「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」   作:らくべえ09

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二章  蛇崩雁夜 アサシンを使役すること

 

 

 

 

 

 セイバー:確認

 ランサー:確認

 アーチャー:確認

 ライダー:召喚済。消息不明。

 キャスター。召喚済。消息不明。

 

 アサシン:**時間前に確認――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海から現れ、空港を襲った怪物。

 それは人に似ていたが、毛むくじゃら。

 類人猿とも違う。

 海藻類やフジツボだらけの醜悪な姿であった。

 

『た、ただ今**空港を襲っているタイタンは、未確認の新種と思われます……! タイタンは極めて攻撃的であり、また積極的に人間を襲っております! すでに犠牲者はすでに……もう、やだ! 死にたくないわ!!』

 

 生放送の途中で、レポーターは画面の外に飛び出していった・

 画面では、わりと近場で暴れ狂うタイタンの姿。

 それが、ゆっくりと画面に近づいて――

 

 ※しばらくそのままお待ちください。

 

「あらら」

 

 テレビを見ていた桜は呆れたようにつぶやいた。

 

 画面に挟まれたテロップ。

 続いて、何を誤魔化すつもりなのかわからない船の映像。

 しばらくは、それが意味もなく続いている。

 

「げ、現代は本当にものすごいことになっているのですね……? 私の生きた時代でも、怪物はいてもこれほどでは……」

 

 ライダーが困惑した顔でつぶやく。

 

「ま、ここ2000年以上も、怪異だの魔物だのはどんどん見えなくなってるからね。魔道も衰退するわけさ。もっとも……」

 

 2人と一緒にこたつに入っている幻海は茶を飲みながら、

 

「人間って種の歴史は数十万年と聞いたことがある。怪物どもがなりをひそめていた時期こそ、例外的な時間だったこともありえるさ」

 

「はあ……」

 

 この超然とした老人に、ライダーも困ってしまう。

 桜が一目置き、保護者であるというだけあって、かなりの人間だともわかるが。

 

「耳学問だが、人間が神と崇めていたもの……例えば星座だが、人の星座ができる以前は、ほとんどが獣や鳥、あるいはサソリやカニみたいなもんばかりだったって話があるね。タイタンどもも、神だの魔物だのの名前があてられてるが、あるいは神の原型ってのはあいつらだったかもしれん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランケンシュタインの心臓?」

 

 雁夜は、思わず聞き返した。

 

 夜。 

 

 九州・**山中に近い国道である。

 車を飛ばす雁夜の横、助手席にはウェイバーが座っていた。

 

「正確には、フランケンシュタインが作った怪物……の心臓、ということらしい」

 

「フランケンってのはアレだろ。こー、頭にボルトつけてフンガーフンガーうなる」

 

「そりゃ映画だろ。実際は、知性と感情を持った、ホムンクルスに近いものだったらしい。心臓を分析した結果だけどな」

 

「で、その心臓が?」

 

「3年前に、心臓の一部が採取されて培養実験が行われた。心臓の細胞と、タイタンの細胞を融合させて、新型のホムンクルスを作ろうとしたらしいんだ」

 

「映画なら、絶対失敗して暴走か逃げ出すパターンですなあ」

 

「嫌味はよせ……。で、その研究施設は表向きは火事ってことだけど、襲撃を受けて実験体は行方不明になった。ようやく見つかった、それの一つが――コレだ……」

 

 と、ウェイバー・ベルベットはタブレットの画面を指した。

 

 そこには、海藻やフジツボに覆われた巨大な怪物。

 空港を襲い、人間を捕食しているさまが、望遠ながらよく撮れている。

 

「おいおい、こりゃもう人災だ……」

 

「体長は推定20メートル。**風土記にある、荒ぶる海の神からとって、ガイラ。安曇磯良(あずみのいそら)と関係があるとか、海彦山彦とも似通った伝承が……」

 

「いや、ここは学会じゃねーし」

 

「……そうだった。脱線、でもないか。海彦山彦は知ってるだろ、この国の神話だ。ガイラの伝承も、似たもので山に属する兄弟が語られてる。名前は、サンダ」

 

 そして。

 

 ウェイバーはタブレットをいじると、ガイラと似た小山が人型になったような怪物が映された。

 

「二匹もいるのかよ!?」

 

「ああ、同じ細胞から生まれて、一方は山で。一方は海で育ったらしい」

 

「なるほどねえ、で、そのサンダとガイラをどうするって?」

 

「上からは、迅速な殺処分命令が出てるよ……。ガイラはもう何人も人間を食って……捕食してる」

 

「……やれやれ。気の毒じゃあるけど、人間を餌にするんじゃ、しょうがないか」

 

「すでに、特自のメーサータンクがガイラの迎撃に向かってるらしい。そして、サンダがガイラに引き寄せられるみたいに移動している。かなりの速度だ。幸い人口密集地は避けてるようだけど……」

 

「で、俺らはどこに向かってるんですかね、ミスター・ベルベット。サンダともガイラとも離れているようだけど――?」

 

「現在、同時にこの近くでタイタンの動きが活発化してる。サンダたちとは違う、純粋の野生種だ」

 

 ウェイバーは、タブレットの画面に地図に切り替えた。

 

「人食い怪獣が3匹。ほぼ同時に。しかも、この九州で。絵にかいたような最悪の事態ですなあ」

 

「……一応、サンダは人間を捕食する習性はないらしいけどな。ただ、ほぼ双子と言えるガイラがこうなってる以上……」

 

「サンダもいつ人を襲うか、わからんってことか。やれやれ……」

 

 

 やがて……。

 

 

 車は人家のない、古びた神社跡の近くまでやってきた。

 

「……」

 

 車から降りるなり、雁夜は背中にゾクリとするようなものを感じた。

 

 妖気。

 魔力。

 

 いずれも違う。

 

 

 純粋に、自分よりはるかに兄弟の生物の息吹を感じたのだ。

 

 

「――こら、やばいな」

 

「ああ……」

 

 雁夜の声に、近くの山を見上げながら、ウェイバーは応える。

 

「……イサヤマという人物の記した『護国聖獣伝記』という古書がある。それによると、日本には古代、3体の荒ぶる神……タイタンが存在していたと記されていた。で、カルデアが調査した結果……記述通り見つかったよ。冬眠中だったタイタンが。そのうちの1体が、あの山に眠っている」

 

 と、ウェイバーは山を指した。

 

「そいつが、生命活動をどんどん活発化させてる。目覚めれば、餌を求めて移動するだろうな、確実に」

 

「どこへ……?」

 

「タイタンの性質は知ってるだろ? あいつらは放射性物質を餌にする。幸か不幸か……この県内に放射性廃棄物の地下保管場がある……。間違いなく、そこを目指すだろうね」

 

「わあお……。で、そのおっかない怪獣のお名前は……?」

 

「地元の伝説は、鬼として伝えているようだけど、伝記では、婆羅護吽(バラゴン)

 

「……バラゴン」

 

 

 そうこうしているうちに、山から地鳴りのような音が響き出す。

 

 同時に、地震にも似た振動が――

 

 まるでこれに応えるがごとく。

 

 上空に、特自の大型輸送用VTOL機が現れる。

 輸送機は、人に似た巨大な銀色のものをゆっくりとおろしていく。

 

 メカニコング。

 対タイタン用特殊戦闘車両である。

 

「……ただし、そのプロトタイプだけどな」

 

 おろされた機械の類人猿を見上げて、ウェイバーは苦笑した。

 

「サイズを拡大したのと、戦闘、それも格闘戦を重視しての再設計……。安全性も乗り心地も及第点以下。いや、特に乗り心地は最悪らしい」

 

「おやまあ……。素敵な乗り物だねえ……」

 

「まだ作業用と同じ、2足歩行のせいらしい。これの失敗から、正規版はナックルウォークに変更になったそうだ」

 

「で……」

 

 雁夜は上昇していく輸送機を見上げながら、

 

「この中途半端な機械のゴリラで、腹をすかしたクジラよりでかい怪獣をどうにかしろと? 死ねと言ってるようなもんだ――」

 

「人間、ならな」

 

「――ですな」

 

 雁夜は頭を掻いて、

 

「……そういうわけだ。ちょっと怪物退治をしてくれ、アサシン」

 

「――はっ」

 

 雁夜の命令を受け、ずっと霊体化していたサーヴァントは姿を現した。

 

 真っ黒なフルアーマーで身を覆い、黒い霧のようなものに包まれている。

 全容が、判然としない。

 

「しかし、あんなもんまで扱えるのか?」

 

「ご心配なく。武器であるなら、問題ありません」

 

 不気味な姿に反して、慇懃な態度を崩さずにアサシンはメカニコングへ走り、乗り込んでいく。

 

「……カルデアも準備がいいねえ? 歴史的遺産ともいえる、聖遺物なんか持ってきちゃって。おかげで伝説の騎士様がサーヴァントだ」

 

「――あんたが触媒なしで召喚したら、何が来るかわかったもんじゃないからな」

 

「……まあ、前科があるからしょーがない」

 

 ウェイバーの言葉に、雁夜は笑うともなく笑った。

 

 と――

 

 地鳴りが、さらに増した。

 不気味な咆哮が夜空に響いて、双眼鏡で確認できる山の中腹あたりが崩れ出す。

 

「……出るぞ!」

 

 山中から這い出して来るもの。

 

 一本の角と、大きな耳を持つ赤みがかった体色の怪物。

 どことなく、狛犬を思わせる風貌だった。

 

「アサシン!」

 

 ウェイバーの叫びに、雁夜は短く言った。

 

 その声に反応して、銀色のメカニコングは暗い紫に染まっていく。

 真っ黒な、蒸気とも煙ともつかないものが特殊合金の巨体から上がり出した。

 

「あーなると、メカニコングっていうより、アイアンコングだ……」

 

「装甲の素材は鉄じゃなくってチタンベースの合金、らしいけどな」

 

 走っていくコングを見送りながら、雁夜とウェイバーはどうでもいいことを言う。

 

「しかし、サンダとガイラのほうはいいんかねえ?」

 

「あっちは特自と別隊がいってる。メーサータンクが数台あるんだ。こっちよか有利かもしれない」

 

「こっちは、試作品のロボットゴリラが一台だけ? せちがらいねえ」

 

「しょうがない。重要度は、フランケンシュタインの関わってるあっちほうが上になったんだ」

 

「やっぱり、せちがらいって……!?」

 

 双眼鏡越しにバラゴンの様子を見ながら、雁夜は叫んだ。

 

「おいおいおい……。ありゃ、40、いや、50メートルはあるぞ? フランケンもどきが20メートルって聞いてたから同じサイズだと勘違いしてたが――……」

 

「……ウェイト差は絶望だが、古来巨漢を倒す英雄の話はいくらでもあるさ。ドラゴンや怪物だってたいてい英雄よりもでっかい」

 

 ウェイバーは言い訳のようなことを言うものの。

 

 それでも。

 バラゴンとメカニコングは倍以上の身長差。

 普通に考えれば、勝負にならない。

 

「こっちはロボだろ? 大砲とかミサイルとか積んでないのか?」

 

「ない! 試作品だし。そんなもの使うのなら、最初からロボットゴリラなんか使わん!」

 

「トホホだな……。おい、アサシン! 後で王様にビンタでも説教でも頼んでやるから、何とかしろ! いや、してください!」

 

 そして。

 ロボットと怪獣の対決は始まってしまった。

 

 メカニコングはまるで生きた動物のような俊敏さで動き回り、バラゴンを殴りつけていく。

 

 攻撃しては離れ、離れては攻撃。

 ヒット・アンド・ウェイ。

 

 その動きは見事の一言だった。

 

 しかし。

 

 バラゴンもその動きは俊敏である。

 さらに、メカニコングにはない尻尾があった。

 振り回されれば、嫌でも動きは牽制されてしまう。

 

「見てるほうがハラハラするが……すげえもんだな。よほどの練達者でもあんな動きはできんぜ……」

 

「無窮の武練――英雄の生きた時代に無双とまで言われるレベルまで達した武芸の技。それを発揮できるらしい……。コングは人型に近いから、応用が効くんだろうな」

 

「ほーお……。よくそんな英雄の遺品? なんか手に入れてきたもんだ」

 

「そのためのカルデア……。な……!?」

 

 今度は、ウェイバーが叫んだ。

 

 バラゴンが、口から赤いブレスを吐き出したからである。

 それは炎というよりも、赤い熱線に近いものだった。

 

「あいつもゴジラ並か!?」

 

 山に火を放っていくブレスを見ながら、雁夜が頭を抱えた。

 

「――いや、ゴジラほどの高出力はなさそうだ。コングの装甲ならけっこう耐えられるはず……」

 

「っとによお……。まあ、街一つ吹っ飛ばすようなのを吐く怪獣が何匹もいたらたまらんけどさ」

 

 その厄介なブレスに対して――

 アサシンの駆るメカニコングは巧みに回避していった。

 むしろ、吐き出した瞬間を狙って、カウンター気味に攻撃を放っていく。

 

 そして。

 

 バラゴンの上の飛び乗ると、その突き出した角を掴み、引き抜いた。

 

「おお!?」

 

「やった!?」

 

 男たち二人は意図せぬまま同時に叫ぶ。

 

 

 ギャオオオオオオオオオ……!!

 

 

 思わぬ攻撃だったのかもしれない。

 

 バラゴンはひるみ、大きく後退した。

 

 そこに、角をつかんだメカニコングが飛びかかり――

 

 角をバラゴンの片目に突き刺した。

 凶器は深々と怪獣をえぐったが、即死の一撃とはならない。

 

 バラゴンは狂ったように暴れてメカニコングを振り払うと、自分が掘り返した土の中へ移動していく。

 必死になっているのは誰でもわかった。

 逃がすまいと、メカニコングはその尻尾を掴んだ。

 

 が。

 

 激しい綱引きを繰り返し後、尻尾はちぎれた。

 

 まるでトカゲのように――

 地面を掘り返して、再びバラゴンは土中へと消えていった。

 

「逃げられた……!」

 

 ウェイバーが苦い顔でつぶやく。

 

「傷が治るまでの時間は稼げたが……あいつらの回復力は並じゃない。そこまで猶予はないはずだ」

 

「片目がつぶれ、尻尾も一部なくなってるのにか?」

 

「……ああ、腕のなくなっても再生している例もある。大型ほど、その生命力は顕著なんだ」

 

「羨ましいね……」

 

 バラゴンが逃げた後も、ブレスによって起こされた山火事が徐々に広がりつつあった。

 

「……アサシン、お疲れのところ悪いが、後始末だ。完全とは言わんけど火を消してくれ。できるだけでいい……」

 

 雁夜がため息を吐くのと一緒に、あちこちで消防車のサイレンがうるさく鳴り響く。

 様々なヘリも上空を飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<――た、たった今現場から、映像……>

 

<こちら、現場の**です! ただ今、**郊外近くで新種タイタン……ガイラに特生自衛隊のメーサータンクが攻撃を仕掛けております! 攻撃は、効いてはおりますが決定打とはなっておらず……うわああああああああ!!>

 

 また、画面が消えた。

 

「あんな巨人まで存在するとは……」

 

 テレビを見ていたセイバーは驚きながらも、目を離さない。

 

「カルデア情報だと……。別のやつが来たみたいね? なんか、ガイラを助けてるみたい」

 

 イリヤは言いながら、空間に浮かんだデバイスを操作する。

 と、大型テレビの画面が、ネットにそれに切り替わった。

 

「……これは」

 

「人間に似たタイタンなんて初めてみたな……。けっこう知能もあるのかな?」

 

 紅茶をいれていたアーチャーは声を出す。

 士郎は腕を組んで思案顔だ。

 

 ガイラを、似たようなタイタンがかばっている。

 

 そう。

 かばっているのだ。

 

「やめてくれ!」

 

 そう懇願するようにメーサータンクへ手を振り回しているが、反撃しようという様子はない。

 

「……多分、同族、いえ、兄弟かしらね? それを助けに来たんだわ。でも、なぜ攻撃しないの?」

 

「……わかりませんが、あの巨人には人間への敵意がないようです」

 

 言ってから、セイバーはチラリとイリヤを見た。

 

「なに?」

 

「いえ。ただ、なにか……」

 

「なにか、なに? あなたのスキルに、直感があったわ。なんでもいいから、聞かせてちょうだい」

 

「――わかりました。その、マスター、あなたとあのタイタンたちに、どこか似たものを感じたのです」

 

「……! そうか、そういうことね」

 

 セイバーの言葉に、イリヤはハッとしてコタツから立ち上がった。

 

「あのタイタンは、人間の手が加えられてる。いいえ、人間が造ったものよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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