍に対してどのような位置でどのような方向を向いているのかを瞬時に理解し、そしてそれを戦闘機動に反映させる必要がある。

 

 勿論、パイロットの認識を補助するためのプログラムやそれに類する機能は各種機体に備わっているが、それはあくまでも補助的なものであって最終的な制御はパイロット自身が実施しなければならない。そこが、ナチュラルとコーディネイターの能力的な差異が大きい部分でもあった。

 

 ザフト製モビルスーツのOSは機体制御の部分がコーディネイターの反射神経及び空間認識能力といった能力に依存する部分が大きく、それ故にナチュラルが扱うには複雑かつ手に余るものであった。

 

 が、しかし。

 時にそのような不可能な障害を乗り越え、克服してしまう者もいる。そういう者達を、人々は天才であったり英雄と呼んだ。

 

「各機、着いてきているわね? J001、ここで離脱するわ。ありがとう」

「期待してるぞ、R001!」

 

 異常なしと2人の部下から返事を確認したレナは、ここまでゲタ代わりとなってくれた胴体直下のパイロットに接触回線で礼を言うと自らの機体をメビウスから切り離し、戦域にその身を躍らせる。

 サクヤ、エドの2人の機体もメビウスから手を放し、3機がフォーメーションを組む。サクヤとエドが前衛となり、後衛としてレナが戦域に目を走らせた。

 

「各機、兵装使用自由。宇宙人を帰れなくしてやりなさい!」

「了解!」

「了解、車ごとぶっ壊してやりますよ!」

 

 フォーメーションを組んだ3機が、背部のウイングバインダーのスラスターから青白い光を煌めかせて敵陣に突入する。

 

 ザフトのジンと違い、特殊戦技教導隊のジンはメビウスのスラスターを増設しており大型化はしたものの、その加速性能は新鋭機であるジンハイマニューバに匹敵した。ただし、旋回能力や運動性はオリジナルよりも若干低下している。

 

Rock'n Roll(ブチかませ)!!」

 

 エドが景気づけに叫び、教導隊の3機が敵MS群に突入するや否や重突撃銃、無反動砲、両脚に装備された3連装短距離誘導弾を撃ち散らし、弾の無くなった発射機をパージする。

 数の劣勢を補うため重武装化していた3機であったが、増設したスラスター、使用済みの武装をパージすることにより本来の機動性を担保することはできた。

 

『よ、避けきれない!?』

『なんでだよっ! ジンは味方の筈だろうがっ!』

 

 撃ち散らした短距離誘導弾が敵のジンに迫る。突然のIFFに存在しないMSに現場が混乱しているのだろうか、動きの鈍くなった数機が火線の嵐に巻き込まれ、コクピットを貫き、パイロットのコーディネイターをその破片で刻みつけた。

 

 爆散したジンを潜り抜け、更に加速していく教導隊の3機。その後に、対艦装備を施したメビウスの部隊が続く。

 彼らの主目標は、前線に進出してきていた敵の艦隊であった。

 

「ここでNジャマーの大元を叩けば……!」

「見渡す限り敵ばっかだな! 撃てば当たるぜ!」

 

 Nジャマーはあくまでも電子的なジャミングの類であり、その大元である敵艦を沈めれば連合軍が元来得意とする誘導兵器によるロングレンジでの火力戦闘が可能となる。

 更に機動歩兵たるモビルスーツが進出して前進観測を実施する事により精密な艦砲火力の発揮が可能となり、火力の優越が更に増す。

 

「目標情報伝送、突撃支援射撃を求む!」

『確認、これより支援射撃を開始する』

 

 サクヤのジンがレーザー通信により艦隊へ目標の座標、状態、規模を送り、それの返答代わりに第3艦隊から援護の火線が伸びる。

 人類が地べたを這いずり回る時代から続く、第一線の観測機関が誘導する火力の脅威は、駆け回る場所が2次元から3次元に変わってもその有効性に変わりは無かった。

 

『なんで連合軍がモビルスーツを!?』

「落ちなさい!」

「そらッ!」

 

 レナのジンが重突撃銃で敵機を蜂の巣に変え、エドが重斬刀で怯えるジンをパイロットごと脳天から唐竹に割った。

 

 モビルスーツによる電撃的な奇襲により突破口を形成、対艦装備のメビウス隊が突入し敵艦を叩く。その間、教導隊は派手に動き回り艦隊直掩のモビルスーツを引っ掻き回してメビウス隊への損害を抑えるという作戦は、当初は無謀なものに思えた。

 どうにかしろ、と喚き散らすアズラエル派将校(腰巾着)からのオーダーの元立案されたいわば即席の作戦であったが、全く予期していなかった連合軍のモビルスーツの登場は、ザフトの兵士たちを狼狽させ混乱の渦に叩き込むには十分なものであった。

 

 衝撃力、大なり───奇襲効果を増大させるに相応しいほどの心理的効果を以て、ザフトのモビルスーツ隊に襲いかかった。

 

『連合軍ごときが! 舐めるな!』

「見切ったっ!」

 

 機体に急制動をかけ、敵の斬撃を回避。

 襲いかかるGに耐えながら、サクヤは右手に持たせた重斬刀でジンの横腹を切り裂く。

 浅かったが、左手の無反動砲を撃ち放ちそのジンを爆散させた後、まだ混乱から脱せず動きの鈍いジンに残りの無反動砲の弾を叩き込む。

 

 これまで何百時間もシミュレータでモビルスーツと戦い汗を流し、それと同じ以上の時間をかけ実機で訓練を繰り返して血反吐を吐き続けたサクヤにとってエンデュミオン・クレーター周辺のザフト兵は、シミュレータの敵機より、仮想敵として戦ったレナよりも酷く脆いように思えた。

 

 しかし、サクヤに油断はない。敵を落とす毎に疼く古傷が、彼を慎重にさせていた。

 

(敵が予想より脆いのはいいが、嫌な予感が段々大きくなっている……! どういうことだ!?)

 

 3機目のジンを爆散させたところで、サクヤはモニターの端に移る状況図と時計に目を向ける。

 もう少しで後続のメビウス隊が艦隊に攻撃を仕掛ける時間だ、と目の端にザフト艦隊を捉えた瞬間。

 メビウス隊の方向から、何か名状しがたい感覚―――後に彼が多数直面することになる生気を吸い取られる感覚が、した。

 

「なんだ、この、げっそりする感覚は!」

 

 状況図から、次々とメビウス隊を示す表示が消えていく。

 機体をその方向に向ければ、今まさにメビウスから命を吸い取っているジンハイマニューバの姿があった。

 

「……しまった! そういう事か!」

 

 サクヤは、その機体とパイロットの存在に寒気を覚えると同時に、自分がいる戦場の事、そしてこれに参加しているという意味の重大さを思い出し、そして自身の不明を恥じた。

 

「ラウ・ル・クルーゼ!」

 

 今更ながら思い出す。

 グリマルディ戦役のエンデュミオン・クレーター攻防戦は、そういう事だったのだ。





何とかせんかぁぁぁぁっ!

───アズラエルに連れて来させられた大西洋連邦軍准将
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