「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」   作:らくべえ09

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今週体調不良でグロッキーになってました……。

時間ギリギリで、つなぎ部分だけ仕上げました。


※書こうと思っていた部分を忘れていたので、急遽加筆しました※





間章  秋葉流 笑い、第四の闖入者のこと

 

 

 

 

 

「はははは……」

 

 男は笑った。

 状況的にはとても笑えるものではない。

 

 秋葉 流。

 

 男の名前である。

 今現在、光覇明宗の法力僧では最強と噂されている男だった。

 

 年齢はすでに30代だ。

 肉体的には、全盛期は過ぎているとされる。

 だが、男の鋼鉄のような肉体はとてもそうは見えない。

 強靭さ。バネ。スタミナ。

 あらゆる点で理想的と言えるものを男は備えていた。

 

 そのような男が今、膝をついている。

 全身のあちこちに打撲を始めとした無数の傷がついていた。

 強大な法力をフルに使い続けて、疲労が鉛のように重なっている。

 

「なまじ、才能と経験に恵まれているのが仇になったな」

 

 目の前に立つ男は、静かな声で言った。

 

 仙水忍。

 

 至高の闘気――聖光気を鎧と変えてまとった男は、観察するような眼で言った。

 

「五体に染み付いた長年の勘が、絶対的な致命傷を避けているわけか。気の毒だが、楽には死ねないな」

 

「――気にするなよ、好きでやってることだからな」

 

 秋葉は血を流しながら、それでいて笑って返す。

 まるで友人に対するような、気安い声だった。

 

「それが、友情というわけか」

 

「なぁに。そんなたいそうなもんじゃない。ただの趣味さ」

 

「……その趣味に付き合わされるほうはたまったもんじゃねえんだがな?」

 

 蛇崩雁夜は荒い息を吐きながら、抗議するように言った。

 

 臨気凱装。

 

 それでまとった蛇形の鎧は、すでに半分以上が砕けている。

 顔も、露出していた。

 

「はは。そりゃ悪かったな。けど、俺だけじゃあ足止めもできないと思ったんでな」

 

「3人いても怪しいもんだがね……」

 

「違いない――」

 

 苦笑してから、秋葉は立った。

 

 足が、泥に沈んでいるかのようだった。

 疲労の上に疲労が重なり、悲鳴をあげている。

 

 ――本気(マジ)で、強ぇな。

 

 素直に思った。

 悔しいとか、認めたくないという感情はない。

 かといって。

 仙水という男がすごいとか、羨ましいという気持ちもなかった。

 ある種の、親近感がある。

 ――もしかしたら……。

 ほんのわずかな違いで、自分とこの男の立場は逆だったかもしれない。

 そんなことを思う。

 知力・体力。

 そして霊的なものでさえ。

 自分には常人を越えたものが備わっていた。

 そのことで、つまらないことにも巻き込まれた。

 つまらないニヒリズムにひたったこともある。

 ――天才か。

 忌まわしく思っていたその呼称も、今は素直に受け止められた。

 天才なのだろう。

 少なくとも、世間一般で称賛される、あるいはされやすい才能(もの)は確実に持っていた。

 

 ――これで、杜綱みてーな甘いマスクでもあれば完璧だったな。

 

 宗派で、自分と肩を並べている同門を思い出す。

 兄妹そろっての美形だ。

 

 ――そういう意味じゃ、こいつはまさに完璧か。

 

 知能や体力に加えて美しい顔まである。

 それに正義感の強さと勤勉さ。

 

 ――……てな美点が、まずい方向にいっちまったわけだなあ。

 

 そういう点では、秋葉よりも同門・杜綱に近いのか。

 

 杜綱悟。

 秋葉と同年代に修行を共にした法力僧である。

 能力・人格共にもっとも将来を有望視され、今そのようになっている男だ。

 彼もまた、幼い頃より強い霊力を持っていたと聞く。

 

 しかし、違っていたのは――

 

 とりとめのない思考。

 そんなものを頭の隅に片隅によぎらせながら、秋葉は走り、打ち、法力を練った。

 先ほどから何度も、様々なパターンを組み合わせながらの戦い。

 

 だが、時間がたつごとに秋葉たちは傷つき、消耗する。

 対する仙水は無傷であった。

 霊力もどの程度減っているのかさえ見当がつかない。

 

 少なくとも、

 

 ――俺たちを片手で殺せる程度には、余力があるか……。

 

 あるいは、もっとかもしれなかった。

 

「ふっ……」

 

 と、秋葉は微笑した。

 

 ――まったく……。3人がかりで、しかも本気の本気なのによ。まるでかなわねえや。必死こいて修行してきた時間がバカみてーだぜ。けどよ? なんだか嬉しいじゃねえか、考えかたは賛同できねえがこんなすげえ野郎と、死ぬまでやりあえるんだから。だとすれば、この年まで汗だくになってきた甲斐もあるってもんだ。

 

 

 

「――よくわからないな」

 

 不意に動きを止めて、仙水が言った。

 秋葉を見ている。

 

「何故、俺の邪魔をする?」

 

「あン?」

 

「お前といい、言峰綺礼といい。いや、蛇崩雁夜もか。俺と敵対して、命を捨てる意味などあるのか? いやむしろ……お前と言峰は俺のやることに協力しそうな気がしていたんだがな」

 

「――なるほど」

 

 仙水の言葉に、秋葉はうなずいた。

 

「確かにな。10年前の俺なら、そんなことも思ったかもしれねえ。地下から得体のしれない化け物どもを呼び寄せて世界中をムチャクチャにする。おもしれーと思ったかもしれねえや」

 

 どこか自嘲するように、秋葉は肩をすくめた。

 

「お前さんほどじゃないが、俺も世間からもてはやされるような時期もあったのよ。まあ、あれだ。お前さんとは違って使命感とか世のため人のため? そんな立派なことは考えもしなかったがね。まあ、結局は俗物だったってことだ。そういう点でも違うだろうなあ」

 

「……」

 

「お前さんが見たっていう嫌なもんも、さほどショックは受けなかっただろうな。そりゃ嫌な気分にはなったろうがね? ただ、人間なんてそんなもんだと斜に構えたぐらいだろうさ。若いうちにはよくあるこった。っと、オッサンっぽいかな、これは」

 

 秋葉は言いながら、両手を上げる。

 

「――まさかとは思うが。人間は悪の部分もあるが、善の部分もある。一面だけを見て判断するな……などと、そんな口にするのも恥ずかしいような説教でもたれるつもりかね?」

 

 皮肉めいた口調で、仙水はわずかに口角を上げた。

 

「ちょっと違うかな。俺は、そうだな。結局自分のことしか考えちゃいなかった。てめーの都合だけで精いっぱいで他人の事情なんか気にかける余裕もねえ。そんなんだから、例え才能が凡人でも、孤立してたかもしれねーやな」

 

「……それで?」

 

「これでも坊主の端くれだが、お前さんに説教できるほどの器も功徳もねえ。そもそも、そんなつもりはねえのさ」

 

 笑う秋葉の胸に、燃え盛るような法力はうねり始めていた。

 

 めらめらと。

 それこそ、秋葉の全身を燃やし尽くすかのような。

 

「――!」

 

 その異変に、仙水は敏感に反応した。

 

「……自爆覚悟かね」

 

「そういう禁じ手もあるが、これはその改良版さ」

 

 秋葉は笑った。

 

「おいおい……本気か?」

 

 雁夜は呆れかえったように秋葉を見た。

 

「そこまでする気か……」

 

 綺礼は、重い声で言う。

 

「どっちにしろ、このままじゃ全員殺されるんだぜ?」

 

 秋葉は2人に軽く笑いかける。

 

 滅己術・(はつ)

 

 光覇明宗の術において、法力の意図的な暴走による自爆技。

 当然使用者の死を意味する、まさに最後の手段だった。

 

 ただ、秋葉のそれはこれを改良を加えたもの。

 

 意図的な暴走は変わらないが、それをより巧みに制御して己の限界を超えた力を発動させる。

 当然使用可能な法力は増大するが、身体への負担も大きい。

 数十秒程度の短時間でも、確実に寿命を削るものだ。

 

「仙水忍ほどの稀代の強者とやり合うんだ。命くらい捨てねえとな」

 

 

 法力を燃焼させる中――

 

 

 秋葉はいつしか思い返す。

 

 ケイネスとの決闘。

 衛宮切嗣らとの共闘。

 それから少し後のことだった。

 

 

 初めて、霊能者・幻海と会った。

 話には聞いていた、凄まじい達人だと。

 

 そして、会って間もなく〝手合わせ〟ということになってしまった。

 自然とそうなったのか。

 自分が挑んだのか。

 あるいは、誘導されてしまったのか。

 

 よくはわからなかったが。

 

 ――これほどとはねえ……。

 

 敗北して地面に転がされた後、青い空を見上げながらそんなことを思った。

 

「さすがですね……。鼻っ柱を折られました」

 

 手を貸されながら、秋葉は苦笑した。

 

「どうかねえ」

 

 幻海はとぼけた声で、

 

「あんたはまだ疲れも傷も残ってるし、全力ってわけでもなかった。ベストコンディションだったら、結果は違っていたかもね」

 

「そう言っていただけるのは、光栄と思うべきなんですかね……」

 

「知らないよ」

 

 幻海はそっけなく言いながら、

 

「まあ茶でも飲んでいきな」

 

 

 なので。

 そういうことになった。

 

 

「――で、なんで宗旨違いの私のところに来たんだい。弟子入りしたいなんて言わんだろうね?」

 

 熱い茶を出しながら、幻海はいきなり言った。

 

「……それが、よくわからんのです」

 

 秋葉は素直に言った。

 

「修行して、そこそこの力もつけたつもりだが……それでどうするのか。何となく今までどおりにしたくないってのはあるんだが、具体的なところがどうも」

 

「ふん。それで意見でも聞きたいって?」

 

「かもしれません」

 

「とはいえ、さっきので多少はあんたの才能はわかったが」

 

「さすが、って言えばいいんですかね?」

 

「あんた、大抵のことは見たり聞いたりすりゃできるようになってただろ」

 

「――まあ、そうです」

 

「そうかい。だったら、できないやつがどうすりゃできるのか。どう言えばわかるのか。そんなことも考えてみるんだね」

 

「それは、どういう……?」

 

「知らないよ。自分で考えな。あんた、『なんでもできる』、『天才』なんだろう?」

 

 

 それが、始まりだったのか。

 

 

 一番最初は、イリヤスフィールや士郎の勉強を見たことだ。

 イリヤスフィールの場合は、そういう部分では才能は秋葉以上だった。

 しかし、士郎はそのあたりは普通の子供であり、指導はなかなか難しかった。

 

 これが非常に有益な経験となる。

 

 人間というのは一人ひとりが違う。 

 だから、全てに正解と言える指導というものは見つかりにくい。

 なので個別に考え、分析しながらその方法を模索する必要があった。

 

 ただ、人間は違う部分も多いが、共通点も多い。

 そこから色んな応用で、後輩を指導するノウハウを身につけていった。

 

 気づけば。

 

 宗派の中では指導員の立場となっていた。

 自分で好き勝手にこなせれば良かった時とは、まるで違う。

 とにかく、発見や学ぶことの連続であった。

 

 

 ――あういうのが、やりがいとか達成感ってもんだよなあ……。

 

 指導員としての経験を思い返しながら、秋葉は心の中で笑う。

 

 ――なんでもやって、こなして。てめー一人で。それも悪くはなかったかもしれねえがよ……。

 

 でも。

 

 

 

 そして、秋葉は『術』のスイッチを押そうとした時――

 

 

 ドン!!

 

 

 いきなり、何かが秋葉を、綺礼を、雁夜を。

 大きく吹き飛ばした。

 物理的のみならず、霊力面での凄まじい爆風だった。

 

「な……!?」

 

 その衝撃で、術を強制的にキャンセルされた秋葉は反射的に起き上がった。

 一瞬めまいで気が遠くなるが――

 

 クレーターの中心に、誰かがいる。

 

 人?

 

 

 いや……。

 

 

 ――まさか?

 

 その髪の色に、雁夜はおぼえがある。

 

「……桜、ちゃん?」

 

「久しぶりだねえ、雁夜オジサン?」

 

 からかうように、少女は言った。

 

「なかなかアブナイことになってるじゃないの」

 

 (うた)うように言ってから、桜は仙水を見た。

 

「あなたも、久しぶりだよね――」

 

 紫に輝く蛇の眼が、聖光気をまとう男を映していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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