「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」   作:らくべえ09

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今回は番外的な要素なので間章
文も短めです。
本編は間に合わなんだ……。




間章  間桐慎二 巻き込まれること

 

 

 

 

 

 

 

 噂は、前からあった。

 夕方6時過ぎまでがっこうにいると〝あそぼうおじさん〟が迎えに来ると。

 〝あそぼうおじさん〟は学校の玄関から中に入ってこれないので、子供を誘い出そうとするのだと。

 どうせ、ただの噂だと。

 そう思っていたのに。

 嫌な空気だと、どこかで感じていた。

 職員室には先生がいるはず。

 今時は監視カメラだってある場所も。

 なのに。

 どこか、異様な孤独感があった。

 まるで誰もいない中に一人だけ放り出されたような。

 夕闇が迫っている。

 焦燥感があった。

 早く帰りたい。

 だから、急ぎ足で。

 なのに。

 それは、いた。

 夕焼けの下に、玄関の前で汚い目の玉の落書きがされた袋を被った。

 

 ――まさか。

 

 そう思った。

 幻覚だと、見間違いだと思ったが、視線が逸らせない。

 声がうまく出ない。かすれている。

 

 ――先生を呼ばないと。 

 

 そう思うのに、足が異様に重かった。

 まるで悪い夢の中みたいだった。

 

「あそぼお」

 

 唐突に、それは言った。

 

 〝あそぼうおじさん〟。

 

 そんな。

 ぞわりと、恐怖ですくんだ。

 

 ――〝おじさん〟は学校に入ってこれない。

 

 今は、そんな話を信じるしかなかった。

 

「あそぼおおおおおお」

 

「あそぼおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 声が、響き渡る。

 こんなもの、先生が気付かないわけがない。

 なのに、誰も来ないのだ。

 

「あそぼおおおおおおおお。あそぼおおおおおおおおよおおおおおおおお」

 

 声が。

 声だけで全身が溶かされるようだった。

 

 ――ああ。終わった。

 

 死にたくない。

 そんな根源的な恐怖と、絶望。

 でも、どうしようもない。

 逃げることも、抗うことも。

 目すら閉じれなかった。

 

「よお――」

 

 その時、だった。

 不意に場違いな声が、〝おじさん〟の声に割って入った。

 別の誰かが、いる。

 夕闇の中に、男の人が立っていた。

 若い、高校生くらいのお兄さんだった。

 とても、きれいな顔をした人だ。

 まるでアイドルみたいな。

 

「今時じゃなくって、犯罪だぜ。まあ、〝あんたら〟にゃ法律も関係ないか」

 

 どこかうんざりしたような声で、お兄さんは言った。

 

「ああああああああああああああああ」

 

 『あそぼお』ではなく、異様な声を〝おじさん〟はあげた。

 

「かあっぁ……!!」

 

 対抗するように。

 お兄さんの口から、猛獣のようなうなりが飛んだ。

 

 ボムッ。

 

 何かが、弾け飛ぶような音。

 多分お兄さんは、何かをしたのだと思う。

 しかし、まるでわからなかった。

 気づけば、〝おじさん〟は消えていた。

 ハッと手足に自由が戻った気がする。

 

「気をつけて帰れよ」

 

 その時、すでにお兄さんは背を向けていた。

 

 ――誰だろう。

 

 そんな疑問がとけないまま、お兄さんはどこかに行ってしまった。

 

 

 20XX年。場所は伏す――

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ――

 因縁、それも血に流れるそれは逃れがたいモノらしい。

 彼は歩きながらそんなことを思う。

 

 間桐。

 

 古くから、魔道に耽溺していた家系である。

 いや一人の魔術師の箱庭というほうがいいのか。

 その老いた魔術師も世を去り、枯れはてた家系は魔道とは無縁に生きていく。

 

 はずだったのだろう。

 

 だが、親の世代も、間桐慎二もいまだ魔道から逃れられていない。

 魔道とは別の、『この世ならざるもの』も彼の人生に絡まってくる。

 

 妖怪とか悪霊とか。

 とにかく世間がそう呼ぶものが、慎二の人生に絡み続けているのだ。

 

 魔道の力などない。

 だが、対抗する手段は得ないわけにはいかなかった。

 拝み屋を行う叔父とは、また別の縁から慎二はある技を習得した。

 

 するしかなかった。

 

 死霊だの邪霊に対抗するには、極めて有効な技ではあったが。

 習得は厳しかった。

 しかし、そんなものをどこかで積極的に楽しんでいる自分もいたのだ。

 

 冥府にあり死者を見張る番犬。

 3つの首を持ち、毒蛇の尾を持つ怪物。

 その力を模したもの。

 

 激獣ケルベロス拳。

 

 とでもいうのか。

 本来、激獣拳という流派では激気と呼ばれる気を重点に置く。

 

 しかし。

 

 慎二のそれは、紫激気とでもいうべき特殊なものだった。

 聞いた話では激獣拳と双璧を成す臨獣拳の使う臨気と似たものだと。

 いわば、激気と臨気の中間に位置するものらしい。

 

 ――半端だわな。

 

 それは、己のあやふやな立ち位置をよく表している気もした。

 魔道の家系に生まれ、魔道の知識はある。

 しかし、魔道は使えない。

 使うのはむしろ魔道とは敵対する特異な拳法である。

 

 ――魔道がろくでもないもんだってのは、わかっているが。

 

 完全に切り離すこともできず、絶えず警戒しながら生きているようなものだ。

 そして今は、拝み屋の真似事みたいなことをしている。

 血のなせるものでもあるし、宿運なのかもしれない。

 だが、慎二は常にそういったものと関わって生きてきた。

 

「普通の世界なら勝ち組だ」

 

 そう叔父は言っていた。

 実際そんな自覚もある。

 でも、そうはなっていない。

 

 世間からすれば、ツラのいい霊感のある高校生みたいな扱いであろうか。

 

 その上、今の世には怪獣がどこに出るかもわからない。

 まるで巨大な魚の上にある砂の城みたいな状況。

 

 街を歩く途中で、慎二は足を止めた。

 

「久しぶり」

 

「お前かよ」

 

「あらひどい。かわいいかわいい幼馴染に向かって」

 

 そう言って笑うどこか自分と似た空気の少女。

 

 桜。

 

 ともすれば、自分の妹になっていたかもしれない相手だ。

 現状はつくづくそうならなくて良かったと思う。

 

 桜の後ろには、妙な雰囲気の女が立っていた。

 日本人ではない。

 いや、人ですらないようだ。

 

 ――式神?

 

 少し違うか。

 もっとたちの悪い、得体のしれない気配がする。

 

「少し、協力してほしいんだけど」

 

「……」

 

「ちゃんとお礼はするから、ね♥」

 

「……」

 

「お願い♥」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「月神秘聞録――?」

 

「そ。さすが、知ってたかあ」

 

 桜の見せた、いかにも崩れそうな古書に慎二は嫌な顔をした。

 

「江戸時代に書かれた偽書だろ……? どこぞのラノベみたいなことが書いてある……」

 

「まあ、言われているねえ」

 

 桜はニコニコ笑っている。

 

「ツクヨミ……。日本神話の月神。そいつがヤマタノオロチの正体だって書かれてたってな。そんなもん下手しなくっても総スカンだぞ?」

 

「実際、書いた人もそうなったみたいね」

 

「――で。それが?」

 

「んー。実はこのトンデモ本をもとに、あるものを探してたんだよねえ。で、見つかったから、やることやろうと思って。それを手伝ってほしいの。これから一緒にいって♥」

 

「……どこに行こうってんだよ」

 

「島根県の出雲」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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