ブルーアーカイブRTA 実績「三人力」獲得 Any% 作:ガバるな——!!
皆優しくて涙が出ます。
ボクの家は少し変わっている。
ちょっとした『研究稼業』というか『思想の追求』というか……ある意味では宗教的な活動をしているから、よく知らない子には実家について偏見を持たれがちなのが悩みどころではある。
たまに町のお偉いさんのお願いを聞いたり、お祓いみたいなことをしたりもするけれど、基本的には家で昔の書物の内容を検分したり、星の動きを見て記録をつけたりといったことをしてる。
まだ百鬼夜行
今の陰陽部にあたる部署とちょっとした対立があって、そのときのせいで多分、彼らは私たちをあまりいい目で見ていないから……ボクはあまりそのときの話は好きじゃない。
――わあ、すごい! それって秘密結社?ってやつ!? 『仮面ドライバー』で見たことあるやつだ!!!
ま、まあ、想定外の反応をしてくる子もいたけど……。
でも誓って悪いことはしてないよ。……これは誰も悪くない話。強いて言うなら時勢? ただ時期が悪かったって感じ。
まあ、そんなこんなで細々と続いてるってワケ。過去の栄光だよね。
これでも千年以上受け継がれてきた由緒正しい教えなんだよ?
――実は改造人間とか?! 技とか出せたりするの?! ねえねえ、もっと詳しく!!
……ただ、未だにオカルト変人集団みたいな反応をされるのはやっぱり心外というか、もうちょっと知名度はどうにかならないかな、というのはボク個人の所感だったりする。
今学期最後の授業! それとながーい終業式がやっっと終わった!
ふふふ。そう、何を隠そう! これから待ちに待った夏休みが始まるの!
うわあ?! もう待ちきれないよ! 何して遊ぼう?! やること忘れないようにメモしとかなきゃ!
海? 山? 川? うーん、今日は釣りの気分?
「――おとな、大人かあ。……ねえ、カエデちゃん」
「んーと、んーと……」
川釣りもいいけど、海釣りも捨てがたい! どうしよっかなー。
「カエデちゃん、カエデちゃんってば」
「え、あっ、何? どしたの?」
そんなふうに悩んでたら、後ろの席から声を掛けられてたのに、気づくのが遅れちゃった。
この子はネネちゃん。 私の幼なじみで、地元でも特に仲良しな子。
口数は少ないけど、何でもできちゃうすごい子なんだよ。ふげんじっこう?ってやつだよね。
この前だって、クラスで起きた喧嘩をあっという間に鎮めちゃったんだから!
「少し相談があるんだけど、いいかな?」
「もっちろん! でも、ネネちゃんが悩み事なんて珍しいね。こう、何でもババンっと解決しちゃうイメージがあったから!」
「(ババン?) ……まあ、ボクだって悩むことくらいあるよ」
なるほど……! ネネちゃんにも弱点あり……と。これはすごい情報だよ!
――ふふふ。実はここだけの話、私は睨んでるんだ……そう、ネネちゃんは『改造人間』なんじゃないかって……!
隠してるつもりでも私は知っている。たまにネネちゃんが誰もいないところに話しかけているのを! それに私、見たんだから! ネネちゃんが遠くのものを触らずに取った瞬間をね……!
これは確実にテレパシーとかサイコキネシスってやつだよ!
でもこういうこと言うとネネちゃん怒るから内緒。たまに怒ると怖いんだぁ。
「さっき校長の話で、『夏休みの間も羽目を外しすぎず、ちゃんと
「……ええっと、そんな話してたっけ? あはは、全然覚えてないや」
多分私寝てたと思う……。お話が長すぎて途中から記憶ないもん。
というより、そもそも終業式ってなんであんなにつまらないの? もっと面白いことやればいいのに。
例えば、そう、ヒーローショーとか! そうすれば私、絶対寝ない自信あるんだけどなあ……。
「実は……この前、叱られちゃったんだ。『まだ子供なんだから、家の手伝いなんかせず遊んできなさい』って。なんだか一人前として見られてないような気がして……大人と子供って何が違うんだろうね」
うわあ、私とは住む世界が違う……! 家族にそんな言葉言われたことないよ、私!
何なら私、門限破るまで遊んで、むしろすっごく怒られちゃうくらいだし……。
「すごいね……。そんなこと言われたら私、一日中思いっきり遊んでる自信あるよ……」
「カエデちゃんらしいね……。でも一日中遊んでるのはいつものことな気がするけど」
それはそう。
「それで、毎日色んなところに行って、色んな人に会ってるカエデちゃんなら、大人として認められる方法について何か知ってたりしないかなあって」
んー、大人ねえ……。
「このまま高校に上がって、卒業して……。そうすれば大人になれるんじゃないの?」
「でもさ、年を取るってそんなにすごいことなのかな……そんなに偉いことなのかな」
ネネちゃんにそう問われて、私は考える。
確かに、ずーっとダラダラしてても時間は過ぎるし……ネネちゃんの求める大人ってそういうのじゃないのかも。
「じゃあ、すごいことができるようになるとか、仕事ができるとか……そうやって実力を認められるみたいな?」
「でも、こう言っちゃなんだけど、ボク、かなり優秀な自信あるよ。大抵のことは大体どうとでもできるし」
おお、さすが改ぞ……!
「何?」
イエ、ナンデモ。
……でも実際、さっき自分で言ってたように、ネネちゃんはすごく器用な子だと思う。それこそ、他の人の助けなんか借りなくても何でも解決できちゃうくらい。
だからこそ、なんじゃないかな。
「『遊んでいいよ』ってのは、それってつまり、ネネちゃんを大切に思ってのことでしょ? あんまり気にしなくてもいいと思うな」
「え、そう? どう考えても馬鹿にされてるとしか……」
「違うよ! むしろ普通は逆でしょ?! ネネちゃんは難しく考えすぎ!」
「ええ……?」
大分ひねくれてるなあ、ネネちゃん。できる女の苦悩ってやつ? よく分かんないけど。
「素直に甘えてもいいんじゃないかな。ほら、私を見習いなよ、毎日全力で楽しんでるでしょ? 今が楽しければそれでヨシって感じで!」
「た、楽しければいい……? そんな大雑把な」
そう言うと、ネネちゃんは俯いて目を逸らす。
だから私は、その顔を無理矢理こっちを向かせて目を合わせてあげた。
「大人とか子供とか気にせず楽しむ、それがどんな人とでも仲良くなる秘訣だよ! 私はいつもそうしてる!」
「……ッ」
「確かに大人は大人、子供は子供で別かもしれないけど……それは今すぐ『大人にならなきゃいけない』理由にならないよ。ううん、そもそもそんな必要なんてない」
顔を挟まれたネネちゃんが目を丸くさせる。
「大人を目指そうと頑張ってる、その時点で充分すごいことだと思うな」
「……ちょっとボクびっくりしてるよ。無茶苦茶なはずなのに、その自信を見てるとそうなのかもって思えてきちゃう……すごいね、カエデちゃんは……」
「えへへ、それほどでも……あるかな!」
私がそう言うと、ネネちゃんは頬を抑えていた私の手を剥がして、顔を扇ぎ始める。
ああー、モチモチしてて気持ちよかったのに。また今度触ろ。
「分かった気がするよ、カエデちゃんがあんなに慕われてる理由が。……ボク、その行動力と、コミュニケーション能力は尊敬してるよ、ホント」
「えへへ……ん? なんか含みない?」
それまでツンとした表情でいたネネちゃんが、ふいにフニャッと顔を崩して、慈しむようなまなざしを見せた。
「ふふ、ないったらないよーだ」
ああっ!!
「ネネちゃんが笑った!」
「え?」
「やっぱり黙ってムスッとしてるより、そうやってニコッとしてた方が素敵だよ、ネネちゃん!」
『え、嘘?』『マジ?』
ありゃ、教室に残ってた子たちも集まり出しちゃった。
「は、はあ? 違うし、笑ってないし」
「笑ってるってば! ほら押さえるの禁止!」
「笑ってない! こっち見るな!」
何としてでもその手をどかさなきゃ!
でもみんなに手伝ってもらったせいで、とんでもなく揉みくちゃな状態。まるでおしくら饅頭みたい。
「――あ! でも、『大人』と言えば、この前見た、ちょっと大人なドラマで言ってた決め台詞!」
そうやって格闘してるうちに、ふと昨日のTVで見た内容を思い出した。
急に叫んだから、みんなの視線が私に集まる。
ちょっと違う気もするけど、これも大人になるヒントだったりするのかな。
「『いい女はね、多くは語らず聞かないものよ』――ってやつ! あれは結構、かっこいいと思ったかなあ。ネネちゃんはどう思う?」
「――ふはっ、ふ、んふふ」
あれ、さっきとは何か笑い方が違う。
「わ、私何か変なこと言った?」
「っくく、ダメだ、なんだよそれっ。い、今の流れで、結局それ、黙ったらいいのか黙らないほうがいいのかどっちなんだよっ! なあっ」
あ、怒りで無理矢理ごまかそうとしてるでしょ。ダメだよ!
――ほら、みんな見て!! やっぱり笑ってるよね!!?
――何してんだやめろバカッ、オイ! 呼ぶな人を! 散れ!
この夏休みも、こうやってみんなといっぱい遊んで過ごせるといいなあ。
まったくひどい目に遭った。どいつもこいつもふざけてるんだから……。ボクは遊び道具じゃないんだぞ。
いっそ宿題が終わらなくなる呪いでもかけてやろうか?
……いや、あってもなくてもそんなに変わらなさそうだし、別にいいか。
ホントに疲れたし、もう帰ろ。
「あ、そうそう、忘れちゃうところだった! ネネちゃーん待って待ってー!」
嘘でしょ。まだ帰れないの。
ボクを散々疲れさせてくれた主犯格が声を掛けてきたので、足を止めて振り返る。
例の宿題終わらない組筆頭、カエデちゃん。
「また、最後になって泣きついてこないでよ」
「え、何の話?」
「何でもない。で、何の用? 誰かさんのせいで、もうクタクタのクタなんだけど」
「あはは、ごめんってば! その、帰る前にいつものやつって頼めないかな?」
「いつもの?」
「あのムニャムニャなんちゃら、チチンプイプイ!ってやつだよ、すごく便利なやつー」
ムニャ……なんて?
ボクそんなふうに変な呪文唱えたことあった?
「え、えっと、 もしかしてボクの占術のこと言ってたりする?」
「うん、多分それー」
「ええ……まあいいけど。それで何が知りたいの?」
またしょうもないことだとは思うけど、一応聞いてあげることにする。
そしてカエデちゃんは、大きな目を輝かせて語り始めた。
「えっとね、遊びに行く場所がどこがいいか決まらないの! 昨日はムサビの森にムシ取りに行ったんだけど、またムシ取りに行くか、釣りに行くか迷ってて」
……なるほど?
「それに、いつもの川釣りもいいけど、海釣りに挑戦してみるのもいいかなって。行くとしたらどれがいいかな?」
信じられないけど、このボクに遊び場所を決めさせようとしてるらしい。
「えっと、つまり海か川かってことだよね?」
「え? あと、森――」
「今日は違うのにしなよ」
ムシなんか取って何が楽しいんだろうか。
「もう一度カバン開けて道具出すのも面倒だし、簡単なやつで我慢してよね」
そう前置きをしてから目を瞑って、袖の中から紙片を取り出す。
『急ぎ急ぎ律令の如く、この者の他行するに良き地を
…………。
「どしたの? ムニャムニャしないの?」
ヤメだヤメヤメ。真面目にやるとバカバカしすぎるや。
えっと、そうだな。
『今日、カエデちゃんの行くべき道を示し給え』
これで充分。
――ふうっ。
ボクが息を吹きかけると、紙はひらひらと舞った。
けど、数秒も経たないうちにぴたりと動きを止めて、そのままスッと地面に落ちていった。
――ドスン
「なるほど……まあ、せっかくだから海、行ってみたらどうかな」
「もう分かったの?!」
「まあね」
地面に刺さった紙を回収しておく。
カエデちゃんは気づいてなさそうだったけど、紙は黒くて重い鉄の欠片になってた。正直、水辺ならどこでも良さそうな結果ではあるんだけど、それは黙っておく。
まあ敢えて解釈するなら、川の場合だったらもう少し遠くに落ちてもよさそうだったかなって感じ。
「それに、海の話してるときのほうが声に張りがあったし、結局、ボクが何言っても何かと理由つけて海に行ってたんじゃないの」
「そっか! やっぱりそうだよね! えへへ、ありがとネネちゃん!」
まあ、いずれにせよ、ボクとしては森に行かないだけで充分って感じだし……。
「そ・れ・に~、ネネちゃん、ムシ苦手だもんねー? ……また写真送ってあげるね?」
「……は? はあ? 何それ。というか苦手じゃないし、ビビってないし」
「ビビってるなんて誰も言ってないよ?」
そのにやついた笑みはなんだ。はっ倒すよ?
……でもそれはそれとして写真は勘弁して。寝れなくなっちゃう。
お昼も過ぎたというのにまだ空は暗い。朝からずっとこの調子で、雲が晴れてくれる兆しは見えない。今日一日、この様子が続くと考えると少し憂鬱に思う。
「いつまでもじとじと降るくらいなら、いっその事、どっと一気に降ってくれればいいのに」
そうして、雨の滴る軒下でやることもないまま、ただ雫が流れて落ちていくさまを眺めていたところのことだった。
いつの間にか隣に、一匹の雨蛙が座っていたのに気づいた。誰かの服にでも付いてきたのかもしれない。
蛙はぴょんと跳ねると、私の膝の上に乗った。
「こんにちは、カエルさん」
再び蛙が跳ねると、今度は私の手のひらの上に移った。
「こんなところへ何しに来たの?」
思うままに掴んでみたが、全く抵抗しなかった。
あまりに反応がないので、強く握りすぎてしまったのかとも思ったけれど、規則正しい動きで打つ鼓動を、生きている証として感じることができた。
手の内に納まったこの小さな命、文字通り生死を握られているというのに、つぶらな瞳でじっとボクを見上げたままでいる。鳥や犬猫ならともかく、蛙が人慣れするなんてことあるのだろうか。
「……変な子。ダメだよ、そんなふうに不用心じゃ。簡単に襲われちゃうよ? 死んじゃってもいいの?」
ゲコッ。
殺されるために来た、と言われても分かるくらいに落ち着き払っている。
「……死にたいの?」
ゲコッ。
蛙のようなものでさえ、自分の命の虚しさに、消えてしまいたいと考えたりするものなのだろうか。
今、手を離せば、何事もなくこの子は解放される。
でも一方で、ボクがほんの少し指に力を込めれば、それだけで腹を裂いてしまうこともできてしまう。
「終わっちゃうよ?」
ゲコッ。
「素直だね。でも、そんなに早まるなんて……よかったら訳を聞かせてくれないかな」
ゲコッ。
「そっか、それは悲しいね……」
喪失はいつも突然だ。
いつ失ってもいい、そんな準備ができている者なんて、この世にいったいどれだけいるだろうか?
ボクだったらそんな覚悟、耐えられない。
「教えてくれてありがとね……。ねえ、最期にせめて、この雨が晴れるまではお話ししていこうよ。どうかな? ひょっとしたら気が変わるかもしれないよ」
彼はボクの話を黙って聞いている。
「それにね、今日は《出会いに吉》なんだ。ねえ、お友達にならない? そうすれば君は独りじゃないでしょ?」
孤独の辛さは知っている。
「ふふ、実はね、ボクも昔は独りだったんだ。似た者同士なのかな」
それに、手を差し伸べてくれる人の得難さもよく知っているから。
「もし雨が止んで、それでも考えが変わらなかったら……その時は僕が終わらせてあげる」
「でも、もし、気が変わったのなら……ボクの家の池、あけとくからさ。きっと住みやすいよ」
――ゲコッ。
そのまま小さな影がぴょんと抜け出て、跳び去っていった。
あーあ、まだ全然お話してないのに。気が早いんだから。
「まあ、こういう雨もたまにはいいのかな」
遠ざかる歌声は雨の中でもよく聞こえた。