「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」   作:らくべえ09

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六章  イリヤスフィールとセイバーの再会の顛末、サーヴァントたち マスターの稽古を見ること

 

 

 

 

「……」

 

 セイバーは、無言でイリヤの背中を見ている。

 マスターであるイリヤスフィールは、カルデアの施設で黒のサーヴァント対策――そのための道具を作っているようだ。

 

 空中に浮かぶ文字や画面を操りながら、その視線の先には無数の機械アーム。

 科学的な部分と、魔術の部分。

 それらを合わせたものが、急ピッチで製造されている。

 

 セイバーは思い返す。

 このマスターに召喚された直後のことを。

 

「――問おう。あなたが私のマスターか?」

 

 そう言って目を開いた先にいたのは、

 

「セイバー? いえ……アーサー王なの?」

 

 美しい声でそうたずねるのは、かつて見知ったある女性とよく似た――

 似すぎている少女。

 

 ――アイリスフィール?

 

 以前の聖杯戦争で、マスターであった人物、その妻であった女性。

 

「……って、おぼえてるわけないか。あなたは、セイバー。そしてアーサー王で間違いないのかしら?」

 

 そういう銀色の美少女は、ませた顔つきで肩をすくめた。

 仕草も、どこかアイリスフィールを思わせる。

 

「はい。間違いはありません」

 

「わかった。私は、イリヤ。衛宮イリヤスフィール。あなたを召喚した、マスターになるわ」

 

「イリヤ……?」

 

「……まさか、本当におぼえてる?」

 

「……え、ええ。先の、四次の聖杯戦争で――」

 

「……!」

 

 セイバーの言葉に、イリヤは表情を変えた。

 

「じゃあ……衛宮切嗣、お母さま……アイリスフィールのことも?」

 

「はい」

 

 

 そこからは、まあ話は早かった。

 

 

「なるほどねー……。そんな感じだったんだ」

 

 セイバーから語られる四次の戦いについてイリヤは興味深そうに、時には困った顔になる。

 

「……そして、私は不覚にもランサーとの一騎打ちに敗れて、敗退したのです。彼は、戦ったことを誇るべき英雄であり戦士でしたが……。それは言い訳にはなりません」

 

「一度の戦いに完全燃焼かあ……。〝男の子〟はそういうの、好きそうだけどねえ」

 

「そうですね。どこか、彼が羨ましくもありました。それもまた、敗因の一つであったやもしれません」

 

「勝負は時の運っていうけど、そういうのってけっこう理不尽だもんね。強ければ勝てるとは限らないし、最悪のモチベやコンディションでやらないとダメなこともある。こんなことを言ってもしょうがないけど……セイバーばっかが責められることもでもないわ」

 

「それは、慰めですか?」

 

「本心のつもりだけど、嫌だった?」

 

「いえ。マスターに感謝を」

 

「イリヤ、でいいわ」

 

「では、イリヤに感謝を――」

 

「うんうん。で……こっから問題なんだけど、セイバー、あなたも聖杯で願いをかなえたいよね?」

 

「もちろんです」

 

「だよね。んー、どう言ったらいいのかな。聖杯の使用、それ自体は勝ち残るまでもなく、可能かもしれない」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「ねえセイバー? この時代の世界がどうなっているか、わかる? 聖杯が知識をくれるはずだけど」

 

「それは――……」

 

 言いかけたセイバーの流れる、この時代の情報。

 

 巨大怪獣(タイタン)

 

 神話のような怪物たちが、ごく当然の存在として出現する時代。

 

「なんという……」

 

「この冬木だって、いつタイタンに襲われるかわかったもんじゃない。わかる? のんきに魔術師同士の戦争ごっこなんかできる保証はないのよ」

 

「しかし、それでは何のために」

 

「聖杯はね……戦いで敗れたサーヴァントたちが燃料としてくべられ、完成していく。つまりを魔力を注ぎ込まれて。でもね? それ以前に魔力が聖杯に注ぎ込まれ続けたらどうなると思う?」

 

「は?」

 

「これを見て」

 

 そう言って、イリヤは手にしたタブレットを操作。

 二人の前にある映像が映し出された。

 

「これは……!」

 

 一瞬、映像だと理解してしながらセイバーは手を伸ばしそうになる。

 

 そこに映ったものは――

 3分の1、いや半分だけではあるが確かに形作られつつある黄金の杯。

 

「タイタンたちの本来の住処……地下世界から流入してくるエネルギー。それが霊脈を通じてどんどん聖杯へ流れ続けている。結果、サーヴァントが薪となる以前に聖杯が形になり始めている。異常なことよ」

 

「しかし、それでは……」

 

「ええ。戦争もなにもないでしょうね。何もしなくても、勝手に完成していくんだから。でも、形になればなったで争いは起こる」

 

 まさしく、その通りだった。

 過去にまさに同じことが起こっている。

 

「私は、ある条件をもとにこれの使用許可をカルデアから得ている。私自身は特に願うものはない。だから、権利はあなたに譲ってもいい。ただし――」

 

 赤と碧の瞳が、見つめ合った。

 

「もっとも危険視されているタイタンーーゴジラの駆除。あるいは、封印に成功した暁にはという条件があるわ」

 

「ゴジラ」

 

 セイバーは戦慄した。

 知識だけでも、その異常性と危険性はわかった。

 あの怪物をいかなる英雄、あるいは神が討伐できるのだろうかと。

 

 しかし、やらないという選択肢はない。

 

「なんなら、自己強制証明(セルフギアス・スクロール)を使ってもいいわ」

 

「――いいえ。不要です」

 

 イリヤを見返し、セイバーは言った。

 

「必ず、その怪物を討ってみせましょう」

 

 

 

 

「……ですからね! まったく切嗣ときたら――」

 

「あー、なるほどなるほど。ありそうだわー」

 

 その後。

 

「ひと息いれましょ」

 

 と、諸々のすり合わせや打ち合わせをへてから、イリヤが夜のお茶会に誘ったのだが。

 

 場はいつの間にやら酒宴となってしまっていた。

 イリヤはノンアルコールだが、セイバーはもらいものだったり、仏前への供え物だったりする酒をカパカパやっている。

 そこから、繰り出される先代マスター衛宮切嗣への、愚痴、愚痴、愚痴の嵐。

 

(あー、こりゃよっぽどストレスたまってたんだわ……)

 

 イリヤも色んな記録や、あるいは舞弥などから話は聞いていたが、

 

(まったく……キリツグったら、相当こじらせてたのね。思い返せば、思い当たるところもなくはなかったけど……)

 

 イリヤにとっては、あくまでも優しい父でしかなかった人物の、ある意味暗黒面。

 というか、黒歴史。

 それを糾弾する気もないが、かといって被害者? でもあるセイバーの前で擁護する気もなかった。

 

「うんうん、そりゃ腹がたつわよねえ。つらいわ。よしよし」

 

「ううう……私はなんのために」

 

 英霊どころか、単なる酔っ払い娘と化したセイバーは、それでもつぶれることなく酒も(さかな)も遠慮なしにいっていた。

 その用意に奔走させられるのは、弟の士郎であったが。

 

 

 

 

 

 

 

 カルデア第72基地。

 

 そこで、ケイネスは凛と共にガイガンを見上げていた。

 魔術的に興味は尽きないが、科学的にそうであるらしい。

 

 凛が忙しくしている横で、ケイネスは思い出す。

 イリヤスフィールへ魔術を教えていた時のことを。

 

 元が、アインツベルンの家で育てられていただけに、彼女にも相応の素養はあった。

 しかし、アインツベルンとしては、彼女はあくまで聖杯戦争のために用意された存在である。

 本格的な研究者としての側面は、少なくとも教育はされていなかったようだ。

 

 並行して、イリヤスフィールは秋葉 流にいわゆる、通常の勉強を教えられていた。

 これが、後に大きく影響する。

 イリヤスフィールは化学や物理、数学などの部分に大きな興味と才能をみせた。

 錬金術とつながる部分も大きかったせいだろう。

 

 そして、発覚する。

 

 奇妙なことだが――

 錬金術の結晶と言えるホムンクルスとしての出自を持つ少女が、天才的な科学者の素養を持っていたわけだ。

 魔術と科学と言う相反するものを、イリヤスフィールは矛盾なく吸収していった。

 そして、魔術の論理を科学に応用して、発展させていったのだ。

 

 さらにその才能を成長させたものが、今ケイネスの目の前にある。

 いや、〝いる〟とするべきなのか?

 

 カルデア……というよりもケイネスは、イリヤスフィールの能力を買って、何度もこの第72基地へ連れてきていた。

 ガイガンの解析協力をさせるために。

 

 死の眠りにある怪物は、半分人工物のいわゆるサイボーグ。

 未知の生物であり、未知の技術の塊でもあった。

 

 イリヤスフィールは、それをまるで子供がパズルでも楽しむように解析を続けていった。

 結果、人類全体のテクノロジーは大きく向上したわけだ。

 

 そこから、現在カルデアでは第93基地で、対タイタンのための兵器を開発している。

 今までのあらゆるタイタンとの戦い、データを(もと)にした戦闘マシーン。

 

 コードネームは、

 

 MECHA-GODZILLA。

 

 最強のタイタンを模した、ある意味科学と魔術の申し子とも言える金属の怪物。

 

 同時に、第94基地では対ゴジラ作戦用飛行型機動ロボットと称して、

 

 Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type

 

 通称MOGERAが開発されていた。

 

 日本の特生自衛隊でも、対タイタンのためロボット兵器……機龍(モビル・ドラゴン)なるものを開発しているようだ。

 それも、カルデアの息がかかっているわけだが。

 

 

 そんなケイネスはもの思いをしながらも、凛の召喚儀式から目をはなしていない。

 

「……(なんじ)三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 そして。

 念入りに準備、整備されていたガイガンの目に赤い輝きが宿った。

 全身の機械部分が発動し、光を放ちだす。

 

「……やった!!」

 

「ふむ……。デミ・サーヴァントは成功したようだな。多少細かい調整はいるが、戦力として問題はなかろう」

 

 歓喜の声をあげる凛にうなずきながら、ケイネスはわずかに緊張を解く。

 

「だが、喜んでばかりもいられん。これを操って、問題のサーヴァント……いや、ゴーストというべきか? ゴースト・ゴジラを倒さねばならない」

 

「はい……。覚悟はしています」

 

 召喚で魔力を消耗した凛は、汗をぬぐいながらケイネスを振り返った。

 

「さすがに遠坂の……と称賛したいが。正直君は優秀であり、努力も怠らない。素晴らしいとは思う。ただ……肝心なところでミスをするというか、注意が欠ける傾向があるようだ。さっきも、おおよそは素晴らしかったが、ひとつふたつ凡ミスが見られた。用心することだ」

 

「う……!」

 

「まあ、そこを補う相手なり工夫なりを見つけることをお勧めする。人間の欠点はなかなか克服が難しいからな。下手に変えるよりもうまく付き合うほうが合理的なこともあるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「どうかしたかい、先生?」

 

 中国行きの準備をおおかた終えた雁夜は、タブレットを手に硬直したウェイバーに話しかけた。

 先ほどまで、打ち合わせや情報の整理を行っていたようだが――

 急に動かなくなり、そのままになってしまった。

 

「……これを見ろ」

 

「はい?」

 

 いきなり突き出されたタブレットには、巨大な穴が開いた山岳地帯。

 細かい部分や風景から、どうやら中国ではあるらしい。

 

「なにこれ?」

 

「……中国で調査するはずだった、遺跡が消えた」

 

「はあ!?」

 

「連絡だと、勝手に動き出して地下に潜ったらしい」

 

「おいおい……それって? その遺跡、まさか生き物だったのか? 怪獣?」

 

「そんなはずはない……ないんだが」

 

 地元では、犀大王(シィダーワン)と呼ばれた遺跡の消失。

 予定はまた崩れてしまったわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、息を吐く。息を吸う。

 それに合わせて肉体に叩きこんだ型を正しく繰り返す。

 

 敏捷で美しい獣。

 ネコ科の肉食獣。

 

 ランサーの見ている横、立香は日課である鍛錬を念入りに行っていた。

 

 激獣猎豹拳。

 猎豹……すなわちチーターの動きを模した流派である。

 スピードと正確さ。そして、精神のあり方。

 それを重視する拳法だった。

 

 見ているランサーの目には、少女だけではなく幻影の獣が現れていた。

 

「大したもんだな」

 

 ひととおりの鍛錬を終えたマスターへ、ランサーは称賛を送る。

 

「その年で、そこまで鍛えられるってのはなかなか大変なもんだぜ?」

 

「……英雄にそんなふうに褒められると、照れ臭いね」

 

 汗をタオルでふきながら、立香は少し笑う。

 

 彼女は元々スクラッチというスポーツ用品メーカーの関係者だった。

 といっても、その会社にも裏の顔はある。

 中国の形象拳から流れをくむ激獣拳という流派の組織。

 

 立香もあまり詳細は聞かされていないが――

 

 おおもとは、文革の際に中国から日本へと流れてきたものらしい。

 文革の終幕後も、中国政府との折り合いはついていないようだ。

 

 激獣拳は激気という気を最重視した気功術が発展しており、そこから除霊・退魔も行っている。

 その方針から、魔術界とも関係は悪かった。

 心身の健全なありかたを良しとする激獣拳からすれば、自分勝手な理屈から魔術に耽溺する人間たちは受け入れることはできなかったのだ。

 

 しかし、タイタンの出現によって世界は変わってしまった。

 

 世界全体で恐れられるタイタンの影で、悪霊や妖魔の跳梁も増えていく。

 この結果、科学と魔術がある種同じ船に乗らざる得なくなって造られた組織・カルデアとも協力関係を造らざるえなくなったわけだ。

 

 そして。

 

 魔術師というよりも、マスター適性のあった立香も協力者の一人となった。

 

「……」

 

 タオルに顔を覆いながら、

 立香はふとあらぬ方向を向いた。

 

「ランサー、何か感じる?」

 

「? いや? 俺は特になんも」

 

「そう、気のせいかな?」

 

 立香は首をかしげて、もう一度目を閉じる。

 何か、声のようなものを聴いた気がしたのだ。

 人ではない、何かの。

 一瞬、また聴こえたような気がしたが――それもすぐになくなった。

 

 

 

 

 また基地内の、また別の部屋で。

 立香と同じようなことをしている人間がいた。

 

 上半身裸体となっている士郎は、拳法の型を繰り返していた。

 若い裸身は鍛え抜かれ、まだ未熟さを残す成長期ながらたくましく頑健なものだった。

 どこか空手に似た部分もあるが、その動きは重く巨大なものを思わせる。

 思いといっても、それは重量感や圧力であり、のろまと言う言葉とは遠い。

 

 巨大な四足獣を思わせる動きだった。

 

 ――象。いや、サイ?

 

 腕組みして見物しているアーチャーは、そんな印象を受けた。

 なるほど、その動作は大型の草食獣を模しているのか。

 

「それは、どこで習ったものだ?」

 

「ん? ああ、スクラッチってところだ。中学に入ってから始めた」

 

「ほお。まあ未熟者ながらそこそこのものだな。実のある鍛錬をするのは悪いことではない」

 

「俺はイリヤ姉みたいに頭も良くないし、魔術の才能もないからな。その分努力しないと……」

 

「わかっているではないか」

 

「……なんか、もうそういう反応にもいいかげん慣れてきたな」

 

 アーチャーの態度に、士郎は苦笑するだけだった。

 

 と――

 

「……」

 

 不意に、型をしたまま士郎は止まり、そのままになった。

 それから数秒たって上を見上げる。

 

 ――なにか、来る? なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃。

 

 地をくぐり、海底を通り――

 巨大な〝何か〟が、日本へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、最強のタイタンを形どった怨念も、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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