May 19,C.E.33
新たな被検体が到着。厳しいトライアルを乗り越え、選抜されたというが何をしても表情が変わらず、まるで人形のようだ。
A号、B号、C号と記号が振られておりそれが名の代わりになっているらしい。実験動物に余計な感情を抱かないように、という配慮のようだが……
Jun.2,C.E.33
今日が被検体3名の初実験。実験中の『遺跡』とのマッチング自体も問題ないようだ。
博士がこの被検体のお陰で研究が3年分は進歩したと喜んでいた。
しかし、何か引っかかる……
Jul.30,C.E.33
『遺跡』はどうやら3人の脳波に反応しているようだ。
まるでオカルトの世界だが、博士が言うには再構築戦争時に研究されていた
全く信じられないが、3人が触れれば光る物質を見させられれば、信じざるを得ないだろう。
Dec.21,C.E.33
緊急事態が発生した。
被検体の3人が、『遺跡』に接続されたまま植物状態となってしまった。
確かに生きているが、こちらからの呼びかけ、接触に何の反応も示さない。
博士は狂奔し、寝食を忘れて3人を目覚めさせようと躍起になっているが成果はあまり芳しくないようだ。
Feb.4,C.E.34
一瞬だけではあるが、被検体の3人が同時に目を覚ました。
譫言のように、何かを呟いていたが、Bの近くにいた私ですら明瞭に聞き取ることができなかった。
博士は一瞬だけ正気を取り戻したように見えたが、また植物状態に戻った3人を見て再び狂奔状態に戻ってしまった。
Apr.15,C.E.34
博士の狂奔状態にあてられたのか、精神に変調をきたす研究員が増えてきた。
カウンセリング資格を持っている、という事で彼らのケアにあたることになったのだが皆一様に恐ろしい夢を見て眠れない、休むことができないと訴えていた。
このような状況では研究も遅々として進まない。何か手立てはないだろうか……
Sep.7,C.E.34
博士が自殺した。
研究が進まず、多額の出資により完成した被検体を無為にした事に業を煮やした政府が責任者の交代を通告していたが、その交代前日に壁に頭を打ち付け、鉢を割ってしまった。
遺体はそのまま宇宙葬に付されたが、やはり研究員達の動揺は大きい。私の仕事も更に増えそうだ……
Nov.23,C.E.34
被検体の3名を処分し、新たにD号が派遣されることになった。
3名から1名と、研究の規模は縮小されることになってしまったようだ。
正直なところ、規模が縮小されて人員も削減となるのであれば私もここから出ていきたい。自殺者は増加する一方、既に10人以上が精神に変調をきたして自ら命を絶ってしまっている。
私も、彼らが言う血塗れの夢を見るようになってしまった。
Nov.25,C.E.34
研究の縮小が一昨日に正式決定されてから、皆の様子がおかしい。
ぶつぶつと譫言を呟き続ける研究員、『遺跡』の外壁に頭を打ち付けて博士と同じように鉢を割って命を絶つ研究員、何かが全ておかしくなってしまっている。
早くここから出たい。D号が到着したときに、何が何でもここから脱出する。
Dec.25,C.E.34
最悪のクリスマスプレゼントが届いた。
私たちが、いったい何をしたというんだ。
Jan.29,C.E.35
ついに私が最後の一人になってしまった。
外へと通じる道は先月の計画凍結の報と共に封鎖され、酸素も食料の供給も途絶えた。
外部との連絡手段も、発狂してしまった研究員によって滅茶苦茶に破壊されてしまった。
この日記も、私が正気を保つためだけにつけているに過ぎない。
そのうち私も、彼等と同様におかしくなってしまうだろう。
Mar.9,C.E.35
救世主(ここから先は文字が判読不能)
───研究員の個人日記(サイクロプス暴走により焼滅)
◇◆◇
エンデュミオン・クレーター攻防戦での『大勝利』。
欺瞞と欺騙、陰謀に塗れて深謀深慮の一文字も感じられないこの勝利は、戦況が劣勢である国家がそうするように、国民に対し派手に喧伝された。
メビウス・ゼロでジン多数を撃墜したエースパイロット、『エンデュミオンの鷹』ことムウ・ラ・フラガ。
高速機動で敵陣に飛び込み、華麗な乱れ撃ちで敵を崩した『乱れ桜』ことレナ・イメリア。
両の手の二刀で敵を斬攪し、返り血に塗れるが如く敵を刻み込む『切り裂きエド』ことエドワード・ハレルソン。
高い空間認識能力で敵の弱点を突き、縦横無尽に戦場を駆け巡った『流星』ことサクヤ・サイジョウ。
サイクロプスの暴走による敵味方を巻き込んでの自爆という不都合な事実から目を逸らすため、『英雄』の宣伝はこれ以上なく派手に実施された。
事実、この攻防戦の後ザフトは月面から撤退し、地球連合軍の制宙権は首の皮一枚で繋ぎ止められることになったが、しかし被った被害も尋常ならざるものであった。
第3艦隊の艦載機は文字通り全滅。艦隊を構成する艦自体も損傷が激しく、復帰までに多大な時間がかかることから第3艦隊は解散となり、残存将兵は月面に駐留するハルバートン提督麾下の第8艦隊他第7艦隊等へ吸収されることが決定。
八面六臂の活躍をした特殊戦技教導隊は、各方面からその隊員を麾下に加えたいと引く手数多であったが既に総司令部直轄部隊として編成されていること、部隊自体がMS開発計画の根幹に深く食い込んでいること、そもそもの設立と構成員の人選にアズラエルが一枚噛んでいるとあれば、意気消沈して諦めざるを得なかった。
グリマルディ戦役終結からしばらく、年が明けてC.E.71年1月。
新星攻防戦以後、戦況は膠着状態となり、大規模戦闘は発生せず各地で散発的な戦闘が発生するに留まっていた。
地球に降下したザフトは各地で勝利を重ねその勢力の拡大に成功したものの、戦線の拡大と重力下での戦闘は現地将兵の疲弊を招いた。
伸びきった補給線と広大な占領地を持て余し、散発する連合軍や現地民兵組織等によるゲリラ活動によって、拡大したはずの勢力圏はモザイク状に区切られ、終わりは見えず勝利者などいない泥沼の消耗戦が続いていた。
泥沼の重力戦線をよそに、当代の『英雄』と持て囃されている男―――サクヤは、放棄されたザフトの拠点であるローレンツ・クレーター基地に来ていた。勿論、教導隊の面々も一緒である。
ハルバートン率いる第8艦隊が現在駐留するプトレマイオス基地の裏側に所在するここは、戦線を放棄したザフトによって主要部分が破壊されていたが、応急処置の後再構築され、現在は教導隊の拠点として運営されていた。
「……んで、どうなんです?」
「良い機体だと思いますよ。少なくとも性能は、ザフトのどのMSよりも数段上なのは間違いないです」
ふぅん、と息をついたアズラエルが自身のデスクに教導隊が試験中の機体の資料をふわりと投げる。
『X102』『X103』『X105』とナンバリングされた資料がふわりと机に着地するのを目の端に捉えながら、サクヤは目の前に座る男―――ムルタ・アズラエルを見据えた。
原作における重要人物、初対面の際はエンデュミオン・クレーター攻防戦の直後もあって喜ぶ余裕も驚く余裕もなかったが、それからしばらく経った今でもその感覚はあまり変わらない。
感情が冷めてしまったのか―――と思うも、数か月前にムウ・ラ・フラガと対面したときは同じ戦場を戦い抜いたこともあって感極まり泣いてしまったことを思い出し、ならば何故と思うもその答えは出そうになかった。
「そりゃ、いいことですねェ。ま、当然と言えば当然なんですが。OSの方は?」
「向こうよりはマシ……なんですが、それでもまだまだピーキーに過ぎますね」
ローレンツ・クレーター基地で、ヘリオポリスと同時並行にモビルスーツ開発計画を進めるにあたり、アズラエルがハルバートンに要求したのは1点のみ。
現在開発が進められているうちのモビルスーツ、その3種のフレームのうち最も基本的なX100ナンバーのデータであった。
見返りとして、開発予算と人員の提供及びアズラエル麾下の企業による協力……派閥絡みかつ、アズラエルを信用できないハルバートンはこの提案を呑もうとはしなかったが、総司令部の仲介と圧力、そして何もかもが足りない現場からの意向を受け入れざるを得ず、X100系列のデータ供出を受け入れた。
勿論、特殊戦技教導隊が蓄積していたデータ類も提供された。但し、7月時点でのデータが提供され、それ以降は提供されることは無かったが。
結論として、ヘリオポリスでのモルゲンレーテ主導によるGAT-Xシリーズ開発計画とアズラエル麾下企業等によるGAT-X100開発計画が同時並行的に進められる事が決定した。
モビルスーツとしての基本基礎の機能のみを有するX100ナンバーの開発は順調に進み、ローレンツ・クレーター基地で建造されている3機はロールアウトを終えて運用試験中であったが、場所と人員が限られているヘリオポリスでは特殊機能を付与したX200、X300ナンバーの開発も同時に進められていることもあり遅れに遅れ、つい先日ロールアウトしたという。
しかしまぁ、とサクヤは少し考え込みながら、机に散らばった資料を摘まみ上げそれに目を通し始めた。
機体の構想図、スペック、コクピットブロックの配置などといった様々な情報が記載されたそれに目を通す度、まさか自分がこれに乗る事になるとはなと思う。
しばらく目を通した後、資料をアズラエルの机上に戻して一礼の後退出、サクヤはそのまま格納庫の方へと向かった。
機械音と整備員の怒鳴り声が混じり合い、機械油と金属、人間の汗等の臭いが混ざったその特殊な空間では、巨大な人型の兵器がその存在感を示すように屹立し、自身の手入れをさせるように整備員をその身体に侍らせていた。
「X105、ストライク、ね……」
自身に割り当てられた灰色の機体の目の前に立ち、その威容を見上げた。
今はザフトのジンのような無機質な灰色の機体色であるが、いざ戦場を駆ける時になれば白と赤、青の鮮やかな色へと変貌する。
幼い頃、初めてそのシリーズに触れた時最も印象に残った機体。
両親にねだり買って貰い、自分では手に負えず父に作ってもらったその立体物を手にした時の感動は今ここにはなく、長年飾り続けていたそれよりもずっと色褪せて、ちっぽけなものに見えた。
画面の向こうの偶像と捉えていたそれを、戦争の道具として見てしまったからだろうか。
そのような凝り固まった見方でしか、自身に割り当てられた機体を見ることしかできなくなっていた自分を、少し寂しく思った。
C.E.71年1月。
戦争の回天は、すぐそこにまで迫ってきていた。
シュベルトゲベール、チャージ・アップ!
───正規パイロットに頼み込んでX105に試乗した教導隊中尉