「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」   作:らくべえ09

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二章  雁夜アサシンと合身し、バーサーカーと相対すること

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!! 」

 

 

 獣のように、黒いセイバー…いや、バーサーカーは吠える。

 

 そして黒く塗りつぶされた魔剣が暴風雨のように振られて――

 

 雁夜を紙くずのように吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた雁夜は高速で積み上げられたコンテナへと叩き付けれる。

 

 もうもうと埃が舞う中で、一瞬時が止まったようだった。

 

「なあセイバーよ、ありゃ何者だ? バーサーカーなのは確からしいが……」

 

「そんなこと、私が知るものか!」

 

 ライダーの問いに、セイバーはややヒステリックに返す。

 

「…た、多分だけど」

 

 意見を述べたのは、ウェイバーだった。

 

「あいつも、あんたと同じ英霊だ。ただ召喚されたクラスが違う……。元からサーヴァントってのは、英霊を現界させるために、クラスって型にはめこむもんだ。だから……」

 

「バカな!」

 

「いや、バカなっていっても…。言っちゃなんだけど、お前もライダーも、みんな言うなればコピーで本体じゃないんだし……」

 

「……」

 

「ふむ。されば、こういうことも起こりうるか? どっちにしろ、また1騎減ったか」

 

 バーサーカーから目を離さず、ライダーが言う。

 

 直後である。

 

 

「――否」

 

 

 誰かが、ライダーの言葉を否定した。

 

 シュウシュウとした、ガスが漏れるような声だった。

 

「ぬう?」

 

 吹き飛ばされた雁夜のいる方向――

 

 そこから、何かが歩いてきた。

 

 紫の、不気味な装甲をまとったような。

 

「な、なんだ、あれ……?」

 

 ウェイバーがうめいたのも、道理だった。

 

 それはコブラを思わせる、ヘルメットのような頭部をした怪人。

 装甲とも鱗ともつかないもので全身を覆い、赤く光る眼が輝いている。

 

「あ、あいつ……アサシンだ」

 

「なんと、ではあれが本体か? しかし、マスターは……」

 

 吹き飛ばされた雁夜は、サーヴァントたちの目にも見つからない。

 死んだのであれば、アサシンが現界しているわけがなかった。

 

「ここからが本番だ、狂犬」

 

 アサシンは、その人外の顔を歪める。

 どうやら、笑ったらしい。

 

「■■■■■■■■■■■■■■………」

 

 うなり、警戒しているバーサーカーへ、アサシンは挑発するようにクイクイと手のひらを上へと動かした。

 

 瞬間、バーサーカーが疾走した。

 

 一瞬で、ミサイルのごとき速度を出す。

 

 アサシンは、先ほどの雁夜同様まともにぶち当たり、宙を舞った。

 

 

 しかし。

 

 

 一撃を受けたはずのアサシンは、ふわふわと重力を感じさせない動きで着地する。

 

 狂化により理性を失ってはいるが――

 バーサーカーのそれはあくまで武術の理からなるものだった。

 

 まさに、無窮の武練。

 

 しかし、それを持ってしても、アサシンは無傷だったのである。

 

「勢いはよし…。だが、荒いな、技が――」

 

 蛇形拳のような構えをなし、アサシンはつまらなそうに言った。

 

「■■■■■■ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!! 」

 

 そこへ、再びバーサーカーが攻めた。

 

 暴風雨を超える勢いで、豪雨の繰り出される無数の斬撃。

 

 

 が。

 

 

 アサシンの手足はまるで小枝でもいなすように魔剣を払い、よける。

 

 さらに。

 

 防御しながら、その場を一歩も動いてはいなかったのだ。

 

「な、なんなんだよ、あれ……いくらサーヴァントだって、あんな……。それに…」

 

「それに、なんだ、坊主?」

 

「あいつ……幸運以外が全部Aになってる。どういうことだよ……」

 

 ライダー陣営の会話を進む中、状況が変化。

 

 ふわり、と。

 

 力強さとは無縁の動作と速度で、アサシンの左手がバーサーカーの顔に触れた。

 刹那である。

 

 

 

 バン!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 凄まじい、爆弾のような轟音と共にバーサーカーは吹き飛ばされた。

 縦に回転しながら、コンクリートの上を滑っていく。

 

「え!?」

 

 ウェイバーは何が起こったのか、わからない。

 

 ――魔術?

 

 いや、そんな気配は一切なかった。

 しかし、ただ触れただけにしか見えないのにあの威力は。

 

 バーサーカーは仰向けに倒れ、しばし痙攣していたがすぐに跳ね起きる。

 

 しかし。

 

「あ……」

 

 アイリスフィールの短い悲鳴。

 

 セイバーと瓜二つの黒い騎士は、顔中、目、耳、口、鼻とあらゆる個所から血を噴き出していた。

 

「アサシンは……なにをしたの???」 

 

「わ、わかりませんが……体のひねり、関節の動きだけであの一撃を放ったようです。拳法、のようですが……」

 

 聖杯からのバックアップを受けつつ、困惑気味のセイバー。

 

「拳法…? それって、中国の???」

 

 ありえない。

 

 聖杯が召喚できるのは西欧キリスト教圏、それも人間の英雄だけのはず。

 アジア圏のそれと、関係するとは思えなかった。

 

「ほう、まだ立つか。さすがは英雄」

 

 アサシンは感心したように小首をかしげ、バーサーカーを見ている。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!! 」

 

 バーサーカーは一際大きく吠え、今まで以上の力をたぎらせた。

 黒い魔剣に、高濃度の魔力が集中していく。

 

「……! いかん!!」

 

ライダーはウェイバーを座席に押し込み、戦車を宙に飛ばした。

 

「いけない、アイリスフィール!! バーサーカーは宝具を使う気です!!」

 

 セイバーも白い美女を抱えて、飛ぶ。

 

「なんということだ……!」

 

 ランサーも同じように動いていた。

 

 

 動かないのは、アサシンのみ。

 

 

「やれやれ、気の短い…」

 

 ため息のような声を漏らした後、アサシンは跳躍した。

 

 ふわっと。

 

 薄紙でも舞うような動きで、バーサーカーへ迫り――

 回転蹴りを放った。

 

 

 

 ベチィィィィ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 どのようにすれば、こんな音が出るのか。

 まるで想像もつかないものが、衝撃波を伴ってそこへ響いた。

 誰も、声を出せない。

 

 わかっていることは、バーサーカーの頭部。

 否――上半身がほぼ粉砕状態となっていたことだ。

 

 アサシンが着地する中、消えていくバーサーカーを、

 

 バクリ。

 

 突如巨大化した、アサシンの頭部が飲み込む。

 首を大蛇さながらに伸ばしたアサシンの喉を、大きなものがくだっていく。

 

「これで2体」

 

 アサシンは笑うようにつぶやき、ぐるりと周辺を見回した後。

 

 まるで夜に溶けるがごとく、姿を消した。

 

 

「………」

 

 遠くからそれを見ていたアイリスフィールは、自分の胸元に手をやり、混乱した表情になっていた。

 

 ――ランサー、これ以上は良い。その場は引け。

 

「はっ…」

 

 ランサーはマスターの指示を受け、霊体化して姿を消し、

 

「結局、まともに勧誘すらできんかったか。やれやれ」

 

 ライダー陣営は戦車を飛ばして、去る。

 

 

 そこに再び夜の静寂が訪れるまで、数分もかからなかった。

 

 

 

 

「ランサー、初陣ご苦労だった」

 

 戻ったランサーに対して、マスターである言峰綺礼はねぎらいの言葉をかける。

 

「いえ、結局1騎も打ち取ること、かないませんでした。ふがいなさ、お許しください」

 

 ランサーを頭をたれた。

 

「まあ、いいさ。どっちにしろキャスターとバーサーカーは退陣してくれた。他サーヴァントの真名もわかった。上出来だよ」

 

 綺礼の後ろで、赤い背広の魔術師――遠坂時臣が鷹揚にうなずいている。

 

「しかし、不可解なのはあの蛇……・おそらくはアサシンだが……」

 

「師よ、私の見たところあのマスターは、何らかの武術に通じた者だと思われます。昼行燈のような態度でしたが、足の運び、そ

の所作でわかります」

 

「ふむ…」

 

 綺礼の意見に、時臣は考え込む。

 

「実をいうと、私もあの男には見覚えがあるのだよ」

 

「なんと」

 

「間桐雁夜。そういう名前だったはずだ」

 

「ま、とう? では、御三家の……」

 

「そう本来ならば次期当主となるべきだった男だが……何年も前に凡俗に身を落とし出奔した落伍者だよ」

 

「しかし、何の技も力も持たぬ者が、マスターになって無事なはずが……いえ、あれは確実に一般人ではありません」

 

 綺礼は断言した。

 

 魔術師というよりも、むしろ――

 過去の自分、代行者に近いのではないか。

 

「すると、我々は間桐の老人に謀られていたのかもしれないね」

 

 どこか皮肉な笑みで、時臣は手にしたワイングラスを揺らす。

 

 

「くくくく」

 

 

 そんな一同へ、冷笑を投げる者がいた。

 時臣の後ろで傲然と立つサーヴァント。

 黄金の鎧をまとった傲岸そのものの顔つきをした英霊。

 

「貴様ら、そんなにあの蛇が気になるか」

 

「は。恐れながら……」

 

 本来従僕であるはずのサーヴァントに、臣下の礼を取る時臣。

 

「あれはな、忌まわしい神の末端にあるものよ。不完全だがなあ?」

 

「……!? では、神霊だと? しかし……」

 

「あわてるな。だから不完全だといったであろう? 召喚者の肉身に寄生せねば実体化すらできぬ。だが――そうしたことで、蛇の力と召喚者の力を混ぜ合わせた妙なものになった」

 

「では、アーチャーよ。あれはマスター……間桐雁夜とアサシンが融合した姿だと?」

 

 綺礼は能面のような顔に驚きの色を浮かべた。

 

「そういうことだ。太古の名も判然とせぬ古き蛇神。いや、曖昧な存在ゆえにどこの何とも言いがたい。ただ暗殺者のクラスと、召喚者との相性、それが良かったのだろうよ」

 

「……そういうことか」

 

 黄金のアーチャーの説明に、綺礼は何か納得したような声を出す。

 

「綺礼、何かわかったのかね?」

 

「臨獣蛇龍拳」

 

 綺礼は顔を上げた。

 

「退魔師の世界で名の知れた者の中に、そのような技を使う者がいると聞きます」

 

「では、拝み屋の?」

 

「ある代行者が、香港で吸血鬼……キョンシーの類と戦った際に共闘したそうです。蛇形拳に似た、奇妙な気功を操る拳法だったとか。その戦闘力も恐るべきものがあったと」

 

「ふむ…。それは、手ごわそうだね。で、その拳法家の名前は?」

 

「蛇崩……確かそのような姓だったと聞き及んでいます」

 

「臨獣拳……。なるほど、そう言えばある外法に手を出した魔術師が、拳法使いに殺されたと聞いたことがあるな?」

 

「サーヴァントとの融合によって、マスターの能力を極限以上に引き出した結果が、バーサーカーの最後でしょう。それにあの一撃を受けての防御――」

 

 綺礼は思い返す。

 

 あの、まるで羽毛のようにふわふわとバーサーカーの攻撃を無力化した技を。

 そしておそくら宝具ですらないのに、絶大な威力を見せた足技。

 

「つまらん小細工よ」

 

 アーチャーはどうでもよさげに言う。

 

「攻撃の刹那、全身の力を抜いて敵の攻撃を受け流しただけのこと」

 

 簡単に言うが、殺し合いの状況下で易々と行えるものではない。

 

消力(シャオリー)

 

 綺礼が思い当たる単語を口にした。

 

「そう呼ぶのか、あの軽業(かるわざ)を」

 

 アーチャーは少し眉を吊り上げた。

 怒るというよりも、面白がっている。

 

「中国拳法において、達人中の達人のみが可能にする。そのように言われている技術。20年や30年の修練で身に着けられるものではないという……」

 

「サーヴァントとの融合は、そこまでの増大を可能に」

 

 時臣はどこか微妙な顔をしていた。

 

「それも、相性あってのことだろうよ。くくく、闇に潜み毒牙で人を殺す。毒蛇とは、まさに生まれついての暗殺者よな」

 

 なるほど。

 

 アーチャーを除く全員が納得した。

 ならば、蛇神がアサシンクラスで召喚されたのも理解できる。

 

「……師よ。今後の憂いになってはなりません。アサシン陣営は、私にお任せを」

 

 不意に、綺礼はそう宣言した。

 

「そうか。君ならば安心だが……あのアサシンは要注意だな」

 

 時臣は了承しながらも、そのように言った。

 

「はい。なので可能な限り情報を集め、可能だと判断すれば」

 

 私がアサシンと間桐雁夜を始末します。

 

 と、綺礼は時臣に一礼したのだった。

 

 

 

 

 ――くそ、アサシンめ。人の体で好き勝手しやがって……。

 

 雁夜は車を郊外に走らせながら、内心で毒づく。

 

 車のトランクには、袋につめた人間が入っている。

 気絶しているので、動く気配はない。

 

 

 あの後――

 

 

 サーヴァントの戦場となった場所を離れ、急いでキャスターの根城へと向かった。

 あちこち体が痛んだが、グズグズもできなかった。

 サーヴァントとの融合は超人的な能力を発揮したが、負担も大きかったのだ。

 

 ――あんなこと何回もしてりゃ寿命が縮むな。ったく……。

 

 どうにか雨竜を捕らえて、こうして輸送中である。

 根城の様子は、あまり思い出したくもない。

 地獄絵図というのは、ああいうのを言うのだろう。

 

 間桐の蟲蔵が可愛く思えるほどだ。

 

 雨竜は勘は鋭かったようだが、やはり素人である。

 捕獲そのものは容易だった。

 

 

 そして現在。

 

 

 雁夜は約束の場所で、車を停めた。

 ほどなくして。

 

 約束通りの時刻。

 

 一台の車が来た。

 

 

 

 

「やれやれ……」

 

 雨竜を乗せて走り去っていく車を見送った後、雁夜は息をついて自分の車へと戻る。

 ひどく疲れる夜だった。

 

 だが。

 

 車のドアに手をかけたちょうどその時――

 

「くかかかかかか……」

 

 聞き覚えのある、耳障りな声が闇夜から響く。

 

 雁夜は、嫌な顔をして振り返った。

 

 そこには、禿頭の醜悪な気配の老人がたっている。

 

 

 間桐臓硯。

 

 

「ずいぶんと見違えたの、雁夜――」

 

「おほめにあずかり、光栄だね」

 

 雁夜は憮然としたまま、老人を見る。

 

「あのボンクラが、なかなか鍛えあがったものよ」

 

「要件を言えよ」

 

「ふん。そうせくな」

 

 臓硯は笑って、

 

「なかなか面白いサーヴァントを召喚したな」

 

「目的はそっちだろ?」

 

「有体に言えばな。が、しかし。お前がその気ならもう少し変えんでもない」

 

「どういう意味だよ」

 

「なに、間桐に戻ってくる気はないかと言っておるのよ。今までの放蕩は水に流してやろうと言うておるのじゃ」

 

「ありがたい仰せだね」

 

 雁夜は肩をすくめ、微妙な顔で笑う。

 

「次の当主、元々お前が継ぐはずだったのじゃ。今ならそこそこになれるやもしれぬ」

 

「ますますありがたい」

 

「お前と、桜の子ならば枯れた血も再生するやもなあ」

 

「さくら?」

 

「知らぬのか? 禅城…いや、遠坂葵の娘よ。今は間桐の養子となっておる」

 

「……ん?」

 

 雁夜ははて? と表情を曇らせる。

 

「桜を嫁として、次代の当主にならぬか?」

 

「いや、ちょっと待て。葵、さんの子? いくつだ、おい」

 

「ふむ。今年でちょうど」

 

「ああ、いい。なんとなくわかった。お断りだね、ペドフィリアの趣味はないんだ」

 

「気の早いやつじゃのう? あと10年もすれば立派な女になるわい」

 

「で、何百年も生きたおじいちゃんをさらに長生きさせるためにがんばれって? お断りだね」

 

 雁夜がすげなく拒否すると、

 

「ならば、サーヴァントは置いていけ。どのみち、貴様には無用のものじゃろ?」

 

「……」

 

「それとも、貴様も聖杯を狙うか?」

 

「欲しけりゃ譲ってもいいがね」

 

 雁夜はため息をわざとらしく吐き出して、

 

「いくらくれんの?」

 

 と、右の親指と人差し指で丸をつくってみせた。

 

 

 

 

 

 

 






おや?

ケイネス先生の姿が……。



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