「禅城葵のことは忘れろ。そうすればお前は強くなる」   作:らくべえ09

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三章  雁夜は臓硯と取引し、ウェイバー聖遺物入手の経緯を思い返すこと。……そして?

 

 

 

「く…くかかかかかかか!! 何を言うかと思えば、金の心配か? よくもまあ俗世で堕落したものよなあ」

 

「こっちは、不労所得で暮らしながら、非生産的な自己満足に耽溺できるけっこうな身分じゃあないんでね。あんたらと違って――」

 

 雁夜は動じた様子もなく、淡々と言った。

 

「よかろう、よかろう。で、いくら欲しい?」

 

「そうだねえ。ま、こいつの維持には手間や金もかかってるから、これくらいはいただきたい」

 

 と、雁夜は人差し指を立てて見せる。

 

「その程度なら考えるまでもないわ。明日、同じ時刻に同じ場所に来い」

 

「だったらいいが……怖いお兄さんがたに待ち伏せされるなんてのは、ご勘弁願いたいな」

 

「安心せい。そんな無駄手間はかけぬ」

 

 言うが、老人は消えた。

 

「やれやれ……」

 

 ようやく車内に入った雁夜は、

 

 ――あの蟲ジジィ、いくら持ってくるつもりかね。まさか一円玉でも投げてきたりしてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこか違う場所で。

 

 いずれかの時間で。

 

 

 

「つまり、俺は好きな場所に転生させてくれるってわけ?」

 

「まあ、そうだね。完全なお望み通りとは言わないが、ある程度の融通はきかせられる」

 

「んー、じゃあ……」

 

「――なるほど、まあ大体理解した。そこに近い場所、時間に間に合うようにはしてみるが……」

 

「そんで、なんかくれたりするの? 特典とか」

 

「あっさり言うなあ……。まあ、いいが。お前さんの希望にそう形だと、魔術の素質と生まれる家。後は、そうだな。召喚するサーヴァントにいくらか注文を付けられる。こんなものか」

 

「おっけ。そんじゃあ……」

 

「それはそれとして、これは忠告だがね。原作の知識とか、特典? そういうものにあまり期待しないほうがいい」

 

「は?」

 

「記憶を持って転生するったって。0歳児の状態でいきなり今の精神年齢だの記憶だのわかるわけがないだろ。もしやるのなら、

それは転生というか憑依だ。なんも知らん赤ん坊の体を乗っ取るってこと。ここではそういうのは無理」

 

「ここではって、じゃ他の…」

 

「気の毒だがこの段階では他に移ることはできない。もっと融通のきく場所もあるのか知らんけど、ここでは無理だ。OK?」

 

「まあ魔術の才能とそれなりの家柄。そんで召喚するサーヴァントはアルトリア・ペンドラゴンと」

 

「大丈夫なんだろうな…」

 

「そこはなんとか。ただし、いわゆるfate本編のそれは期待しないほうがいい。つまりセイバーとして召喚されたやつな」

 

「つまり、クラスが変わるわけか」

 

「加えて同一人物のサーヴァントが二人になるとかだな。アサシンかキャスターか、それともランサーか。そこまではわからん」

 

「まあ、そのへんは妥協する」

 

「賢明? だな。さて、転生後だがおそらく君が完全に記憶を取り戻すのは聖杯戦争近くだろうな。あるいはギリギリで参加できるかどうかだろう。ま、出遅れても他の陣営から令呪を奪うって手もある。君好みだろ?」

 

「どーゆー意味だよ」

 

「そのまんまの意味だよ。自分のお気に入りのキャラを救済? して、気に入らんのは無視か排除かね? そういう腹積もりでいるってことは、そういうこと」

 

「………」

 

「君、まさか自分が善人だの傑物だのと思ってるんじゃなかろうね? 君が救済対象から外してる……なんだ、間桐雁夜? 彼をどうこう言えるほど立派な人間だったか? 彼は人に褒められる人間性ではなかっただろうが、君に見下されるほどでもないと思うがね。高卒で独り立ちして、身寄りもない状態で、まがりなりにもなりたい職業につくまで努力した。転生だの特典だのなしでな。好き嫌いは自由だが――その世界に転生するってことは、もはやそこにいる人間はキャラクターじゃない。生身の生きた人間だ。胡乱な判断や考えは自滅のもとだぞ?」

 

「そんなことわかってる!」

 

「……ならいいがねえ。さらに言っておくと、まあ、君はFate/zero? の世界に行けると言えばいける。が。それはあくまで小説? アニメ? とかの、世界とは別物だ。よく似た並行世界ってやつだよ。大体、原作そのもの世界に行くことは不可能だ。何故って? そりゃ君という要素を加えちゃったら、完全に別物となるからさ。いわば二次創作だな。さて、その二次創作でもどんな流れになっているのかはわからん。ケイネスが女になってる世界かもしれない。衛宮切嗣が初恋の少女と結ばれた世界かもしれない。ひょっとすれば聖杯戦争そのものがないかもしれない」

 

「そんなバカな!?」

 

「バカなって、IFの世界ってのはそういうもんさ。わずかな差異が後の流れを大きく変える。よくある、よくある。ただまあ……君の場合はできる限り要望に沿えるよう、少なくとも冬木の聖杯戦争が起こる世界には行けるようにするさ。努力する」

 

「………」

 

「しかし、ホントに前世の記憶まで持ってくのか? やめといたほうがいいと思うけどね。下手によけーな知識をする分、どでかいチョンボをする可能性が大だぜ? どうしても? ああ、そう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆうべはさんざんだったなあ……」

 

 根城の中で、ウェイバーは天井を見つめながら、ぼんやりしていた。

 

 英霊同士の戦いはあそこまで凄まじいものだったとは――

 果たして、自分が生き残れるのか?

 強い不安がこみ上げる。

 

 ――優秀だから、才能があるから。そんなものが実戦の場で通用すると思うのか。

 

 【あの男】に言われた言葉が反響する。

 

 

 それは、日本に到着して間もない時だった。

 

 

 まだ根城もサーヴァントも用意できていない状態であった。

 

「****……!」

 

「**……!!」

 

 ――なんなんだよ、この状況……!!

 

 ウェイバーはナイフを突きつけられ、路地裏に追い詰められていた。

 

 日本人ではないアジア人。

 明らかに強盗目的であり、目には凶暴な光があった。

 下手をすれば殺されるかもしれない。

 

 まさか、魔術師相手ではなく、普通? の犯罪者に襲われるとは。

 

 日本は治安がいいとは聞いていたが、それも程度問題らしい。

 特に、都心部は。

 

 どうやって切り抜けるか、必死に思考している中、

 

HEY(おい)

 

 クイーンズ‐イングリッシュの響きがあった。

 

 ぺきん。

 

 嫌な音がして、強盗の一人が倒れていた。

 口から泡を吹いているが、声を出せないらしい。

 いつの間にか、男が立っていた。

 古びたコートを着た、どうやら同郷人らしい白人の男。

 

 何をどうしたのか。

 

 打撃音が何度かした後、強盗たちは悶絶してうずくまっていた。

 

「魔術師だな」

 

 男は平坦な声で言い、

 

「こいつらの記憶と意識をカットしておけ。それくらいはできるだろう。この国では現地人よりも同じ外国人に注意することだな」

 

 そのまま、男は去っていく。

 

「……え、あ、ちょ、ちょっと待って!!」

 

 ウェイバーは大急ぎで事後処理をしてから、男を追った。

 

 

 幸い、追いつくことはできた。

 

 

「なんだ」

 

「いや、あの、あんたも」

 

「…同類ではあるな」

 

 やはり、魔術師の類らしかった。

 

 ――でも……。

 

 ウェイバーはその男に妙な既視感をおぼえた。

 

 どこかで、確かに見たような。

 

「あの……あなた、ひょっとしてアーチボルト家の? ロード・エルメロイ!?」

 

「――」

 

 男は少しだけウェイバーを睨んだ。

 

「それはもう返上した」

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 

 九代続く魔術師の名門・アーチボルト家の頭首であり、時計塔きっての天才と称される男。

 魔道の世界では、知らぬ者のほうが少数だろう。

 地位も名誉も才能も手にしている男。

 

 だが、数年前に忽然として姿を消している。

 噂では、アジアで何がしかの研究に没頭している、ということだったが。

 

 そして。

 

 ウェイバーはこの男と、公園のベンチに座ることになった。

 いや、ウェイバーのほうがしつこく話しかけた結果だが。

 

「それで?」

 

「あの……実は、僕、いえ私は今回聖杯戦争に参戦することに……」

 

 会話が漏れないように術を周辺に仕掛けてから、ウェイバーは語る。

 

「ああ…」

 

 さすがに知っているのか、ケイネスは反応した。

 

「何かかなえたい願いでもあるのか」

 

「わ、私の正当なる評価を得るために……!」

 

「――」

 

 ウェイバーの話を聞きながら、ケイネスはため息をついた。

 

「強盗に殺されかけた子供が、殺し合いに参加する気か? 自殺ならもっと簡単な方法があるぞ」

 

「ぐ……」

 

「評価を得たいなら、地道に修練と学問を重ねることだな。お前の代では無理でも、次代にはつながるかもしれない。一発逆転なんぞを狙えば、無駄死にするのが落ちだ」

 

「ううう……」

 

「死ぬのが嫌なら、イングランドに帰れ」

 

 言って、ケイネスは立ち上がる。

 

「あの……!」

 

 追いすがるように、ウェイバーが叫ぶ。

 

「弟子にしていただくことは、できませんか!? あなたの教えを請いたい人間はたくさんいて……」

 

「よせ。私より優れた術者など、大勢いる。もっと教え導くことに秀でた者もな」

 

「……けど」

 

「弟子になりたければ、そういう者のところへ行け」

 

「いや、あなたほどの天才は、他にはいないでしょう…!?」

 

「……天才、か」

 

 ケイネスは、自嘲的に笑う。

 

「――優秀だから、才能があるから。そんなものが実戦の場で通用すると思うのか。それだけのことで、戦いに勝てるというのか」

 

「……」

 

「――殺されるかもな」

 

 それは、誰に対しての言葉だったのか。

 

 

 ウェイバーか、それともケイネス自身にだったのか。

 

 

「あら? こんな場所でいたいけなレディーとデートかしら?」

 

 いきなり。

 

 挑発するような声がした。

 トランクを持った、紅い髪の美女。

 

「れ、レディー???」

 

 いきなり女扱いされ、ウェイバーは怒るというより困惑した。

 

「君か」

 

「ふん。君か、はないでしょう。婚約者に対して」

 

「……そうだったな」

 

「聖杯戦争にでも出てみようかと思ったけど、こんな場所で会うなんてねえ」

 

 女は意味ありげに笑い、紅い髪をかき上げる。

 

「君が?」

 

「ええっ。歴史に残る英雄でも召喚出来たら面白いかも……思ったのだけどねえ。あなたのしみったれた顔を見たら、やる気が失せちゃったわ――」

 

「そのほうがいい」

 

「ふふん」

 

「面白半分で、そんなモノに関わらないことだ」

 

 言い残し、ケイネスは去った。

 

「やれやれ……。どうしようもない男ね」

 

 ケイネスが去った方向を睨みながら、美女は眉をひそめる。

 

「あ、あの?」

 

「――あら、失敬。ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。さっきのヤツとは、まあ婚約者という関係よ。元がつきかけてるけどね」

 

「は、はあ……」

 

 何かいわくありげな両者の関係を、ウェイバーは推測することしかできない。

 

「……ねえ、あいつがなんで時計塔から出ていったか、知ってる?」

 

「い、いえ」

 

「でしょうねえ…?」

 

 ソラウはどこか遠くを見るように唇を歪める。

 

 

「負けたんだってさ、喧嘩に」

 

 

「け、けんか?」

 

 ウェイバーは思わずオウム返しに言った。

 

 決闘の間違いではないのか。

 

「相手は日本人、らしいわ。名前は……ええと、Aa……Aki……ほら、オタク(ナード)が好きな、日本の街」

 

「え? ああ、アキバ、ですか?」

 

「そうそう。そんな名前のヤツに。それからよ、おかしくなったのは――」

 

「……」

 

 ソラウはあきれたように首を振った後、いきなりトランクをウェイバーに投げてよこした。

 

「わっ!?」

 

「あげるわ。それ――」

 

「え?」

 

「あなた、まともな触媒もなしにサーヴァントを召喚する気? せめて、強い英霊を呼ばないと、すぐに死ぬわよ」

 

 後で確認したところ、それはかの征服王アレクサンドロス3世――イスカンダルの聖遺物であった。

 

「私はもう興味ないから。じゃあね」

 

 ソラウは手をひらひらと振りながら、歩き出す。

 

「いや、あのミス? ちょっと……」

 

「ああ、そうそう」

 

 いきなり振り返り、ソラウはまた何か投げる。

 縦型の、ウェイバーにも高級品とわかるような革財布だった。

 分厚く、中には高額紙幣の束が3つほども。

 

「どーせお金ないんでしょ? カンパしてあげるわ」

 

「あの!?」

 

「返さなくっていいわよ? 私、【お金持ちのお嬢様】だから」

 

 それから、ソラウはもう振り返ることもなく、去った。

 

「……なんなんだよ」

 

 

 そして。

 この後、ウェイバーは見事? 征服王をライダークラスで召喚するわけだが――

 

 

「おい、何をぼーっとしておる坊主?」

 

 過去を思い返していたウェイバーの頭へ、ライダーが大きな手を置いた。

 

 いつもなら、

 

「坊主じゃない! マスターと呼べ!」

 

 とか、

 

「気安くなでるな!」

 

 と、反発するのだが、この時のウェイバーはほぼ無反応だった。

 

「むう?」

 

「なあ、ライダー。これはたとえ話だけどな? もしお前が喧嘩に負けて、どうしてもその相手に勝ちたいと思ったら、国も地位も捨てて……そのために修業できるか?」

 

「ふううむ。そいつぁ、面白い話よなあ」

 

 ライダーはニヤリとして、顎をなでる。

 

「しかし! そんな必要があるか? 余なればその強者(つわもの)を朋友として迎えいれるわい」

 

「負けて悔しいとか思わないのかよ?」

 

「むろん悔しい! しかし、恨むだの復讐だのは馬鹿らしいではないか! この征服王イスカンダルを喧嘩でぶちのめす豪傑だぞ!? 是非欲しいっっ!!!!!」

 

「あ、あはははは。お前は大物だよ……」

 

「なぁにを今さら。余は英霊ぞ?」

 

 呵々大笑するライダーを見ながら、

 

 ――あの人も、そう思えていたら良かったのかな?

 

 ウェイバーはそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「時間通りだな」

 

 闇夜の中で、雁夜は言った。

 

 目の前に、兄の鶴野がたっている。

 手には、トランクを持っていた。

 

 その横に、小さな女のが立っている。

 どこか葵とよく似たまなざし。

 

 間桐桜。

 

「モノは?」

 

 ぶっきらぼうに、鶴野が言う。

 

 雁夜は笑って右手を出した。

 しゅるり、と毒蛇が鎌首を持ち上げる。

 

「ひっ……」

 

 おびえる鶴野の横から、桜が無言で進み出ている。

 

「……」

 

 雁夜はわずかに眉を寄せる。

 桜の目は、完全な白目で明らかに正気ではない。

 

「で、代金のほうは?」

 

「鶴野――」

 

 雁夜の質問に、桜が鶴野を見やった。

 少女の声ではない。

 しわがれた老人……臓硯の声だった。

 

 ――やれやれ、こんな子供に寄生してるのかよ…。いい趣味だねえ……。

 

 内心冷笑しながらも、雁夜は鶴野が開けたトランクの中身を確認。

 

「こりゃまた豪気だねえ」

 

 100万円の札束が100。

 一億円である。

 

 念入りに確認したところ、偽物ではないようだ。

 

「では、商談成立だ」

 

 雁夜は金を受け取り、桜――臓硯は令呪とアサシンと受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 









ケイネス先生、某餓狼伝の主人公的な過去だった模様。





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