ナチュラルボーン審神者   作:ねこや しき

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番外

 この審神者は呪われている。人の意思に望まれているのだ、”かくあれ”と。

 

 トワを引き取って以来、水平の本丸には子どもが連れられてきた。水平から見ても問題のある子もいれば、どこに問題があるのか分からない子どももいる。政府の基準はよくわからないと頭をひねりながらも、水平はどの子どもにも「家」を提供した。水平の本丸が肌に合う子どももいれば、全く合わない子どももおり、トワほど賢い子どもというのはやはり珍しいことがわかった。おおよその子どもは、慣れたころから大泣きをしだすから、水平は顔には出さないものの困ることがよくある。

 

 蜂須賀虎徹はやさしいが一定の水準を好む。

 

 トワはあれから子どもらしさを得て、よく学びよく遊んでいる。泥だらけになって遊び、ご飯の最中に眠ることも珍しくない。

 刀たちはそれぞれ手習いを割り振り、彼女の養育に努めた。しかし、どれだけ子どもらしい姿を見せたところで彼女は賢い。与えられたものをぐんぐんと吸収し、その姿には水平も目を見張るものがあった。蜂須賀虎徹は、この子どもの礼節を担当した。トワにはほんの少し注意するだけで済んだ。あまりに簡単に身に付けるものだから、蜂須賀虎徹は目を疑った。今までに刀の形で見てきた子どもとあまりにも違った。違いすぎたから蜂須賀虎徹は心を痛めた。そういうことができる刀だった。

 

 

「おいで、トワ」

 

「はい」

 

 水平はいつだってトワに手を差し出したし、手を拒むことはない。トワの未来を考えて、この子どもが普通の子どもみたいにすごせるようにしてやりたかった。

 

 トワは賢い子どもだったけれど、やっぱり心が追いついてくるのに時間がかかってしまった。でもトワはとても賢かったから、ある日ふと気付いたのだ。気付いてしまったならもういてもたってもいられなくて、トワは広い本丸の中を走って水平を探した。

 ためらいがないわけでは無かった。でも、と思ったのだ。トワは賢かったから、知らなくてもいいところまで気が付いてしまう。なにかの拍子に思いついたら、それは奇妙な反射で色々なことに気が付く。

 

 だから手を伸ばした。

 

 差し出された両手を、水平は笑って抱き上げた。

トワはこの日のことを一生忘れないと思った。ぼやぼやとにじむ視界と、水平の匂い。穏やかな顔をした陸奥守吉行。

 

 

 

 水平という名の審神者はざっくりとした判断基準で動いている。自分が面白いと思えば動き、益にならなければ視界に入れることもない。そういう人物であったが、人に対する判断基準もばらんだったのだが、ひとつだけ確かなことがある。それは礼である。

 

 どの子どもにも激しく怒ったり、逆に褒めたりもしなかった。水平はただ子どもの話を聞くだけである。ただし、礼がなっていないときだけは別だった。普段とのギャップに子どもたちは身をすくませた。水平はとうとうと礼儀を身に付けろと言う。彼女は礼のなっていない者が嫌いだった。

 

 

 そうやって水平は暮らしてきた。

刀共の差配をして、子どもたちを育てていく。その毎日の繰り返しである。

 

 気づいたのはいつだっただろうか。水平は徐々に年をとらなくなった。老いが表面に現れないのだ。皺もたるみも増えない顔、筋肉の衰えない体。同期の審神者たちが体の不調を訴える中、なにかがおかしいと気が付いたときには水平は呪われていた。

 

 彼女を呪ったのは、いいや。現象の結末として水平は呪われた。だが、その本質は呪いではない。水平が今までに育てた子どもたちの「そうあってほしい」が彼女をそうしたのだ。子どもたちが、水平がずっとそうであってほしいと望んだから。

 

 いつまでも健康でいてほしい。

 いつまでもあの頃のままであってほしい。

 いつまでもそこにいてほしい。

 

 彼女がいつか死ぬまでずっと、この呪いは続く。

 




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