「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」 作:らくべえ09
五年前。
サンフランシスコへ上陸して、破壊の限りを尽くした
ゴジラ。
米軍の攻撃を受けながらも、再生を繰り返して暴れ狂った。
この怪物に対して、2度の核攻撃が行われている。
1度目は、戦術核。
場所は、太平洋の無人島。
広島型原爆の半分の威力とされるものを、誘い出したゴジラへと放った。
その直撃を受けて、ゴジラは姿を消した。
だが、十分な追跡調査はできずに終わっている。
なぜなら、まき散らされた放射性物質を求めて、大小のタイタンが周辺に集まってきたからだ。
中には、新発見のものも多数確認された。
しかし。
ゴジラは再度出現している。
それが別個体なのか、同一個体なのかはまだ未確認であるが――
サイズが、異なっていた。
サンフランシスコを襲ったゴジラは50メートルクラスだった。
しかし、そのゴジラははるかに巨大になっていた。
その大きさは、およそ80メートルクラス。
ゴムのようにただ上へ伸ばすのではない。
全体がそれにあわせてスケールアップしているのだ。
破壊力も、凄まじい差があった。
吐き出す放射熱線も変化していた。
以前は、圧倒的な威力ながら、連射はできなかった。
しかし80メートルのゴジラは熱線の威力を制御できたのだ。
以前のような最大火力のものから、まるで銃のように連射可能ならものまで。
さらには、全身からエネルギーを放射させて、周辺を吹き飛ばす。
そんなアニメチックな能力まで見せるようになった。
脅威はより大きくなってしまったのである。
それから。
反対意見を押し切って、2度目の核攻撃が実施された。
太平洋の広大な海上で水爆を使用。
結果は、やはり不明。
後に大量発生したタイタンのせいで、調査はまともにできなかった。
いや、むしろ。
爆心地を中心に海はタイタンだらけとなってしまった。
このため、多くの海路が使えなくなり、多数の物理的なものにプラスして経済的な被害をもたらす。
当然資源の輸出・輸入に大きな制限ができてしまったのだ。
これに対処するため、大型のVTOL機が設計・開発された。
その原型は、衛宮イリヤスフィールが雛形を設計した新型のVTOL機である。
イリヤスフィールは軽自動車ほどの試作機を作り、空を自在に飛行させることで世間を驚かせている。
彼女を評してあるエンジニアは、
「彼女は科学者とかエンジニアというよりも、錬金術師か魔法使いだ」
という言葉を残している。
後にカルデアは、タイタン災害に対処するための、あるいは要人用の移動シェルターとしてのものを、イリヤスフィールに依頼した。
彼女がその基本設計を作った後、専用の開発チームが変更を加えながら完成させたVTOL機。
正式名称――フィニス・カルデア監部付実験航空隊都市防衛移動要塞T-1号 MAIN SKY BATTLE TANK。
通称はスーパーXと呼ばれるものだった。
イリヤスフィールは、その名前を聞いて、
「なんてダサい名前!!」
と、叫んだとか。
このスーパーXをベースとして、民間用の大型輸送用VTOL機が開発・量産され、大型タンカーの穴を埋めることとなった。
海のタイタンで特に猛威となったのが――
まるで東洋の龍そのものの姿をしたタイタン・マンダだった。
マンダは世界中の海を荒らしまわり、さらには港を中心とした陸地まで侵攻してきた。
そして。
マンダの脅威を取り去ったのは、皮肉にも人類の力ではない。
再び姿を見せたゴジラ。
そのサイズは、80メートルから100メートルを超えるものとなっていた。
おそらく、2体の戦いは縄張り争いだったのだろう。
場所を変えながら激しい戦闘を繰り広げた後、マンダはゴジラによって倒され、海底へと沈んでいった。
マンダとの戦闘以後。
ゴジラの動向はわかっていない。
だが、タイタン全体の活動範囲はどんどん広がっている……。
「見えた!!」
ヘリの中から、士郎が叫んだ。
山の木々を薙ぎ倒しながら――
茶色と緑の巨人が取っ組み合っている。
吠えながら。
追いかけ、追われながら。
サンダは悲痛な声を出しながら、ガイラへの攻撃を続けている。
それは、まるで自分自身の痛めつけているようでもあった。
ガイラを叩き、打った分だけサンダは痛みを感じているようだった。
「――」
イリヤは目を閉じて、ゆっくりと感覚を広げていった。
――やっぱり。
どこか、共通したものがある。
サンダとガイラから、ホムンクルスと近しい気配があるのだ。
だから、何となく2体の性質が見て取れた。
サンダは、人に近しい。
知性も、感情も
だがガイラは悪……悪と言うよりは獣のそれに近い。
当り前のように、とらえやすい獲物を狙い、襲う。
危険な敵は避けるのだ。
ある学者がこんなことを言っている。
「野生は極力リスクを冒さない」
と。
過酷な環境においては、容易い手段があるならとらない理由などないのだ。
そして、それは戦闘の差にも見て取れた。
「セイバー、あなたからどう見える?」
「……そうですね」
翠眼の騎士は、ジッと戦う巨人たちを観察しながら、
「サンダのほうに殺意はない。いや、薄いようです。しかし……ガイラはただ本能的に暴れている。しかし、本能のままに暴れているガイラをサンダはある程度制しているようですね。これは推測ですが、ガイラのほうは自分と同等以上のものと戦った経験が少ないのでしょう。しかし、サンダは強い敵と何度も戦ってきた経験値がある。本気で殺す気なら、サンダはもっと容易に勝てているかと――」
セイバーの意見は当たっていた。
サンダは山の中で多くのタイタンと戦い、これを倒してきている。
ガイラもそのような経験はあるが、むしろ弱く捕えやすい獲物を捕食してきた。
元々資質が同等であっただけに、その点は大きかったのだ。
「スライムだけ倒しても、強くは強くはなれないってことね」
イリヤは軽く肩をすくめた後、士郎とアーチャーを見て、
「もうすぐカルデアのマスターがランサーと一緒に到着するわ。アーチャーとランサーはサポートに回って。できるだけ2体をまとめておいてほしい。そして、セイバー……魔力をフルで送るわ。一気に、サンダとガイラを消し飛ばしなさい」
「――はい」
最優のサーヴァントは、真摯な表情で応えた。
「……下手に生きていても、モルモットか標本にされるだけよ」
イリヤの言葉は、自分自身に言い聞かせているようだった。
「来ました」
今までヘリを操縦していたパイロット、久宇舞弥が少しだけ振り向く。
「カルデアから連絡が来ました――ランサーとそのマスターが到着したようです」
イリヤたちが外を見ると、小型のVTOL機が見えている。
そこから、青い人影が地上へと降り立っていった。
「ランサー」
セイバーが言った。
そして、立ち上がる。
同時にヘリのドアが開かれた。
「アーチャー、頼む……」
士郎はそっとイリヤの肩に手を置きながら、サーヴァントに言った。
「――わかった」
アーチャーは毒舌を吐くこともなく、静かにうなずく。
そして。
サーヴァントたちは、ヘリから飛び降りていった。
人間なら、パラシュートでもなければ自殺行為だが、英霊たちは容易に着地して、巨獣たちへと走っていく。
セイバー。
ランサー。
アーチャー。
3騎士とされるサーヴァントがここに集結したことになる。
「よお、初めて会うな」
ランサーは走りながら、セイバーたちへ笑いかけた。
どこか獣を思わせる野性味と、どこか洗練された気品のようなものが感じられる笑み。
「本当だったら、
「怪物退治では不満かね?」
若干からかうようにアーチャーは言う。
「不満はないさ。命のやり取り、戦いに変わりはないからな。マスターも、まあガキだがいい女になれる素養はある。うん。わりかし良い待遇かもしれねえや。ちょいと忙しいがな」
「役割はわかっているな?」
「ああ、俺とお前が引っ掻き回す。で、そっちのセイバーがとどめだ」
ランサーの視線を受けて、
「ではお手並みを拝見しよう」
と、セイバーは別方向へと走っていく。
「巻き添えを食らうなよ?」
そう言い残して。
「ぬかせ。ランサーの敏捷をなめるなよ。その心配は、赤いアーチャーに言うんだな」
「こっちも心配は無用――」
アーチャーも応え、双剣を手にした。
「お前、弓兵のくせに剣を使うのか?」
「弓兵にも色々ある。砲を撃つ者もいれば、宝具を雨のように飛ばす者。中には私のような変わり者もいるのだよ」
「へっ。そりゃゾッとしねえな!」
わずかな驚きと共に、ランサーが笑う。
しかし。その直後。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオ………!!
サンダとガイラではない、別の何かが吠えた。
しかも、上空で。
「なに!?」
「おいおい!」
サーヴァントたちは予想外の事態に一瞬目を見開いた。
夜の空。
そこに、赤い飛竜が翼をはためかせサンダたちに迫っていた。
全長は、20メートル近い。
「リオレウス!?」
飛竜を確認したイリヤが、紅い瞳を見開いた。
タイタンの中でも、広い地域で確認されている飛翔型タイタン。
まさに
高熱のブレスを吐き出し、長い尾や爪には毒を持つ。
個体によっては、最新鋭の戦闘機でも不覚をとることがある。
しかし、まだ日本では確認されていなかった。
「なんでこんなところに!?」
士郎が叫ぶと、
「ひとまず、退避します。このヘリではタイタン相手に十分な防御も迎撃もできません!!」
舞弥が叫んで、ヘリを反転させる。
「気をつけて……! リオレウスがいるってことは……もしかすると!!」
そうイリヤが叫んだ時だった。
カルデアのVTOL機が炎の直撃を受けた。
「あっ……!」
リオレウスのブレスではなかった。
空には、もう1体……
「やっぱり……!?」
座席にしがみつきながら、揺れるヘリの中でイリヤが息をのむ。
リオレイア。
リオレウスと対を成す雌の火竜。
一方で、炎上するVTOL機から、乗組員たちが脱出し始めていた。
パラシュートで、次々に脱出していく。
それを狙って、リオレウスが巨大な牙をむき出して、迫った。
「……あ!!」
落下中だった立香は、目前に迫る赤い怪物に対して思わず目を閉じる。
万事休す。
が、リオレウスは途中で勢いを失い、自分のほうが落下していった。
立香に向かい、地上から青い影が飛ぶ。
「ランサー!」
「マスターに死なれちゃかなわんからな!」
ランサーは自らのマスターを抱いたまま、地上に自由落下。
「……
アーチャーはそうつぶやいた後、双剣を消して弓を構える。
事態は、それで終わっていなかった。
〝夫〟を殺されたリオレイアは怒り、ランサーを狙って突進していく。
そこへ――
アーチャーの放った矢が、リオレイアの片目に突き刺さった。
ひるんだ雌火竜は叫びをあげて空中でのけぞり、地上へ落下した。
だが、リオレイアは片目を失っただけで死んではない。
むしろ手傷を負った分凶暴性を増し、あたりかまわずブレスを吐き散らした。
燃え上がる炎に、サンダとガイラが戦いを中断した。
両者ともに困惑した様子で、暴れるリオレイアを見ている。
「なんということだ……!」
念話でイリヤの無事を確認しながら、セイバーはつぶやく。
想定外どころではない。
いきなり、2体の火竜に乱入してくるとは。
その瞬間。
セイバーの直感を危険をしらせた。
何かが、死角からセイバーに襲いかかる。
――鞭!? いや、蛇?!
不可視の攻撃に、回避しながらセイバーは思考を巡らせる。
動いてた。
姿は、まったく見えない。
しかしわずな音や気配。臭い。肌に感じるもの。
静寂とは言い難い環境下でも、セイバーは正確かつ精密にそれをとらえていく。
「……はああ!!」
気合を込めて、襲撃の攻撃をかわし、さらには一撃を与えた。
悲鳴が上がった。
どさり、と。
セイバーの足元に、何かが落ちる。
――角?
どうやら、角らしきその欠片は襲撃者のものらしい。
そして、半透明になった姿が見て取れた。
紫の、カメレオンに似た翼を持った怪物。
――オオナズチ! ステルス能力を持った厄介なタイタンよ! でも、弱点を破壊したのは良かったわ。これで完全な透明化はできない!!
視界を共有したイリヤが念話で言った。
「……まずは、こいつを倒さねばならないか」
見えざる剣を構えて、セイバーは少しだけ笑った。
振動がする。
霊峰・富士山であった。
その
備え付けられるあらゆる機器が、異常を感知していた。
富士樹海の地下深く。
そこは凍てついた天然の墓所のようになっていた。
巨大な氷穴。
広大な空間の中で、何かが動き出す。
ゆっくりと。
徐々に電光を放ちながら、地上に向かって進んでいった。
基地の人間があわてて避難を開始する中で、それを嘲るように地上へと躍り出た巨大な生き物は、何かに惹かれるように高速で移動を開始した。
長い尾の先端には刃物のような棘がある。
頭部には三日月に似た複数の角。
古代の鎧竜、あるいはヤマアラシのような
黄金に輝く表皮。
護国聖獣伝記。
その書物には、3体の聖獣、あるいは怪物――それともまつろわぬ神か。
ともかく、異形の存在について記されている。
東北の
富士の
九州の
富士地下に眠っていた
「ありゃまー」
ネットで情報を見ていた桜は、のんきな声を上げる。
山中で暴れているサンダとガイラ。
地中に消えたバラゴン。
それに続いて、富士山地下より新たなるタイタンの出現。
その名前は、アンギラス。
アンギラスはひたすらに西へ、西へと進んでいるようだった。
「ふーん……。これで2体。ってことは……」
顎に指をあてて、桜は首をかしげた。
「東北のも、そろそろ起きるのかな?」
どこか、懐かしむような顔で桜は言った。
東北地方。北上川上流・岩屋。
昭和30年代初頭には、日本のチベットなどと呼ばれていた土地である。
時代が下ってから、過疎が一気に進み半ば廃村となっている。
人口の少なさと様々な条件から、原子力発電所が建設されていた。
〝いた〟。
過去形である。
老朽化に伴い、10年前から解体の計画が進められていたのだ。
桜が8歳の頃――
ある事情から、桜は幻海と共に岩屋村跡に訪れていた。
その時、桜は一つ年上の少年と会っている。
間桐の養子であり続けたなら、兄になっていたであろう人物。
後から聞いた話では。
運転の停止した原発周辺で、怪奇現象としか言えないことが度々起こっていた。
現場で幻海が目撃したのは地面に半分以上沈んだ原発だったという。
だが、そんな惨状でありながら周辺で検知される放射性物質は通常よりもむしろ少なかった。
施設が半壊し、炉心が消えているにも関わらず。
そして。
あの晩、桜はそれを見ている。
夜。
地下から、上半身を突き出して月に唸るもの。
棘状のたてがみが、頭から尻尾まではえていた。
銀色をした巨大な生物だった。
カルデアの見解では、学名はタイタヌス・バラノポーダ。
通称は、バラン。
バランは、その時まだまどろみの中にいた。
起き上がってきたのも、一時的に目を覚ましただけに過ぎなかったようだ。
退屈そうに周辺を
「いやー、懐かしいなあ……」
桜はクスリと笑う。
「あ、あのサクラ?」
名前で呼ぶように言われているライダーは、少し困惑した顔で言う。
「さっきから、なぜ私のおしりを触っているのですか……?」
太平洋――
そこから、巨大なモノが高速でハワイへと向かっていた。
途中で近づく船を国や種類の区別なく、無差別に破壊しながら。
これだけ派手にやっているのだから、発見されないわけはない。
ないのだが。
確かな存在のデータを示しながら、まるで幽霊のように監視の目から逃げきっている。
不意に姿を現し、破壊を行ってから消え去る。
カルデアのみならず、様々な組織がそれを追うが、足取りはまるでつかめない。
そして。
レーダーや衛星の目をかいくぐって、ハワイへと上陸した。
巨体。
体長は100メートル近くあった。
真っ黒な表皮。
特徴的な背びれ。
そして、咆哮。
目撃者は、一様にその姿に対してこう言っている。
「
姿は、確かに以前に出現したゴジラと酷似していた。
ただ決定的に違うの部分が一つある。
その眼には瞳がなく白く濁った眼球があるだけということである。