「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」 作:らくべえ09
それは、まさに唐突に出現した。
静岡県・焼津。
漁港の、真ん前から巨大な海水の柱がそそり立った。
真っ黒な巨体。
巨大さゆえに、多くの人間にはその全容が知れなかった。
現れたモノは、その瞳のない白く濁った眼を地上に向けながら瞬く間に上陸する。
ハワイ・ホノルルを焦土に変えた黒い怪物は、明らかに敵意を向けながら――
目につくものを無差別に破壊して、突き進んでいく。
そして、突然のことに避難もままならず、逃げ惑う人間に向かって、白熱光を吐き出した。
瞬間。
巨大な爆発が巻き起こり、空にはキノコ雲を作り上げてしまった。
「ゴジラ、焼津に出現!!」
「バカな!? なぜ感知できなかった!?」
「衛星からも、捉えられていませんでした! まさに、突然出現したとしか……」
人間たちが混乱している間にも、ゴジラは焼津を縦断してそのまま東へと向かっていく。
目にするものを踏みつぶし、白熱光で焼き払いながら。
警戒は敷かれていたものの、突然の奇襲に特生自衛隊も動きが遅れた。
どうにか動きを追って、進行方向を予測するのが精いっぱいとなる。
変化があったのは、ゴジラ上陸から30分あまり。
そのわずかな時間で、多くのものが破壊しつくされ、人間が死んだ。
地震。
最初の一瞬はそう思われた。
しかし、地下から爆発でも起こすように飛び出したものは、巨大な赤い獣だった。
「バラゴン!?」
ゴジラをモニターしていた特自の本部は、出現した怪物に驚く。
まさに、泣き面に蜂の状況だが。
バラゴンは吠え、ゴジラに威嚇を見せた。
といっても――
ゴジラの大きさはおよそ100m。
バラゴンの倍。
いや、並んでみるとまさに大人と子供だ。
バラゴンは俊敏に動き回りながら、ゴジラの足に熱線を吐きかけた。
まともにぶつかるつもりはないらしい。
ゴジラはうるさそうにしながらも、バラゴンをなかなか捉えられないでいる。
巨体が、この場合仇になったのか。
長い尾を振り回し、白熱光を吐き散らす。
あちこちに炎と爆発が巻き起こるが、それがかえってバラゴンの姿を見えなくしていた。
その間、特自は急いで部隊を編成して、ゴジラへの包囲網を準備していった。
ハワイの件などで、ゴジラに通常兵器が効かないのは知ってはいたが。
何もしないわけにもいかない。
生き残っている人間の救助も必要なのだ。
否。
第3のタイタンが、地中より出現した。
その途端、周辺の気温が徐々に下がり出した。
燃えさかる炎が、消え始める。
それは、富士地下より確認されたアンギラス――
現れた暴龍は、バラゴンの熱線であぶられたゴジラの脚部へ、強烈な冷気を浴びせかけた。
急激な温度の変化。
これによって、周辺の大気は変化していく。
怪物たちの暴れる舞台に、強烈な風が吹き渡り始めた。
アンギラスは背中の棘と冷気を使い、ゴジラに何度も攻撃を繰り返す。
対格差があるとはいえ、2対1の状態でゴジラの動きはわずかに鈍る。
それでも。
どれほどの攻撃を受けても、ゴジラは疲れらしいものを見せなかった。
風の荒れ狂う空。
そこに、別の影が飛んだ。
銀色の影は空からゴジラへ襲いかかり、すれ違いざまに頭を打つ。
一瞬ゴジラの巨体が揺れた。
銀の影はいったん低空を飛んだ後、再び高く上昇していく。
バラン。
炎と氷、そして風。
3つの属性が黒い怪物に対して挑み、牙をむいた。
これで、3対1。
「――これは、誰かが仕組んだことか?」
カルデア第72基地。
日本からの中継を見つめるケイネスは、思わずつぶやいていた。
ゴースト・ゴジラに対して、古い荒ぶる神とされたモノたちが戦いを挑んでいる。
「あのタイタンたちは、ゴーストに勝てるのでしょうか?」
「……さあな。少なくとも、通常の物理的兵器よりは効果はあるようだが……。決定的とはいいがたい。長期戦になるほど、不利だろうな」
そばにいた職員の疑問に、ケイネスはムスリとしたままで言った。
「――リン。ゴースト・ゴジラは他のタイタンに足止めるされている。これにガイガンが加われば、状況好転もありうる。いけるな?」
<問題ありません――>
別室。
マスターの魔力補助と増幅などの魔法陣が設置された部屋。
そこに立つ遠坂凛は目を閉じたまま答えた。
「デミ・サーヴァント……ガイガンへの魔力供給、問題ありません」
「よろしい。ガイガン、発進用意急げ」
「了解です」
オペレーターたちが迅速に命令を伝えていき、基地のフォースゲートが開かれていく。
「リン――発進だ」
ケイネスが、命じた。
<ガイガン……起動!!!!>
凛の叫びと共に、半獣半機の巨体が輝き出す。
そして、ゆっくりとゲートから高く高く上昇した
熱と冷気、そして暴風が吹き荒れる中――
ゴジラの黒く長い尾がバランを地上に叩き落した。
もがくバランに向かい、ゴジラが白熱光を浴びせんと大きく口を開く。
そこに、開かれた口部に向かってアンギラスが冷気を浴びせた。
さらに背中をよじ登ったバラゴンが、喉元に喰らいつく。
ゴジラは吠え、バラゴンを捕まえるとうるさそうに放り投げた。
冷気で一瞬凍結したためか、すぐに白熱光を吐けない。
アンギラスはその隙に、背中からゴジラに体当たりを行う。
固い表皮を鋭い棘が貫き、さらに傷口から冷気を流し込んだ。
ピシリピシリと、音をたててゴジラが固まり出す。
だが。
そうなりながらも、ゴジラは両前足でアンギラスを捕らえた。
攻撃のために突き刺した棘が、かえって逃げるのを邪魔した結果だった。
ゴジラはアンギラスを捕まえながら、その口を引き裂こうとする。
もがきながら冷気を放つアンギラスだが、ゴジラは動きを止めない。
開いた口に熱と光が宿り、凍結されかけたゴジラの肉体は元に戻り出した。
そして。
ゴジラは白熱光を、引き裂かれかけたアンギラスの口内へと吐きかける。
暴龍は悲鳴をあげながら、肉の焼ける音と臭いをまき散らしながら、青い炎に包まれていく。
さらに――
背後から再び上昇して飛びかからんとしていたバランへ。
ゴジラは振り向きざまに白熱光を吐いた。
まともに喰らい、炎に焼かれながら銀色のタイタンは落下していく。
「これで……残るは1体」
状況を見守っていた特自の隊員たちは、半ば絶望的な気分でいた。
今できることは、一人でも多くの人間を避難させるしかない。
援護のために行った長距離の射撃も、やはりゴジラには無効だったのだ。
そして、ゴジラがゆっくりと残ったバラゴンへ顔を向けた時。
上空から、光の矢が走った。
矢はゴジラの脳天に直撃して、大きくよろめかせる。
空の上から、両腕が刃物となっている半分機械の怪物がゴジラを睨みながら降下してきた。
「あれが……ガイガン?」
特自の自衛官たちはどよめいた。
事前にある程度の情報は送られてはいたが――
まさか、こんなものが出てくるとは。
ガイガンは額からのビーム攻撃で牽制しながら、ゴジラとの間合いを図る。
――こいつがゴジラ……。いや、ゴースト・ゴジラか。
ガイガンとの視界共有でゴジラを観察しつつ、凛は息を吐いた。
やはり、今まで出現したゴジラとは細部が異なっている。
全体像は酷似しているが、別の存在。
いつか、ケイネスとの会話で聞いた収斂進化という言葉を思い出す。
イルカと鮫。
哺乳類と魚類。まるで違う生物。
だが、海に適応した結果、似たような形状に行きついたと。
サーヴァントであるこの存在には、当てはまらないかもしれない。
しかし、放射性物質を餌として生態系の頂上に立った場合……。
あるいは、この〝ゴジラ〟のような姿がもっとも適応したものなのかもしれない。
ケイネスは、そんなことを語っていたか。
――なんて、ね……!!
凛は一瞬苦笑して、ガイガンを駆る見えざる魔力の手綱を強めた。
ゴジラは、現れた第4の敵に対して、敵意と白熱光の洗礼を浴びせてくる。
ガイガンは、ホバーしながらそれを回避して、額のビームで何度もゴジラを貫く。
黒い魔物はうなりながら、尾を振り回した。
ガイガンをそれも回避しながら、腕の刃でゴジラを切り裂いた。
――手ごたえは、ある……!!
同じサーヴァントであるガイガンのそれは、ゴースト・ゴジラへ効果はあった。
傷を受けた個所から、黒い魔力が漏れていくのを確認できる。
ただし、それがどの程度であるのか。
バーサーカーはただでさえ魔力消費が激しい。
おまけに、この規模となれば多くの補助を受けている現状でも楽ではなかった。
むしろ長く動かすほどに苦しくなる。
――でも……こいつをほっとくわけにも、いかないのよ!!!
ガイガンは腕の刃でゴジラを切り、さらに腹部に備えた回転ノコギリで容赦なくゴジラの肉を引き裂く。
ゴジラが怒り、前足で叩きつけようとするところへ、バラゴンが足元に飛びついた。
ひるんだところへ、さらにガイガンは叩き付けるが、
ゴォォォッ!!
ゴジラはいきなり、ノーモーションから白熱光を吐いた。
それは一撃必殺の威力こそなかったが、ガイガンを後退させるには十分だった。
ひいたガイガンに、ゴジラは尾を振り回して叩きつけていく。
ガイガンが倒れたところを狙って、ゴジラは次の白熱光を浴びせた。
――ああっ、くそ!! なんてしぶとい!!
先に3体のタイタンと戦い、ガイガンの攻撃を受けながらもゴジラは殺気も猛威も揺るがない。
気づけば、操り手である凛は大量の汗でずぶ濡れになってた。
足元に水たまりができてしまっている。
――……少しぐらい、弱ってもいいもんでしょうが!!
内心で毒づきながら、消耗の中で凛はガイガンを動かし続ける。
凛もそうだが、ガイガンも度重なる戦いで無傷ではいられなかった。
あちこちが傷つき、破損がみられた。
生身のタイタンであれば、さらに不利だったかもしれない。
――ああっ、しっぽが邪魔!!
ガイガンはゴジラの尾を何度も受けるが、簡単に対処できない。
かわして距離を取れば、そこに白熱光が走るのだ。
――……!!
肉体・精神・魔力――様々な消耗から、一瞬凛の視界がぐらついて歪む。
――……まずい!
こちらに隙が生じたことは自覚できたが、肉体がついてこない。
立て直しには、いくらかの時間がいる。
しかし、そんな猶予があるのか。
マスターの影響を受けたガイガンの動きがわずかに鈍ったところへ、ゴジラは突っ込んできた。
大きく突き飛ばされ、ガイガンが転倒する。
――やばい、やばいやばい……!!!
ふらつく足で何とかたちながら、凛はあせる。
と。
いきなり。
雷鳴が、空を切り裂いた。
無数の稲妻が地上へ走って、まるで狙ったようにゴジラを撃つ。
雷撃で動きを止めたゴジラは、訝しがるように空を見上げた。
――な……!?
いつの間にか、空の様子が変わっている。
曇天に覆われて、その中央に巨大な渦。
そうとしか言えないものが、ゆっくりと回転している。
強い、魔力。
それを放つモノが渦の向こうで蠢いていた。
――他の、タイタン……? いや……。
正体の知れないものに凛が困惑している中、それはゆっくりと空から降りてくる。
――タコ? イカ? いや、違う……蛇!?
赤い鱗をしていた。金の角があった。
いくつもの首を持っていた。
それは複数の頭を動かしながら、ゴジラに向かって落ちてくる。
ゴジラは敵意を察したのか、その怪物に向かって吠えた。
複数の長い首が、ゴジラに巻き付こうとする。
あわてたのか、ゴジラは白熱光を浴びせるがそれはわずかにのけぞっただけだ。
そして、逆にゴジラに向かって炎と稲妻を吐き出した。
――ヒドラ……!? いえ、違う。まさか、九頭竜。いや、いやこれは……。
現れた蛇龍の怪物は、同じく複数の尾と四つ足の巨体を持っていた。
荒れ狂うその姿は、まるで火山の噴火。
山野を焼き尽くす火砕流のようだった。
――首が……8つ!? まさか。
ヤマタノオロチ。
思い当たる怪物の名に、凛は戦慄した。
日本神話最大の災害竜。
神話の大怪物が、何故ここに。
――まさか、サーヴァント!? でも、あんなのを一体だれが!?
思い当たるものが、何もない。
赤の聖杯は使用されたとも思えなかった。
また、使用したとしても、召喚したとしても、
――あんなのを、人間が使役できるはずがない。でも……。
オロチの動きは明らかにガイガンやバラゴンに味方している。
あのゴースト・ゴジラを呼び出した者ならば、ありえない行動だ。
――ええ、もう!! 悩むのは後!!
凛は残った気力と体力をかき集め、ガイガンを動かす。
オロチの攻撃は、ゴジラと真正面からぶつかって遜色がない。
ゴジラは初めて現れる同格の敵に、初めて勢いをそがれている。
――仮に、あのオロチが味方だとして……。
勘ではあるが、長時間戦闘できるものではないと凛は判断した。
そして、それは正しかった。
白熱光と火炎・稲妻。
二つのせめぎあいは突如として、終了する。
ゴジラはオロチの炎や牙で傷つき、明らかにダメージを見せ始めていた。
だが、その途中でオロチは実体を失っていき、虚空に消え去った。
操るマスターはどうなったのか。
傷つきながらも態勢を仕切りなおそうとするゴジラ。
そこに、ガイガンはビームを乱射した。
傷を受けたことでより凶暴になった怪物は、白く濁った瞳に憎悪を浮かべてガイガンに食いつく。
ガイガンは首筋を噛まれながらも、回転ノコギリでゴジラをまたも引き裂く。
だが、肉片を飛ばしながらもゴジラは牙を離さない。
ダメージ以上に怒りが勝っているのか。
ガイガンのほうも首を破壊されていくのだから、猶予はなかった。
喰いあう怪物たちに、バラゴンが加勢をしようと飛びかかる。
その時。
ゴジラはガイガンをくわえたまま、ぐるんと回転する。
――うあ……!!
凛は、たまらずに一瞬目を閉じた。
振り回されたガイガンは、そのままバラゴンに向かって放り投げられる。
自分よりも大きな怪獣をぶつけられ、バラゴンはたまらずに吹き飛ばされた。
ガイガンはバラゴンを下敷きにしかけながらも、ホバーを駆使して落下を避ける。
しかし、ゴジラは容赦なかった。
ガイガンたちに向かい、強力な白熱光を吐いたのだ。
地上でまいっていたバラゴンは、まともにその一撃を受けて火だるまとなった。
ガイガンは地面を這うように飛びながら、どうにか直撃を避ける。
だが途中で地面に倒れこんでしまった。
それを狙い、ゴジラは再び白熱光の態勢となった。
――回避。立ちなさい、ガイガン!!
凛は、歯を食いしばって魔力を振り絞る。
だが。
突如、視界が闇に染まった。
限界が来たのだ。
凛は、自身の汗の海にゆっくりと沈みこんだ。
万事休す。
その一瞬後。
空を、紅い光が走った。
光はゴジラの胸を貫き、津波のような波動を生み出して周辺を揺らした。
「ゲイ・ボルグ……」
状況を凛に負けず劣らず汗まみれで見ていたケイネスは、光の正体を言葉にしていた。
「……これでも死なねえか。やっぱりバケモンだな」
赤い槍を放った