「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」   作:らくべえ09

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正月明けに風邪気味となり、更新が不安でしたが今回も何とかなりました。
感想をくださる皆さんのおかげです。感謝。






五章  遠坂凛 バーサーカー召喚を決意すること

 

 

 

 

 

「ゴジラだと……!?」

 

 ハワイへのゴジラ上陸。

 連絡を受けたケイネスは、すぐにカルデアの基地に出向いていた。

 あらゆるメディアで、現地の情報が送られてくる。

 

 その中でも映像は――

 

 ホノルルを放射熱線で焼き払っていく黒い怪物の姿を克明に映している。

 

 ――妙な……?

 

 ケイネスは、ゴジラの動向を観察しながら違和感をおぼえた。

 かつて出現したゴジラからも、強い敵意や怒り……そういう感情がみえていた。

 しかし、それは生物としては自然なものである。

 

 なのにこのゴジラからは、何か怨みや憎悪というものが強く感じられるのだ。

 まるで、人間の怨霊のように。

 

 米軍が街への被害をなかば無視した攻撃も、まるで受け付けない。

 どれだけ銃弾やミサイルを受けようが、ダメージらしきものが皆無なのである。

 

 ――どういうことだ?

 

 確かにゴジラは頑強で不死身のように思われた。

 しかし、それは受けた傷が凄まじい速度で再生し、攻撃に対する順応が並外れているからだ。

 

 だが、このゴジラはダメージそのものがない。 

 ゼロなのだ。

 

 これではまるで――

 

「日本より連絡! ベルベット氏からです!」

 

<……今、ハワイの状況から分析していたんですが……あのゴジラはタイタン、いや、生物じゃありません! サーヴァントです!!>

 

 その通信に、周りはざわめく。

 

「サーヴァント!?」

 

「あれが……!?」

 

「いや、しかしそうなら火器が通じないのもわかるが……」

 

「落ち着きたまえ。すぐに現地でそっち方面を想定してデータを送らせろ。そして、冬木のサーヴァントの状況は? まだバーサーカーが残っていたはずだが」

 

 ケイネスは感情を抑えた声で指示を飛ばす。

 

「……冬木から連絡! やはりまだバーサーカーは召喚されていません!!」

 

「じゃあ、あいつは誰がどうやって……!」

 

 あわてるスタッフたちのつぶやきを聞き流しながら、

 

 ――やはり黒の聖杯か……。

 

 ケイネスは自分の予想がおそらく当たっていることを確信しながら、苦い顔となった。

 しばし彼は沈思していたが、

 

「第72基地へ連絡を入れてくれ」

 

「72……まさか、〝ガイガン〟を!?」

 

 指示された通信士は驚いた顔で振り返る。

 

「当然、あのままではあいつに対抗するのは難しかろう。なので、サーヴァントにはサーヴァントだ」

 

「では……デミ・サーヴァント……を」

 

「まさか、モンスターでこの技術を使うとは思わなかったがね」

 

「しかし……召喚するにしても、聖杯は……赤の聖杯を使うわけにも」

 

「当然向こうは譲ってなどくれまいね。長い時間と魔力、資金をかけたものを誰が渡すものか」

 

「では、どうやって……」

 

「少々危険な賭けだが、青の聖杯を使うしかあるまい」

 

「ロード・エルメロイ……! あれはまだ未完成では」

 

「確かにあれで召喚してもサーヴァントの質は劣るだろうな、確実に。しかし、背に腹は代えられないのだよ」

 

 ケイネスはわずかに苦笑を漏らして、飛行場へと向かって歩き出した。

 

 その途中。

 

 ケイネスの横に、赤い服の少女が並んだ。

 

「何の用かね、リン・トーサカ。助手を頼んだ覚えはないのだが?」

 

「ロード。デミ・サーヴァント、私にやらせてください」

 

「なんだと?」

 

「未完成の聖杯よりも、冬木の聖杯で呼び出したサーヴァントのほうが、より安定してスペックも高い。それはロードもおわかりでしょう?」

 

「……」

 

「遠坂の家を継ぐものとして、聖杯戦争にはかかわる義務と責任があります」

 

「今回、まともな魔術儀式などもはや期待できんぞ」

 

「わかっています。だからこそ――」

 

 言って、凛は手の甲に刻まれた令呪を見せた。

 

「……いいだろう。ただし、デミ・サーヴァントは青の聖杯のサポートを受けさせる。さらにカルデアからの命令に従って、サーヴァント・ゴジラの排除を最優先とする。それが条件だ」

 

「青の聖杯……それじゃあ」

 

「君が優秀な魔術師であることは認めている。だが、それでもガイガンを用いたデミ・サーヴァントは個人の魔力量で補えるものではない。未完成の聖杯ではあるが、魔力供給のシステムとするなら折り紙付きとなる」

 

「わかりました」

 

 そして。

 

 青と赤の魔術師二人は、高速機で72基地へと向かい飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

「はああっ!!」

 

 裂帛の気合。

 澄んだ声がそれを放ち、紫のタイタンを切り裂き絶命させた。

 

 完全に死亡すると半透明だった肉体はハッキリと姿を現す。

 それにわずかな一瞥を送り、セイバーは周囲を見た。

 

 雌火竜リオレイアは怒りに狂いながらアーチャーを追い回し、ブレスを吐き散らしていた。

 すでにあちこちで炎が上がっている。

 

 アーチャーは巧みに攻撃をいなしながら、荒れ狂う火竜と対峙していた。

 ランサーはマスターを抱えながら、走っていた。

 

「ったく、これじゃあの巨人をどうこうする暇もないぜ!? 下手すりゃマスターもまる焼けだ!!」

 

「なんでこうなるの!!?」

 

 ランサーにしがみつきながら、立香は叫ぶ。

 

「さあな!? 運命をつかさどる女神様にもでも聞いてくれ!!」

 

 

 人間側が混乱している中、サンダとガイラも混乱していた。

 

 いきなりの乱入者の連続。

 

 サンダはあわてたせいか、ガイラへの注意がおろそかになった。

 その隙をついて、ガイラはサンダを振りほどいて走り出す。

 サンダが吠えて追おうとした時だった。

 

 突然山中から炎が噴き出す。

 紫の、どこか死を連想させる不気味な炎。

 それにともなって、四つ足の巨大な獣がガイラに襲いかかった。

 

 不意を突かれたガイラはもがくが、炎をまとう敵の牙や爪が凄まじい。

 焼かれて裂かれ、牙をつきたてられてガイラは悲鳴を上げる。

 

 

「ま、マガイマガド……!!」

 

 上空から新たなタイタンを見たイリヤは、声を震わせた。

 

 その全長はサンダ・ガイラと同等の20メートルクラス。

 だが、特殊な炎を武器とするその怪物は……。

 

 ――まずいのが出たわ……! 特自ができる前に、自衛隊が総力でやっと倒した危険なやつよ。飛行能力はなくってもリオレウス以上に危険視されてる!!

 

 ――あの、火竜以上に?

 

 セイバーはイリヤの念話を受け、マガイマガドの熱と殺意をチリチリと感じながら、剣を握りなおす。

 そして。

 

「……!?」

 

 山……いや、大地全体が蠢動しているのを察知した。

 地震などではない。

 

 無数の生物の気配。

 

 それがあちこちで感じ取れるのだ。

 燃える木々の間から、イズチが群れとなって走ってきた。

 セイバーを狙ったのではなく、炎やマガイマガドから逃げている。

 中には、オサイズチの姿もあった。

 

 タイタンたちは何か感じて、それぞれが反応して、行動しているのだ。

 あるものは逃げ出し、あるものは興奮から周辺の異種を敵とみなして攻撃する。

 

 

「イリヤスフィール! これはあまりにも想定を超えています! ここはいったん退避を!!」

 

「……そうね」

 

 舞弥の進言に、イリヤは素直に同意する。

 

「けど、カルデアのマスターは!?」

 

「スピードに長けたランサーが一緒なのよ。うまく逃げるわ」

 

 士郎の意見に、イリヤは冷静に返す。

 

 ――セイバー、ここは引きなさい! こんな乱戦状態じゃこっちまでやられかねない!

 

 ――わかりました。

 

「……おい、アーチャー! ここは逃げろ!」

 

「士郎、いちいち声に出さないで……念話のやりかたは教えたでしょ?」

 

「あ、うん。ごめん」

 

 イリヤのツッコミを受けつつ、士郎はアーチャーに伝えた。

 

 ――アーチャー! 撤退だ!

 

 ――……ならば、お前たちはさっさといけ。

 

 ――いけって……。

 

 ――このまま逃げれば怪物どもは追ってくるぞ。他にも出てくるかもしれん。こっちは引き付ける。

 

 ――でも、お前……。

 

 ――忘れたか、未熟者。私はサーヴァントだ。山火事などでは死なん。それよりも自分や家族を優先しろ! 面倒だが、殿(しんがり)はつとめてやる。

 

 ――……わかった。無理するなよ。

 

 ――ふん。

 

 そこで念話を一方的に切ると、アーチャーはニヤリと笑い双剣を持つ。

 

 

 

 

 

 

「またゴジラが出たって?」

 

 雁夜は心底嫌そうな顔で、ウェイバーは振り向いた。

 

「ああ……」

 

 タブレットを置いたウェイバーは、10年でめっきり老けた顔へ、さらに疲れた表情を浮かべた。

 

「しかも、出たのは生物……タイタンじゃない。サーヴァントだ。ハワイで放射性物質をまき散らしながら、暴れてる」

 

「おいおい……最悪じゃねえか」

 

「もう、秘匿もなにもあったもんじゃない……。いまやあの怪物を知らない人間なんて赤ん坊くらいだ。知名度も凄まじいだろうな……」

 

「それで……? どうするんですかね」

 

「カルデアで対処するしかないだろうなあ……。どれだけ規格外で以上でも、サーヴァントだ。神秘を伴わない攻撃は無効だろう。つまり、科学的な兵器じゃ足止めも難しい」

 

「……厄介だねえ。しかし、サーヴァントならマスターが魔力を供給するんだろう? なら、あんなもん維持できるのか?」

 

「……ハワイで大規模な魂喰いをしたのが確認された。それに、黒の聖杯で召喚したのなら、聖杯自体が魔力を供給するシステムになってるはずだ。元から、タイタンに対抗する英霊を呼ぶのが目的だったんだから――」

 

「ただで働いてくれるのを呼び出す前提だったってわけか。なるほどねえ……」

 

「けど、召喚されたのはとんでもない反英霊……大怪物だ」

 

「なんぞいい手はないんですかね、先生?」

 

「サーヴァントには、サーヴァント。それが定石だが……並の英霊じゃ返り討ちだ。逆にあいつの餌にされかねない」

 

「困ったねえ……」

 

「……じゃあ、次の場所へ移動するから準備してくれ」

 

「へいへい。お次は?」

 

「――中国だ」

 

「中国? ゴジラはどーするんだよ」

 

「現状あれに対して僕らができることは少ない。アサシンもな」

 

「まあ、あのでかいの相手じゃあちょっとねえ……」

 

 雁夜は苦笑するしかない。

 

「以前から調査研究してた、遺跡がある。もしかすると、ゴジラ対策に使えるか、ダメでもヒントになるかもしれない」

 

「ふーん」

 

「ふーん、じゃない。あんたも今回は重要なんだ。あんたの使う流派の、源流が関わってるらしいからな」

 

「――なに?」

 

 そこで、雁夜の表情は変わった。

 

「臨獣拳……。いや、獣拳か?」

 

「多分ね。巨大な、一角獣の遺跡がある。いや、ユニコーンじゃない。どっちかいうと、動物のサイに近いらしい」

 

 ――サイ?

 

 その言葉に、雁夜は以前に師から聞いたあることも思い出した。

 獣拳そのものの始祖は、サイの動きと力を模した白犀拳という拳法を使っていたと。

 

 ――今風に言うなら、激獣ライノサラス拳か……。

 

 

 

 

 

 

 

 ホノルルを焦熱地獄へと変えたゴジラは行く先々を破壊しながらやがて海に消えた。

 明らかに人間を標的にした攻撃は、短時間ながら膨大な死傷者を出す。

 途中で米軍の総攻撃を受けながらも、ゴジラはまるで動じることなく――

 その事件は、世界を震撼させてよりゴジラの名前を広めることとなった。

 

 ゲリラ戦などではない、真正面からの戦い。

 

 それで惨敗を喫した。

 サンフランシスコ以来のトラウマが、アメリカを襲ったわけだ。

 アメリカは総力を挙げ、他国やカルデアへも恫喝とさえとれる協力要請を飛ばして、ゴジラの行方を追った。

 

 しかし。

 

 どれだけの人員やテクノロジーを駆使ししても、ゴジラの行方は知れないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 サンダとガイラ。

 2体の行方は結局不明となってしまった。

 

 他にも、多数のタイタンが出現しており、特自はその対処に追われている。

 それは日本だけのことではなかった。

 太平洋のあちこちで、多数のタイタンが確認されている。

 

 過去に、ゴジラへの核攻撃がなさられて以来のことだった。

 

「おそらく、ハワイに出たゴジラ……いえ、サーヴァントの影響ね。本能的に逃げたり、迎撃しようとしているのよ――」

 

 カルデアの日本施設のうち、冬木周辺の基地。

 そこにイリヤたちは集まっていた。

 イリヤは後ろの大型スクリーンに映るタイタンたちの姿を指しながら、

 

「ハワイからの移動……いえ、被害を見るに確実に日本へやってくるわ」

 

「それは、マスターの指示によるものかね?」

 

 アーチャーは紅茶をいれながら、意見を述べる。

 

「そう。やつもサーヴァントだったらマスターがいるはず。でも、その制御下にあるかはわからない。あの様子からして、どう分析したってまともなサーヴァントじゃないもの。むしろ、暴走させている現状こそが目的かもしれない」

 

「けど……そんな状態だったら、マスターもただではすまないはず……」

 

 青い顔で立香が言った。

 

「うん。そう。カルデアの情報では、あれは冬木とは別に造られた黒の聖杯で召喚されたものらしいわ。本来は対タイタンのために使う予定だった。それを奪ったやつがあんなのを呼び出した、みたいね――」

 

「なんという無茶な……」

 

 セイバーは苦い顔で、

 

「まともな思考の持ち主ではなさそうですね」

 

「ええ。多分、自己保身をまったく考えてないタイプ。そんなのが考える野心とか野望なんて、大量破壊と相場は決まってるわ」

 

「まいったな……」

 

 ランサーが出された茶菓子のビスケットをかじりながら、ため息。

 

「怪物退治は英雄の条件……とはいえ、あんなのは神話の時代でもどれだけいるかわからねえ。ふぬけたこたぁ言いたくないが、まともなやり合いじゃ自信がもてねえな?」

 

「なら、計略や罠を使うしかないわね。だいたい、英雄だってそれなりの策や罠を使って怪物を退治してるじゃない。日本の神話でも、荒ぶる神が罠を使って災害龍を退治してるもの」

 

 イリヤは腰に手を当てて、ふんすと鼻息。

 

「けど、あんなのにどんな罠を使うっていうんだ?」

 

 もっともなランサーの意見。

 

「そんなものないわよ」

 

 

「「「「はあ!?」」」」

 

 

 あっさり、開き直ったようなことを言うイリヤに、一同はあきれた視線。

 

「罠というより、あいつの性質を利用させてもらうの。あいつは、その瘴気のせいでタイタンたちを嫌でも刺激するわ。いえ、瘴気というかある種の波動、気配、表現は色々ね。けど、あいつは悪意の塊、巨大な怨霊みたいなもの。でも、それゆえにいくらでも敵を勝手に増やしちゃうの。でも、そのままじゃこっちの思うような効果は得られない。だから、その波動を増幅させる。そして、あいつのことを宣伝してやるのよ、他のタイタンたちにね」

 

「おいおい……」

 

「つまり、ゴジラに他のタイタンをぶつけるつもりか?」

 

 ランサーは呆れ、アーチャーは尋ねた。

 

「そ。カルデアが誘導してやれば、うまくできるわ。あんなのがドタバタしてれば、嫌でも休眠中の大型タイタンは目を覚ます」

 

「夷を以て夷を制す――ということですか」

 

「そんなにうまくいくかなあ?」

 

 立香は不安そうであり、セイバーも難しい顔だった。

 

「怪獣対策に怪獣をぶつけるって……」

 

「バカバカしいけど、これが一番てっとりばやくできる対処方法。今のところは」

 

 士郎の言葉に、イリヤは肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ロード・エルメロイは、ガイガンの使用を決定したようだ」

 

「……」

 

「対タイタン、いや、対ゴジラ兵器。ついに、あれを使う時も来るかもしれない」

 

「ガイガンがゴジラを倒すという可能性もあるのでは?」

 

「そうなれば万々歳だが……いかなる時も備えはしておかねばならん」

 

「……」

 

「怪物には怪物だ。それも、我々の制御下にある怪物でなければならん。共闘なんぞされてはたまらんからな」

 

「で、それを誰が操縦するのかな?」

 

「それはもちろん、君しかいないだろう」

 

 

 キレイ・コトミネ――?

 

 

 

 カルデアの某基地内部。

 

 半分軟禁のような状態にある言峰綺礼はある男との会話を思い出していた。

 

 

「お前は、聖杯に何を願う?」

 

「――穴をあけたいんですよ」

 

「穴?」

 

「そう。大きな穴がいい。それもたくさんね」

 

「意味がわからんな」

 

「今確認できている地下世界への出入り口。それをもっとたくさん、大規模にしたいんですよ。ゴジラクラスのタイタンがどんどん地上へ進出してくる。そうなれば、もっと世界は混沌として面白くなりますよ」

 

「……現在でさえ、文明や人類そのものの維持と拮抗しているのに、これ以上タイタンがあふれれば、とんでもない事態になるが……?」

 

「わかりませんか? だから、面白いんじゃないですか」

 

「……」

 

「あなたなら、わかってくれると思うんですがね」

 

「否定はせん。だが〝現在(いま)〟の私は、他人の不幸や破滅を見たいわけではない」

 

 そうだ。

 そんなことよりも――

 

 

 敵が欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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