MS隊、どうにかしろ(無責任)   作:赤マムシX

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何とかせんかって怒鳴る前にその腹どうにかしろって話だよな

―――ハンバーガーを頬張っている中尉


7話 スペース・ラナウェイ

「言葉が……! 貴様、私の名を!?」

「ちぃっ!」

 

 迂闊だった、と思う。

 サクヤは機体をバレルロールさせて、ジンハイマニューバからの銃撃を躱す。

 同じくクルーゼも機体に急制動をかけてサクヤのジンからの銃撃を回避、追撃するように重斬刀を引き抜き、そのまま斬り掛かった。

 

「あの男以外にも私と通じる者が……貴様も、成れの果てか!?」

「何を! 俺は……!」

 

 サクヤも引き抜いた重斬刀で応戦、実体剣同士での鍔迫り合い。古代の剣闘士、中世の騎士、サムライ同士の決闘の姿がそこにはあった。

 切り結び、鉄と鉄がぶつかり合い2人の間ではそれ以上の言葉にならない言葉の応酬があり、宇宙に十重二十重の弧を描く。

 

「不愉快な感覚だよ、全く! あの男には逃げられたが、貴様はここで落とす!」

 

 更に何合か剣戟を重ね合わせた後、間合いを切ったジンハイマニューバがジンに蹴りを叩き込み、コクピットのサクヤを揺らす。

 蹴りを叩き込まれる寸前、機体を後方に下がらせて衝撃を相殺したお陰でダメージを軽減したものの、減殺しきれなかった衝撃は彼の内臓へ確実なダメージを与えていた。

 しかし。

 

「まだまだっ!」

「ぬぅっ!」

 

 こんなものは、隊長のジンに蹴り転がされた訓練の日々に比べれば何ともない。

 何カ月もの厳しい訓練の日々は、サクヤの肉体と精神をより剛健なものへと変貌させていた。

 

 お返しだ、とばかりに重突撃銃をジンハイマニューバに向けて連射。

 更に間合いを切って回避したクルーゼだが、その2機の間に乱戦の中で先ほど離脱したはずのムウ・ラ・フラガのメビウス・ゼロとそれと交戦していたジン2機が割り込む。

 突然の乱入者に阻まれ、サクヤもクルーゼも双方がお互いに対する意識を切らざるを得なかった。

 メビウス・ゼロは再度ジンハイマニューバに向かい、相手を失った2機のジンはサクヤに殺意の切っ先を向ける。

 

 ノーマルスーツの下の爪先から底冷えする感覚を押し込め、右手に剣を、左手に銃を持ちジンを殺意の先へと疾らせた。

 

「くそっ、まだ来るのか……!」

 

 2機がジンを挟み込むように旋回、機動する。

 重突撃銃を撃ち散らしながら接近するジンの片方に急加速して接近。増設されたスラスターを吹かして、通常のジンより速いそれは、パイロットのコーディネイターを驚愕させるのには十分すぎる加速度であった。

 

 眼前、数十センチの距離に、ジンの機体が逆さまになって映った。

 狂奔する敵からの重斬刀が動くよりも早く、サクヤのジンの重突撃銃が火を噴く。吐き出された銃弾がジンのコクピットを貫き、内部を鉄と肉で蹂躙した。

 更に反転して、なおも食い下がるジンに対し再度急加速。

 斬撃を機体を少し捻るようにして回避して、そのモーションのまま右手の重斬刀でジンを腰から両断した。

 

 流れるように2機を撃墜。艦隊司令部の大型ディスプレイには、リアルタイムで彼我の状況が表示されており味方の教導隊を示す光点の周囲から敵の光点が消える度喝采に沸いたが、それを鉄火場のサクヤ達が気付くはずもなく、お互いに命を擦り減らしていった。

 

 モニターの片隅では、撤退を知らせる秘密通信の表示が点滅していたが、戦闘に集中しきっている教導隊の面々は気付く事もなかった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「自爆ぅ?」

 

 ネルソン級戦艦のブリッジの中で、アズラエルは信じられないものを見るような目で、自身をここに連れて来させた少将の顔をまじまじと見た。

 エンデュミオン・クレーターではユーラシア連邦宇宙軍が主体とはいえ、味方の部隊が交戦しているのにこの男は何を言っているのだろうか。

 軍高官にあるまじき丸々とした体系の男は、目の前のアズラエルが段々と自分に興味を無くしているのに気が付かず意気揚々と続けた。

 

「現在交戦中のクレーターには、レアメタル採掘時に利用する融解装置が存在します。これを暴走させれば、コーディネイター連中と言えど……」

「ハァ。で、それの暴走にどうやって敵を巻き込むんです?」

「それは、交戦中の現在に装置……サイクロプスを暴走させて」

「話になりませんね」

 

 軍もここまでレベルが落ちたか、とアズラエルはため息をつきながらこめかみを押さえた。

 准将が言う事を真に受けるのならば、この男―――いや、男たちはマイクロ波発生装置であるサイクロプスを暴走させ、敵味方諸共に吹き飛ばすという。

 余りにも稚拙かつ拙速に過ぎる策、更に残置されている遺跡のことも考えれば到底許されるような策ではなかった。

 しかし、回収後にブリッジに上がることなく回収した外壁の解析現場に付きっ切りだったアズラエルにそれを止められる機会はどこにも介在していなかった。

 

「しかし理事、これは既に決定事項でカウントダウンはもう」

「教導隊への撤退信号は? あれを失う訳にはいきませんよ」

「レーザー通信で実施していますが……」

 

 安穏と言い切る男に苛立ちを覚え、このまま話していても何の進展もないと感じたアズラエルは少将を押し退けて通信席へ向かう。

 驚く通信兵を押し退け、現在交戦中の第3艦隊へレーザー通信を発信した。

 

『クレーター内のサイクロプスによる自爆攻撃を5分後実施予定。速やかに撤退』

「理事!? 勝手なことをされては困ります!」

「勝手なことぉ? それはこっちのセリフですよ」

 

 せっかく見つけた遺跡を粉々にされ、あまつさえ軍隊で最もコストのかかる『人員』を無為にするような行動。

 兵器はいくらでも作れる上にそれは自社の利益になるから大歓迎であるが、それを扱う人員は工場では作れず畑から生えてくるわけでもない。

 あくまで兵器の一部として、操縦時のCPUとしての特殊人材の運用と開発は進んでいるが、しかし現在戦場にいる連合軍の兵士は国民の血税で武器、教育、生活の全てが賄われている、いた。

 その上、兵士は育成することにコストがかかるだけでなく、長い年月も必要とする。

 今も戦っているモビルアーマー乗り達を失い、それと同等のレベルまで新兵を育成するコストと年月、練度と兵力を維持しつつ戦況を回天させる兵器を開発するのに必要なコストと年月。

 どちらにせよアズラエルの会社が潤うのは確かであったが、選ぶのは、迷うまでもなく後者であった。

 

「こんなことで人員を浪費していたら勝てる戦争も勝てなくなっちゃいますよ? そもそもですね……」

 

 くどくどと金髪の少将への小言を続けるアズラエル。

 自分が国防産業連合理事の不興を買ってしまった、と気付くには遅すぎた彼は顔を青ざめさせながら黙ってその小言を受け入れるしかなかった。

 そして同時刻、通信を受けた第3艦隊は天地をひっくり返すような勢いで大騒ぎ、そして撤退行動を開始していた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「サイクロプス……!」

 

 Nジャマーの効果範囲内であっても、その干渉の度合によっては無線通信も可能となる。

 アズラエルからのレーザー通信の後、各種の中継を介して無線によりサイクロプス自爆の報を受けたサクヤは遂に来たか、とモニターに表示されている効果範囲と発動までのカウントダウンを見遣る。

 残り5分。

 ここから全速で離脱すれば2分でサイクロプス有効範囲から離脱できるが、しかし残存する敵艦隊攻撃の任を帯びたメビウス部隊も含めて包囲されつつある現状では半ば厳しい状況にあった。

 退避行動を取り敵からの攻撃を回避しつつ、重突撃銃を固め撃ち。蜂の巣となり動かなくなったジンを置き去り、更に後方へと退避するが逃さん、と敵のジンはなおも追い縋る。

 

「002、003、撤退よ。3機でフォーメーション、このまま穿ち抜けるわ」

「簡単に言わんでくださいよ……!」

 

 奪い取った重突撃銃を両の手に持ち、撃ち散らすレナ。同様に、奪った重斬刀を両手に持って敵を切り裂いているエド。

 教導隊の3人が皆余裕がなく、眼前の敵を倒して後退するだけで手一杯であった。

 増設されたスラスターは既にパージされ、装備してきていた武装も弾切れもしくは刃毀れにより投棄され、撃墜した敵から武装を奪って使用している状況ではむべなるかな、交戦しつつの後退が現状で実施できる最大限の行動で、戦域に残ったメビウス・ゼロも同じ状況だった。

 

「電子レンジの中でおシャカなんて、冗談じゃねぇぞ!」

 

 ムウがぼやきつつも、ジンの背部にリニアガンを叩き込む。ウイングバインダーを失ったジンが機動力を失い、僚機に支えられながら離脱していく。

 既に艦隊は安全圏に退避が完了していたが、残存する艦載のモビルアーマー隊の大部分はクレーター付近でザフトの猛攻により離脱できずにいた。

 

 あと少し、あと少し決定的な何かがあれば……とサクヤは焦る。

 結局、モビルスーツであっても敵と同じジンでは、決定的なブレイクスルーを得ることはできない。

 フォーメーションを組みつつ離脱のための突破口形成を図るが、続く連戦で集中力を欠いた状況ではその操縦にも精彩を欠いてしまう。

 

 その上、サクヤは戦闘突入時から段々と膨れ上がる不安が、気にならないレベルから逸脱しようとしていた。

 

(ラウ・ル・クルーゼでもない、ムウ・ラ・フラガでもない……! なんだ、この感覚!?)

 

 クレーターの先、中から感じる得体のしれない何か。

 しかしそれに気を取られていては、戦闘も覚束ない。

 不安を振り払い、再度戦闘に集中する。向かってくるジンに重斬刀を投げつけ、コクピットを串刺しにする。

 モニターの端を見れば、カウントダウンは残り3分を切っていた。

 このままでは、と焦るサクヤ。

 しかし、こちらを追い越す光点が、その焦りを上塗りした。

 

「味方のメビウス!? 何してる、早く下がれ!」

「馬鹿言ってるんじゃねぇ!」

 

 追い越したメビウスのうちの1機からの怒鳴り声。

 それは連鎖して、サクヤ達教導隊のジンとメビウス・ゼロに届いていく。

 

「アンタらは俺たちナチュラルの希望なんだよ!」

「こんな所で零式乗りが死んでる場合じゃないだろ!」

 

 次々と届くメビウス隊からの怒鳴り声。

 ザフトの艦隊、モビルスーツに向かっていく姿は、まさしく殿軍としての役割を果たそうとしていた。

 

「ナチュラルでもモビルスーツを使えるって事、あいつ等に証明してくれよ!」

 

 破れかぶれの特攻紛いの行為、命を浪費するような行為にサクヤ達を含めた教導隊の面々が止めろ、と口々に叫ぶ。

 しかし、メビウス隊は止まることなく敵方へと突っ込んでいく。

 彼らが最後に口にしていたのは、コーディネイターへの呪詛でなく、自身を死地へと追いやった上層部の恨みでなく、可能性を掴むための希望だった。

 それは、彼等(サクヤ)を戦場に縛り付ける呪いだったのかもしれない。

 しかし、彼等は―――メビウスのパイロット達は、間違いなく希望を口にして、宙へ散っていった。

 

「行けよ! 頼むから、行ってくれ!」

 

 突っ込んでいくメビウス隊。予想外の行動に、ザフトの動きが止まる。

 その隙を見逃すほど教導隊は無能でなく、そして想いを汲み取れないほど鈍感でもなかった。

 

「……感謝します。各機、離脱よ」

 

 エドが了解、と腹の底から返事を絞り出す。

 緩んだ包囲網の穴から、ジンとメビウス・ゼロが離脱していく。

 後ろ髪を引かれる思いで、サクヤが振り返れば次々と撃墜されていくメビウスの姿。

 更に膨れ上がっていく不安を押し込め、サクヤ達は戦場を去った。

 

 

 その日、エンデュミオン・クレーターはサイクロプスの暴走により消滅。

 ザフト軍公式記録では、そう記された。

 連合軍の生存者達には厳しい緘口令が敷かれ、サイクロプス暴走の事実は闇に葬られた。

 同時に、2名の生存者から爆発の中に巨()のような、何かを見たという証言も全て抹消された。

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